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大変だ

作者: K_季本

会社員なら誰でも経験する出来事を、3人の登場人物に語ってもらいました。楽しんでもらえるとウレシイです。

 廊下の突き当たりに設けられている会議室で、二人の人間が密談を行っている様です。一人は、現場叩き上げの経験豊富な管理職という雰囲気です。もう一人は、中堅の技術者といったところでしょうか。

 この二人、どうやら厄介事を抱えている様に見受けられます。ちょっと覗いてみましょう。


「---と言う訳で、開発そのものは計画通りに進めていけると思うのですが」

「うん、そうだね。僕も君の見方に賛成するよ。ただ、」

「あー。やっぱりこれですか」

「そう。どうしても、これを避けることはできないんだよ。何か手を打てると助かるんだが」

「うーん。私も色々と考えてはみたのですけど、これと言った妙案は浮かんでこなかったですね・・・」


 その遣り取りの最中、突如、バン!と勢い良くドアが開けられた。会議室の入口脇には、表面には赤字で《使用中》、裏側には黒字で《未使用》と刻印された札を掛ける場所があり、今は《使用中》の表示になっている。目立つ場所にある上、字の色まで変えてあるから、普通の人なら直ぐに気づくものだが・・・

「あれ? なに、使用中だったの? いやー、悪い悪い」

 この闖入者は、厚顔にも二人の話に無理矢理割り込んできた。状況などお構い無しである。

「やあ、課長代理と技術主任の組み合わせなんて、随分意味深だなぁ! 何の相談? ワタシも混ぜてよ」

 手近な椅子を引き出してドカッと腰を下ろした振る舞いは、その場に加わるのが当然であると高らかに主張しているに他ならない。部下の側から上司に出て行ってくれと言える訳でもないが、居て欲しくない事は事実である。無駄だと分かっていても、一言言いたくなる時は有るというものだ。

「課長、急ぎの用件でしょうから部屋空けますよ」

「否否、大した事じゃないよ。えっと、何だったっけ? あれ、忘れちゃったよ!あはは。 ま、いいよいいよ、その内思い出すだろうから。それより、二人で何の相談なの?」

 課長代理の抵抗も空しく、課長は完全に居座りを決め込んだらしい。否、本当に自分の用件を瞬時に忘れたのかもしれない。何故ならこの人は、《切り替えの早さ》を売りにしているから。。。

「・・・今度のプロジェクトについて、彼と相談してただけですよ」

「おお、あの件ね。いやさあ、部長も興味津々でねぇ。上手い事やっつけてもらわないとワタシも困るんだよ。ああ、でもトラブってしまったら何時でもワタシが頭を下げるから、気にしないで良いよ。で、何かまずいことでも起きそうなの?」

「いえ、課長代理と私とで計画を検証していただけです。機材や人員の面にも大きな問題は無いことを確認できました。ただ」

「何、何?」

「ああ、いいよ、僕から説明するから。課長、実は一つだけ問題が出そうなんです」

「え、それ、どういうこと? 君ら二人に全て任せているから、大丈夫じゃないの?」

「進捗報告はプロジェクトの責任者が行うこと、とされているんです」

「へえ、然うなんだ。ああ、ワタシは気にしないから、君等のどちらかがやればいいよ」

「ですからそれは無理なんです。課長にやって頂かないと駄目、という制度なんですよ」

「ええ! ワタシ? 無理だよ、無理、無理。だって、何するのか具体的に良く知らないんだよ」

「え? 先週私が課長代理経由で提出しました計画書、未だ確認なさってないのですか?」

「ああ、悪い悪い、忙しくってさぁ。あ、そうだ。今から教えてくれない?どうせいずれは教えてもらわないといけないんだしさ。おお、今、定時を過ぎたばかりだから、丁度いいや。少しくらい帰りが遅くなってもワタシは一向に構わないよ」

「課長、今日はスポーツクラブに寄られる予定ではありませんか」無駄とは思いつつも、課長代理は敢えて儚い抵抗を試みた。

「ああ、大丈夫、大丈夫。たまにはサボってもいいから。いやあ、やっぱり仕事優先だよ、仕事優先! 主任は説明が上手だから、まあ、2時間くらいあればワタシでも理解できると思うよ。ワタシは2時間くらい残業しても平気だから。じゃあ、早速始めてよ」


 ここで、少しだけ時間を戻してみましょう。二人は、こんな遣り取りの最中でした。


「進捗報告は必ずプロジェクトの責任者が行うこと。当たり前の事なんですけど、この条件、我々にとっては堪ったものではないですね」

「本当、本当。あの人のことだから、計画書すら未だ読んでないよ。賭けても良いよ」

「ですかね。先週頭に提出してますから、2週間、店晒し状態だったということですか。ああ・・・」

「はぁー・・・ でもまあ、こうして二人でブツブツぼやいていても意味ないよね。覚悟決めるか」

「そうですね。仕方ありませんよね」

「人は悪くないとは思うけど、人任せの割には出たがりだからさ、全く」

「進捗報告を自分がやると知ったら、其の瞬間から、我々にはレクチャーという雑用が発生する。然ういう事ですね」

「的外れな質問ばかりして、こっちの説明は進まないだろうし。あ、それに、本番で、例の一方通行の説明をされては大変だから、原稿も準備しないといけないか。やれやれ、えらく労力を食いそうだね」

「先ずは、計画書の内容を全部説明して! でしょうから」

「ああ・・・ しかし何で課長の名前にしちゃったんだろう。気を遣ったのは軽率だったかな」

「いえ、責任者は課長代理以上という制度ですから已むを得ないですよ。出たがりの人を差し置いて課長代理の名前を書き込んだ申請書類を課長に回した日には、拗ねて手の付け様が無くなりますから」

「うーん。まあ、然うなんだろうけどね。繰り言になっちゃうけど、僕の覚悟が足らなかったのかもなあ・・・」


 そこに割って入ってきたのが件の課長さんだったという事ですか。会社勤めという稼業、色々と大変ですね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんばんは。 課長の切り替えの早さに脱帽。台詞のなかでも何度切り替えられたことか! 色々とやんちゃな課長ですね。部下も大変そうです。
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