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裏切りのフェイス-7

 実践演習の日が来た。

 ベッドルームやダイブルームと呼ばれる仮想空間に入り込む際に使用する部屋にはいかず、なぜかスコールに連れられてCICに来た。


「あーっと……あそこのコンソールからワイヤードでログインしろ」


 コンソール経由、これをするのは第一世代というのが一般的な話らしいけど、危険なことに身を投じるならオペレータの監視と支援を得られるコンソール経由の方が安全だ。

 仮想に入っている間、体は眠っている時と同じように力が抜けている。だからなるべく快適な状態でないと、ログアウトした後が酷い。ダイブルームの方にはアイソレーションタンクとか棺桶のようなものがあったけど……。

 とりあえず座って、プラグを引っ張り出してジャックイン。大抵は首裏とか神経が多く通る場所に入れる。


「アサルトプランナー、コンバットプランナー」

「用意はできています。IDはどうします?」


 スコールが後ろで話をしている間、CICの各所に取り付けられたディスプレイを眺めていく。

 現在の接続ネットワーク/桜都国・ヴァルゴ/セントラ国・キャンサー、リークマン……/ラバナディア・UNKNOWN。

 実践は実践でも実戦か……。

 ……いいのだろうか、これでもフェンリルって一応傭兵だろう?

 そんなことを考えていると、頭の中のチップに情報が流れ込んでくる。


『新規ID発行/所属・フェンリル第二機動分隊遊撃兵/アクセス権限・レベル1/武器使用権限・フリー/機体使用権限・フリー/ポジション・アタッカー……』

「いちいち見る必要もない。この中から好きな機体を選んでおけ、いままでの訓練用機とは違うからな」


 となりを見るとスコールがチョーカー型のデバイスをつけて目を閉じていた。

 一度だけサージから守るサージキラーのように、一度だけ再現された”死”の信号を肩代わりしてくれる。コンソール経由だから第一世代でもなんとか戦えるのか?

 目を閉じるとダイブプロセスが起動して勝手に処理を進めていかれる。コンソール経由の場合はオペレーターのコマンドに逆らいにくい。


『アクセスポイント強制変更、アクセスプロトコル強制変更、AIネットワークID強制変更、……………………ログイン』


 いくつもの第三世代の致命的な弱点を書き換えられて、意識を電脳の世界、仮想空間へと引きずり落とされた。これで常にネットと繋がっていることによる、脳の直接破壊をされるということはなくなったはず。


「ここは……」


 上を見上げれば果てしない青空が広がっているが、よく見れば薄くグリッドが見える。

 仮想空間でのフェンリルベース、のはしっこ。見下ろせばすぐに果てしない奈落への……。


「落ちたら……まあ、構造体に引っ掛からなかったとしてAIが深度設定をしていなかったら永遠に落ち続けるからな」


 さらりと恐ろしいことを言ってくれる。

 まあ、通常領域内でログアウト処理をすれば……大丈夫だと思いたい。

 深部領域まで落ちたら、冗談抜きに数キロをよじ登らないといけなくなるから。


「…………」

「気にするな、好かれている証拠だ」


 あちこちから見られているような、ストレスを感じるほどの強い視線を感じる。


「なにに?」

「魔狼所有のクオリア持ちのAIとヴァルゴだな。お前らほどほどにな、視線恐怖症とかシャレにならん目に合わせるなよ」


 スコールが言うと、途端に視線が弱まった。

 それでもまだ見られているという感じはするが。


「機体、どれにした」

「これ」


 フェンリルで採用されているRCシリーズ。

 RCってなんの略だろうか。

 とりあえず、塗装のされていない金属面むき出しの鈍色で、腕とか脚に余計なオプションの付けられていない人型のものを選んだ。

 以前、多脚型なども練習で扱ったが、あれはどうやってイメージすればいいのか分からずやめた。


「汎用機か、いい選択だ。そいつは基本的な性能で平均値を上回るように設計されているからな」

「スコールは?」

「こいつを使う」


 バッと腕を横に振ると、それがショートカット操作の登録だったらしくプロセスが起動する。

 一辺五メートルのグリッドで、正方形が広がり、青い欠片がどこからともなく集まって機体を形作ってゆく。


「ヴェセル?」


 仮想世界限定の巨大兵器。これは乗り込んで操縦するタイプだ。

 まあ、最近どこかのバカな開発主任が趣味全開でごり押ししたとかで、配備されているところもなくはない……らしい。


「電脳化処置も強化処置もしてないし、ナノマシンを打ち込んでもないからな。遺伝子操作もしてないし、完全なナチュラル。だから神経接続で身体を組み替えて使うシェルとかは使えない」

