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玄人博徒(ばいにん)はメスガキに絶対勝てない  作者: 万策尽キル
第二夜:ジャンケンポイポイ
12/12

第六話:負けに不思議の負け無し(第二夜完)

「いやー、楽しみだねぇ! ふわふわ、ふかふか、大きいクッションって夢だったんだー!」


「…………あぁ、そうだな」


「このおじさん臭いタオルともお別れか〜……ま、別に手が切れるならセイセイするけどね!」


「俺はお前と手を切りたいよ……」


「え? なんか言った? ワンワンキャンキャン、負け犬の遠吠えみたいなのが聞こえたけど?」


「…………」


 ギリギリと奥歯を噛みしめ、耐え難きを耐える鮫島。

 ……そう、鮫島は結局勝負に負けたのだ。

 第9ゲーム、カウンター狙いのグーを出し……ものの見事に自爆した。『え、え、えぇ〜⤴︎? もしかしてアタシ……勝っちゃった〜!?』思い出すだけでもクソムカつくリッカの煽りが脳内で不必要に木霊する。


 だがしかし……煮えくり返る腹ワタの熱が落ち着くのを待ち、冷めたらまぁイイやで終わらせるのではアマチュアもアマチュア。鮫島はプロの勝負師であるのだから……二度同じ敗北は許されない。あらゆる結果を分析し、糧にしなくてはならないのだ。

 そして、鉄は熱いうちに打つに越したことはない。


(何故だ……何故俺はまた奴に、クソガキに再度敗北した……。勝敗を分けたもの……それは、奴の『ポイポイ』時点での異常な勝率だ)


 蓋を開けてみれば、リッカ攻め手7回、アイコ手1回、鮫島の攻め手1回。リッカ攻め手率77.77%、アイコ率11.11%、同じく鮫島攻め手率11.11%。勝ち負けアイコが綺麗に33.3%ずつになる筈のジャンケンとは思えない偏り方である。


(だが、裏を返せば『偏り』の範疇を出られていないとも言える)


 そう、リッカは別に常勝している訳ではない。全9ゲーム中、回数は少ないがアイコや鮫島が攻め手のタイミングもあった。


(つまり、奴も勝敗を自由自在に操れる訳ではないんだ。奴の技術は、自分がより有利になる確率を高めるだけ……。つまり、試行回数に比例し、必然俺が攻め手に回る機会が訪れる……だから奴は俺を挑発し……長期戦を避けたんだ)


(……加えて、これは予想……というより希望的観測だが……。回数を重ねる程に俺が奴の『勝率を高める技術』の秘密に気が付く確率が増えるんじゃないか? だからそれを嫌って……短期決戦を挑んだんじゃあないか?)


 この想定が正しければ、リッカは『鮫島が勝率操作のカラクリを暴く可能性がある』と考えていた訳だ。それはつまり、タネを知っている側からすれば『見れば分かる』程度の仕掛けしかされていないということでもある……!


(となれば、真っ先に思いつくのはコールドリーディングの類。俺自身が、無意識のうちに次の手を予告するようなサインを発していた等だが……)


 でも流石にそれは荒唐無稽だ。

 コールドリーディングは相手の緊張の動作などからブラフの有無などを読み取る技術。具体的な手を予知することは……恐らく不可能なはずだ。ましてや、鮫島は一応プロの勝負師であり、そういう反応が態度に出さないためのトレーニングも積んでいる。


 もしや、右手と左手で出す組み合わせが重要なのか? 右手側の手が出た時点で左でなにが出るかある程度傾向があるとか……。


 右手側の手が出た時点で……。

 右手側が出た時点で……。

 右手の時点で……。


(…………ん?)


 ふと到来する、正体不明の違和感。

 実際に、口ずさんで、やってみる。


 ジャンケンポイポイどっち出すの。こっち出すの。

 ポイポイ。

 右手、左手。

 ポイで右手でグーなりチョキなりの手を出し、次のポイで左の手を出す……。


(あ……ああああーーーー!?!?)


