第二話:リッカ再来
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「……で、何故またお前がここにいる」
鎌堀と別れ家に帰ってきた鮫島が、玄関を潜り最初に口に出した言葉がそれだった。
視線の先には、部屋の中でゴロゴロとくつろぎ週刊誌を読んでいるリッカ。
彼女が横たわる床にはバスタオルを重ねて作った彼女用の巣が既に用意されてる。
「ん〜? なんで〜?」
「疑問に疑問を、質問に質問を返すな……! ここは俺の家だぞ。なんでまた、テメェのようなガキが上がり込んで我が物顔でくつろいでやがる……! 連日、しかもまたこんな深夜に……!」
明確に怒気を放つ鮫島だが、リッカは全くに気にした様子もなく「やっぱり途中から読んでも話分かんないね〜」とチョコレート菓子を齧りながら漫画雑誌を読み続ける。
「……おい!」
「っさいなー。もう決まったことじゃん。泊めてくれるって」
鮫島の再三の喝を受け、リッカは紙面から目線も上げずに応答する。
「あ? なんの話してやがるテメェ」
「まさか忘れちゃったの? 雑魚島、昨日ジャンケンで敗けたじゃん。で、勝負の条件でアタシを家に泊めるって。あの約束、別にあの日だけだなんて言ってないから」
……思い返せば、確かに「泊めてやる」と言っただけで「今晩だけ泊めてやる」という約束ではなかった。しかし……。
「馬鹿かお前……! んなこと言ったら、そもそも『泊めてやる』の具体的な日時を指定していないじゃあねぇか……! つまり、俺がその気になれば家に泊めるのは10年後20年後ということも可能ということになるだろうが……!」
今度は紙面から目線を上げ、じっとりと鮫島を睨むリッカ。
「一応聞いとくけど、その馬鹿みたいな屁理屈本気で言ってる?」
「……いや」
だよねー、とリッカは再度漫画に視線を落とす。
そしてまたチョコレート菓子を齧りながら「ギャグ漫画なら単発で読んでも面白いね」とか言ってクケケケと奇怪に笑う。
そんな様子を見て、鮫島の喉奥から深い溜息が溢れる。床にあぐらをかき、リッカと同じ目線の高さで問う。
「まさかお前、これからもずっとこの家を宿代わりにするつもりか?」
「ま、そういうことかな! アタシも忙しいからそう毎日は来てあげられないけど。色のない生活が華やぐでしょ? 貢ぎたいなら受け取ってあげないでもないけど、ファンサは期待しないでね」
鮫島的に、それは大変困る。こんな深夜に、見ず知らずの男の家に連日転がり込むような少女だ。いつ補導されてもおかしくない。警察に事情を聞かれてウチのことを喋られでもしたら……待つのは裏社会からの制裁だ。
「おいリッカ。悪いんだが、本当に勘弁してくれねぇか。ネカフェ代くらいは出してやるからよ」
「えー、この時間に子供一人でそんなとこ行ったら通報されるに決まってんじゃん。馬鹿なの? 同じ理由でホテルもだめね、大人同伴じゃないし」
リッカが足を組み直す。
「てかさー、賭けに負けてアタシ泊めてんだよね? 金やるから勝負をなかったことにしろって……恥ずかしくないワケ?」
「……なら、もう一度勝負だ。俺が勝ったら大人しく家に帰れ。そしてもう二度とここに来るな」
チラッと、紙面から視線を上げるリッカ。
「アタシが勝ったら?」
「……3万やろう」
「またお金で解決〜? ダッサイなー。こういう時は相手が欲しがってるモノとか権利とか……あっ!」
声を上げると「これ! これ買ってよ!」と手にした雑誌を開いて見せてくる。それは通販広告のページだった。
モデルが、大きなクッションに身体を埋めるようにして心地良さそうに座っている。
価格は税込3万円。
なんだ、結局変わらねぇじゃねぇか……と言おうとした時、リッカが恐ろしいことを言い出す。
「これがあればこの臭くてゴワゴワしたバスタオルからもオサラバできるし〜」
(こいつ……まさか俺の家で生活する気か……!?)
そう、リッカはこの部屋を自分の居住空間と定めて、環境を整えようとしているのだ。それほどの長期スパンで、恒常的に鮫島の部屋を使う気でいるのだ……!
(た……たまったもんじゃない! 直ぐにでも、追い返さねば……!)
だが、その為にはゲームに勝たなくてはいけない。
勝負の結果に真摯であり、交わした契約は過不足なく必ず守る……これは、鮫島が勝負師として運を囲い、不運を祓う為に自らに課した掟の筆頭である。
「で、なにすんの? そっちから吹っかけてきた勝負なんだし、アタシが種目決めるのが道理だと思うけど。
……とは言っても、うーん。こないだジャンケンはしちゃったしなー。まあいいや、ジャンケンポイポイでどう?」
「じゃんけんぽいぽいだと?」
【次回:不平等の理論】
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