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始まり

 鳴り止まない着信音。

 真夜中に大音量で鳴り出したパソコンの画面をベッドから起き上がって覗き込めば、"メールが届いています"という文字が画面いっぱいに映し出されている。


 ……モニターの電源は寝る前に切っていたよな?

 不審に思いながらもベッドから起き上がりモニターの置かれた机の前に立つ。いつも通りお気に入りの椅子に座ってヘッドホンを装着したところで手が止まる。


 「ヘッドホン、刺さったままだ」


 しっかりと刺さったヘッドホンのプラグを見て、背中に冷んやりとした汗が伝う。

 確かにパソコンから音は鳴っていた。しかし、このパソコンには内蔵スピーカーはもとより組み込まれていない。ヘッドホンは机の上に置かれていて、机の下に置かれたデスクトップの本体からは離れている。音が聞こえていたのはどこからだった?そもそもヘッドホンから漏れてくる音がベッドで寝ていた俺のもとまで鮮明に聞こえるような音量設定にしていた記憶は無いし、そんな音量にできるのだろうか。


 「はは……気のせい気のせい」


 震える指でキーボードとマウスを操作してメールを確認する。

 ドラッグした途端に画面が切り替わり、画面の真ん中に新たな文字が浮かび上がる。


 "おめでとうございます!この度厳選な抽選の結果、桂木桂馬さんにクローズドβテストへのご参加の権利が与えられることになりました"


 「なんだ……ネットゲームかよ……」


 ふう……と大きく溜め息を吐いて気持ちを落ち着かせる。震えていた手も治り、今度は高揚感が押し寄せる。

 ネトゲはそこそこやる方だが、そこまで熱中している訳でもない。ガチ勢には程遠く、中堅層辺りでくすぶっているのが普段の俺だとはいえ、こういった限定とか抽選何名とかはこれまで当たったことも無かったから、初めての当選に興奮覚めやらない。マウスのホイールをクルクルと操作しながら、メールの本文を読み飛ばしていく。


 "このクローズドβテストへの参加を同意される場合、下記の参加ボタンを、参加を拒否される場合は、下記の拒否ボタンを押して下さい"


 そりゃ参加するに決まってるでしょ。

 マウスを動かし参加ボタンを押そうとクリック仕掛けたところで注意書きが目に入る。


 "参加される場合は一生戻ることは出来ませんのでご注意下さい"


 ……一生戻れない?何かの脅しか?

 クローズドβテストだから、周囲の人に情報を漏らすなとかそういったことなのかな?どうせ、友人と呼べるような奴もいないぼっちだし、両親は去年死んで遺産で生活しているニートの俺には関係の無い話だ。

 ……もし、これが本当に戻れないものだったとしても、この退屈な世界で無気力に過ごすよりかは良いかもしれない。

 マウスをカチッと音がなるようにクリックする。迷いはない。どうとでもなれ。


 "ご参加ありがとうございます。行ってもらう世界は剣と魔法のファンタジーな世界となります。桂木桂馬さんにはご理解頂けると思いますが、レベルやスキル制の世界となっておりますのでご注意下さい"


 俺のために作られた文章。

 もしかして、本物?本当に異世界に行けるのか?

 そういえば、ゲーム会社からだとすれば、ゲーム名どころか会社名も載っていないのはおかしい。情報の秘匿どころの問題ではないもんな。普通なら会社名も載って無かったら迷惑メールだと思って無視される可能性が高いはずだ。


 ……メール?ああ!だから内蔵スピーカーも無しに音が鳴ったり、モニターの電源が勝手についていたり、違和感ありまくりなのに気にならずここまで進んでしまったのか!


 だとしたら、これは本当に異世界にいけるのか!


 これは誰かに教えなくては。

 マウスを動かしてメール画面を閉じ……れない。キーボードのショートカットキーも効かない。モニターの電源は……落とせない。

 スマホ!スマホがあるじゃないか!


 「ぐふっ……」


 椅子から動こうとしたら身体が固定されているかのように動けない……

 あれ?詰んでる?

