スキル
後方にノーマルスライムがいないことを確認して、ソフィアに戻ることを告げ撤退させる。こちらに向かってきている二匹のノーマルスライムを迎え撃つ。近づいてきたノーマルスライムの一匹を剣で切り裂く。振り抜いたところをもう一匹のノーマルスライムに狙われるが、来ると分かっていれば一撃くらい受けても耐えれる。衝撃を耐え、痛みを無視しながら剣を振ればノーマルスライムを倒しきれはしなかったが、退散させることはできたので、俺もソフィアの後を追って敵のいない地帯まで引き返す。
「今日はよくやった。これだけ戦えるなら十分だよ」
「あ、ありがとうございます。ケーマ様のお力あってこそでしたが、役に立てて良かったです」
嬉しそうに微笑むソフィアを見ていると、疲れが少しマシになったように感じる。
俺一人ではこの無駄に回復するMPも無意味だが、ソフィアがいれば使い道ができる。このままソフィアの実力が上がっていけば、ソフィアがメインになって俺は魔力タンクに成り下がれそうな気がする。
今後の課題とすればソフィアの詠唱時間の短縮か。今の状態では、俺が敵を引きつけつつソフィアの詠唱を待たなければいけないから、俺が対処できるレベルの敵でないと無理だ。そうなれば、現状はノーマルスライムしか狩れないということになってしまう。
この世界にはスキル付きの武器や防具などのアイテムがあり、その中には詠唱時間の短縮の効果を持つアイテムもある。
それに魔法を使いまくれば、詠唱短縮や詠唱破棄、無詠唱などのスキルが手に入る可能性もあるらしい。しばらくは安全マージンを十分に取り、金を貯めつつ、ソフィアがスキルを手に入れることができるかどうかってところか。
町に戻り食事を取るとソフィアと別れ部屋に戻った。
昼間も散々倒したが、素手で一撃で倒せるようにステータスを調整したノーマルスライムをぷちぷちと潰しながら考え事をするという日課になりつつある行動をしている。
スキルはステータスポイントの割り振り以外にも、後天的に取れると説明書に書いてあったが、どうすれば取れるのだろう。
ただ狩りを続けるだけではスキルは取れない可能性もある。狩りを続けるだけでスキルが取れるのならば、もっとスキルをいっぱい持った人間がいてもおかしくないはずだ。
何かこう……スキルを持った自分をイメージしながら戦うとかすべきか?
"スキル : 無手格闘術を手に入れました"
……は?不意に視界の端に現れたメッセージログに手が止まる。
え?スライム叩きでスキル手に入れたの?初スキルがこれで?
……やらかした感が半端ない。それなら、昼間にあれだけノーマルスライムを狩ったのだから、剣術のスキルでも獲得しておけよ!
「……はあ」
剣を振り終えた体勢の俺に飛びかかってきたノーマルスライムを空いていた左手で殴り飛ばして倒し、左手をぷらぷらと振って違和感が無いか確かめる。
異常は無い。むしろ使ったことにより調子が良いくらいだ。
「ケーマ様。大丈夫ですか?怪我でもされましたか?それとも体調が……」
心配して駆け寄ってきたソフィアに大丈夫だと告げるが、俺の心は曇ったままだ。
あのスキル獲得から一週間、狩りを続けたことによりレベルも上がり、ノーマルスライムを狩りながら森の手前まで進んできた。
安全マージンは取っているが、俺の拙い剣と戦い慣れていないソフィアだけでは、たまに危ない場面もある。死とか重傷とかに結びつきはしないが、怪我くらいはしてもおかしくない。
さっきも、剣を振り切った体勢の俺にノーマルスライムが体当たりしてきたが、"左手で殴って倒した"。
そう。素手で殴って倒したんだ。
無手格闘術のスキルを獲得して以来、この初心者用の剣と拙い俺の腕を組み合わせて繰り出される攻撃よりも、無手格闘術のスキルと殴りという原始的な攻撃の方が与えるダメージが大きい……
よりにもよって、異世界で素手で戦うことになるなんて。
「が、頑張ってお金を貯めて良い剣を買いましょう!そうすれば、剣で攻撃する方がダメージを与えられますし、それで戦い続ければ剣術のスキルだって手に入りますよ!」
「……ああ。そうだな。頑張って狩りを続けようか」
「はい!」
ノーマルスライムを無視して、二匹程度でうろついているゴブリンを探して移動する。
ああ……早く剣術スキルが欲しい。
意地で剣を再び握りしめ、見つけたゴブリンに斬りかかる。
「ゴブリン20匹の討伐で1000コルになります。本日の討伐分でDランクへの昇格が可能となりましたが昇格しますか?」
「お願いします」
1000コルをストレージに仕舞いつつ答える。Bランク以上になるとギルドからの指名依頼があるためBランク以上にするかは迷うが、Cランクまでは上げておいて問題無いだろう。
「更新出来ました。これからも頑張ってください。それと、ケーマ様に伝言があります」
「誰からですか?」
「商人のスタイン様からです。あの取引だが、良い取引相手が飛び込んできてくれたから高値で売れそうだとのことです」
ほう。お金が心許ないから高値で売れるなら有難い。それにしても、もう王都まで行ったのか。それとも、情報だけ先走りさせてそれに飛びついてきた奴がいたのか。
俺としては金さえ手に入ればいいから、その辺りはスタインに完全に任せる。俺があれこれ考えたところで、スタインよりも上手くやれる気はしない。
「ケーマ様。今少しいいですか?」
ギルドから去ろうとした時に受付嬢に呼び止められる。