購入
俺が指定した奴隷以外はガゼフの指示で、もともといた扉の奥へと戻っていく。
「では、この五人について説明いたしましょう。右端の獣人がエレン。彼女は普通の獣人よりは身体能力に劣りますが、多様な武器の扱いに長けており、近距離から遠距離まで任せられます。お値段としては13万コルと獣人にしては安めになっておりますが、戦闘面ではそれ以上の価値があるでしょう。ただ、食費が普通よりも多くかかってしまうためお安くなっております」
順番に説明していくガゼフの言葉を鑑定の結果と比べながら見ていくが嘘は無いようだ。
俺の見極めも終わったのか、提示してくる値段も鑑定結果とそれほど差がないか、エレンのような手間が掛かりそうな奴には鑑定結果より安い価格を提示している。淡々とそれぞれの奴隷の長所と短所、なぜその値段なのかを告げていくガゼフが何を考えているのかは分からない。
「最後の娘はソフィアです。彼女はこれといった特徴はありませんが、小さな村で生活していたため家事や森での生活については比較的慣れています。運動能力はそれほど高くないため冒険のお供には向いていませんが、やる気はあるため訓練すればなんとかなるでしょう。お値段としては12万コルとなっております」
「ふむ……良い奴隷が揃っているな。気になる奴に少し話をしても良いか?」
「大丈夫ですよ。お前達、話しかけられたら答えるように」
これも奴隷紋による効果なのかな。たぶん喋るなという命令をしていたから、それを消して上書きするような形で返事はできるようにしたのか。
下手に自分を売り込んだりして客の気分を損ねたりするといけないからな。命令する側からすれば奴隷紋って便利なものだな。もし、自分に奴隷紋が付けられたらと思うとぞっとするが。
「エレンといったか。戦うのは平気か?」
猫の獣人だろうか。ぴょこぴょこと動く耳としっぽに目を奪われつつ質問する。自分が最初に声をかけられるとは思っていなかったのか、キョロキョロとあたりを見て、こちらに向き直る。
あーあー。と声が出ることを確認してからエレンがこちらに向き直って答える。
「戦うのは得意です。食べるために魔物を狩ったこともありますにゃ」
「ならば、家事とかはできるか?簡単にでいいが」
「家事はやったことないにゃ……です」
「そうか。ありがとう」
エレンのもとを離れ、もう一人の気になっていた少女のもとへ向かう。
エレンも欲しいとこだが金がないし、俺としては簡単でいいから家事ができる奴隷が欲しい。宿屋暮らしをいつまでも続けるのは嫌だから拠点を作りたいが、俺は雑な掃除とただ焼くだけの料理くらいならできるが、そんな生活を続けるのは嫌だからな。
できれば美味しい料理が食べたい。そして家事なんてしたくない。
「ソフィアだったよね。君は戦闘はできるか?」
連れてこられた奴隷の中で一番目を付けていた奴隷に声をかける。
「戦ったことは殆どないので不安ですが、やれと言われるなら精一杯頑張ります」
やる気があるならそれでいいから十分。鑑定で見たレベルからしても戦闘経験が無いのはわかっていたことだ。
彼女は魔法属性を火・水・風の三属性も持っている。魔力が少ないのと水・風属性は完全には習得していないみたいなので、俺の上位鑑定くらいの鑑定じゃないと三属性もあることはわからないのかもしれない。たぶん、三属性もあることがわかっていれば、もっと高い値段を提示されていただろう。
「家事は二人分を毎日やれと言われてもこなせるか?」
「奴隷として売られる前は六人家族の家事の大半を行っていましたので大丈夫だと思います」
それなら大丈夫か。
六人家族てことは食い扶持を減らすために奴隷商に売られたのかな?大変な世の中だな。
ソフィアにもういいよと言いガゼフの方へ戻る。にこにこと笑顔で待っているガゼフに少し恐怖心を感じたが、別に悪意は無いようだ。商人って言うのも職業柄何か裏があるんじゃ二課と勘繰られて大変だろうな。
「この子にするよ。簡単な物でいいから服とかは取り扱っているか?」
そういうとガゼフが手伝いをさせていた奴隷に声をかけて服を持ってこさせ、ソフィア以外の奴隷を部屋から出す。
「当店で扱っている服でソフィアに合ったサイズとなりますとこちらがお手頃かと思います」
出された服を鑑定するが問題はなさそうだ。
さすがにここでぶったくることは無いだろうからそれでいいと答えた。
「必要な教育があればある程度はこちらで教えてからお渡しすることもできますがどうしましょうか?」
「別にいい。戦闘面はこちらで合わせるし、家事はできると言っていたからな。このまま連れて帰る」
「かしこまりました。では、お値段の方ですがソフィアと服一式、スタイン様の紹介ということなので10万コルで如何でしょうか?」
こいつ。さっきはソフィアの価格を12万コルとか言っておきながら……。
まあいい。安くなる分には有難いから下手なことはせず、落ち着いて対応しとけ。
「10万コルね。それで構わない」
10万コルを手渡し、隠れてふうっと一息つく。
こんなのずっとやってたら胃に穴が開く。交渉なんて無理だ。金がまた手に入ったら、誰か代わりに交渉できるような奴も仲間にしないとな。