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裏切りのフェイス-8

『……ろ』


 声が聞こえる。


『起きろ!』


 頭の中にガンガンに響く声で、目が覚めた。


『ここは……』

『寝ぼけてんのかガキ! 死にたくなけりゃさっさとリミッター圏内まで走れ!』

『……スコールは』

『アイゼンヴォルフ、お前ら少し黙ってろ。こっちはヴェセルだから機体を壊されたところでそのまま死ぬことなんかない』


 ありえない。

 ヴェセルなら生身で機体に乗り込んでいるのだから、あんな爆散するような状態なら死んでるはずだ。


『とりあえず予定変更だ。目標、敵勢力の殲滅。及び狼谷少佐の拿捕!』

『少佐しかいねえよなぁ、あっち側に情報を漏らすのはよ』

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……なんで一応は味方同士で殺し合いをせにゃならんのだ。……クロード、ジャミングがくるまえに走り抜けろよ』


 通信を一方的に切られ、視界の隅にステータスバーが表示される。

 味方機の戦闘効率や状態、名前や所属がずらりと並ぶ。


「……ん、地図は?」


 当たり前だけど、ここは仮想世界の通常エリア……まあ絶賛戦闘中で通常とはいいがたい部分もあるけど。

 VR、ヴァーチャルリアリティーのゲームサーバー内と違ってマップデータは自分で用意しておく必要がある。

 そういうわけでダウンロードしたいのだけど、こうも戦闘が激しいと莫大なトラフィックと処理でこういう”普通の接続”が圧迫されてダウンロードできないという……。


「マップなしでここを歩くのか……」


 嫌だなぁ。

 怖いとか、恐怖で身体が竦んだりっていうのがない自分はおかしいのだろうか。

 いや、間違いなくおかしいだろう。

 子供のくせして精神的にはかなり相応しくないって言われたし。

 ……どうでもいいや。

 父親には物として……じゃなかった、実験動物みたいに扱われたし、あの野郎にみんな殺されたし。

 そうだよ、あのクズ野郎を殺すまではこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。

 いつも忘れないあのクズ野郎を殺したい思い。

 意識して思い出せば、すぐに殺意が湧き上がってくる。

 この思いがある限り、なんだってやれる、やってやるんだ。


 背中のブースターを意識して、一気に加速する。

 慎重に進むよりも、照準しにくいほどの高速で走り抜けたほうがいい。

 そんなことを思って角を曲がった矢先、全高一メートルほどの小さな機体を轢いて、バランスを崩して前に投げ出された。

 硬いコンクリートの壁面にぶつかり、大きなヒビを入れた。


「……っぅ」


 ナーブフィードバック。

 講義の中でも聞いたな。

 この機体は、身体は単なる鉄の塊じゃないのは当たり前。

 自分の身体を変換し、わが身のように動かすために神経系が全体にはしっている。

 今の衝撃でも、鋼鉄のボディと装甲のおかげで痛いで済んでいたが、これが生身だと……車に轢かれるより……。

 とりあえず頑丈なのは確かだ、この身体シェル


『よぉし、少しくらいは自分で戦えよ』

『……?』

『敵増援接近、種別小型無人機、機種名は……ねえな、どっかのプログラマが遊び半分にでも作ったみたいなもんだ。轢き潰せ!』

『……』

『走れよランナー。構造体ストラクチャの外縁部をぶっ壊すぞ』


 送られてきた情報がポップアップ表示される。


 爆破まで十分と三十秒

 展開中の敵機、小型機百二十機、中型機二機、飛行大型機一機


 冗談じゃない。

 しかも走っていくべき方向にこれだけ、後ろには爆弾。


「……死ねってのか」


 嫌だね、そんなの。

 ブースターの出力を真下に噴出して、飛び上って壁に足をつけるとそのまま駆動輪も全力で回して一気に廃ビルの屋上まで登る。

 そこから見えた戦場は酷いものだった。

 たったの二十数機の魔狼に向かって、あたり一面を埋め尽くす敵機。

 仮想の空を見上げれば……重攻撃機型、というやつだったかな?

 飛行型の……恐らくシェルが地上に向かって容赦のない砲弾の雨を降らせている。


『どこまでいけばいい』


 回線越しに呼びかけても返事はない。

 それほど切羽詰まってるのか。

 もしかしたらオープンチャンネルで何か放送されてないか?

