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到着

 それにしても……歩きにくい。

 人をおんぶしたまま歩くのって難しいな。前屈みになると歩きにくくてしんどいし、かといって真っ直ぐになると落ちそうになって力が入る。


 うん。このままおんぶしながら歩くのは無理だ。俺の体力じゃ身体強化しながらじゃないと無理だし、そんなことすれば、後々筋肉痛やらなんやらで大変な目に合う。


 そういや、ここに来る前に必要になりそうだからと買ってきた物の中に台車があったはず。

 アイリーンを一度下ろしてストレージの中から台車を取り出す。


 「この上にでも乗ってろ。さすがにおんぶしたまま歩くのはきつい」


 「むぅ……座り心地悪い」


 舗装もされていない森の中じゃガタガタして進んでいなくても不安定だろう。

 不満そうな顔で見上げてくるが、人の背中の上もバランスが悪くて変わらないだろうが。


 「クロード、魔法で土を慣らしながら進んでくれ。この辺りからでも道を作りながら進みたい」


 「え……はい。頑張ります」


 クロードも魔法や扱いはかなり上達してきている。軽く慣らしながら進むくらいならば、魔力や体力を気にしなければできるだろう。


 魔力は俺が何とかしてやるから、体力は自力で頑張ってくれ。

 肩を落とすクロードを励ますようにぽんぽんと肩を叩く。やればできる。俺はやりたくないけれど。


 ソフィアには邪魔になる枝や草を魔法で切ってもらう。

 辛そうなクロードとは違い、ソフィアの表情はそれ程変わりがない。

 もともと魔力がかなり低かったソフィアは、もしかすると魔力切れに対して耐性があるのかもしれない。思えば、俺の鑑定で表示されるMPが0になってもソフィアは辛そうにするだけだった。

 クロードなんかは0近くになるだけでフラフラしたり、疲れが溜まると気絶したりしていたのだ。


 威力の高い魔法が必要ではない状況では、ソフィアと俺の組み合わせは効率が良いのかもしれない。


 まあ、クロードは何度も気絶したおかげか魔力枯渇に対して耐性が出来始めているようだけれども。



 「それで山の周りはどうだった?」


 「さっきも言った通り。魔物は弱いのがちょっといるだけだった」


 差し出してくる布袋を受け取れば、中には倒したであろう魔物の一部が入れられていた。この中を見た限りでは邪魔な木を切って地面を慣らせば、通行用の道を作ることはできそうだ。


 「気になる物とかは無かったか?」


 「特に無かった。強いて言うなら、途中で食べたシーナルは大きくて美味しかった」


 食べたのかよ……

 同じ物でも地域の特性なんかで体に害があるかもしれないから食べないようにと話していたのに聞いてなかったのか。いや、聞いていたが、それ以上に食べたかったから食べたと言う方がアイリーンらしいか。


 お腹を壊している様子も無いし、問題はなさそうだ。現地調達ができなかった時用に食材は大量に買ってきたが必要無かった。

 ストレージの中は傷むのが遅いようなので、ゆっくり消費していけば良いだろう。


 「この辺りにしようか」


 山を下りてから一時間程歩いたところだろうか、少し開けた場所を見つけたのでこの辺りで休むことを提案する。クロードもかなりバテているようだから、これ以上進むのは可哀想だ。


 「そうね。これだけの広さがあればテントを建ててもスペースは残るので大丈夫でしょう」


 へレナートの許可を聞き、クロードが疲れたと言わんばかりに座り込む。

 よく頑張ったな。途中で力尽きると思っていたが、努力の成果というやつか。


 「疲れているところ悪いが、少し休憩したらもう一仕事頼むぞ」


 「……はい。頑張ります」


 この中で土魔法を使えるのがクロードだけだからな。最初の内は一番頑張ってもらわないといけない。


 「もう少し休んでおけ。先にソフィアに草や枝を刈ってもらうから、その後で整地してもらう」


 この辺りを拠点にするとして、どの方向に広げるかだな。歩いてきた方向的に湖は向こうの方だが、距離が分からない。先に湖まで動けるメンバーで行ってしまう方が良いだろうか。


