問題のありすぎる日々-6
入学試験前日の夜。
今とても後悔している。
仮想空間のシティエリアに散歩に出ただけなのに、治安の悪さワーストランキングに入る場所でテロに巻き込まれている。ああいや、テロというか先日の真っ白な四足歩行機と真っ黒な人型が交戦を始めてその余波で街が壊れている状況だ。
「……ついてない」
ジャマーが展開されて警察機関への連絡はできず、都市空間防衛隊(略称CDF)は余波で全滅。
降り注ぐ瓦礫と薬莢の雨をよけながら一番近い境界を目指す。
AI直轄のパブリックエリアならログアウトできるから、そこに辿り着きさえすれば大丈夫。
……だけどそこへつながる転送門が流れ弾で破壊されてしまっている。
「ほんとについてない!」
どうしようか。
破壊不能オブシェクトは仮想空間のロジック上、ごく一部にしか存在しないから隠れることは無意味だ。
かといってこのまま突っ立っていると流れ弾で吹き飛ばされるか、チャフやフレアで逸れたミサイルが飛んでくるだろうなぁ。
……訓練機しかないけど、このままの電子体よりは生存率が上が……いや、下がるな。狙われて一撃でやられるのが落ちだ。
はぁ、なんでこんなことになる。いくら治安が悪いからってこれはない。街中で犯罪組織の銃撃戦に巻き込まれることはあっても、シェルを使った戦闘に遭遇する可能性は極めて低い。
「…………、」
一つ思うのはこれが安物のジャミングかどうかということ。
もしかしたら……。
『中佐、聞こえていたら返事を下さい』
コールしてみる。
するとすぐに。
『どうした、クロード訓練生』
『これを』
視覚共有で状況をそのまま見せる。
『ログアウトできません』
『そうか』
その一言。
そして三秒数えたちょうど。
カッ!! と二機が戦っていた場所に光が落ちた。
激しい熱風が吹き抜ける。
『中佐!?』
『ハハハッ! ようし、さっさとログアウトしろ』
『何したんですか!?』
『対地射撃衛星ハルベルト。うちの部隊も仮想衛星兵器くらいは所有している』
うわーお……。
民間人まきこんでるんじゃ……。いや、ものは考えようだ。ここは治安の悪い街で民間人ではなく犯罪者のたまり場だ。民間人なんて誰もいない。よし、誰もいないなら大丈夫だ。
ジャミングも解けたことだし、ログアウトしよう。
俺は巨大で真っ赤なクレーターを一目見て、基地の構造体に飛んだ。
だけど問題はこれだけで終わらなかった。
基地に戻るなりすぐに、構造体の壁をぶち壊して黒い機体が乗り込んできたのだ。
「貴様らか、邪魔をしてくれたことへの礼はしっかりとさせてもらうぞ」
中佐たちがダイブしてくるまでの数十秒。
俺一人で相手をした。
そして初めて知った、人って本当に死にかけるとものすごい力を発揮するのだと……。