リカ、“はーどぼいるど”になる???
“獣”は静かに時を待つ
濁水を含み 腐肉を齧りながら
誰が“獣”を止められる?
瞳に映るすべては夢中にさせるお前のこと――
マロルソン著 『獣人』 より抜粋
どうも最近の俺は、恐くてしょうがない。
ダメな時は、なにをやってもダメなのに、
うまいこと歯車がひとつ噛み合えば
次から次へと必要以上に求められる。嬉しいキモチの反面、
それはすごく恐い。
ハッキリ言って迷惑だ。
ほどほどに幸せ、って言えるヤツは
正真正銘の勝利者だと最近になって思うね。
不相応に勝利を得てしまった者は、その勝利に見合うまで、
どこまでも走り続けないといけないんだろう。
クーリングオフは不可なのだ。
だからまだまだ俺は、立ち止まることを許されない。
:予定は空いてるか?
会って話がしたい。重要な話だ。
短い文面から“愛”が溢れてくる。
このメールをくれた相手は俺を一途に想ってる。それは間違いない。
まったく飾らない、面白味のない言葉は感動的でさえあるね。
とても事務的で心に突き刺さる。
メール画面を閉じ、淡い光に照らされる彼女の、
女神のように安らかな寝顔を見届けると
コートを羽織って静かに俺は部屋を出た。
わざわざ〈携帯端末〉で時刻表を確認する必要はない。
密会の場所は、だって近所だから。
しかし、なんて背徳的な行為……。もう用済みだと言わんばかりに、
疲れ切って眠る彼女を置いて、サッサと退場する俺。
かなりハードボイルドな展開だが、ファンが減りそうで気が気じゃない。
善良な俺のハートは破裂寸前。
やはりスケジュール帳はビッチビチ。
すぐに別の相手が俺の到着を待っている。それに“そッち”は
筋金入りのヤキモチ焼きだ。
指定の時間に遅れようものなら、
屈強な兵隊がゾロゾロ俺を迎えに来るから始末が悪い。
奥手の俺はアパートを出て、イヤイヤ路面電車に飛び乗ると
“あの場所”へ足を運んだ。