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襲撃

 馬車に積んでいた荷物を積み変えたりとすぐに出発する準備を終わらせ、アンジュたちも含めて最後の確認をする。ここからはノンストップで迷宮都市まで行くため、纏まって話せるのもこれが最後だ。


 「俺は外で警戒しておきます。身体強化を使えば体力的には問題がないので」


 ペース配分さえ間違えなければ魔力にも問題は無い。

 索敵能力としては一番雑魚と言っていいだろうが、馬車の外にいればすぐに反応することはできる。それに、情報を伝える役目もいた方が良い。


 「頼むよ。戦闘は基本的に足止めだけでいいからね」


 「はい。戦闘は任せてください」


 オークが相手でも一匹ならば全く問題は無かった。足止めだけならば二、三匹相手でもなんとかなるだろう。最悪引き付けて逃げれば良いだけだ。身体強化も使いながらならばオークにスピードで負けることはない。



 無意識だった。


 みんなが馬車に戻ろうと動き出した時、俺の体は左側にいたソフィアに体当たりをしてソフィアを突き飛ばすかのように動いていた。


 自分の動きに驚いて何が起こったか分からない。ただ、突き飛ばされた形になったソフィアの顔が驚愕に染まるのだけが情報として頭に入ってくる。


 「け、ケーマ様!大丈夫ですか!?」


 詰め寄ってくるソフィアが何を言っているのか分からない。

 じんわりと服が濡れるような感触が気になり背中に手を伸ばすと、温かい何かがねっとりと手を伝う。


 「ぐっ…!」


 手に付着した真っ赤な液体を視界に入れたのとほぼ同時に激痛が身体を走る。

 槍が俺の左肩に突き刺さっている。何故か冷静な頭とはうらはらに体は痛みに悲鳴をあげる。体が動かずに蹲っていれば、アルトが駆け寄ってくる。


 「ケーマくん!ちょっと我慢してくれ!」


 アルトが俺の肩に刺さった槍を引き抜いて、何かの液体を刺さっていた場所にぶっかける。

 少し痛みが引いたような気がするが、依然として体は言うことを聞かない。


 「止血と回復のポーションをかけた。これで少しすれば痛みもマシになるはずだ」


 布を押し当て溢れてくる血を圧迫して少しでも止める。それでも血は滲み、痛みが襲ってくるが、この状況で止まっていられないが、痛みで冷静に思考ができずにストレージが開けない。


 「ソフィア。前に渡していた丸薬を俺に飲ませてくれ」


 「は、はい!」


 ソフィアがポーチから丸薬を取り出して俺の口に入れる。飲み込むことができなかったので、魔法で水を出してもらい無理やり流し込んでもらう。


 この丸薬はスタインの店で買った痛み止めの丸薬だ。もしもの時用に買っていたが、まさか役に立つとは思わなかった。

 アルトとセネディが俺を馬車の荷台に運んで、馬車を出発させようとするが、そうはさせまいと言うかの如く、森の奥からさっきのとは見た目が違うオークのような魔物が現れる。


 「ハイオーク……」


 「これは逃げ切れないね……」


 アルトとセネディが力の抜けた引きつった笑いを見せる。

 少しずつ薬の効果で痛みがマシになってきた体を動かしてハイオークとやらを鑑定してみるが、ステータスを見た瞬間、俺も引きつった表情になってしまう。


 殆どの数値が俺よりも余裕で高い。他のオークとは違い動きも早いようで、荷物を積んだ馬車では普通に追いつかれてしまうだろう。


 ここに来てこんな化け物の登場か……


 手をぐっぱと動かして動けることを確認する。痛みはあるが、動かせる。

 ストレージを開き、さっき飲んだ丸薬をもう一つ取り出して飲み込む。


 ハイオークの周囲にオークが五匹程現れ、こちらに向かってくる。距離と移動速度を考えれば、数分で捕まるだろう。


 「これはスタンピードが起ころうとしているのか!?」


 スタンピード?