 「向こうに川が流れてる。湖より川の方がここからなら近いはず」


 「川ね。水の量はどうだった?」


 「結構多い。渡ろうとしたけどビショビショになったからやめた」


 ……いや、もう何も言わないでおこう。

 川まで見つけてくれていたのはラッキーだ。水量にもよるが、川の方が使い勝手が良い。


 ソフィアが草を刈り終え、クロードがヘトヘトになりながらも地面を鳴らし終えるのを見届ける。

 まだ暗くなるまでは時間があるとは言え、何かをしだしたらすぐに暗くなって中途半端に終わってしまうだろう。

 それに、クロードはもう無理そうだからこれ以上使えない。


 「へレナート達は手分けして周囲に取り外しのできる簡易のトラップを仕掛けるのと、テントを張っておいてくれないか?」


 「そのくらい大丈夫よ。ケーマさんはどうするの?」


 「俺は川を見に行って、ついでに周囲を見てこようと思う」


 見て戻るくらいなら今からでも問題ないだろう。どうせトラップを仕掛けるのは俺にはできないし、テントなんかも俺がやるよりは頼んだ方が早く終わる。


 「それなら帰ってくるのはこっちからにしてね。トラップの位置を調整しておくわ」


 「ああ、頼むよ。それじゃあ行ってくる」


 俺が歩き出すと後ろから誰かが走り寄ってくる。

 ここにいるメンバーでこうやって追ってくるのは一人しかいないから振り向かなくとも誰か分かるが、振り向いてソフィアに声をかける。


 「どうした?」


 「私も一緒に行って良いでしょうか? 待っていてもやることが無いので、お手伝いできるならついて行きたいです」


 どうせ、後々やってもらうことになるからついでに草や枝を刈ってもらっても良いだろうし、魔物なんかが出た時は遠距離での攻撃手段があるのは助かる。

 断る理由もないから一緒に行くことにするか。


 ソフィアに魔法を使ってもらいながら二十分程歩けば川に辿り着いた。

 ゆっくり来たのと、距離を測ったりはしてないから正確には分からないが、拠点とした場所からは一キロあるか無いかといった所か。


 「水の量は十分だな。水自体も綺麗なようだから、少し手を加えれば使えそうだ」


 ビショビショになったと言っていたが、これをそのまま渡ろうと考えたのが馬鹿だと言いたくなる程度には深いし広い。

 横幅は三メートルくらいだろう。そして一番深い所は俺の腰くらいはありそうだ。


 「魔法でこの辺りを広げることはできるか?」


 川の水の量は思っていたよりも多かったが、それでも人が増えれば足りなくなる。今すぐに必要では無いが、水を溜めておく必要もあるだろう。

 それに出来れば、水を拠点の方まで引っ張ってきたい。


 「やってみますので、少し下がっておいて下さい」


 詠唱を始めたので、後ろへと下がり周囲を見る。

 これを開拓していかないと行けないのか。まずは人が住める環境を作らないとな。

 方向性をどうするにしろ、生活できる環境が無いと何も始まらない。



 翌朝、それ程急ぐ訳でも無いので全員が起きるのを待ち、食事が終わったところで今日からの予定を伝える。


 「まずは、ここを中心に生活しやすいように整えて行こうと思う。俺とクロードとソフィアで整地をしていく。へレナート達は魔物避けの塀やトラップなんかを作るのと、使えそうな物を集めてくれ」


 とりあえずの範囲として五十メートル四方程の場所を確保し、その周りを囲むように伝える。

 設置してもらうのは簡易のものにし、後で移動できるようにしておく。


 「私はどうすれば良い?」


 「へレナート達の手伝いをしつつ、適当に周囲の魔物を狩ったりしておいてくれ。危ない物や強そうな魔物だったり、何か見つけたら伝えに戻ってくるように」


 アイリーンに地道な作業を任せてもどうせ飽きるか適当になるだろうから、一番好きそうな狩りと探索を任せる。

 アイリーンの報告じゃ分かりにくいところも多いが、この辺りの地図なんかも簡単に作っておいた方が良いだろう。


 「さて、時間はあるからゆっくり進めて行こう。無茶なことはしないように」


 そう言って作業に取り掛かる。

 無茶はしないようにと伝えたが、クロード。君だけはヘトヘトになるまで頑張ってもらうだろう。

 頑張れ、クロード。

 魔力なら幾らでも使っていいからな!

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