(おおお、俺は、俺は馬鹿か!? いや、馬鹿だ!! 大馬鹿だ俺は!! 余りにも阿呆すぎるだろ!!)


(だってコレ……先に右の手が見えてるじゃあねぇか!!)


 そう、『ジャンケンポイポイ』のリズムに合わせて手を出せば、1秒足らずではあるが、二つの手を出すのにタイムラグがある!


(読みでもなんでもねぇ、ただシンプルに、相手の右の手を見てから自分の左の手を選ぶ……ただそれだけのこと!)


 気がついてしまえば、どうということはない。子供でもできる簡単なトリックだ。

 基本的に、相手の出した最初の手に勝てる手を出せばいい。もし最初の手の時点で相手に勝っていたなら、次手は相手の初手と同じ手を出す。これを守るだけで50%の確率で攻め手に回ることができ……そして受け手に回ってしまう確率を約17%まで減らすことができる。


====(例)======

 AとBが対戦し、Aのみがリッカの戦法を、Bはランダムに手を出した場合を想定(ただし左右の手がかぶるパターンは考慮しない)。なお、1度目の「ポイ」で出す手を初手と表現する。

(パターン1:初手でAが負ける)

(1) Bが攻め手

 A:グー&チョキ

 B:パー&グー

(2)Aが攻め手

 A:グー&チョキ

 B:パー&チョキ


(パターン2:初手でAが勝つ)

(1) 同手によりあいこ

 A:グー&チョキ

 B:チョキ&グー

(2)Aが攻め手

 A:グー&チョキ

 B:チョキ&パー


(パターン3:初手があいこ)

(1) 同手によりあいこ

 A:グー&パー

 B:グー&パー

(2)Aが攻め手

 A:グー&パー

 B:グー&チョキ


全6パターンの内訳。

 Aが攻め手:3パターン……50%

 Bが攻め手:1パターン……約17%

 同手によりあいこ:2パターン……約33%

===============



「リッ、リリリリ、リィ〜〜〜〜!!!!」


 リッカ、てめぇなんてことを!

 ……といった旨の発言をしたいが、言葉が喉を通らない。

 それも当然。だって、「なんてことを」も何も……リッカは普通にゲームをしてただけ! 何もしてない!

 沈没していたのは鮫島ただ一人。勝負という名の大海で、獲物を狙って回遊していたつもりが……実際は海底に沈む石礫(いしつぶて)! 自分の周囲の水の流れを見て、自分も自由に泳いでいると錯覚していただけの……間抜けで、哀れな、雑魚未満!!


「リンリンリンリン、鈴虫さんですか〜? ……魚の餌が、気安く人の名前呼ぼうとしないでくんない?」


 床に膝をつく鮫島の背中に、ドカッと衝撃が走る。

 リッカに蹴り飛ばされたその衝撃で、鮫島、床に突っ伏すように倒れ込み、額を強打!

 

「リ、リッカぁ〜。てめぇ、一体何をしたぁ〜」

「何をした!? いまアンタ何をしたって言った!?」


 腰に、2度目の強い衝撃!

 リッカが鮫島の背に足を乗せ、踏みつぶす!

  

「さっき自分でポイポイ小声で言ってたろ! 気づいてんでしょ左右の時間差のギミックに〜! 『なんかもっと凄いトリックがあるのかも』っていう展開を期待すんなハゲ!!」


 全くもってその通り!

 鮫島、このような凡ミスを認めたく無さすぎて……無意識に、『何をした』などと他のトリックがある可能性に賭けてしまう! まさに、負け犬の所作!!

