第三話:不平等の理論
「勝負の種目はジャンケンポイポイでどう?」
「じゃんけんぽいぽいだと?」
リッカが提案した新たなる勝負。
鮫島はそれを反芻するように応答する。
「え゛、もしかして雑魚島、ジャンケンポイポイしらないの……?」
「いや、流石に知っているそのくらいは。あれだろう、右手と左手それぞれで手を作って、お互い相手に提示した後にどちらかを出すという……」
そう、ジャンケンポイポイとは、「ジャンケンポイポイどっち出すの。こっち出すの」という掛け声で行われるジャンケンの亜種。詳細なルールは以下の通り。
===【ジャンケンポイポイのルール】===
①「ジャンケンポイポイどっち出すの」という掛け声の、「ポイ」「ポイ」に合わせて、右手、左手それぞれでグーチョキパーのどれかの手を作る。この時、右手左手共に胸の前に出し、相手に何の手を作ったか見えるようにする。
②「こっちだすの」の掛け声に合わせて右手か左手を繰り出す。通常のジャンケンと同じく、出した手による勝敗を決める。あいこだった場合、もう一度①から繰り返す。
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(つまり、事前宣言アリの二択! ……このゲームは通常のジャンケンとゲーム性において大きく異なる箇所がある。それは、『明確な案牌』が存在し……それが両プレイヤー共通の認識として公開されることだ)
そう、前回の『じゃんけん』で鮫島は勝負をグーorチョキVSグーorパーと予想した訳だが(そして見事に敗北した訳だが)、今回はその選択肢が予想ではなく確定事項として事前に提示されるのだ。
(そしてこれにより……このジャンケンには明確に、勝負の主導権を握る『攻め手』と、それにカウンターを狙う『受け手』が発生することになる……!)
前述の例のまま説明しよう。
例えば以下の状態になったとする。
リッカ:グーorチョキ。
鮫島:グーorパー。
この時、ゲームの主導権を持つ『攻め手』は鮫島になる。
何故ならば、鮫島にはグーという『安牌』がある。鮫島は、グーを出す以上このゲームでは『絶対に負けない』のだ。さらに、リッカの出すグーを狩る為にパーを出すという、能動的な勝利の選択肢さえ持つ。守りのグーに攻めのパー……まさに右手に剣左手に盾。まさに攻防自在。生殺与奪権を持ち、それを自らの意思で行使できる鮫島側こそ、ジャンケンポイポイにおける『攻め手』側といえる。
一方、リッカ側は『受け手』となる。
グーが安牌である以上、グーに勝つ術の無いリッカは『負けない為に』グーを出さなくてはいけない。そして、その『逃げのグー』を撃墜せんと鮫島がパーを繰り出したなら……それに合わせる形で隠し球のチョキを出す以外、勝ち筋……というか生き残る術が無い。もし読み外せば……つまり攻め手がパーではなくグーを出したなら……グーVSチョキ、即ち自爆! こうなれば、攻め手は丸儲け。なんと言っても、グーは安牌、ノーリスク……! 自分は一切の危険を冒すことなく受け手が勝手に自滅してくれたのだから……!
結局のところ、これがジャンケンポイポイの基本構造……!
攻め手と受け手、持つ者と持たざる者……!
攻め手側が安全地帯から戦場を俯瞰し自在に攻めと守りを操るのに対し、受け手側は常に前線……死と隣り合わせ……デッド・オア・アライブ!
この不平等こそ、ジャンケンポイポイの醍醐味といえる……!
(昨日のジャンケンに比べ、より読みの要素が強くなった。心理的駆け引き、つまり俺の土俵に近づいた……が!)
近づいたが、それでも油断はできない。
昨日の勝負……よりもむしろその後。
リッカの内より昇り立った異常なプレッシャー。鮫島は彼女の小さな体躯の中に、確かに捕食者の……夜の魔物の気配を感じ取っていた。
(昨夜、リッカが俺に見せた予言……プレッシャーで相手の手を制限する手法……今回はあの手は使えない。最初から出せる手は公表されているし……何より、俺自身が学習したからだ。屈辱と引き換えに……! ……だが、奴がアレで終わりの一発屋とは思えん。何か、別の戦略を隠し持っている可能性がある……!)
警戒! 警戒! 警戒!
それは原始的な危険への嗅覚!
これから行うジャンケンポイポイで最も必要とされる素質!
潜む死臭を嗅ぎ分けて、自らの生存圏を進み往く……鮫島、その素質充分!
「んじゃ、準備おっけー?」
リッカが手を組んでぐっぐっと捻る。
一通り手首のストレッチを終えると、リッカはチェシャ猫のようなニヤニヤ嗤いを浮かべ、細めた目で鮫島を見やる。
「今日は醜態晒さないように気をつけてね……雑魚島オジサン♡」
「当然だ。寧ろ今から土下座して謝るなら今晩だけは見逃してやるぜ……クソガキ」
キッと両者の目つきが変わり、勝負師の顔になる!
合図をするでもなく、両者同時に動き出す!
「「ジャンケンポイポイどっちだすの!」」
【次回:怪童を狩れ!】
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