総合学校の(運が悪くそうなってしまった)劣等生-1
「……納得できない」
「そう言うなクロード訓練生。入学できただけでもいいではないか」
総合学校の入校日。説明会まではまだ時間があるかなり早朝。
保護者としてついてきたクラルティは偽兄妹のクロードとシルフィ、そしてリンドウの肩を叩いてこの場を去っていった。
クロード・クラルティ。入学試験結果……最下位クラス。
リンドウ。入学試験結果……至って平凡。
シルフィエッタ・クラルティ。入学試験結果……最上位クラス。
筆記と実技の二つがあった。二人とも筆記(年に応じて試験内容は変わる)では過去最高の結果を出したが、クロードは昨日の激しい運動のせいで仮想筋肉痛。つまり実技試験(年に応じて内容は変わる)でまともに動くことができず、マイナス評価をくらったのだ。
ちなみにセントラでは貴族階級は確実にファミリーネームがあるが、それ以外はなくても不思議ではない。
「……っ」
成績順にクラス分けがおこなわれるが、下のクラスほどすべての質が低く、施設の使用にも多数の制限がかかる。一度落ちてしまえばもう上がることができないほどに劣悪な環境、とまではいかないが、割り当てられる教師や教材はどちらかと言えば悪いモノ。
成績が上がれば上に行ける、だがここではそのための基礎は無いに等しい。
しかし今までにフェンリルで学んだことが決して崩れない基礎になる。立場は最底辺でも、備えは十分だ。すぐに上のクラスに上がってやると思いながら、入学式が始まるまで時間をどうやって潰すか考える。
遅れてはいけないと早めに出た結果が二時間前に着くという状況を引き起こしている。遅れるよりはいいが、早すぎやしないだろうか。
クロードは初めて着た制服というやつに新鮮さを感じることもなく、年がばらばらの"同級生"とやらを眺めながら、どこか人気のない場所を探していた。
入学式が終わってからIDカードと各個人用のアクセス権限が配られるため、施設は使えないのだ。
「……ここでいいか」
制服の下に忍ばせておいたナイフを取り出すと、それを木の幹に突き立ててピッケル代わりに一気に登る。
疲れた、と。ちょうどいい木陰で人のうるさい気配も届かない。
脳内のチップにアラームをセットしてしばしの眠りに入った。
しばらくして、脳内にクリティカルアラートが鳴り響き、頭痛と共に目を覚ました。セットするアラームを間違えたが、今回はこれでよかった。
木の上から身を落とすと、一瞬遅れて拳大の石が当たる。
「リンドウ!」
「けっ、起こしにきてやっただけだよ」
だからと言って凶器になるほどの石はないだろう。
それにしてももうすぐ式が始まる。
リンドウが会場に向かい、クロードがその後ろをついて行く形になる。
「ついてくんじゃねえよ」
「向かう場所が同じだろうが」
「だったら別の方からまわれ」
「なんで俺がそんな無駄なことをしないといけない」
出会いから最悪なパターンだった為か、ここでは一触即発の喧嘩……ではなく殺し合いが始まりそうな雰囲気になる。時間が近いためにほかの生徒はいない。
始まれば大幅な時間のロス、それは二人とも承知している。
だから。
「後で決着をつけようか、リンドウ」
「あぁ、あたしもそれで構わない」
とりあえず事なきを得た。
二人はさっさと講堂に向かう。
中に入ればざわざわと騒がしい空気だった。
座席自体の細かい指定はないが、最前列から最後列に向かって成績順に勝手に座っているようだ。
誰に強制された訳でもなく、優等な者が光の当たる前に、残りは陰に。
クロードはなるべくリンドウから離れた席、一番後ろの席の端を選んだ。これならば隣に一人だけしか座れず、知らない人に挟まれることはない。
視界に表示される時間を見ればあと十三分。
中途半端な時間で何をしようか。講堂内は通信制限エリアなのか、仮想空間への意識のダイブはできず、NTPサーバーなどの一部にしかアクセスできない。
寝るか、と。腕を組んで目を閉じようとしたら横から手を掛けられた。
「どけ」
「あぁ?」
リンドウにも勝る悪い言葉づかい、そして日頃のクセかつい悪い返しかたをしてしまった。
見るからに年上、しかし総合学校は何歳からでも入学はできる。同級生に変わりはない。
「ガキが偉そうに座ってんじゃねえ。横並びで五つとれんのはここしかねえんだ、どけ」
横を見れば確かにこの列は空いている。
そしてそいつの後ろ見れば不良風味が四名。
本気でやり合わなくてもなんとかできてしまいそうだ。どうせ本当の殺し合いなんて知らない連中。
しかし初日から騒ぎを起こすつもりはない。
しぶしぶ席を譲るとほかに座れそうな場所を探し、ここから一番近いのは最前列の端。
「……目立つなぁ」
視界のポップアップ表示をオンに切り替えれば、周辺の生徒のパーソナルデータの一部が表示される。エンブレム、おおまかな成績の程度によって学内AIから割り当てられるそれがすべて豪華な……優等生ばかりだ。
行きたくないが遠い席まで歩きたくもない。それだけで座りに行った。隣にはなんの偶然か成績優秀な妹役。
「はぁ……」
空気読めよ劣等種、そんな視線の嵐を完全に無視してクロードは式の間耐え抜いた。