裏切りのフェイス-4
またある日、今日も今日とて妙な講義だ。
受けているのは……女が五人ほど。
「親友や家族、そう呼べるほどに近い距離、親しく接する一方で暴力的に威圧的に、相手を押さえつけるようにして対象の意識、自我を破壊するのも一つの手だ」
このところ思うのは、スコールは戦い方というよりも追いつめ方、捕まえた後の処理、もし捕まった時のことなどが多いような気がする。
もちろんその処理はどう考えてもいけないものだけど。
「例えば犬を手懐けるとして餌を与え優しく接する者と暴力を与える者がいるとして……この話は知ってるな?」
前の席のほうで頷く五人。
スコールはそこを飛ばした。
「最終的には暴力を与える側に甘え、餌を与える側を怖がるなんてことがある。人で言うならばストックホルム症候群だろう。極限状態とまではいかないが、非日常的な状況で長時間すごせば、敵に囲まれた状況で生き残るために人は適応していく。それがその敵に自分を合わせるような形でもな」
講義室……というかブリーフィングルームのディスプレイに過去の資料がずらりと並べられていく。
最近は講義を聞くよりも、その資料をダウンロードして分からないところは検索しながら読んでいくようになっている。
決してわかりやすく纏められているわけではないが、一緒にセットになっている動画を見ればすぐに分かる。
何通りかの基礎と、応用例をスコール自らが……どうも捕えてきたらしい捕虜を使って実演している。
男女や年齢で手加減なんてしていない。
女であろうが男であろうが容赦なくやっている。
「ねースコールの教育方針ってどんなの?」
「ナギサ、お前そもそもなんでここにいる?」
「別にいーじゃん? 暇な訳だし。それで方針は」
「人手不足だから本隊にいるだけで別にそういうのはねえよ」
「本心言おっかぁ。じゃないとユキちゃんに媚薬飲ませて一緒の部屋に投げ込んじゃうぞ☆」
「本当にやったら機関室に放り込んで最大火力で焼却するから覚えておくように」
さらっというが、以前同じようなことをされたときに窓から投げ落としているからやりそうだ。
あの時は確かにしゅらばだったと言える。
乱れに乱れた女がスコールにしなだれかかって……すぐに毛布でぐるぐる巻きにして犯人の女を捕まえて投げ落として……。
「ああそれと、大多数が脱落しても残りが強くなればいい。そう思っているが、敵対しない限りは見捨てる気もない」
「敵対しない限り、ね」
「ちなみにお前は今までの積み重ねがあるから、何かあったら迷いなく見捨てる」
「なにそれひどいっ」
「じごーじとくー」
「確かにね」
「ナギサさんお風呂のときに触ってきますし……」
「てか私らってナギサに胸もさわられたしアソコもさわられたし……」
次々と非難の視線が一直線に突き刺さっていく。
すると当然助けを求めたくなるのが人間。
「ねえ君」
と、座ったままで上半身を捻ってこちらに向いてくるが、
「ナギサ」
スコールが髪を鷲掴みにする。
「…………わ、分かったから離そ? 痛いよ?」
この後、本当にスコールは容赦がなかったとだけ言っておこう。
怖かったので見ていないことにする。