島にて
八月、離島での出稼ぎ生活が始まる。胸に不安を抱え、前の会社を辞めて、あっという間に十日が過ぎた。
船を降りると、会社の送迎車がスタンバイされていた。車から、少し腹の出た、白髪混じりの角刈りの初老の男性が降りて近づいてくる。汚れ一つ無い、真っ白な作業服の胸には、これからの勤める会社の名前が刺繍されている。
「おはようございます。工藤です。よろしくお願いします」
「おはようございます。部屋に案内するから、乗って」
先に荷物を車の後部座席に積み、その隣に乗り込む。現場で使う車だからか、シートが汚れで変色している。
「工藤よう」
運転席の初老の男性が声を発した。それが僕に向けられたものだと理解するのに時間がかかり、二秒ほど遅れて返事をする。
「はい」
「なんでこの島に来たんだ?」
稼ぎに来たに決まってるだろう。金を。そう思った瞬間、初老の男性は見透かすように続ける。
「ギャンブル?女?そんなに金に困ってるようには見えないけどな」その馴れ馴れしい態度と言葉使いに戸惑う。しかし、不思議と不快ではない。
「なんと言うか、稼ぎたくて。お金に困ってるわけではありません」
嘘では無かった。