初めての
説明書に書かれた情報によると、門を出て森とは反対側に北回りで向かえば弱い敵が多いらしい。弱いとはいえ魔物は魔物なので注意が必要なのには変わらないが。
今回はその出現する魔物の中でも最弱で、初心者冒険者の御用達であるノーマルスライムを狩りに行く。
この世界のスライムは、薄い青色をしたノーマルなスライムは弱いらしい。それ以外の亜種は結構難敵。という初心者か上級者まで相手取る種族なのだ。スライムだからって舐めてかかれるのはノーマルスライムだけだったりする。特性が厄介なだけで弱いスライムもいるみたいだけどね。
「ノーマルスライムは弱いし、結構可愛いくて初心者向けって説明書に書いてあったからいける……はず」
草原でなんとか身を隠せそうな背の高い草に隠れながら、慎重に一匹だけ逸れて存在するスライムを探す。 初めての魔物、初めての戦闘だから用心に越したことはない。なんせこっちは剣すら振ったことが無いのだ。俺が通っていた高校の体育は剣道ではなく柔道だったのが悔やまれる。
「……あいつにするか」
一匹だけ丘から落ちて逸れてしまったスライムを見つけた。
一緒にいた仲間は、落ちたことに気付かずに戻っていったから数分は大丈夫だろう。ノーマルスライムには目の様なものが見当たらないから、仲間を認識しているかすら怪しいけど。
ノーマルスライム レベル1
鑑定でスライムを見る。
今は他の同族と違う特殊な部分だけ表示するというモードがあったのでそれにしている。だから種族とレベルしか表示されないということは、このノーマルスライムはノーマルスライム内でなにか飛び抜けたりしているわけではないというだ。初めての戦闘にはもってこいのノーマルスライムが目の前にいる。
「やる!俺はあいつを倒す!」
言い聞かせるように声を出し、鉄の剣を握りしめてスライムへと駆け出す。
剣はしっかり持て。ただし力は入れすぎず剣が敵に当たる時に力を強く込めろ。腰は少し落として力が入りやすくなるように。ただし、踏ん張りすぎて次の行動が取れないなんてことの無いように。
呼吸の仕方すら分からないから息を止めてノーマルスライムに狙いを付ける。
敵をしっかり見て振り抜く!
振り抜いた剣がスライムを捉える。
剣に当たったスライムは衝撃で弾き飛ばせたが、両断とはいかない。ぴょこんと一跳ねし、こちらを敵と認識して襲ってくる。
飛びかかってくるスライムを剣で受け止めて弾く。
もう一度剣で斬りつけようと振り抜くと、今度は避けられてしまった。
「く……痛っ!」
横から飛びかかってきたスライムに剣を振り抜いた体制からでは反応できずに一撃食らってしまった。
HP60
今ので40も食らったのか!?
防具をつけてないとは言え、さすがに食らい過ぎだろ。
……やばい。魔物狩りなんて簡単に言うけど、こんなので稼ぐどころか生き残ることはできるのだろうか。
もう一度飛びかかってくるスライムを避けて、今度は避けられないように着地した瞬間を襲う。
剣がスライムに当たると、今度はスライムの形が崩れた。大きく息を吐きだせば、汗が流れていることに気が付いた。
よく見れば、液体と化したスライムの中に核のようなものがあったのでそれを拾う。
「初戦闘終了……これは辛いな」
核を手に持って溜め息を吐く。
核をストレージにしまおうとすると視界にダイアログのようなものが表示される。
"ノーマルスライムの核をモンスター作成の素材にしますか? はい ・ いいえ"
そういやモンスター作成なんて取ってたな。どういうものか鑑定で調べるか。
モンスター作成
モンスターを作成する能力。魔力を消費することでモンスターにカスタマイズ可能。
モンスターを作成するには、作りたいモンスターを倒して核を手に入れ、その核をモンスター作成のスキルに吸収させる必要がある。
また、特殊補助ツールを使えば倒したことのないモンスターでも作ることは可能。
ということは、この核を使えばノーマルスライムを作成することはできるのか。
一回やってみるか。
表示されたままのダイアログから"はい"を選択して核を吸収させる。
「モンスター作成。ノーマルスライム」
目の前に先ほど倒したスライムが現れる。
慌てて剣を構えるがスライムは俺に襲いかかるわけではなく、じっと指示を待つかのように動かない。
「ジャンプしろ」
そういうとスライムはぴょんぴょんと跳ねる。……なにこれ可愛い。
一頻りスライムと戯れるとスライムを連れていくわけにもいかないので消えるように念じて見ると本当に消えた。
「モンスター作成。ノーマルスライム。カスタマイズ、サイズ変更、能力変更」
サイズと強さを半分にしてスライムを作成する。先程は1しか消費しなかったMPが今度は2消費されて指定通りのサイズのスライムが現れる。
「ごめんな」
動かないスライムに剣を振り下ろす。自分で作ったノーマルスライムということもあり罪悪感があるが、実験のために犠牲になってもらう。今度は一撃で倒すことができた。しっかり能力も半分になっていたようだ。
"レベルが上がりました"
「……え?」
自分で作成したモンスターを倒してもレベルが上がるのか?
ちょっと待て。それは卑怯だろ。作成したモンスターは俺に対して襲ってこないんだぞ?え?本当にいいの?そんなのありなら知らないよ?
……すかさず町へ戻ることを選択した俺は心弱い人間です。