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受け継がれる黒-5

「とりあえず何とか話せる程度にはなった……後は会話を続けるためにどうするか……」


 レイズはスコールのことで悩んでいた。

 いきなりこちらの世界に引き摺り込んでしまったとはいえ、不自然なくらいに騒ぎ立てることもなく一応平然と暮らしている。もしかしたら言わないだけでたくさんの不満があるかもしれないが、悩みはそれをなんとかすることではない。

 普通に会話できる程度にまでは警戒を解けた。

 これを機に戦闘面でなんとか協力できるようになっておきたいのだ。連携なんて贅沢は言わないから、戦いにおいてより効率的な運用ができるようにしたい。

 今のところ(元)第八位の(堕or駄)天使メティサーナが率いる騎士団とやらの監視下にある、レイズを中心とした(形だけの)盗賊団はときおり魔物討伐で走り回ることがある。その際、スコール率いる巻き込まれ三人組が先に目標を仕留めて無駄足を運ぶことが多々起こる。

 他の巻き込まれ二人のうちネーベルはきちんと『報・連・相』の『連』をしてくれるためいいが、後はやったらやったで放置だ。


「無駄なんだよなぁー……」


 なんとかしないとは思うがなんとかする手立てがない。だが何とかしなければならないというこの状況。

 暗い夜道を歩き、スコールの家に向かう。

 もう狼たちの襲撃にも慣れたものだ。いくら魔物とは言え狼、ウルフパックの連携攻撃は喰われまいと逃げ回る獲物の気分にさせてくれるほどに、人が一人では弱いことを思い知らせてくれる。すでに何度か冗談抜きに首を噛まれ死に、頭を噛み砕かれて死に、鋭い爪による攻撃で死んでいる。


「不死の呪いがいいんだかわるいんだか」


 もうこれ以上死にたくない。そう思うレイズはいくつもの隠密用の魔法を重ね掛けして縄張りに踏み入った。いつもならすぐに襲い掛かってくるはずの狼(魔物)たちが襲ってこない。

 しかし、やったと浮かれた気持ちで進むことができたのは五十メートルほどか。

 かすかに、そこで見えてきたのは――一言で表すならば廃墟か戦場跡だ。絨毯爆撃で徹底的に破壊され、掘り返された地形にログハウスを形作っていたであろう丸太がバキバキに折れて転がっている。あちらこちらでくすぶる焼夷剤の炎と鼻をつく嫌な臭い、そして破壊の音が惨劇今まさに起こっていることを知らせる。


「何があった!?」


 驚きながらもこういうことに慣れている意識は、体を勝手に動かし始める。煤塵の混じった苦い空気が嫌な思い出を引き起こさせる。


「くそっ」


 光弾を召喚し、道を照らしながら進めば元凶が見えてきた。

 レイアを背に庇いながら、刀を片手に構えるスコール。その足元には男二人が倒れている。


「スコール! 何をした!?」


 隣に滑り込んですぐさま光の剣を顕現させる。向かい合う先にいるのは堕天使だ。


「いきなりストレス発散に付き合えとかで仕掛けてきた」


 事情は分かった。よく見れば、明かりに照らされている男二人は呼吸があるようなので大丈夫だろう。


「あらぁ? 奴隷が主人のおもちゃになるのは当たり前よねぇ?」

「「ふざけるな……!」」


 理不尽なことを言う堕天使に向かって、二人は斬り掛かった。



 翌日。

 更地になった河原に三人の姿があった。


「…………」

「…………」


 お互いにボロボロ――ではない。レイズは顔にガーゼを、腕にギプスを、腰にサポーターを、足に包帯を、という重傷であり、スコールは頬に一閃されたような傷があるだけだ。なぜか魔法で治せない傷を負わされたが故のこの状態である。

 夜通し逃げ続けてふっと意識を失うように寝てしまったレイアはスコールの腿の上。


「なあ、お前の黒パーカーと黒カーゴいいな」

「……複製召喚で作ればいいだろ」

「じゃあもらうとしようか」


 動かせる腕でスコールのパーカーに触れ、その構成情報を読み取る。そして魔法を通してまったく同じではなく、自分なりに少しアレンジを加えたものを作り出す。より丈を長くしたロングパーカーだ。

 フードの部分とダブルファスナーは少しばかり強化している。


「なんで俺だけこんな目に合うんだか」

「闇夜でも目立つほど白いからだろ」


 さっさとレイアを連れてどこかに行け、そう言いたげな声音だ。


「そりゃそうだが……そういやお前は俺を気味悪がらないな」


 アルビノと言えば、その肌や髪の白さや瞳の赤(血)色が特別なものとして、魔術・魔法や厄除けとしての力があるとされることがある。だからすれ違った人に体の一部を切断されたり、あるいは誘拐などの被害者となる場合がある。

 しかも生まれつき白く眼は血の赤色ということで、大多数の人に気味悪がられることは珍しくない。


「真っ白だろうが真っ黒だろうが変わりないし、もといた世界じゃアルビニズムは人だろうが何だろうが高く売れるなんて話があった」

「おい、まさか俺をして売ろうなんて考えてないよな?」

「…………、」

「無言は肯定か!?」

「いや……知り合いにそういうのがいたから思い出しただけだ」

「あぁ……そうか」


 話が途切れたところでレイズはパーカーを羽織った。繋ぎ目などの破れやすい場所をあらかた魔法で強化したが、実際に着てみないと分からない場所もある。


「お前はこれのおかげで逃げ切ったわけか」

「黒は目立たないからな、夜限定で」

「くそっ。俺も白じゃなくて黒いシャツを着ておくべきだったか」


 今更言っても遅いことである。



黒と言えば

・精神的に問題がある?

・消極的?

・人との関わりを避けがち?

・隠し事がある?

・威圧など力を象徴する?

・弱さを隠したい?

・自分を強く見せたい?

・もしくは単純に落ち着くから?

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