 やだなー。そんなに独占欲示さなくても、ちゃんと俺異世界行くよ?本当だよ?だから、ちょっと!ちょっとだけ、スマホを確認するだけだからお願い。


 「……ごめんなさい。馬鹿なことしてないでさっさと進みます」


 全く動けなかったのでとりあえず謝る。下手なことをして異世界に行けないなんてことになったら最悪だ。謝ってマウスを動かそうとすると身体の拘束が解けたかのように楽になる。


 ……さっさと進むしかないってことか。全てはこの状況を作り出した誰か。言うなれば神様の言うとおりにするしか無いようだ。マウスを操り画面を進めて行く。


 "――説明は以上です。次にキャラメイクに入ります。自動作成をする場合はスキップを、自分で作成する場合は先程の説明を参考に注意して作成して下さい"


 そりゃ、自分で作成するしかないでしょ。自動作成なんて縛りゲーじゃないんだからやってられないよ。


 注意事項としては二つ。

 ・スキルは向こうで訓練をすれば才能次第で身につくものも多い。

 ・スキルは何でも取れる訳ではなく、才能とポイント次第。スキルの組み合わせによっては取れないこともある。(例えば、魔法の才能が二属性しかない人が、三属性目を取ろうとしても今は取れない)


 まあ、このくらいなら許容範囲っていうか、無いと可笑しいくらいの制限だよな。

 まず、見た目か。

 モニターには自分が映し出されていて、カメラの角度を変えたり、様々な項目をいじることができる。

 自分を色んな角度から見るって嫌だな……。別に容姿はどうでもいいか。向こうがどんな容姿の人達がいるのかわからないから下手に弄るのも怖いしな。


 見た目のところはささっと飛ばす。

 次に現れたのは能力値のようだ。HPとかMPはまだ良い。STRとかDEFとかはネトゲしてないとわからないだろ……俺用だからいいのか。


 えっと……ステータスは向こうの一般成人男性の平均から、俺の得手不得手を参考に修正しています。か、それならこのままでいいかな。

 でも、一回弄ってみるか。


 HPをプラス1と。MPをマイナス……あれマイナスはできないのか。じゃあ、MPもプラス1と。


 ん?右上のポイントが減っているみたいだな。一回プラスしたところをリセットしてと。


 ステータスポイント 81(年齢ポイント21+ボーナスポイント60)


 81しか無いのか。これは能力値の上昇にしか使えないのかな?


 "ステータスポイントは能力値またはスキル習得に使用できます。ボーナスポイントは初回特典20ポイント、称号 真実を知りし者 で40ポイント付与されています"


 へー。1ポイントで能力の1しか上がらないならスキル覚えた方が良さそうだな。

 それにしても称号か……本当だ。スキルの下に称号の欄あるな。

 称号 真実を知りし者、大いなる力に屈した者


 称号は既に二つか……というか、両方さっきのあれでついたのかよ!

 しかも、なかなか仰々しい称号名だしな。


 真実を知りし者 : 世界の真相に近づいた者が得る称号。INTにプラス補正。ボーナスポイント40。

 大いなる力に屈した者 : 大いなる力に抗った末、屈した者につく称号。全耐性にプラス補正。


 ……なんと言えばいいかわからないけど、無駄に考えたり抗って良かったみたいだな。耐性系は特に欲しかったから嬉しいな。たまたま食った木の実とかに毒でもあって、速攻死んだら最悪だもんな。状態異常耐性は本当に欲しかった。


 ちゃっちゃっとスキル取って終わりにするか。


 必要なスキルは……とりあえず、共通語習得だな。ステータスポイント1使用っと。言語理解の方が良さそうだけど、ステータスポイント15必要なのはきつい。


 後は鑑定も欲しい。アイテム収集系のクエストとか言われても、草の判別とか木の実の判別とかできないからな。鑑定にステータスポイント5使用。

 あれ?中級鑑定とか出てきた。

 そうか!スキルを使用することでスキルのレベルが上がっていくんだな。ということは、この最初の鑑定だとあまり情報は多くないということだな。

 それなら、5ポイント使って中級鑑定ゲット。お?さらに5ポイント使って上級鑑定ゲット!


