隊長対決! ユミルVSハイラ
演習チーム分け
チームユミル ユミル、ミリア、クラウス
チームハイラ ハイラ、アミル、リーン、
ミスティ&セスティ(フータ姉弟とも記載)
ブラッド(人型戦闘ロボ)
アレイト(両腕部にナイフ装備)
イグレイト(隊長機)
ヴァーミリオン(空中機動力があり、高威力のバウスガゼルが扱える)
アロン(一般機)
BG小隊演習の設定として、今回は小隊内でチームを分け戦うことに。
実力で劣るハイラチームの奇策とは…?
「霧が濃いですわね…」
辺りを警戒しながらミリアが呟く
今回設定されたステージはブラッドの倍はあろうビルが並ぶ大都市だった。
おまけに霧が濃く設定されており、視界も悪い。
現実的な範囲でシチュエーションを設定する研修の中では今まででの中で一番現実味がなく、この大都市からハイラ達5人を見つけ倒さねばいけないのだから厄介だ。
「バラバラで探索した方が良いのではありませんか?」
「いや、ハイラ達の意図が分かるまでは単独行動しないほうが良いと思う。」
こちらから見えにくいということは相手からも見えにくいということ。
ハイラ達には今回の設定を知った上で作戦を練る時間がある。
この視界では待ち伏せするのが一番の策だと思うが、何をするか分からない以上は下手に動かない方が得策だ。
しかし、それはハイラ達の先制攻撃を凌がなければいけないということでもある。
誰か一人でも欠けてしまえば状況はさらに不利になってしまう。
「二人とも、何か異常はない?」
「いいえ、何も。だんまりを決めているそうですわ」
「こちらも何もない。レーダーが使えない以上、目視と音で確認しているが…。」
僅かだが、遠くで何か音がした。
「まさか発砲音?!クラウス!」
「徹甲弾か!おわぁ!」
私が叫ぶのと同時にクラウスのアロンが爆発する。
「ミリア!クラウスのフォローお願い!来た道を戻って!」
「お任せ下さい!」
私は前方へ、ミリアはクラウスの機体を引き摺り来た道を戻った。
「クラウス、大丈夫?」
「左腕をやられただけ。支障はないはず。」
「来た道を戻っだけですが、これで良かったのですの?」
「うん。狙撃された場所は交差点、つまり開けた場所だった。あの位置に来ないと狙撃が出来ないということ。」
「そうか!もし前後から狙えるなら既に狙われているということですのね!」
「そう。視界が悪くても狙える方法は限られてる。特定のポイントに来た時に狙撃する。恐らくハイラたちの狙いはこれだ。」
「だが、その特定のポイントに来たかどうかはどう判断するんだ?音で判断しようにも、正確な場所は分からないはずだ。」
「そうなると、誰かが指示をしているということですね?」
「多分ハイラがどこかで指示してると思う。私たちの近くにはいる。」
(だけどこの霧ではかなり近づかなければいけないはず。気になるような音もなかった。)
私の中で二つの可能性が浮かんでいた。
一つは自分たちの予想が外れているという点。
もう一つは…
(ハイラ、もしくは指示役がまだ動いていない可能性がある。)
そう考えた時だった。
すぐ隣のビルが崩れ落ちる。
(攻撃?いや、崩れているのは屋上部分だ。)
咄嗟に回避行動を取り、その場から離れる。
直後、装斬刀がその場に振り下ろされた。
「イグレイト…。ハイラね。」
攻撃が当てっていないことを確認すると、再び切りかかってきた。
こちらも剣を抜きガードするが、イグレイトは攻撃の手を緩めない。
普段の彼女からは想像できない程力強く大雑把な攻撃。
避けろと言っているようなものだ。
いや、後退させられているのか。
後ろを確認すると先ほどクラウスが狙撃された交差点が見えてくる。
左右はビルで囲まれている以上横には避けられない。
反撃しようにも動きが制限されていて思うようにいかない。
間一髪かと思われたが…
「ユミルー!何がありましたの!?」
「ハイラだ!周囲を警戒していて…って!え!?」
頭上を何かが通り過ぎ、イグレイトの後ろに着地する。
「さあ、これで逃げ場はありませんわよ!」
ライフルを構えたヴァーミリオンとでイグレイトを挟む形となり、形成は逆転したかのように見えた。
すると再びビルが倒壊し始めた。
今度は明らかに爆発している。
「ビルを撃ったの!?…あ!」
動揺した隙を突かれ、イグレイトは逃走した。
「ユミル!倒壊に巻き込まれますわ!」
追いたい気持ちはあったが、一度体制を立て直した方が良い。
ひとまずミリアと合流した。
「大丈夫ですの?」
「なんとかね。それよりもありがとう。助かったよ。」
