夢ちゃんはレイダーパイロットぉぉ~!?
「ねぇ……七つの大罪の中に、一つだけ『大善』が隠されてるのって知ってる?」
「……わかんない。なんだろ」
「答えは『性、欲』だ、よ! だって漢気ワッショイは命の源でしょ?」
入院生活は、思いのほか快適だった。
よくわからんカプセルに入れられ、よくわからんガスを吸い込み、オレンジ色のスポドリを片手に肉メインの入院食を貪り食う日々。
するとどうでしょう。あんなにボロボロだった私の肉体は、みるみるうちに再生し、わずか一週間で元気モリモリ性欲フルスロットルに回復したのだ。
「日本の医療技術の高さに感謝だね~♪」
お母さんは嬉しそうにそう言ったけれど、日本ってそんなに医療が発達した国だったっけ?
「ふぅー、やっと退院か。長かったぜぇ~……」
退院の日。玄関のガラスに映る制服姿の私。
(私ったらぁ……なんて、キャッワイイのぉぉ~ん!)
自分の顔を両手で包み込み、腰をクネクネさせてうっとりする。美少女の輝きが眩しすぎるわ!私だけ発光して見えるぅぅ~!
そんな私を、お母さんが「ほら、行くよ」と引っ張って病院の扉を抜けると……そこには、黒光りする高級リムジンの車列があった。サングラスに黒ずくめの男たち。
スゴッ……大物政治家でも入院してたのかな?一斉に……ん?こっちに向かって歩いてきてません?
「待ってください! 夢はまだ退院したばかりなんですよ! 事故の後遺症で記憶だって曖昧なのにっ……」
「事態は一刻を争います。お母様、どうかご理解を」
あれれれれ? 私、連れて行かれちゃう感じ?
お母さんは涙を浮かべて私の手を離そうとしないけれど、有無を言わさぬ勢いで、私はリムジンの革張りのシートに押し込まれた。
(なにこの展開、わけわかめ。この男たちの組織にとって、私は重要人物ってことでしょ?私が絶世の美少女だから?)
その瞬間、脳内に強烈なインスピレーションが閃く!
――楽屋の化粧台。一流のスタイリストが私の美貌をさらに磨き上げている。それを囲むテレビ局の取材クルー。
「今や日本、いや、世界を代表するトップアイドルとなった隠田夢ちゃんッ!そんな夢ちゃんの素顔を明かすべく、本日は百問百答をやっていただきたいと思いマスッ」
女性記者が興奮気味にマイクを向けてきた。
「そんな~っ!私なんてまだまだですよぉ~ん!テヘッ」
カメラに向かってかわいくキャピってみせれば、取材クルーの男たちは鼻血を噴射して倒れる勢いだ。
「それではさっそく行ってみま、ショウッ!第一問、ぶっちゃけ好みの男性のタイプは?」
「細マッチョの、イ、ケ、メ、ンッ!」
「痺れますネーッ!『私を一番大事にしてくれる人』とか、無難なことを言わずに、ズバリ核心を突いてしまうッ!さすがです……。第二問、自分にキャッチコピーを付けてみてください」
「ステージだけが私の真実ッ!一瞬のまばたきさえ後悔させる!銀河系、一目惚れ!隠田夢デスッ!」
横ピースでポーズを決めれてみせば、パーティークラッカーが鳴り響いた。楽屋のなかはお祭り騒ぎだ。世界は私を祝福する――。
「夢隊員! 聞いているのか、夢隊員!」
ハッと我に返った。
「着いたぞ」
目の前には、サングラスの黒ずくめ男。クラッカーじゃなくて、鳥のさえずる音が……
そこは鬱蒼とした山の中だった。目の前には巨大な口を開けた核シェルターのような施設がッ……。
(どう見てもテレビ局じゃ………にゃいッ!)
事態を飲み込めないまま、エレベーターに乗せられた。
なんかスンゴイ速さでスンゴイ地下に進んでる雰囲気だ……マントルまで突き抜けちゃう勢いですけど……
「ここ、どこ?」
同乗した黒ずくめの男に尋ねると、彼は呆れた顔で答えた。
「ゲルチェレチュース基地だが?そんなことも忘れてしまったのか?」
(げるにゃるにゃるちゅーるきち? どこだよ!)
