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総合学校の(運が悪くそうなってしまった)劣等生-3

 授業が始まるまでの数日。

 クロードは学校内をふらついて配られた地図と見比べながら散策していた。地図と言っても紙媒体ではなく電子データ、視界に重ねて表示れている仮想マップだ。

 様々な勧誘の声は一切合財飛んでこない。最底辺だからだろう、これは喜ぶべきことだった。一人でのんびり歩いて行ける。ぞろぞろと振り切れないキャッチに追い回されるのは嫌だから。

 一応一通り回って、ほぼ半分以上の施設に接近することすらできなかった。権限が無い、それだけでだ。


「あーもう、嫌になる」

「だったら助けて」


 ベンチに腰掛けてぐてーんと空を見上げていると、シルフィが執拗な勧誘から逃げきれずにぞろぞろと引きつれて目の前にいた。

 泣いていないのは育ってきた環境ゆえか、この年でこれだけ年上に囲まれると竦み上がって泣くだろうに。

 現にリンドウが囲まれている方では泣き声が聞こえる――リンドウに殴り飛ばされたしつこい勧誘マンの。

 八歳の乱暴な女子は年上の男子生徒を殴って泣かせた。恐らくこれが三人の中で普通に一番近い。

 七歳の殺し慣れした年に合わない落ち着きをもっている男子は見向きもされない劣等生。

 六歳のすべてを諦めたような静かな性格の青い髪の女子は追いかけれるほどの優等生。年に合わない知識がある。

 それでも第三世代ということが露見すれば少々不味いことになるだろう。いまの主流は第二世代、セカンドと呼ばれる電脳化世代。第三世代は実験的なものだ。幸いにしてクロードの脳内はセカンドチップとサードチップが入っている。携帯電話のSIMを切り替えるような感覚でセカンドになっておけば問題はない。

 ちなみに携帯電話をもっている者は少ない。トランシーバーなどの無線通信機は未だにあちこちで活躍しているが。


「に、兄さん助けてよ」

「恥ずかしいなら言わなければいいのに」


 立ち上がったクロードは、シルフィの手を取ってベンチの後ろの茂みに飛び込んで一気に走る。


「わぶっ、ちょっとなんでこんな」

「普通に逃げたらすぐに捕まる。こういう方向の方が逃げやすいんだ」


 短パンに黒のサイハイソックス。

 膝のあたりでサイハイソックスが短パンの中に隠れてしまうのでタイツのように見えなくもない。上は手首まで覆う制服。

 クロードも上は同じで下はスラックス。肌の露出が少なく、生地もどちらかと言えば制服より訓練服に近くそう簡単に傷がつかない。藪の中を走り抜けたところで顔以外を守る必要が無いのだ。

 思い切り走り抜けて反対側の道に出ると、足元が弾けた。


「銃撃か?」


 すぐにその方向に身を出してシルフィの盾になる。


「少年、その子を渡してもらおうか」


 囲まれた。

 しかも囲んでいる者たちの手には火の玉が揺らめいている。


「魔法士、か」


 恐らくシルフィエッタが狙われる理由はマスコットとしてだろう。単純に可愛いからその魅力をもってして勧誘の道具にでもしようかという魂胆だと思われる。


「やるか、少年。生徒同士の戦闘は少しならば許されている」

「兄さん……」


 心配そうな声をかけられるが、魔法使い相手の戦闘はフェンリルで習った。


「大丈夫だシルフィ、俺はこんな雑魚に負けない」


 魔法士、魔法の詠唱さえさせなければ単なる人間と変わりはない。もちろん中には無詠唱や、補助具に頼るものがいる。それでも補助具の場合は操作させなければいい、無詠唱は無意識に発動の前段階として体のどこかに動きが出る。戦いながら見極めてしまえばどうということはない。

 そしてなによりも、クロードには相手の動きが見える。

 ベクトル操作と振動増幅。

 一歩踏み出された上級生の足に掛けられた魔法はその二つ。自然な動きで気付かれないように平衡感覚を崩すつもりだろう。

 クロードにそれは分からない。分からなくてもその動きに妙な気配が重なっているのは見えていた。

 だから。


「ごっ!?」


 先に踏み込んで肘を打ち込み、すぐに引いて思い切り押しながら足を掛けて転ばせる。

 トドメはナイフを首元に。フェンリルのところで相手になった者たちは仕掛ければカウンター、仕掛けなければ一方的に。だがここにいる者は単なる雑魚。


「やるなら、殺す気で来ないと勝てないぞ」

「…………や、やるな」


 ナイフをしまって下がると、仕掛けてきた生徒が立ち上がって腹を押さえながら立ち去っていく。やられると思っていないから備えない、備えないから受けたときに身体の中まで響く。


「一年に負けてやーんの」

「だっせーなおい。ギアの調子が悪かったか」

「……悪い、ちょっと肩かしてくんね。少年、名前は」

「クロード、クロード・くらい……クラルティだ」

「クロード・クラルティ。強いな、どうだ? 魔導部に入らないか」

「残念ながらクラスが底辺なもんで。入ることはできない」

「そっか残念だなぁ。それだけ強いとうちの部費争いも……いやいや、今の聞かなかったことに。勉強で困ったら来いよ、教えてやるから。成績があがったら上のクラスに編入、んで入部! いいな!」

「拒否します」

「…………、」


 そこは受ける流れだろう。そう突っ込まれることもなく、


「シルフィ、行こう」

「う、うん。でも……」


 後ろから突き刺さる視線が痛い。

 今のでお姫様には立派なナイトが護衛としてついている。しかもそのナイトは魔法科の生徒をあっという間にひっくり返してしまうほどの戦闘技能がある。そういうことが知れ渡ってしまった。


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