第一話:回遊、人喰鮫
「おっとソイツだ探しもの……ロン! 混一色、三暗刻、ドラ3、跳満!!」
「んなぁ!?」
とあるタワーマンションの一室に設けられた違法な鉄火場……ヤクザが仕切る会員制麻雀倶楽部にざわめきが走る。
「き、貴様……鮫島っ! 何故だ……待ちは么九牌じゃなかったのか……!?」
「クク、何を訳の分からないことを……と言いたいところだが……無理もない、この河(捨て牌)を見りゃな」
鮫島はツーと自らの捨て牌を指でなぞる。
「通常なら俺のミスプレイを疑うべきところだ……しかし、お前は普通ではなかった。流れを掴めず、飛ぶか否かの鍔迫り合い。浮いては沈む死線の水面で、お前は緊張の余り……幻視してしまった。不揃いな、三途の河の向こう側……ガタつく捨て牌の上で手招く亡霊……揃っただけで首が飛ぶ……役満、国士無双の可能性……!」
へたり込む対戦相手の背後に二人組の黒服が回り込み、その肩をがっしりと押さえる。
「死を伴う敗北の恐怖……それ即ち心の重し。傾くのは心の天秤、歪み狂うは判断力……。この世界、負け方を選んだ者に最早勝利は訪れない。……だが喜びな。跳満なら……飛ぶのは面子と指までだろう。首の皮はつながってるぜ……」
低く、咽ぶように咆哮する対戦相手。
暴れる気力すら折れたらしいソレを、無情にも黒服達が引き摺るように連れて行く。
鮫島海斗……ビル間に潜む夜の魔物……! 人喰い鮫は、今宵も血の海を回遊す……!
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「いや〜ん! ちょっと凄いんじゃないのサメちゃ〜ん! 惚れ直しちゃった!」
とあるタワーマンションの影。
華やかに聳える成功者のトロフィーの、その足元の暗がりで、恰幅のいいギラギラスーツの巨漢が、くねくねと体をくねらせ恍惚の声を上げていた。
「いや、大したことじゃあ無いですよ鎌堀さん。ただ、ちぃと運が向いただけでして」
「シブい! シブいわサメちゃん、その返しィ〜!!」
鎌堀と呼ばれた巨漢が、そのガマガエルにも似たスカーフェイスをクシャリと歪めて艶めかしい声を上げる。
「いやね、最近ずっと調子いいのはそうなのよ! でもね、今日のサメちゃんは強いとか弱いとかじゃなくて、勝ち方に色気があった! ……分かったわ、女ねっ!!」
「!!」
鎌堀の言葉を受けて、鮫島の脳に昨夜の光景がフラッシュバックする。
自室で鉢合わせた謎の不法侵入女子児童、リッカ。屈辱の敗退と、彼女から感じ取った異様なプレッシャー。
砂利を噛んだような不快な電気信号が脳裏に流れる中、鎌堀は勝手に喋り続ける。
「と〜んでもないアゲマンを捕まえたんでしょう! やだ〜もう、俺は女なんか興味ありません〜みたいな澄ました顔して隅に置けないんだからァ〜!」
「……鎌堀さんそれより。夕方話した引っ越しの件なんですがね」
「ん? あぁそっちはね、全然オッケーよん! アタシ達で面倒みたげる。まぁ1週間もあればちゃんと人が住める程度に綺麗にした部屋を提供できるわ。……でもなんで急に引っ越し? まさか近隣住民とのトラブルかしら?」
「いや、そういう面倒な話じゃ──」
「困るのよネェ〜そういうのは」
鮫島の弁明を遮る鎌堀。
不意の横槍に言葉を詰まらせる鮫島を前にして、鎌堀はゆったりとした動作で煙草を取り出し、それに火をつけた。
「あ、サメちゃんがじゃなくて、一般論の話ネ? アタシ達みたいな頬に傷のある人間はサ……堅気にメイワクかけちゃいけないの。でもそれ以上にね、存在を暴かれちゃいけない……そんなのは三流、いやそれ以下。影に生きるからそこ、その影を踏ませちゃダメ……。だから、今回の引っ越しの理由は知らないけど、引っ越した後はちゃぁんと隠遁を徹底しなさい……出来るワね?」
ふうっと、鎌堀が煙を吐く。
ビル間の複雑な空気の流れの影響か、煙が、鎌堀と鮫島を囲むように流れていく。
「……因みに、出来なかったらどうなるんです?」
鮫島が、やや引きつった顔で投げかけた問いに、鎌堀は悪戯っぽい笑顔で回答する。
「そりゃ鮫のエサよぉ……サメちゃんだけにねっ!」
【次回:リッカ再来】
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