「……何県?」
「県? パラオだぞ」
(日本じゃなかったんかーーーーいっ!)
エレベーターの扉が開くと、そこは軍服姿の大人たちが慌ただしく行き交う軍事基地だった。正面には恐竜をモチーフにしたロボットの巨大な顔……左には狼をモチーフにした巨大なロボットの顔……右には豹をモチーフにした巨大なロボットの顔……
「デカっ……」
思わず声が漏れた。ロボットの格納庫だ……私の足元は吹き抜けになっており……三体のロボットがそれぞれダムのように深い穴から肩から上を突出していた。整備している人たちが豆粒のように小さく見えることから、いかに巨大なロボットかが分かる。右の豹をモチーフにしたロボットはピンク色だ……女の子仕様……ってことはまさか……そのロボットを指差して尋ねてみた。
「もしかして……あれ、私が乗るロボット?」
「そうだ。お前のレイダーだ」
「ですよね~……ハハハ……」
(チクショっ!アイドルじゃにゃかったッ!)
でも、戦場に立つのは同じよね。そう無理やり自分を納得させようとしたその時、背後から強烈な「イケメンの気配」を感じた。
振り返ると、そこには――。
「夢、やっと戻ったか」
漆黒のパイロットスーツに身を包んだ超絶イケメンがはぁッ!どんどん歩み寄ってくる。カッケー……。やべぇぇ……口のなかで涎が溢れ出てくるのが分かる。
もうスンゴイ目の前。あとちょっとで触れそうなくらい目の前。てか、彼の放つフェロモンが私の肌に触れている。
(ふふぁ……いい匂い……)
意識が飛びそうになる。
「どうした?ぼけーっとして」
上から顔を覗き込まれてさらに近づく二人の距離ッ!
(クソッ、気持ち持ってかれそうだゼッ!てか、もう完全に持ってかれたゼッ!)
「わっ、私、事故の後遺症で記憶喪失でさ……」
「櫻井丈隊員だ。お前と同じレイダーパイロットだ。憶えているか?」
黒ずくめの男に紹介され、私はブンブン首を横に振る。
「マジかよ」
いや、待って……サクライジョーって……ボクシング部のジョーくんじゃんッ!見た目は違うけど、イケメンなのは一緒!そうかッ!私も見た目は違うけど、名前は変わってない!ここは異世界と言ってもパラレルワールド的異世界なんだッ!
異世界のジョーくんが、眉をひそめて私の顔を覗き込んでくる。私だけを見ているぅぅ~!
「てか戦えんの? そんなんで」
「う~ん……無理だと思うぅ〜ん……」
私は上目遣いで、上半身をくねらせて甘えてみた。
「ハッ? 甘えんなよ。さっさと着替えてこい。お前と俺しかパイロットいねーんだぞ」
(性格鬼畜カヨッ! でもそんなところも好きッ!)
「えっ、待って! もう出撃すんの?」
「そうだ」「そうだ」
二人が声を揃えた。ヤベェ、戦い方なんて分かんねー。出撃したら秒で死ぬ。
でも、死ぬならその前に、やるべきことがあるッ!絶対に負けられない戦いがそこにはあるッ!今後、何度生まれ変わっても訪れないかもしれないこの好機ッ!逃すわけには……行かねーんだよッーーーー!
「あ、なんかめまいが……」
私はか細い声を出し、狙いすましてジョーくんの胸板にもたれかかった。
「おっ、おい。大丈夫か」
その逞しい腕が私を支える。
(どうだ……これならすぐには出撃できまい。ふふふ……)
鼻の穴をガン開きにして、イケメンのフェロモンを吸っておく。フンガッ!フンガッ!いい匂いッ!フンガッ!
「仕方ない、医療室へ連れて行こう」
(ッシャアァァァァ! 密室ゲットォォォォォ!!)
私は心の中で渾身のガッツポーズを決めたァア!
**とうとうイケメンとの運命の出逢いを果たした隠田夢!死ぬ前に念願の初体験を済ますことはできるのかッ!次回『夢ちゃんのだいちゅうきホールドゥ!』乞うご期待ッ!!**




