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買い物

 ギルドを出て歩くこと数分。

 道具屋らしき店は何件もあったが、日本人の俺としては入りにくい雰囲気だったのでスルーしておいた。商品は乱雑に置かれ、店主は奥で椅子に座り態度が悪い。求めてもいないのに絡んでくるような店員も苦手だが、最低限のサービス精神は欲しい。出来れば今後とも付き合いのできる商人に出会いたい。説明書があるとは言え、この世界には疎すぎるし、何より商人の知り合いと言うのは一人いるだけでも段違いに物事が楽になる。……たぶん。


 「ここは良さそうだな」


 今まで見てきた店よりも清潔感があり、尚且つ商品の配置が店外からでもお勧めらしき商品が見えるようにされている。値段表示や売り出し方もしっかり考えられていて、他の店とは段違いだ。

 なかなか腕の良い商人であると予想できるが、勿体無いのは店の狭さと立地だろう。ギルドからも門からも宿屋や住宅地からも少し逸れているせいで人自体が少ないこの場所では、どれだけ良い店でも最初の見てもらうという段階にすらたどり着かない。


 「いらっしゃい。新人の冒険者か?武器ならそっち、道具ならこっちに置いてあるからゆっくり見ていってくれ」


 店に入ると空かさず声がかかる。

 声の方を見ると、俺と同じくらいの年齢であろう青年が品物を整理していた。


 まだ若いのならば、こんな場所で商売をしているのも納得だ。この店主ならば、何れある程度の商店を経営する気がする。才能と人柄はいい。足りないのは元手といったところか。

 ならば、ここで買い物をして縁を作れるか試すのもありだろう。大商人と仲良くなるのは難しいが、大商人になるかもしれない奴と仲良くなるのはできるかもしれない。


 「この革袋だが……なんでこんなに安いんだ?」


 一回り小さなサイズよりも半額くらいの値段の革袋を手に取り店主に話しかける。

 見た目も手に取ってみた感じも粗悪な品物ではなさそうなのに、これだけ安いのはどういうことだろう。


 「あー、それね。そいつはウォーターフロッグっていう魔物から採れるんだけど、先月にそのウォーターフロッグが北の方で大量発生したせいで値崩れを起こしてんだ」


 大量発生ね。ゲームとは違って大量発生やら値崩れやらは、普通に考えればあるよな。それこそ、この世界は地球と違って自然がそのままあり、そこを人間が狩りなどで荒しているのだ。天敵を殺してしまい、魔物が大量繁殖したり、一時的にバランスが崩れることだってあるだろう。

 俺としてはちょうど袋を探していたのだから、安く良い品が手に入って運が良かったってところか。


 「ウォーターフロッグの革袋は、水に濡れても中に染み込まない。さらに、火に耐性があるから少しくらいの火ならば燃えないっていう良い品だよ。欠点は雷に弱いってのと、革袋以外にウォーターフロッグの素材が使いにくいから今回みたいに値崩れが起こったりしやすいことくらいかな」


 水と火に強いのは冒険する上で心強いな。こだわりもないからこれにするか。


 「じゃあこれ一つとその携帯食料を一つで」


 「まいどあり。合計で50コルだ」


 50コルを手渡して商品を受け取る。革袋を腰につけて、その中に携帯食料を入れる振りをしてストレージにしまう。


 「ここは買い取りとかもしてるのか?」


 「物にもよるが買い取りもしてるよ。安い物ならうちで買い取りをするよりはギルドで引き取ってもらった方が高いけどね」


 個人の店で安く大量に出回っているものを買い取りするのは無駄が多いからな。一か所からある程度の量を仕入れた方が安く手に入れられるから、買取値段も安くなる。ギルドみたいな巨大組織ならば、他で稼ぐこともできているし、少しずつでも大量の冒険者から買い取れば必要量を手に入れられる。それに、ギルドみたいな巨大組織がそこから手を引くと、値段の相場が急変する可能性もあるから市場を安定させる意味合いもあるのだろう。

 この国のギルドは権限的には独立しているが、国から補助金も出ているようなので、市場をある程度安定させる役割というのも担っているのだろう。


 「そうか。良いものが手に入った時はよろしく頼む」


 「こちらこそよろしく。俺の名前はスタインだ。あんたが良い冒険者になれるのを祈っとくよ」


 「俺はケーマだ。大物でも狩れるように頑張るよ」


 店を出て門へと向かう。良い物が安く手に入ったし、店主の名前も知れたから上出来だな。

 後は、魔物がどれくらいの強さかってのが問題か……


 門へと辿り着くと昨日の門番さんが手招きしてくれた。


 「ギルド登録はできたのか?」


 「できたよ。これでいいか?」


 ギルドカードを見せると何やら紙にメモしている。


 「どのくらい滞在する予定だ?」


 「詳細には分からないけど魔の森である程度稼ぐつもりだから一ヶ月はいるだろうな」


 「長期滞在ね。ある程度人の出入りを把握するためのものだから、別に早く出て行くことになったり、逆に永住することになってもわざわざ言いに来る必要はないから」


 戸籍のようなものもしっかりとは無いようだし、人口管理というのもきっちりとはしていないのだろう。税も人毎にではなく、町や村単位だったりするんだろうな。収入の高い奴は別として。

 門番さんに外に出ることを伝え、ついに初めての魔物狩りに向かう。


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