リカ、お返事は…?(激しく“ノーッ”!!)だが断られる。
「いくら欲しい」
情緒もヘッタクレもない。
そう言ってテーブルの上に、眩い光を放つ黄金色の金貨を
山のようにジャンジャカ積み上げる、せっかちな男。
こういうヤツ、嫌われるよね。
このガッツキ具合から判断すると、
服を脱ぐ時間も惜しいとか言い出しそうだ。
さすが商売人の〈ヤクザ〉。タイム・イズ・カネ。
「やってもらいたいことを先に聞かせてくれないか? 【暗黒街】絡みの仕事は、報酬より内容重視にしてる。間違えると命がヤバイ」
「慎重だな。伝説の野生のオオカミの名が泣くぞ。受けろよ、報酬は弾む」
フッ。
どうやら最近じゃ、
ドイツもコイツも腐るほど“愛”を持ってるらしいな。
セレブになった快感と優越感ってモンを、
ようやく実感し始めた小市民の俺は、それを聞いてバカらしくなった。
やっぱり貧乏人には、いきなり大金を持たせちゃいけない。
「この件はお前にしか頼めない、とびきりデカイ仕事だ」
サングラスの下からでも容易に分かる、ビリビリと刺すような鋭い視線を
黒服の稼ぎ頭――ビーデ=ロイヤーは俺に向ける。
照明の光を受けてオールバックに決めたヤツの金髪が目に眩しい。
これが大幹部の威光。
「商売大繁盛で安心した。さっきから、お前の貫録がハンパない」
「じゃあ受けてくれるな? もしもノーなら、ずっとココで俺とデート」
「なんて楽しいジョーク。笑い過ぎて泣けてくる」
「そう聞こえるか? 俺はジョークを言わない」
賛成。
断言するが、ヤツにユーモアのセンスはない。皆無だ。
「……それより、このド派手なお祭り騒ぎはなんだ? 急に景気が良くなって、戦争でも始めるつもりか」
「親父が怒ってる。今回は、マジってことだ」
風前の灯火だった黒服どもは、
今や“赤マル急上昇中”の大勢力となっている。
ほんの少し前まで、街頭で細々と製造禁止品の
〈タバコ〉を密売していたとは思えない、突然の成金ぶりだ。
ヤツらは新しく手に入れた“コネクション”を最大限に使い!
――広げ!
――そしてボロボロに擦りきれるまで酷使してッ!
〈地底〉の土地ビジネスを本格的に始めた。
ビーデ=ロイヤーは類稀なるその才能を如何なく発揮し、
莫大な利潤を組に落とし、
まるで天に昇るリュウのように一気に勢力を拡大させた。
その結果として組の構成員もケタ違いに膨れ上がり、
また厄介事も倍増して……と、いつもの余計なタダのオマケ、終わり。
新進気鋭の地上げ屋は、俺をジッと見つめている。
「依頼の内容を聞かせてもいいが――」
そこで聡明な俺は、すぐにピキーンと来たね。
「絶対にイエスと言え」
「返事は必ずイエスだ」
だろうね。ピンポン。言うと思った。
心と心が通じ合った瞬間、
得も言われぬ爽快感がむさ苦しい男二人に舞い降りる。
「……帰ってイイか?」
「ノーって言ったら俺とデート」
「どっちにしたって出れねーんかい!」
「そうなる。――血の気の多い若いヤツを外に待機させてるから、バカなマネはするなリカオン」
おっと。
クリスタル製の高級灰皿を掴みかけた俺に、
見透かしたようにビーデ=ロイヤーが鋭く牽制球。
だがしかし、俺の前に鎮座するのはオーラ・ビンビンの大幹部。
今、黒服の最重要人物のヤツはひとり。
キュウ!とココでシメて――
「俺を人質に取ってもムダだ。交渉中にお前が部屋を出たら、即座に×××しろと命じてある」
「オイッ、サラッと言うんじゃねえ、急にビックリするだろ! アブネーよ!」
「さて、そろそろ“時間”だ。良い子はサッサと家に帰んな。――ココからは残酷描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください――だ」






