第四話:勝負師の理論
「みーえちゃった! この勝負、お兄さんはチョキ出すよ!」
女児の発したその言葉が、鮫島の算盤上における決定的な珠……勝率を表す珠をカチリと弾く。
(……なるほど)
(こいつは今、俺がチョキを出すと言った……。つまりこれはアレだ。小学生がよくやる『オレ次○○出すから!』ってヤツ……。『お前は次にチョキを出す』言い換えれば『自分は次にグーを出す』ということ……。
勿論、宣言通りに出す必要は全く無い。じゃあ何を出すかというと……まぁそこは性格による)
そう、通常のジャンケンはただの確率ゲームだが、この宣言を加えることで細やかながら心理戦要素が加わる。
自分のグーという宣言に対して、相手が素直にパーを出してくると思うならチョキ。そのチョキを読んでグーを出して来ると思うならパー……といった具合にだ。
(俺だって一応ギャンブルのプロ……! ただのジャンケンなら勝率は50%だが……心理戦が絡むというなら、利はこちらにある……!)
では、心理戦の要素が加わるとして、女児はいったいどんな手を出してくるのか?
(普通に考えたら、奴はグーを出すと宣言することで俺のパーを誘ってるんだ。ということは、奴が出すのはパーを狩るチョキ……というのがセオリーだろう。……普通はな)
しかし、目の前の子供は若干普通とは言い難い。大人を小馬鹿にした態度を取り、偽の手紙を用意するなど妙に小賢しい。さらには家捜しに上がり込む程度にはヒネていて、そこでカップ麺を食うなど大胆不敵で肝も座っている……。
(俺の経験則から言えば、こういうタイプの人間は、敢えて裏の裏を掻き素直にグーを出す傾向がある……!)
出してくるならグーかチョキが濃厚か……!
(となると、俺の選択肢はグーorパーだ。グーかチョキを出す相手に、チョキを出しても、あいこor負け……勝てる見込みは無い)
それに、向こうの宣言通りチョキを出して負けでもしたら、このクソガキは更に調子に乗りかねない。舐められた挙句、悪戯感覚で後日警察に匿名通報……といったような事態は避けたい。
(では、俺はグーorパーのどちらを出すべきか? 決まっている。この場合は……グーだ)
何故ならば。
(奴の手をグーorチョキと仮定するなら、グーならば負けはない……! 安全牌……模範的安全エリア……!)
鮫島はハァー……と深いため息を吐き、頭を掻く。
「あーもう、しょうがねぇな。いいよいいよ、ジャンケンで決めよう。但し約束はちゃんと守れよ。……後から三回勝負とかも無しだ」
「もちのロン! 一発勝負ね! いくよー、最初はグー!」
約束が有効なうちに勝負をしたいのか……妙に展開を急く女児と、ヤレヤレといった様子の鮫島。
しかし、その大人ぶった面の皮の下で、鮫島は姦計を巡らせているのだ。
「じゃーんけーん!」
女児が声を張り上げ、拳を振り上げる。鮫島もその掛け声に合わせて、拳を振り、そして二人は同時に拳を繰り出す!
「「ポン!!」」
【次回:魔物の理論】
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