「えへへ。礼には及びませんわ。でも、救援ぐらい呼んでくださいまし。皆が皆あなたの状況を理解出来ているわけはなくて?」
「…うん。気を付けるよ。それにしてもよく狙撃ポイントを通れたね。」
「いくら狙撃が出来ると言っても、バーニアを使った高速移動までは捉えられないでしょう?見えていたとしても難しいと思いますわ」
だとしてもリスクのある行動には変わりない。
それを何とか出来るのはミリアらしいといえばらしいけど。
「クラウスは?」
「少し遅れたけど、ちゃんといるよ」
交差点を挟んだ先にアロンの姿が見えた。
「奇襲は一旦退けましたが、どうしましょう?」
「ハイラが動き出したということは、他の四人にも動きがあるかもしれない」
「…確かに僅かだが、音がするな。何機か動き出したようだ」
さっきの作戦からして、ハイラ達は自分が囮になって狙撃ポイントに誘導することでこちらを撃破しようとしている。
さっき戦闘したハイラを除けば、何人が動いていて、何人が待機しているのかこちらからでは掴みようがない。
「ユミル、どうしますの?」
「狙撃の可能性がある以上、下手には動けない。かといってこのままじっとしていれば攻撃されるだけだ」
「狙撃手をどうにか出来れば動きやすいんだけど……あ…。」
一つ案が浮かんだが、あまりにもハイリスク過ぎる。
「何か案が浮かんだのですね?」
「うん。だけどこれはリスクがデカすぎる。他の方法を考える」
「まぁまぁ、言うだけならタダですわよ?」
「わかった。説明するね」
説明中
「この案で行きましょう!」
「俺は止めたからな。どうなっても知らないぞ」
「大丈夫ですわ。心配してくださってるの?」
「作戦が失敗したら大変だと思っただけだ。」
「もう素直じゃありませんわねぇー」
「あはは…じゃあ作戦開始だ!」
ユミル達は行動を開始した。
とりあえず作戦の第一段階はクリアした。
ユミルを倒すことが出来れば良かったが、クラウスを半壊させることは出来た。
能力差を考えれば十分と言えるだろう。
彼女達3人を相手取るのであれば、本格的な戦闘になる前に数を減らしておきたい。
フータ姉弟は狙撃ポイントで待機させ、アミルとレーンにはさっき戦闘した場所へ集結するよう指示をしていた。
どうする、ユミル。この霧の中では思うように動けないはず。
3人で行動するか、バラバラに散らばるか。
どちらにせよ、彼女達の場所は分かっているから、ある程度のルートは予想出来る。
そこからまた狙撃ポイントへと誘導すれば良い。
ひとまず、2人が合流するのを待って…
突如近くの道路が爆発する
な…!場所がバレた!?何で!
「ハイラ隊長!空中から狙撃されてます!動きからしてヴァーミリオンかと!」
「ヴァーミリオン…。ミリアか!」
逃げた方向に予測射撃をしているということか。
それにしたってめちゃくちゃだ。これでは逃げたとしても分からないだろうに。
「姉御!大丈夫?!」
「こっちは大丈夫。ありがとう」
「こっちでもミリア嬢様の姿何となく見えたよ!
バウスガゼルの発射光が霧の中でも見える!」
ハイラ以外のマーカーがミリアのいるだろう位置に向く。
いくら相手の場所が分からないとはいえ、こんな敵に自分の場所を教えるような攻撃をするだろうか?
それをユミルが承諾するとも思えない。
何か別の狙いが…?
「行くよ!セスティ!」
「うん!狙い撃つぜぇ!」
まさか、自分を撃たせるため?
「ま、待って!撃っちゃだめ!」
判断が遅かった。
3方向から銃撃が飛ぶ。
「皆急いで回避!場所は今のでバレた!」
急いでミリアの注意を逸らすため射撃する。
それと同時にミリアから先ほどとは違う場所に3発弾が発射された。
「え?」
「えー!うそー!?」
断末魔と共に2人の機体はロストした。
「あ、危なかったぁ…。アミル機健在です。けど…」
自分を囮に弾丸の軌道を読み、そこへバウスガゼルを撃ち込む。
そして空中はお互い狙いやすい絶好の場所。
空中にいる自分には期待値の高いマシンガンで攻撃すると読み、より予測しやすくしたのか…。
狙撃役2人がやられた以上、数の差は同じになってしまった。
ユミル、ミリア、クラウス…。
クラウス機は半壊しているとはいえ、安心出来ない。
ミリアの射撃を止める事が出来なかった上に、こちらの場所もバレてしまった。
急いでここから離れないと…。
突如目の前から煙を突っ切って迫る影が見えた。
「な、アレイト!」
咄嗟に回避行動を取ったが、左腕を切られてしまった。
早すぎる!いくら場所が分かったからといって、すぐ来れるわけがない!
