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受け継がれる黒-1

 空白の暦


 -Squall-


「五元の素の一、始まりにしてすべてを生み出す大地」


 詠唱が進むと風ではない何かでパーカーの裾がふわりと煽られる。


「模れ、鋼鉄の剣を。象れ、強きを砕く力を」


 身体を這うように、地面から吹き上がる魔力の流れ。


「顕現せよ、我が力となりて我に従え」


 目に見えない流れが澄んだ大地の色を帯び、一瞬剣を形作ろうかとしたところで霧散し、消え去る。

 これで一通りの魔術と魔法を試し終わった。

 結果的に使えたものは何もない。

 習得したものはと言えば、感覚だけで魔力とかいう変なエネルギー? を操る技術くらいだ。


「プログラムで考えれば……記述ができてコンパイルができてないもんか。すでに他人が生成したものなら使えそうだが……どうやって奪い取るか……」


 誰に言うでもなくスコールは歩きながら離れたところで順調に進んでいる相方を見る。

 あちら側は最初こそできなかったものの、感覚で魔力を制御できるようになってからは詠唱を省略して、本来は詠唱で行うはずの魔力制御を手動で行い様々な魔法を行使できている。


「どうした、練習はもうやめか?」


 いつの間にか後ろにいた白髪の青年に声をかけられた。

 その顔は包帯やガーゼで塞がれ、見える部分は執拗に鈍器で殴られたかのように紫色を通り越して黒くなっていた。


「できないことをやっても仕方がない」

「全部試したのか? 数千種類と無数の組み合わせがあるはずだが」

「基本的なものだけだ、形になる前に消える。それに帰れないとなればここで生きていくしかないから別のことでもする」


 帰れない、その言葉で白髪の青年は少しうつむいた。

 自分の戦いに巻き込んでしまったという事、そして全く関係ない訳ではないが天使の契約を結ばされて実質奴隷状態である事。


「お前は……それでいいのか。親とか、誰かに会えなくて」

「親も知り合いもいないからどうでもいい。それにあの生活に執着がある訳でもない」

「そ、そうか……」


 見た感じの年齢にしては状況を受け入れるというか、適応能力が高すぎる。

 もしくは単純に諦めているのか。

 天使との衝突でたった一人がスケープゴートになって酷い目にあわされるだけで、他への被害はほとんどない。

 ただ、上下ダボダボの緩い服を着た四枚羽の黒髪の天使に変な呪いをかけられただけだ。

 力を与える代わりに絶対服従の呪い。

 だがそれは天使もとくにムチャなことは言ってこないためどうということはない。


「しかしまあ……ネットがないと困るとかそういうことはないのか?」

「別に……? なんでインターネットを知っている」


 この場所の状況から見るだけでもそこまで文明が進んでいるようには見えない。

 とくに先の戦闘を見ても剣と盾に鎧、射撃や砲撃はすべて魔法。

 魔法があるから必要がないから、というのもあるだろうが砲や銃が見当たらなかった。


「いやだって、俺もここの人間じゃねえし」

「ああ、そういう」


 かなり重要なことであるが、大した反応をしないのは帰ることもできずどうにもならないからだろう。


「なんか、お前反応が暗いというか……会話を早く終わらせたそうだな」

「余計な縁を作りたくないだけだ」


 それきり黙り込んだスコールの隣に白髪の青年、レイズが腰を下ろす。

 視線の先では訓練用の木杖を片手に魔法を次々と撃ち出すスコールの相方の姿がある。

 本名は仙崎霧夜だが、ここではネーベルという名前を使っている。

 とにかくまずは溶け込むことで余計な問題を引き込まないようにするためだ。


「あいつ、武術はからっきしダメだが魔法だけはいけるな」

「…………」

「対してお前は魔法はからっきしダメだが、一通りの武具を及第点の手前くらいで扱える。オールラウンダーの前衛と先鋭化した後衛、なかなかいい組み合わせだと思わないか」


 とん、と肩に手を置きながら言うが。


「…………」


 反応がない。


「おいおい、お前みたいなのはどこ行っても採用してくれないようなもんだぞ。試験じゃどれか一つしか見られずに使えないと判断されるが、訓練なしですべての一通りほとんどの武具を扱えるなんて掘り出しも」


 いい加減に我慢が限界に近かったのか、乱暴に払いのけながらようやく言った。


「黙れ。そんなに喋りたいなら壁に一人で言ってろ」

「なーんでそんなに避けるかねぇ」


 ひらひらと手を振りながら立ち去るレイズを見送りもせず、ただ魔法を次々と撃ち出している相方を観察していた。

 何の違いで魔法が使えないのか。

 それさえ分かってしまえばなんとかなるのでは、そう考えている。

 いま分かる範囲での違いは”あの本”に触れていた時間の差、天使に変な呪いをかけられたかどうか。

 そんなところだ。

 しばらく観察していると練習を終えたのかこちらに歩いてくる。


「ミナ、どうしたの?」

「別に……」


 スコール、そう偽名を思いついたはいいが相棒は普通に名を呼んでくる。

 慣れていないということもあるのだろうが、他の者がいる場所では気を付けてくれているので困ることはない。

 ちなみにスコールという名前にしたのは自分の戦い方が要因だ。

 突風のようにいきなり吹き荒れ、瞬く間に制圧して通り過ぎた後は大被害。

 そういう感じだからだ。


「ネーベル、お前試験管とか刀って作れるか?」

「できれば仙崎か霧夜って呼んでほしいところだけど……。うん、まあ、それくらいならできると思うよ」


 返事をしつつ広げた手の上に粉塵のようなものが渦巻き、次第にそれが集まって金属のようなものを作り始める。

 十八秒で鉄の塊が出来上がり、それを赤くなるまで熱して引き延ばして形だけの刀を作り上げてしまう。


「こんなもの、かな?」

「一枚か……そんなんじゃ使えない。柔らかい鉄と堅い鉄、それと高火力の炉を作ってくれ。後は金槌とやっとこに」

「待って待って、なに? 君って鍛冶屋ブラックスミスな訳?」

「別にブラックだけじゃないが。とにかく」

「分かった作るよ、その代わりついででいいから僕のために杖も作ってよ」

「いいだろう。質量保存の法則を無視した魔法だ、材料は無限だな」

「いやいや僕の魔力がある限りだから無限じゃないよ」


 その日からあたり一帯には鉄を叩く音が響いたという。



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