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実力

 装備を整え、再び迷宮へと実力試しにやってきた。転移陣を抜けた20層の中でも狩りやすいブッファルを探す。少し探して歩けば、ちょうどよく単体でブッファルがいたので足を止めて周囲を確認する。


 剣を引き抜こうとしたタイミングでアイリーンが俺の手を止める。アイリーンは一人で前へと歩き出し、腰に付けた剣を引き抜く。

 細身の刀身。俺の剣よりもかなり重量の抑えられたその剣は、流された魔力により銀色の刀身に淡い黄緑のオーラが纏わりつく。単発の火力よりも振りの速さを求めた剣は、俺には上手く扱えそうにもないアイリーン専用の剣だ。


 「私に任せて」


 返事も待たずに駆け出すアイリーン。本人が任せてと言っているなら止めるつもりもないが、狩りやすいとはいえ20層に生息する魔物なので少し心配しながら見守る。

 完全にアイリーンの間合いに入ったタイミングでブッファルがアイリーンに気づいた。本能的に避けきれないと判断したブッファルは、致死ダメージを避ける為に半歩下がり、反撃しようと力を溜める。


 アイリーンの剣は半歩下がられたため、狙いが外れてブッファルの肩を捉えた。剣を振り抜き一瞬動きの止まったアイリーンに、肉を切らせて骨を断つとでも言いたげな一撃が襲いかかる。


 ガッ!と激しい音が鳴り響いたと同時にアイリーンの姿がブレる。離れた位置で見ている俺の目でも捉えきれない程の速さで、ブッファルの背後へと回り込んでいた。

 完全に空を切ったブッファルの一撃。隙だらけのその体に、今度はアイリーンの剣が伸びる。




 「これが私の実力」


 剣に付いた血を払いながら戻ってきたアイリーン。その想像以上の実力に、自分の幸運を心の中で褒めちぎる。良い買い物をした。ガゼフがしっかり教育を終えてからアイリーンを買っていれば、軽く倍の値段は付けられていただろう。


 「想像以上だ。これなら、このまま迷宮に潜れそうだな」


 本当は二人の実力を見たら一度帰って足りない物を買いに行ったりしてから狩りをしようかと思っていたが、その必要もないくらいだ。


 「でも、魔力の消耗が問題」


 たった一戦。それも圧勝したにも関わらず、疲労感が漂っている。鑑定で確認すれば、MPが二割程減っている。もともと多くはないMPだが、発動時間は戦闘の中でもほんの僅かだったはずだ。肉体強化系のスキルにしてはアイリーンの疾風迅雷というスキルの消費魔力は多い。

 急激な魔力消費は慣れていないと辛い。二割とは言え、一気に消費すれば辛いだろう。


 「魔力に関しては問題無い。消耗による疲労感に慣れてくれれば、大丈夫そうだ」


 アイリーンにMP譲渡を発動する。途端に回復するMPにアイリーンが首を傾げる。


 「今、何かした?」


 「俺のスキルだ。俺の魔力をアイリーンに渡しただけだ。俺の魔力回復速度はかなり早いから、あの程度の減りならすぐに回復できる」


 レベル61まで上がっている今の俺なら、あの程度のMP消費は数秒で回復できる。


 「……すごい。これでいっぱい戦える」


 その喜び方はどうかと思うけど、戦ってもらう為に買ったのだから、金の分くらいは頑張ってくれ。

 ただ、下手に張り切ってやられるなんてことは無いようにはしてくれよな。


 「あなたは私の主に相応しい」


 これくらいで認めてくれるのか。戦えば、アイリーンの方が強いと思うんだけどな。上手くカウンターを決められたら俺の勝ちだが、勝率で考えるならアイリーンだ。

 主従関係は実力だけではないから、本人が認めるならそれでいいが。

 アイリーンの実力は予想以上だったが、クロードに関してはやっぱりそんなものかって言うところだ。


 何度か戦闘を繰り返し、クロードも戦闘に参加させるように立ち回っていたが、最初の頃の俺と大差無いかそれ以下だろう。まだ小さいクロードでは間合いも短いし、俺の戦っていたノーマルスライムと違ってブッファル自体のサイズも強さも違いすぎるから比べるのも馬鹿らしいが。


 「そろそろ戻るか」


 「あ、あの……もう少し戦いたいです」


 「私もそれに賛成」


 「わ、私はケーマ様に任せます」


 アイリーンとクロードはまだ戦いたいのか。クロードは実力は無いがやる気はあるようなので、このまま努力し続けてくれれば伸びるだろう。俺だって気付けばそこそこ戦えるようになったのだから。

 アイリーンは一人で黙々と戦っていた。何処となく楽しそうだから放っているが、無理はしていないみたいだな。


  「じゃあ、もう少し狩りを続けるか。疲れてきたら、すぐに言うように」


 剣を構えて走り出すアイリーン。それを追いながら、動きを学ぼうとしているクロード。そんな二人を見て、ソフィアと共に苦笑いを溢す。


 「なかなか頼もしい仲間が手に入ったな」


 「そうですね。アイリーンさんはかなり強いですし、クロードさんもやる気はあります。それに、魔力さえ扱えれば、ケーマ様のお力で何とかなりますから」


 流石にそれは買い被りすぎた。俺の能力は魔力をほぼ無限に渡し続けられるだけ。

 そこから強くなれるかどうかは、本人次第としか言えない。ソフィアはソフィア自身の努力と才能があったから、どんどん強くなれているだけだ。

 突撃してくるブッファルをクロードに受けさせる。剣でなんとか受けきったクロードのおかげでできた隙に、ソフィアの魔法と俺の剣が襲い掛かる。

 悲鳴を上げる前に絶命したブッファルを見て、人数が増えたことによる狩りのしやすさを痛感する。ここまで何十体か倒したが、まだまだ余裕が残っている。


 死んだブッファルがいたところに残された魔石を回収してアイリーンの姿を探せば、両手に十個近い魔石を持って戻ってきた。……ちょっと張り切り過ぎじゃないか?本人が楽しそうにしているから言わないが。


 鑑定でステータスを確認すれば、俺が1、ソフィアとアイリーンが3、クロードにいたっては8もレベルが上がっている。もともとクロードはレベル1スタートだったのもあってレベルの上りがかなり早い。一応、20層は初心者が最後に訪れる階層であり、中級以上の冒険者が迷宮に入るときに使用する階層だ。魔物の強さはクロードみたいな低レベルの人間が普通は戦う相手ではない。今回みたいにパーティーで連れて行ってもらうなら別だが。


 「今日はもう終わりにしよう。しっかり潜るなら準備もしないといけないからな」


 十分潜れそうだが、もともとソフィアと二人で使う分のアイテムしか持っていない。寝具や食事に使うものは二人の分も買わないとな。

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