ミリアの攻撃はただの囮ではなかったのか?私を攻撃してるように見せるための。
いや、確証などなくただ確認しただけなのか。
動いてしまったから居場所がわかったということ?
「ハイラさん!何があったの?」
「リーン、ユミルの奇襲にあって!」
駄目だ。頭が回らない。躱すのが精一杯で指示を出してる余裕がない。
こっちに来てほしいと言うだけなのにそれさえ言えないほど息が詰まっていた。
隊長として、パイロットとして上達したと思っていたけど、まだ不測の事態に対処出来ていない。
何とか隙を作らないと…。
ふとある存在を思い出す。
頭部機銃…使ってなかった。
ユミルの戦術だが、これの厄介さは彼女も分かっているはず。
鍔迫り合いになった瞬間、機銃を発射する。
即座にユミルは後退し、頭部や関節部を隠すよう防御する。
彼女のように正確に撃ち抜くことは出来ないが、牽制には十分だ。
「リーン!私のマーカーを頼りにこちらに来て!そしてユミルを挟み撃ちにする!」
「りょ、了解!」
「アミルは指定するポイントまで移動して待機!
攻撃が避けられた時のカバーをお願い!」
余裕がなくなる前に指示を出しておく。
いくらユミルが強くても戦闘中背後から撃たれてはどうしようもない。
あとはリーンが来るまで耐えられるかどうかだけだ。
ユミルも頭部機銃を撃ちながら接近してくる。
防御体勢を取るが、片腕がないのと体勢の問題で機体各所が僅かに破損する。
だがまだ動ける。
「アミル機、迂回接近中です。…ん?」
「どうしたの?!アミル!」
「何でここに!ヤバい!」
アミルとの通信が切れてしまった。
反応からしてクラウスに襲われたのだろう。
早く彼も救出しなければ…!
後退しながら再び機銃を発射するが、私の精度が良くないのか先ほどより距離は開かず、撃ちすぎて弾切れになってしまった。
こちらも万事休すかと思った矢先
「リーン機、ユミルの後ろに回りました!」
レーダーを見ると、リーンが近くにいるのが分かった。顔を出せばすぐ狙える距離だ。
「リーン!私が合図するから合図と一緒に射撃して!」
「ハイラさんはどうするの?!」
「合図と一緒に私も避ける!安心して狙って」
「りょ、了解!」
あとはユミルを一瞬でも動けなくすれば…。
簡単なことではないが、方法はある。
隙を付かせれば良いのだ。
絶好の攻撃チャンスを与えれば、それが隙となるはず。
彼女が距離を詰めてきた。
それに対して、最後の一撃のように大振りの攻撃をする。
当然防がれ、あろうことか弾き飛ばされてしまう。
地面に激突し、間一髪という状態になった。
これなら…!
今彼女はこちらしか見えていない。
「リーン!今だ!撃ってぇ!」
アレイトの後ろからアロンが顔を出す。
これは避けられない。
ユミルの撃破を確信したその時気づいてしまった。
アレイトの左手にはナイフが握られていた。
いつの間に?なぜ?
ユミルがナイフを使うのは装斬刀がない時だ。
しかし今装斬刀はある。
ではなぜナイフを持っているのか。
1つの悪い予感が浮かんだ。
まさか…!
アレイトは突如後ろを振り向くと手に持ったナイフを投げた。
「へ?」
突然のことにリーンは対応できず、頭部にナイフが刺さる。
それを確認したアレイトは走り出し、硬直しているアロンを両断する。
リーン機がロストした通知音がなる。
「う、嘘…。後ろに目でもついているの?」
思わず声が漏れる。
確かに背後を確認するカメラはある。
だが正面から切り合いをして、目の前の相手にトドメを刺す直前に背後を気にしてるというの?
…いや、彼女はわかっていたのだ。
奇襲され、状況が不利になった私が増援を呼び、不意打ちさせるということを。
不意打ちするタイミングが分からなくとも、相手が教えてくれるのだ。
それは不意打ちに巻き込まれないよう回避した時。
それが分かれば後は回避や攻撃に専念するだけだ。
まさかナイフを投げて攻撃するとは想定外だったけど。
出来る限り自然にやられたつもりだったが、バレバレだったようだ。
ピーとさらに通知音がなる。
アミルもロストしたらしい。
ミリアかクラウスにやられてしまったようだ。
アレイトがコチラに近づいてくる。
動こうとするが、破損が激しく、立つことすらままならない。
ユミルを倒したあと、他2人も倒せるぐらい余裕があると思っていたが、機体の損害状況の見通しも甘かったようだ。
完敗だ。
トドメを刺される瞬間に思ったのは、これが本当の戦場ではなくて良かったということ。
あと、3人が仲間で良かったということだ。