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裏切りのフェイス-3

 最近いつもスコールについて行って、一緒に行動しているのだが周囲の大人たちの視線が痛い。


「なあスコール、お前あのガキどうやって真面目に授業受けさせてんだよ。うちらの方なんか途中で寝るやつとかついてこられないやつとか続出なんだぞ」

「さあ? やる気の問題だろ」

「じゃあどうやってそのやる気を出させてんのか聞かせろ。しかもエレメンタリーの低学年だろあのガキ、どうやってあんな難しいこと教えてんだ」

「教えるも何も単なる講義だ。受ける側が必要なところだけ受け取ってくれたらそれでいい」

「……やりっぱなしか」


 スコールに話しかけていた大人の一人が話しかけてくる。


「おめぇこいつの難しい話が分かってんのか?」

「…………、」


 無視でいこう。

 話したくない。

 すると、


「おいガキ」


 視界に重なって別の動きが見えた。立っている男と掴みかかってくる男の動き。

 なんとなく避けなければ、そんな感じがしてどう動けば簡単に避けられるかなんて分からなかったから、とりあえず手が届かない場所まで身を引いた。


「ぬっ?」

「やめておけ」


 からぶった男をスコールが押し戻す。


「ウィリスと同じ継承者だ。攻撃する意思を持ったら動きを読まれる」

「あぁ? まさかお前と同じで外見以上の年いってんのか」

「不老化の魔法をかけてないから見た目通りだ」


 継承者? なんのことだろうか。

 何を受け継いだというのだろう。

 兄さんから色々とチップにインストールされたが、あれは普通……の戦闘用プログラムのセットだったはず。


「とりあえず言っておく、見てないところで手を出してテメェが大怪我しても知らんからな」

「お、おう……」


 見た感じでは一番若いスコールだが、それに従う老兵もいるほどに強い。

 だからだろう。

 周りの大人たちもすぐに道を開けた。


「行くぞクロード」

「……、」


 そのままついて行く。

 広いフェンリルベースを歩いていると、スコールはいろんな人に声をかけられていた。

 いつも無表情、思考は危険なことがほとんど、戦闘時になると恐ろしい笑みが浮かぶどうみても危ない人。

 だというのに人が寄ってきている。

 それだけ必要とされているということだろう。


「ふむ……」


 傍らに仮想ディスプレイをいくつも浮かべながらスコールが声を漏らした。


「今日から四日の間完全に暇になった。何かしたいことはあるか?」

「……えてくれ」

「?」

「人の殺し方を教えてくれ」


 思えば、遊びに行きたいとか何かが欲しいとかより、なんでそんな言葉がさらっと出たのか不思議だった。

 そして怖くもあった。


「……いいだろう」


 そしてなんでこの人もこの人でさらっと許可を出すのか。

 スコールが歩き始め、黙ってそれについて行った。

 二十分ほどで広い運動場についた。

 これが室内であるとは思えないほどだ。各種の道具やバスケットのゴール、サッカーのゴールなどといったものから、クッション材の敷き詰められた場所、対魔法障壁の設置された場所、様々。

