リカ、ふわっふわっ!!!!
〈タイヨウ〉の下で生きることを放棄した人類は、
地面に穴を掘って暮らし始めた。
俺たちが暮らす〈地底〉は、
人類が“初めて”未踏の地を開拓し、そして創造した新世界だ。
しかし、その栄光とはほど遠い。
なぜなら、これが存在することこそが
人類の『罪』の証明になるからだ。
通常ならば、光など届くはずのない〈地底〉だが、
どこかの賢者たちが知恵(なんだか皮肉っぽいな)を絞って
擬似的に〈タイヨウ〉を作り出すことに成功した。
俺たちの頭上でニセモノの〈タイヨウ〉が点灯している十二時間の間は、
〈昼〉と呼ばれる時間帯になる。そして、それからキッチリ十二時間後、
電源スイッチをオフにすると、今度は〈夜〉と呼ばれる時間になる。
まるで子供だましのような気軽さだが、それを高らかに掲げることで、
前世界の生活リズムを律儀に俺たちは保っている。
この店、〈昼〉の時間帯は見ての通りの
小汚い【低級酒場】の看板が掛かる。
相変わらず、いつ見てもキモチワルイ店主だが、
これでも一応 この狭い世界の“王”。
しかし、これよりキッチリ五時間後に“王”は、
元のさえない薄毛の男に戻ってしまう。変身できるのは悲しいことに
〈昼〉の十二時間だけなんだ。
これは“王”よりも上位の存在――つまり〈神〉を気取る寒い連中が
敷いた絶対ルールってヤツ。
夢見る少女だったら素敵な話に聞こえるかもしれないが
実はまったくロマンがない。
法律って知ってるかい? 議会ってトコで作られるらしい。
いつだって俺たちは、そこで織られた綺麗な絨毯の上を歩かされる。
もちろんベタベタ汚すヤツは……分かるよな?
答えは、もう歩かせてもらえない、だ。
これは精神的にツライ。
「酒ェ……」
そして〈夜〉は雰囲気がガラッと一変して、
この狭い世界は『超』高級クラブに即座にひっくり“返る”。
ターゲットもコンセプトも、働く従業員たちも全て“変わる”。
このお色気たっぷりのお姉様、
【貧民地区・二番街】に莫大な富をもたらし、
一角をパープルローズ色に完全に染め上げる
【高級クラブ】の恐ろしいオーナーだ。
「強いのちょーだい……」
するとこの薄毛、カウンターにうなだれ掛かるシエラザードを見て
ため息をついてから、後ろの棚にズラリと並ぶ美しい
琥珀色のコレクションから一本を選んでグラスに注ぐ。
「ウチの店が……なにしたってのよ」
無言で出された一杯を、シエラザードはグイと煽る。
そしてフゥーと俺に吐息を向ける。
ライムの青々しい香りが微かに漂った。
実のところ、先ほどから俺はフワフワしっぱなし。
酔いが残っているのもあるが、あの血もナミダもない、
ジャマしたヤツは“ボッコボコ×100”にした上で徹底して排除する、
あの『魔女』が(イエイ! 気分はサイコー!)、
俺の前で心底弱っているからだ。
「だから、なんか文句あんのかよ! 言いがかりにもほどがあるだろッ!」






