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神託

 「結局何だったんだろうか」


 部屋へと戻りベッドに倒れ込むように寝転ぶ。ミシリと音を立てるベッドから天井を見上げて考えるが答えなんて分からない。


 知らないことが多すぎる。

 ここまで狩りや旅をして三ヶ月くらい。この世界のことなんて詳しく知ろうともせず、目の前のことを何とかしようとしてきたが、知ろうとしなかったツケが回ってきた。

 このまま流されるままに話を進めていってもいいが、そうすれば面倒なことに巻き込まれてしまうのは避けられない気がする。だが、話が分からなさすぎて対応のしようも無いのが現状だ。


 せめて、クロードかソフィアの知っていることだけでも教えてもらうか。

 戻ってきたら話を聞こう。今は考えても自分の知っていることが少なすぎて堂々巡りになってしまうだけだ。考えるのは後にしよう。





 ギィッとドアが音を立てる。いつの間にか閉じていた目を開けようとしたところで、自分が眠っていたことに気付く。今日はここに着いてちょっと寝たはずなのに、また眠ってしまっていたのか。自分では気付かないところで疲れが溜まっているのだろうか。


 「戻っていたんですね。何か飲み物でも淹れましょうか?」


 「おかえり。じゃあ頼むよ」


 クロードが紅茶を淹れてくれたので、起き上がってテーブルへと向かう。

 そういえば、三人で図書館に行っていたんだっけか。後の二人も戻ってきているのだろうか。


 「図書館で何を見てたんだ?」


 「転移の魔法について書かれた本を探していたんですけど、詠唱まで書かれたものは見つかりませんでした」


 俺のために図書館に行っていたのか。それなら俺も図書館に行けば良かったな。そうすれば、あんな変な出会いもしなくて済んで良かったし、今こんなに考えなくて済んだはずなのに。


 「フリージアについてですか。僕もそんなに詳しくないですが、童話にもなってるくらいの内容なら知っています」


 フリージアについて聞いてみるとそんな答えが返ってくる。一つの宗教みたいなものが童話になるほどなのか。それだけの影響力を持っていることは、今までのことで分かってはいたが、普通こういうものにはアンチ的なものがあるはずだから、子供に伝えるような話にはなりにくそうなのにな。


 「"神託の神子"これがフリージア教会がこの国の中でこれ程に力を持っている理由です」


 神託の神子ねえ。本当に神のお告げを聞ける人物なのか、それとも虚言から生まれた奇跡なのか。はたまた後から作られた偶像なのか。

 だが、どれにしろ、今までに神託かもしれないと思わせるほどの何かをしたということか。


 「500年前、大規模な飢餓を救い、その後この国を立ち上げるアドバイスをし、国王を指名。400年前、三人の若者を魔王を倒す勇者に指名し、魔王の討伐に成功。その後も三度の飢餓と四度の戦争を乗り越える助言をしたと言われています」


 一度や二度の奇跡ってわけではないのか。飢餓なんかはたまたま乗り切れただけの可能性もあるが、魔王や戦争に関しては運だけで何度も乗り越えられるものじゃない。実際に戦況を見ながら助言をしたというのならば、その時の神子もしくは教会の上層部に才能のある人物がいただけだとも言えなくはないが、そんなに上手くはいかないだろう。


 「本当に神託の神子がいるというのか」


 魔法なんてものが存在する世界なら、ありえないと言い切ることはできない。神託を告げるくらいだったら、神自身がその状況をどうにかしろよと言いたくなるが、俺をこの世界に送り込んだ奴がこの世界で唯一もしくは絶対ていな力を持つ神だとすれば、楽しんでいるだけの可能性も存分に考えられる。


 「フリージアという名前自体が、神託の神子が神から直接告げられた名前らしいです」


 「それでフリージア教会ね。その本拠地だからこの街もフリージアと名付けられたわけか」


 神に選ばれたものなら神に会い、名を教えられているのではないかとリクシアは聞いてきたのか。

 生憎、姿は見てないし、言葉すら直接は交わしてないんだよな。


 神という存在、神託の神子という存在。どちらも本当にいるのか、どこまでが本当なのか、考えても分からなくなったので諦めることにした。

 俺がこの世界に来たということを考えれば、神かそれに近しい存在はいるだろうが、憶測で決めつけてしまってもいけない。

 もし、本当にそんな存在がいるとするならば、逃げきることなどできないだろうから、今は今を楽しんでおけばいい。


 俺にできるのは無理にあがくことではなく、この世界で楽しみながら俺の望む楽に生きられる環境を手に入れることだ。






 翌日、食堂で朝食を取り、やる事もなくなったので図書館に行くか、行きたくない依頼の報告に行くか部屋で悩んでいると、ノックの音が逃げ道を塞ぐ。


 「出ますね」


 俺がベッドの上で最後の現実逃避をしていると、クロードが立ち上がりドアを開けに行く。せめて、直接聞きたくはないと寝たフリをして耳を塞ぐ。


 薄っすらと聞こえる声を聞こえないと言い聞かせ、ドアが閉まる音がするのを待つ。

 ドアが閉まればすぐに起き上がり、クロードの顔を見れば、用件がすぐに分かってしまった。


 「時間があるなら午前中に報告に来て欲しいとのことです」


 「やっぱりか」


 どうせ渡すだけでは終わらないんだろうな。何時までもグダグダしていても逃げれるものではないから行くか。


 最後に紅茶を飲んでから行くことにしよう。


 「これはこれは今話題の英雄に会えるとは。駄目元で依頼を出してみましたが、快諾していただき、更にはこれほど早く荷物を届けてくださるとは思いませんでした」


 案内された部屋にいたのは、もうそろそろ定年かなと思うくらいの年齢の男性。紺の修道着を身に纏い、修道着には金色の刺繍が施されている。頭の被りは脱いでいるため、白髪か白っぽい銀髪か分からない短髪が紺の修道着に意外と似合っていて、何だかかっこいい。

 教会の中でもかなり上の立場であろう男は意外と気さくそうな人物であった。


 「冒険者のケーマです。噂ほどの実力はありませんが、この度は指名依頼を頂きありがとうございます」


 「私は大司教のデイリド。詳細はドゥーンから聞いているよ。君も大変だったね」


 分かった上で俺を呼んだってことか。神がどうこうってのが本当なら呼ばれた理由に心当たりはあるが、そうでないとしたら目的はなんだ?

 俺が深く考えすぎているだけなのかもしれないが、裏を探してしまう。


 「早速で悪いが、先に礼装を預からしてもらってもいいかな?」


 「ええ。どうぞ」


 ストレージから礼装を取り出して渡す。女性ものであろう礼装は、引きずって歩くのが前提で作られているのかかなり大きい。バランスを崩せば落としそうなのでゆっくりと渡せば、奥から人が出てきてデイリドから礼装を受け取って持っていく。

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