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29.√〈失望の魔王と勇者〉

 〈破戒の魔王〉・カミュとの契約を果たそうとした瞬間、シエルの声が聞こえた。




「馬鹿クロイ!!」




「…シエルか?」




 後ろを振り向くと、普段見ているシエルの姿があった。カミュはシエルを見るなり、僕から離れた。




「ッチ。良いところだったのによ」




「君さ。なんでも巻き込まれるの体質なのかい? 別にいいけどさ。でも、他の魔王と契約なんてシャレになんないから。しかも、ゲス野郎にも捕まりそうになるなんて……。あたしが来なければ、クロイは死んだと当然。身体を乗っ取られて、一生こいつに利用されるだけだよ」




 シエルは僕の左手を握ってきた。しかし、その手はかすかに震えていた。




「シエル……」




「クロイ。こいつについて行ったらダメだ。あたしの傍からいなくならないで。お願いだから」




 初めて、シエルがこんなに弱々しいところを見たのは。




「すまなかった。シエルの気持ち、何も考えていなかった」




「……いいんだ。こうして、クロイが目の前にいる。それだけでいい」




「そうか」




 僕はシエルの手を握り返し、頭を撫でた。




「生きていたのかよ。〈失望の魔王〉……シエル・ブランウェン」




 カミュの口から、シエルが〈失望の魔王〉だという事が知らされた。僕は動揺は一切見せずに、シエルの手を握ったまま、カミュに向き合った。




「驚かない…のかい?」




 澄んだ声で、僕に問いかけてくるシエル。静かに頷くと、少し安心したのか、口元が綻んだのが見えた。




「シエルは、シエルだからな。例え〈失望の魔王〉であっても、僕はシエルの味方でいる」




「クロイ……」




「ッチ。スノーバーグを滅ぼしかけたあの時、小娘を庇って、俺に心臓を握りつぶしたはずなんだけど?」




(心臓を!? でも、シエルは生きている)




 シエルを横目で見ると、さっきまでとは違う余裕の笑みを見せていた。




「あー、あれかい? 死んだことがない君にはわからないか」




「んだと?」




「〈魔王〉になった者は、〈不老不死〉になるのさ。それを今まで知らなかったのかい? 馬鹿だねぇ~」




 呆れた顔をするシエルに、カミュは苛立っていた。




「そうなのか?」




「そうだとも! 後であたしの話を最後まで聞いてくれるかい?」




「勿論だ。ルキアたちも含めて話を聞こう」




「フフッ。クロイを見つけて、本当に良かったさ。さて、まずは、この精神世界から出ることに専念しようか!」




(精神世界から出る方法を見つけなければな)




「クロイ・シリルだけ置いていなくなれよ! 〈失望の魔王〉如きがっ!!」




 カミュは声を荒げ、右手から鎖を出し、シエルに向けて放った。迷いなく腰から〈エクスカリバー〉を鞘から引き抜き、鎖を斬った。




「なっ!?」




「僕は、()()()の所には行かない。シエルと共に、生きる。契約するなら、シエルを選ぶ!! シエルが何を求めて、何を手に入れるかはまだ聞いてはいないが、それでも! 僕はシエルと共に旅をし、世界の真実を知った後、シエルが僕と一緒に居たいって言えるような世界を創る!! 例え、()()()()が邪魔しようとも!!」




 〈エクスカリバー〉を胸の前に構え、その手にシエルの手が重なると、剣が光り輝き、自分とシエルの魔力が剣に流れたことを示した。それを見たカミュは、自身の身体から鎖と、地面から黒い手を出し、全力で僕たちをこの精神世界から逃がさないようにとしてきた。




「〈失望の魔王〉の権能を忘れたのかい? アタシよりも弱い。いや、〈魔王〉の中で一番弱いくせに」




 シエルはカミュに悪意のある言葉を吐き捨て、自分に全て攻撃が当たるようにしたのか、カミュの攻撃と黒い手がシエルの方に向かって攻撃を食らったが、ダメージを受けずに無傷で、僕の横に立っていた。




「権能・〈果てしない命(イターナル)〉!? 一度きりじゃないのか?」




「回数制限はあるけど、()()()()とは前に言ったことないけど?」




「このクソガキがッ!!」




 カミュは今度こそ僕に狙いを定め、鎖を飛ばしてきた。




 だが、〈エクスカリバー〉に魔力が溜まったのを確認した僕は、彼に向けて詠唱を唱え、シエルと()()()()を放った。




「───数多を駆け抜ける竜の息吹。それぞれの願いと夢を叶えるために、我らに手を貸し給え! 〈エクスカリバーン・オリジン〉!!」




 星のように流れる光の波動が、鎖ごとカミュの胸を貫通した。口から大量に血を吐き出し、その場に膝を崩しながら胸を押さえるカミュ。




「カハッ!!」




「あたしは、クロイと一心同体なのさ。だからこうして、魔力を受け渡すこともできるのさ。もう二度と、()()()()()()()に手出ししないでくれると、ありがたいかな?」




「絶対に、クロイ・シリルをッ! 手に入れるッ!! 絶対にだッ!!」




 カミュは、僕に手を伸ばしながら、言い捨てると共に、精神世界が崩れ始めた。




「ここからやっと出れる」




「そうだとも。クロイ、あたしの話を元の世界に帰ってから、ちゃんと聞いてくれるのだよね?」




「あぁ。約束だもんな」




「フフッ。これで、色々と楽になれる。現実世界(あっち)で、先に待っているよ」




 シエルの言葉を最後に、僕は意識を手放したのだった。

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