 見れば若い方で十六、七程度、上は四十後半くらいの男女がスポーツなり模擬戦なりしている。


「ゼファー! ちょっとこっち来い」


 スコールが呼ぶとすぐに一人の男が走ってくる。スコールより少し若い。


「なに? 僕いま忙しいんだけど」

「どうせホノカたちになんかやられてんだろ? ほっといて訓練に付き合え」


 ぐいぐいとスコールが襟を引っ張ってクッション材のある場所へと連れていく。


「ゼファー、こいつの相手をしろ。手加減は要らない」

「おい……誰の子供だ?」

「クライス家のお坊ちゃまだ。こないだの襲撃事件で生き残ってたから連れてきた」

「……僕が手加減抜きでやったらこの子死ぬよ?」

「大丈夫だ。クロード、容赦なく殺す気で攻撃しろよ」


 そう言って黒いゴム製のナイフを手渡された。

 以前、スコールと同じ戦い方をしたいと言ったからだろう。


「始め」


 スコールの声が聞こえた時には体が横に飛んでいた。

 自分で横に飛んだのは確かだけど、飛ぼうと意識なんてしてない。

 視界に映る男が何重にもブレて、その動きからつながる攻撃が当たるであろう場所がちくりと痛んだ。

 だから、いろんな方向から攻撃を仕掛けてきたから、一番痛くなさそうな動きに飛び込んだだけだ。

 そのまま転がると振り下ろされた踵がクッション材をへこませる。

 起き上がったらまた、視界に映る男が何重にもブレていた。


「へぇ、見た目としちゃまだまだ。若すぎるくらいなのに相当な処理能力があるみたいだね」

「…………、」


 構えた。

 ただナイフの先を相手に向けただけだ。

 踏み込んだ。

 ナイフを突き出した。

 そして、投げられて叩きつけられた。


「もう一度。クロード、自分から仕掛けるな。流れに任せて乗ってきたらミスを誘え、カウンターを何度も決めていけばいい」

「ちょいちょい、なんでアドバイスすんだよ」

「経験の差から言うと段位所有者にド素人が素手で挑むようなかんじだろ。少しくらいは目を瞑れ」


 起き上がるとすぐに次が始まった。

 アドバイスなんかされたけど、どう動けばいいのか分からない。

 だから、唯一ブレていない真正面。

 男の腹に向かって踏み込んで、ナイフを持った右手を少し上に突き立てた。

 殺す気でやっていいと言われたから。


「がぶっ!?」


 男はその場に崩れ落ち、膝をつくと横に倒れた。

 身体を抱くようにして震え、脂汗が浮かぶ。

 いつの間にか見物していた大人たちが男に駆け寄って運んでいく。


「鳩尾か……ありゃしばらく医務室で寝込むな……」


 あっという間に手際良い動きで運動場の端まで連れていかれた男は応急処置を受けていた。

 それをみて二人の女が笑っている。


「さて次は……狼谷少佐!」

「おうっ!」


 威勢よく出てきたのは親の世代と同じくらいの年……だろうと思うおじさん。

 着ているのは作業着で、どうみても清掃作業員とか配達人というのが似合う。


「うちの坊主と同じくれぇだな」

「カゲアキだったか? ま、やりにくいならやらんでいいが」

「なぁに仕事で世話ぁなってんだ。坊主の遊び相手くらいしてやらあ」


 そして戦ったのだが。

 はっきり言ってこれは負けた。

 わざと倒れて殴ってきたところを避けて蹴りを入れたら、そのまま持ち上げられた。

 大振りの一撃を避けて脇に入り、脇腹に肘を打ち込もうとしたら袖の中に隠されていた刃物を首に当てられた。

 他にもいろいろして負けた。

 本当に遊ばれていた。


「相手が暗器……武器を隠し持っていることも考えて動け。ギリギリで避けるんじゃなくて、こちらの攻撃が当たらなくてもいいから余裕をもって回避行動を取れ」


 次に相手として前にたったのはやけに派手な男だった。


「……お前なにした?」

「塗装作業中に塗料の缶をちょっと」

「後でシンナーでも浴びてこい」

「臭いし体に悪いわ!」


 この人もなんだか、部屋にこもってプラモに夢中なオタク風味にしか見えない。

 でもさっきはそう思っていたら負けた。


「クロード、ちょっとこい」


 渡されたのは黒く艶消しされたナイフ。

 ゴム製じゃない本物。


「最近調子にのってるから圧し折るにはちょうどいい」


 スコールは札のようなものを左に持って、行けと言った。

 なんで札なんか持っているのだろう。


「さあ来い。子供だからって手加減はしねえが、ちょいと可哀想だ。最初の一発だけは受けてやるよ」


 調子に乗っている。

 確かにそうだろう。

 それに、最初の一発は受けてやると言われた。手に持っているのは殺せるナイフ。

 気付いていないんだろう。ゴム製のナイフは黒い。このナイフも黒い。

 だから、悟られないように、いつも廊下を歩くように普通に近づいた。

 受けると言ったからに攻撃しよう。

 そのために近づかなくちゃならない。

 だから、普通に歩いて近づいた。


「……?」


 ボクシングのような構え。

 その左腕の内側を通して、円を描くようにナイフを首に。


「……いぃっ!」


 寸前で気づいたらしく、驚いて後ろに体を反らした。

 誰だって死にそうになったらギョッとするだろう。

 そのまま、重心が後ろに向いていたから踵に足を添わせて服を引いたら転んだ。

 防がれれる前に確実に。

 視界に映るものはブレていない。

 このまま突き立てようか。

 最初の一発は受けてやるって言ったし、スコールは殺す気でいけと最初に言ったし。



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