 と、思って通信チャンネルを切り替えてみると、


『おいこらクラルティ中佐! 魔狼の演習に首つっこんでくるとはいい度胸だな、あぁ!』

『そう怒鳴らんでもいいだろう。貴様とてキャンサーの所属なら突発的な合同演習くらいしようと思わんのか』

『思わないな。そもそも演習のこと漏らしたのどうせ狼谷少佐だろ、いますぐに居場所を送ってくれたらあんたらの基地の構造体を半壊させるだけで済ませてやる』

『ああ、セイジならここにいるぞ』

『どうもー。狼谷少佐でーす』

『いい年こいたおっさんが何やってんだ! ああくそっ、イチゴの言いたいことも良くわかる』

『イチゴ……ああ、あの上等兵か。若いくせして真面目すぎるのが』

『あれが普通だ! むしろ少佐のくせして前線に出張ったり敵に情報ながすあんたが不真面目すぎるんだよ』


 なんかすごい口喧嘩が始まりそう……というか始まっていたのでチャンネルを閉じた。


「…………」


 とりあえず……………………どうやって降りよ……。

 周りの状況が知りたくて登ったけど、降りる方法を考えてなかった。

 さすがに汎用機だけあって、腕パーツに内蔵型のワイヤーとかついてないし、武装リストにはそういうサポート系にアクセスできないし。


『スコール』


 コールしてみると、数秒置いてつながった。


『悪い、いまちょっと大型機に爆弾しかけながら苦情入れてて忙しいから後にしてくれ』

『…………』


 言ってることが現実的じゃない。

 仮想空間はあくまでもう一つの現実のようなもの。

 大型機の装甲に張り付いたなら風圧でそのまま落とされると思うのだけど……。


『ああそうそう、その辺の無人機ざこはほっておいて、紛れ込んだアンノウンを撃退しておいてくれ。武装は衛星兵器とかその辺も使っていいから』

『使用料金は』


 AIの余剰処理でこの身体も再現されている以上、戦闘行為とかの激しい処理は相当額の料金を取られる。


『一発撃てばそれなりにいいパソコンが二台買えるくらいか。まあ気にするな、全部相手方に押し付けるから、むしろ思い切り使っていいぞ、いや、使え』


 命令がでたよ……。

 普通なら赤字になるから使うなっていうのところを使えと。

 武装リストにアクセスして検索掛けてみれば、すぐにサテライトレーザーの照準システムがヒットする。

 一応ロードしておこう。

 この仮想の空の遥か上空に浮かんでいる衛星群。

 そこから撃ち出されるレーザー……さすがにこれは構造体を貫通するんじゃ……。

 そんなことを思っていると、突然視界にアラートが表示され、意識を向けようとしたときには撃たれていた。

 酷く命中率が悪い、それでいてストップパワーの強い弾丸に撃たれて体勢を崩して、ビルから転落する。

 すぐにブースターを吹かしながら索敵ツールを展開すると、電磁迷彩ヒドゥンモードの有人小型機が下の方に一機。


「ふきとべフェンリルッ!!」


 拡声器越しに響いた声は女の子のものだった。

 ブースターでようやく安全に着地できる速度になったかと思えば、高性能ライフル――弾丸が途中で方向転換するようなものの連射を浴びて、装甲が削られる。

 サーチすれば周囲の建物の影にもID不明機がたくさん。

 皮膚を削り取られるのと同じ痛みを感じながら、地面に落ちた時には体を覆う装甲板ひふがぼろぼろになって、生温かい液体が漏れ出していた。


「くっ……ぁ」


 霞む視界に武装をポップアップ表示させ、片手で扱えそうな武器、ハンドガンに意識を向け、手の中に顕現させて撃った。

 痛い、痛いけどやらないと殺られる。

 この数相手じゃ勝てない、殺される、そんなのは嫌だ。

 そう思うと、この電子体つくりものの奥底で、熱い何かがドクンと鼓動した。

 急に意識が、怖いほどにクリアになっていく。


「く、くくくっ、ははは、ぁはははは!」

『おいスコール! お前んとこのガキ、バイタル異常値いってるぞ!』

『不味い不味い不味い! フラットラインどころじゃねえぞ、脳波パターンがおかしい! これAIと融合しかけてんじゃねえのか』

『融合つうよりか、これは』

『AIの心にハッキングかけて処理を強奪してる……?』

『処理を逆手に取ったか。あいつら全にして個、複数のクラスターで構成された一個体だから意識の部分浸食には弱いぞ』

『まあ、暴走状態でどこまでスペックだせるか。ぎりぎりまで見るとしようか』


 それから後のことは、よく覚えていない。

 気付けば強制除装されて、知らない黒髪の女の子と一緒に仮想のフェンリルベースの営倉で縛られていた。



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