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奴隷商

 スタインのくれた地図を頼りに町の中を歩く。

 ぺネムの町はそこそこ大きいため、門と宿屋とギルドの間しか行動範囲の無い俺では地図が無ければ即迷子だろう。

 ……だって、建物の色合いや形が殆ど同じだから、場所を把握する方法が店の看板か町を囲う壁との距離感しかないんだもの。文化レベルの差なのか高層ビルだけでなく、目を引くような建物もほとんどないため位置が分かり辛い。通りを一本間違えても気づくことなく進んでしまいそうだ、


 「ここか……」


 スタインから貰った地図に示された名と同じガゼフ奴隷市と書かれた看板を見つけて立ち止まる。

 ここにくる間にあった奴隷商とは違い、清潔感に溢れる店内は、この世界に来てから見た中で最も綺麗に保たれている。スタインの店も綺麗だったが、元の建物の古さのせいでこちらの店の方がきれいに見える。


 さすがに奥まではこの綺麗さではないだろうが、清潔な店内を見せられると、それだけでこの店の奴隷の価値が他の店よりもワンランク上に思える。

 自分のストレージに仕舞われた金と、この後の商人とのやり取りを考えると背筋がぶるっとした。少しでも余れば御の字ってところか。


 「怖気づいていても時間の無駄か」


 勇気を振り絞って一歩踏み出す。舐められないように緊張を隠すためのポーカーフェイスも忘れずに。


 「いらっしゃいませ。ガゼフ奴隷市のオーナーのガゼフと申します。今日は奴隷の購入でしょうか?」


 店に入るなりいかにも商人というような男が出てくる。俺を値踏みするかのような視線を一瞬見せ、俺がそれに気づいた瞬間に隠すなんてことを何気にやってきやがる。ここで文句を言うような下手な見栄を張るのではなく、さっさとスタインの紹介だと告げた方がいいな。下手な対応をしてしまえば紹介があっても見限られてしまう可能性だってある。


 「今日は購入だ。スタインからこの店を紹介されてな」


 スタインに地図とともに渡された紹介状を差し出す。

 本人のサインを確認すると中身をよく確認することもなく、すぐににっこりと笑みを浮かべてこちらに向き直る。


 「スタイン様の紹介なら下手な扱いはできませんな。どのような奴隷をお探しで?」


 全く商人ってのは敵に回したくないな。

 下手な扱いはできないとか口では言ってるが、それが本心なのか俺程度じゃ判断できない。擦り合わせるその手が次にどう動くか気になってしまう。

 ここはスタインを信じるしかないな。


 「戦闘に使える奴隷が欲しい。別に戦闘経験や特殊なスキルはいらないが、健康で動ける奴だ。あと予算は15万コルといったところか」


 「かしこまりました。すぐにその条件に近しい奴隷をご用意できますが、直接自分で見ますか?それとも書類で絞りますか?」


 「自分で見よう。知識は無いが、物を見る目はあるんだ」


 鑑定で見れば一発だからな。いや、本当に鑑定は取っといて良かった。

 この世界に来て数日なのにここまで普通に生活できるのは、俺の適応力もあるだろうが、最初に選択したスキルと初心者応援セットのおかげだな。与えられたもののおかげでなんとかなっているが、これからもこの与えられた能力に頼らせてもらうしかない。


 「では連れてきますので奥の部屋でお待ちください。」


 言われた通り奥の部屋に入ると、中はテーブルと椅子があるだけのシンプルだが無駄に広い部屋だった。


 「奴隷を見せると言っていたから広いのかな?」


 「その通りです。ガゼフさんならすぐに連れてこられるとは思いますがおかけになってお待ちください」


 俺の入ってきた扉とは違う扉から入ってきた少女にお茶を出されたので席について待つことにする。

 部屋の隅に待機する少女をよく見ると首に刺青のような紋様があるが、もしかしてあれが奴隷紋なのだろうか。

 鑑定で紋様を調べようとした瞬間、扉が開かれる。


 「お待たせしました。……おや?彼女がどうかしましたか?」


 「いえ……奴隷自体初めて見るものだったので彼女の首の紋様が奴隷紋と呼ばれるものなのかと思っただけです」


 「そうでしたか。彼女もうちで扱っている奴隷でしてね。本人の希望もあり教育の一環としてこうして仕事の手伝いをさせているのですよ」


 「そうなんですか。しっかり教育も行き届いていて良い奴隷ですね」


 ありがとうございます。といってにこりと笑うガゼフ。

 危ない危ない。鑑定で彼女の商品価値を見たが46万コルなんて払えるわけない。下手なことをしていれば、難癖付けられるところだったかもしれない。


 商人ってのはいつどこで人を試して、いつどこで人を落とそうかと考えているかわからないからな。

 いくらスタインの紹介とはいえ、俺が犯したミスを笑って流してくれるような人間じゃ商人の世界ではやっていけないだろう。


 「一応、条件に合う奴隷を探しましたが、15人ほどおりました。一度に中に通すか、一人ずつ見るかどちらがよろしいですか?」


 「一度に通してくれて構わない」


 「かしこまりました。入ってきなさい」


 ガゼフの指示に従ってきびきびと中に入ってくる奴隷達。

 見た目もそこそこ健康そうで扱いが悪くないというのは一目でわかる。


 入ってきた順に鑑定していくと3人ほど複数の属性の魔法適性を持った奴隷がいた。

 狙うとしたらこの三人の内の誰かか。あんまり狙いすぎるとガゼフに気づかれて交渉が後手に回ってしまい向こうの思惑通りになってしまうだろう。

 今後ともガゼフのところから奴隷を買うのならば、この最初の一回で足元を見られるとこれからが思いやられる。


 俺が考え終わると同時にガゼフが、さてと話を始める。



 「どうでしょうか?気になる奴隷はいますか?」


 「そうだな……そいつとそいつ。あとそこの三人をとりあえず残してくれ」


 魔法適性を持った二人と運動能力の高そうな三人を残して下がらせるように頼む。

 なぜ、魔法適性のある三人を全員残さなかったかというと、三人のうち一人の値段が予算を超えていたからというのと、ガゼフに俺が魔法適性のある奴を探しているのを確信させないためだ。


 薄々どころか殆どバレてはいそうだがな。あんな予算以上の優良物件を混ぜ込んでくるくらいだもの。

 ま、こっちは素人だから仕方ない。口を滑らしたり、地雷さえ踏み抜かなければ、ガゼフもこちらをある程度は評価してくれるだろう。


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