「……それで戦えるのか?」

「ま、第三世代の操る最新機相手にするのは無理があるが、初期の第三世代機ならやりあえる」

『シフトプロセス・ラン』


 いきなり意識に直接語りかける声が響いた。


「さあ、始めようか。体がシフトしたらスタンダードセットを読み込め。ウィングを展開して飛ぶぞ」


 スコールが機体に手をかけ、軽々と登って背面からコックピットに滑り込む。

 そっちを見ている間にも、身体が薄くなって拡散していく。

 グリッドに包まれ、意識が拡散して、感覚が薄く広く散らばって。

 自分というものを構成する情報(0と1)が変質していく。

 変化はほんの一瞬。

 一秒あるかないかほどの一瞬で、引き伸ばされた長い処理を感じて、気付けばいつも見上げていたスコール(が乗っている機体)とほとんど同じ目線だった。


「…………ぁ」

「いままでの練習機とは違ってアシストは何もない。機体自体が自分の身体であり、傷をつけられたらそれがそのまま実体へのフィードバックとなってダメージを被る。仮想で腕を落とされれば現実で腕は動かなくなる、死ねばそのまま脳波は真っ平ら(フラットライン)に」


 仮想はもう一つの現実。


「行くぞ、ゲームサーバーと違って親切なガイドマーカーもリスポーンもないからな」


 スコールの機体がブースターを吹かし、脚に取り付けられた駆動輪から火花を散らしてフェンリルベースから飛び降りていった。

 ウィングユニットなし。

 ブースターとスラスターだけで飛ぶのは、急な戦闘に対応できないんだけど……。


『さっさと来い、降下しながら目標を説明する』

『了解』


 通信用のツール。

 離れていても相手のアドレスが分かれば通話できる便利なものだ。

 意識を戻せば視界には通常時には表示されない追加情報がポップアップされていた。

 言われた通り、武装セットからウィングを選んで装備する。

 視界の隅にグリッドが見えたかと思えば、瞬間的に使い捨てのウィングユニットが装着されている。


「…………ふぅ」


 駆動輪を動かして一気に加速して、ベースの端から飛び降りる。

 第三世代機ならわざわざ脚を動かして走るなんてことはしなくてもいい。

 飛び降りるとすぐしたで、器用に浮遊しているスコール機が先に降下していく味方機を眺めていた。


『少し速度が出たらウィングを展開、着地五十メートル前でパージ』

『…………』

『不安か』

『シミュレーターでもあまり成功してないから』

『そうか。まあ失敗しても、その機体は装甲が丈夫だから死にはしない』


 そういう問題か……?

 仮想で大ダメージを受ければ、ログアウトした後も現実でしばらくの間は体が幻痛を受けるはずだが。

 それでもスコール機が降りていったので、ついて行った。

 ウィングの展開は問題なく終わり、仮想の風に乗って滑空を始める。


『簡単に説明をする。アグレッサー部隊……今回の敵役は先に降りていったアイゼンヴォルフ隊だ。数は二十機、使用機体はRC-fenrirで模擬弾を容赦なく撃ってくるからこちらも撃て。AI側で通常弾だったらどれほどで戦闘不能になるかっていうのは処理してくれるから、判定が下ったらすぐに強制ムーブでベースに戻される。くれぐれもリミッター範囲外にでるようなことはしないように。以上』


 視界いっぱいに”戦域”のマップが表示された。

 廃棄予定の旧バージョンの構造体。

 その表面の一部、シティエリアということだから市街戦になるわけだ。

 シティエリアの管理権限は……恐らく強奪したんだろう。

 いくら廃棄予定でも管理者が許可する訳ない。

 そしてエリア外はリミッターのかかっていない範囲。

 リミッター外なら感覚をそのまま感じられる代わりに、ダメージも百パーセントフィードバックされる。

 一番危険な場所だ。


『質問は』

『模擬戦用の武装リストにアクセスできない』

『お前は素人、あちらはプロだ。通常戦用の装備で構わない』

『えぇ……』

『いい声だ。じゃあ始めよう、すでにこちらの射程範囲に――』


 その瞬間に、まだリミッター範囲内に進入できていない場所で砲撃を受けた。

 スコール機が壁のように前に出て、一撃で粉々になって、眩い閃光にセンサーを焼かれた。



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