 こっちの世界の意味では魔物の氾濫か。あのハイオーク……またはそれ以上の存在がこの森に生まれたことにより、魔物が群れと化して動き出したのか。


 「スタンピードが起こったとすればどうなる?」


 「良くて軽い被害。悪ければ迷宮都市ごと落ちる……」


 迷宮都市ごと!?

 スタンピードの規模次第ってことか。アルトがそう言うくらいってことは、過去にそれだけの規模のスタンピードも起こった事があるはずだ。

 今回はスタンピードの中心にいる魔物は最低でもハイオーク。ハイオークの強さがどれ程のものか分からないが、少なくとも周りの魔物も考えれば、冒険者だけで言えばBランク以上の冒険者が数十人いなければ足りないだろう。

 他にも街を護る騎士や兵士もいるだろうが、スタンピードの規模次第では数が足りる保証なんて無い。


 一刻も早くこの状況を伝え、少しでも対策を取る必要がある。



 ……最低でも一人は生き残って迷宮都市に情報を伝えなければ。


 「セネディさんとアルトさん以外は馬車を操縦できないのか?」


 「私も一応できます。今回はセトラがいるからアルト君に任せていましたけど、昔は夫と一台ずつ操縦して行商していましたから」


 アンジュがセトラを抱きしめて俺の怪我を見せないようにしながら、こちらに寄ってくる。


 「だったらセネディさんとアンジュさんで馬車を一台ずつ頼みます」


 「ここで三人で迎え撃っても、ハイオーク一匹倒せるかどうかだよ!?」


 それだけハイオークってのは強いのか。オークならば俺でも倒せると言っていたアルトが、三人でも倒せるか分からないというのだ。オークとは全くの別物と考えたほうが良いな。


 「三人でじゃないです。俺が一人で残ります」


 「ハイオークはBランク中位の強さだよ!一人で戦える相手じゃない!」

 「ケーマ様一人を置いてはいけません!私も共に戦います!」


 全員が俺を止めようと詰め寄る。

 だが、一人でも多く生き延びるには、俺一人が残るのが一番良いのだ。

 詰め寄ってきた皆を手で制して理由を説明する。


 「スタンピードが起こったことを迷宮都市に伝えないといけない。そのためには馬車で移動するのではなく、俺かアルトさんが単独で走る方が早いでしょう」


 後先考えずに魔力を消費すれば、時速40キロ程の速度で一時間走ることだってできるだろう。

 荷物を全て捨てて馬車で走るのと比べても、俺かアルトが走った方が早い。この世界では普通にあり得る事だ。


 「なら、僕が残るよ。その怪我の君を置いて行くなんて見殺しにしているようなものじゃないか」


 アルトが俺の怪我をしていない方の肩に手を置き、自分が足止め役をしようと歩み出る。


 「確かにスピードを考えるならば俺の方が速いでしょう。でも、迷宮都市までの道程の知識と、迷宮都市に着いてスタンピードの話をした時の信憑性。その二つを考えれば、アルトさんが迷宮都市に向かうべきです」


 「確かに僕なら迷宮都市のギルドマスターと知り合いだから、すぐに掛け合って貰えるだろうし、信じてもくれるだろう」


 アルトの足が止まる。

 効率性と確実性を取るのならば、アルトが迷宮都市に向かった方が良いのは明白だ。


 それでも迷ってしまうのは、アルトが本当に俺の事を心配しているからだろう。


 「少しでも早く救援を寄越してくれれば、俺の生存率も、迷宮都市への被害も少なくて済みます」


 アルトは歯を食いしばりながら足を引く。

 自分の中で苦渋の選択を強いて、無理やり自分が迷宮都市へ向かう事を正当化しようとしている様だ。

 誰が残ろうと可能性が数パーセント変わるだけだ。その中でも確率が高いのが俺かアルト。それでも、生き残れる確率は半分もない。


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