再会―2
「店の方はずっと空けてるが大丈夫なのか?」
話題を逸らすためにも気になっていたことをスタインに尋ねる。あんな客の入りが悪い店を数ヶ月も閉めたままにしたら、閉店したと思われて僅かながらも来ていた客さえ来なくなるだろう。
「あそこは借りてただけだから問題ない。どうせ、そろそろ期限だったから出て行くのが早くなっただけだ」
修行的なやつだったのかな?
ガゼフの態度からして、スタインはどこかの商会の息子だったりするかもしれない。態々、あんな所で店を開いていた理由は分からないが、店を持つという練習だったのかもな。
「これからはどうするんだ?」
「しばらくは商会の手伝いかな。ケーマが面白いことやるなら乗っかってやってもいいが」
「あいにく、ネタ切れだ。魔物の素材くらいなら手持ちの分を卸すくらいはできるが、その程度かな」
ノーマルスライムの魔石もそこそこ集まってはいるが、旅の道中なんかは拾わずに進んでいたから、そこまで大きくはない。
それに金にもそこまで困っていないから、頼んでまで売る必要もない。
「今は何もないか。国王への謁見もあるんだろう? その後何かあったらまた教えてくれ」
「何か商売の話があったら頼らせてもらうよ」
俺に商才なんてないからな。まず、物価すら曖昧にしか分かってないのに、商売なんてできる気がしない。
スタインとの話も終わり、ギルドにいても仕方がないので外に出る。
立ち上がるなり俺の横に並び、無言で手を繋ぐアイリーンの姿に、スタインが俺をジト目で見てくる。
別に俺だって繋ぎたくて繋いでいるわけじゃ……いや、アイリーンがどっかに行くと困るから、違う意味で繋いでおけるなら繋いでおきたいか。
「あれ食べたい」
歩き始めてすぐ。アイリーンの意識は屋台の串肉へと移る。俺の手が引っ張られ、慌てて進路を変更し、それにスタインも着いてくる。
「一つでいいか?」
「うん」
屋台のおっちゃんに何の肉か分からない串を一つ頼む。受け取ってすぐに食べ始めるアイリーンが転けたりぶつかったりしないか心配しながら再び歩き始める。
「さっきまでパフェ食ってたのに、よく食べるな」
「食べないと強くなれない。それに美味しから」
強くなれないって。
まあ、体が資本のようなものだから、特に小柄なアイリーンは大きくなりたいのだろう。
「こんなんで大丈夫なのか?」
人を見た目で判断するなとは言うが、アイリーンの見た目や性格から強そうには見えないからな。
ましてや、近接戦を行うなんて思いもしないだろう。
「これでも、うちのパーティーじゃ一番強いからな」
「主あってこその私」
魔力譲渡あってこそというのはあるが、魔力譲渡があっても駄目な奴は駄目だしな。俺の仲間には魔力燃費の悪い奴が丁度良い。
「まじかよ……」
「疾風迅雷」
えっ?
魔力が吸われ、アイリーンの手を握っていた俺の腕が凄い勢いで引っ張られる。
崩れそうになった体をなんとか踏ん張って耐え、アイリーンの姿を見れば、食べていた串をスタインに突きつけていた。
「これが私」
「お、おう。速すぎて見えなかったぜ」
「ふん」
何処か満足げな表情で再び串を食べ始める。
スタインがどっと疲れたような表情でアイリーンに聞こえないような大きさで息を吐き出し、やばかったと呟く。
「いたっ!」
空いていた左手でアイリーンの頭を叩く。やってやったと言わんばかりの態度で串を食べていたアイリーンが驚いて食べ終わった串を落とす。
「街中でいきなりスキルを使うな。それと、手を繋いでるんだから、いきなり動かれると痛い」
こちらをむっと見てくるので軽くデコピンをすれば、額を押さえてごめんなさいと呟く。
「分かれば良い。必要な時以外にスキルを使うのは禁止な」
落とした串を拾い、グッと力を入れて前に突き出す。
「あれは実力を見せるために必要だった」
何も分かってないよな。満足気に言っているが、全然必要なかったからな。
言っても無駄だろうと小さく肩を落として歩き始める。
「お前も大変だな」
スタインが同情するように呟く。
アイリーンも良い奴なんだけどな。戦闘に関することとなるとちょっと暴走気味になるだけで。
スタインに街を軽く案内してもらいながら、アイリーンと一緒に屋台で買い食いをする。
「ここが行商から戻ってきた奴らが品を売るために使う場所だ。一応、使える日の決まりがあって、次は三日後だな」
広い広場の中には何人かは物を売っている奴がいるが、盛況とはいかないようだ。
あれだけ店がいっぱいあれば、こんな所で本来の日とは違う日に細々と商売している奴の所で買い物する気にはならないよな。
店を構えている方が信頼できるし、品揃えも良い。掘り出し物なんかはこういう所にあったりするが、それだけの為にこっちに来ることもないだろう。
「数年前まではこの広場ももっと広くて、店を構えている奴らも少なかったから、休みの日でも人は多かったんだけどな」
店を構えるというのは、継続して出費が必要になるということだ。行商をして自分で品を買い、それを別の場所で売る。
その方が個人では楽に稼げる。
需要の高い王都なんかだと、人手があるのなら仕入れと販売を分け、店を構えた方が稼げる可能性は高いかもしれない。
だが、それを実際に行う力と勇気は並大抵のものじゃないだろう。
「向こうの方が今の商業区だな。しばらくライナー商会ってところにいるから、用があったらそっちに来てくれ」
広場を抜けた先。一番店が集まっている辺りを示す。
「ライナー商会ね。遠慮なく相談させてもらうよ」
「ははっ。せめて金になる話にしてくれよ」