 

「あのさ……昨日やったのはジャンケン、今日のはジャンケンポイポイ……別ゲーだよね? なんで、ルールとソレがもたらす影響の確認が甘いまま勝負したの? なぜ吟味しなかったの? なぜ理解出来なかったの? 相手が持ちかけてきたゲームなんだよ? まずはその仕組みを疑いルールを100度反芻し……それで初めて土俵に上がるか考えるべし……。小学生でも出来るんだよこのくらいは……強いとか弱いとか、雑魚とか関係なく……!」


 背中を踏みにじる、リッカの足。

 その踵から生えた巨大な氷柱のヒールが、鮫島の心臓をグリグリとほじくり突き刺す! そんな錯覚!

 今日顔を上げられないのは、リッカのプレッシャーというより、自身の勝負師としての矜持から……とても世界を直視できない!!


「ルールだよ、ルール、ルール! 大事なのはなによりもルール! 参加者全員に課せられる公の制約……しかしそれを平等なものにするかは、個々の技量に委ねられる!

 今回のアタシの技、まさか卑怯とは言わないよね? オセロのロジック、将棋の定石、麻雀の牌効率! それらと何と変わらない、勝つための技術! 基礎も把握できていない初心者でも勝てるゲームがしたいならコイントスでもしてれば? それでも今のアンタには負ける気はしないけどね!」


「お、おおおおぉ〜〜……うおぉぉお!」


 ぐわんと腕を震い、リッカを跳ね除ける鮫島。

 リッカはキャっと小さな悲鳴を上げて、尻餅をついた。


「ちょ、なに暴力!? サイテー!!」


「お、おおおおお〜……教えろリッカ! テメェの通ってる中学を! 通報してやる、深夜に彷徨いてるガキがいるってなぁ!」


「はぁ〜〜〜〜? 家泊めるんじゃ無かったの? え、なに、約束無視? 契約反故? ダサッ、ザコッ、哀れで見苦し〜。その神経理解不能!!」


「違う! 家には泊めよう……だがこれは保護! 反故ではなく保護! 年端もいかぬ女のガキが深夜に彷徨くなど……危険、事件、不健全! 善良な一市民として、世のため、人のため、そしてお前の為に! 学校に異常な事態を報告し保護を依頼するんだ!」


 鮫島、狂乱!

 通報など以ての外という認識を(リッカ)と共有しているにも関わらず……自ら、その終わった話題をほじくり返す愚行!!

 これにはリッカも呆れ顔……と思いきや、彼女は少し思案に耽るような顔をして、小さくため息を吐いた。


「……はぁ〜、クソダサ。でも理屈としては通ってる……かもね。いいよ、認めてあげる……というか受けてあげるよ、次の勝負を」


「次の、勝負だと……?」


「そ。どのみち今夜は大人しく泊めてくれるんでしょ? だから、勝負は次に来た時……雑魚島が勝ったら学校について教えてあげる。でも対価は相応に……。つまり、アタシが買ったら……雑魚島、アンタの職場とその連絡先、教えて貰うよ!」


「!!!!」


 その条件は、鮫島の急所!!

 へぇこちらケチなヤクザでございやして、とのたまえば最後、お縄が掛かり首が飛ぶ。

 数時間前に聞いた、「隠遁を貫けなきゃ、鮫の餌よぉ」という鎌堀の冗談が、脳裏に木霊する。

 即ち、余りにもハイリスク!


「いいだろう! 飲むぞ、その条件!」

 

 が、鮫島なんと受諾!

 精神の乱れ故か、それとも危機感が麻痺しているのか……いずれにせよ、勝負師の狂気が飛ばせてしまう。後戻りできない奈落の裂け目を!


 薄い唇の隙間から、ニヤリと牙を覗かせて、不敵な笑みを浮かべるリッカ。

 

「おっけー……。忘れないでよ、この約束」


 それは逆襲の序章か、それとも狩りの始まりか。

 ……ただ、交わされたのが悪魔との契約であることだけは確かであった。



【第三夜:指スマ、いっせーの、あるいはボマー に続く】

 

お読みいただきありがとうございました。

コメントや評価は、どんなものでも頂けるだけで嬉しいです。


とりあえず今回で章の終了ということで、続きの投稿日は一旦未定となります。

次回も何卒よろしくお願いします。

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