 さすがにこれ以上の鑑定は要らないだろう。このくらいあれば、欲しい情報は手に入るはず。

 んー。次は戦闘系のスキルだな。

 剣術とか体術はポイント低いけど、どうせ向こうで訓練をしたら取れそうだしな。

 狙うなら魔法か。最初は敵に近づくのは怖いから魔法で狩る方が良さそうだもんな。


 魔法

 ・生活魔法 1ポイント

 ・初級火属性魔法 5ポイント

 ・初級水属性魔法 5ポイント

 ・初級風属性魔法 5ポイント

 ・初級土属性魔法 5ポイント

 ・初級雷属性魔法 10ポイント

 ・治癒魔法 10ポイント

 ・召喚魔法 5ポイント

 ・空間魔法 5ポイント

 ・光・闇属性には適性がありません。


 初めて適性無しがあった。光・闇は種族とかが関係するのかな?それか何か称号を手に入れないといけないのか?まあ、他の魔法があるから別にいいか。

とりあえず、生活魔法は後でも覚えられそう。注意書きにもすぐ覚えられるってのと属性数に入らないってのが書いてあるから別にいいか。


 まずは、便利そうで誰もが夢見る転移が使えそうな空間魔法を!……あれ空間魔法は初級とか無いんだな。空間魔法レベル1が手に入っただけみたいだ。

 まあいい。次は何がいいかな?浪漫的には火か雷か召喚か。そういやモンスターマスターとか魔物使いみたなスキルもあったけど、ポイントかなり高かったよな。

 召喚魔法にしてみるか!えっと、召喚魔法に5ポイント!


 ……あれ?何か派生みたいなのが出てきた。


 召喚魔法

 ・モンスター召喚 1ポイント

 ・精霊召喚 15ポイント

 ・幻獣召喚 20ポイント

 ・モンスター作成 5ポイント


 モンスター召喚やっす!

 でも、注意書き的に使いにくそうだな。倒して契約を結んだモンスターしか召喚出来ないのか。

 精霊召喚と幻獣召喚はポイント高いし、消費MPがかなり高いらしい。モンスター作成は倒したモンスターしか作成できないが、MP次第でいっぱい召喚したり性能をちょっと弄れるらしい。

 うん。これはモンスター作成だな。

 一回倒せばいいんだろ?契約とかしなくていいならそれほど難しくもないだろう。


 で、魔法を手に入れたからにはMPを上げないとな。スキルであげる方が能力値上げるよりかなり楽じゃん。


 えっと、まずはMP2倍を10ポイントでゲット。

 初期MPが5だから最初は勿体無いけど、レベル上がればすぐに元取れるからいいや。

 次はMP回復力アップを3ポイントで。お、プラス7ポイントでMP自動回復取れるじゃん。

 まだ、MP自動回復はポイントでレベル上がるのか。なら10ポイント足してMP自動回復レベル4と。


 MPがこれあるなら、HPもあるかな?HP回復力アップを取って……おお、こっちもある!なら、これを同じように上げてHP自動回復レベル4に。


 よし!これでいいかな。

 共通語習得に1ポイント。上級鑑定に15ポイント。召喚魔法のモンスター作成で10ポイント。転移魔法に5ポイント。MP2倍が10ポイントに、MP自動回復レベル4に20ポイント。HP自動回復レベル4に20ポイント。計81ポイントでちょうど使い切ったからオッケーでしょ。


 とりあえずは弱いの倒して、あとは数の暴力でレベリングかな?仲間を手に入れて寄生するのもありかもしれない。

 じゃあ、これで完了と。


 "設定完了。これより、異世界ファルネシアに転送開始します"


 画面に表示された文字を読んだ瞬間、意識が薄れていき、世界が黒く染まった。

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