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01.〈幻影都市・エレドリヌ〉

 迷い子と名乗る少女・シエルと出逢い、僕たちは世界の真実を知るために、旅をすることになった。元々は勇者としての役目として、魔王討伐を王様に命じられ、国を出たばかりだった。








 勇者の血が覚めたのせいで、皆僕を尊敬などの感情を表にして言葉を発するが、その言葉は「嘘」で創り上げられていることに気づいてしまった。








 そして───恋人であった彼女の言葉や愛情も、全て「噓」だということも。








 だから僕は、魔王討伐を機に、国から姿を消した。








 旅の途中、シエルと出逢い、嘘偽りを感じない彼女から「魔王が世界を脅かす原因なのか」と、自分と同じ考えを持っていることを知り、世界の真実を知るために、シエルと共に行動することに決めた。








「それで、僕たちはこれからどこへ向かうんだ?」








 僕の前を歩くシエルに尋ねると、最初から分かっていたかのように僕の質問に答えた。








「幻影都市さ」








「幻影都市……」








「そうさ! 幻影都市と言えば、あそこさ!」












〈幻影都市・エレドリヌ〉












 あの場所は、街全体が霧に覆われ、光のない空間で人々が暮らしているという噂。








「霧に覆われている都市……。何故、そうなってしまったのだろう」








「皆、()()()()()()と言うだろうね~」








(魔王がそんなに邪魔なのか)








 本当に、何にもかも魔王が悪いのかと疑ってしまう。それに、シエルが言うと、全て事実にしか聞こえない。今のところ、この子の言っていることが「嘘」のない言葉であること。








 そして、幼女の体つきではあるが、話し方や雰囲気が大人びている。








 自ら「迷い子」と名乗っているが、魔王との接点があるのかもしれない。








 そうだとすれば、僕は尚更この子を知らないといけないし、見過ごすことなんて出来ない。








「クロイ? どうしたんだい? ぼーっと、しちゃってさ。あっ、もしかして! あたしのこと、見惚れたのかな~? きゃー、クロイったら大胆~」








「いや、ありえないからな」








(幼女に見惚れるって、男してあってはならないだろ……)








 僕の腕にくっついてきたシエルを横目に、小さくため息を吐いた。








「えぇー。クロイのケチー。乙女心分かってないから、彼女にも振られるんだよ」








「一言多い」








 幼い頃から僕は、人より口数が少ないが、勇者となってからは、心を閉ざすように自然と口数も減っていった。恋人がいたのは、ある意味、奇跡としか言いようがない。








(だが、結果的に僕だけを愛してはくれなかったけどな)








 事実を受け止め、内心落ち込んでいると道端で女性が倒れているのを発見した。








「おい、大丈夫か! 意識があるなら返事をしろ!」








 僕は女性の肩を少し揺らすと、女性はゆっくりと目を覚ました。








「おっ、起きた~。君、こんなところで寝ていたら、危ないじゃないかな? エレドリヌに行く道は、奴隷商人らが出没しやすい。寝るんだったら、宿に泊まった方がいいよ~」








(いや、そういう問題か?)








 シエルの言うことに心の奥で突っ込んでいると、長く綺麗に整った睫毛(まつげ)が微かに動いた後、目を覚まし、黄金の瞳と目が合った。








「ここは……?」








「エレドリヌに続く道」








「エレドリヌ……。あっ、もしかして。貴方方は()()()()でしょうか?」








(僕のことを知らないのか?)








 本来、僕は勇者だということがバレることが多い。この右腰にある四英雄の剣の一つ〈エクスカリバー〉で皆、僕が勇者だと確信する。








 だが、この銀髪の女性は本当に、僕のことを知らないみたいだ。







 僕は、そのまま彼女の問いに頷いた。








 すると彼女は、僕の両手を握り、黄金の瞳を大きく見開き、助けを求めてきた。








「お願いです! エレドリヌを元に戻すのに、お力をお貸しください!!」








「お嬢さん。お名前は?」








「エレインと申します」








 銀髪の女性は、白いローブのフードを下ろすと、隠れていたエルフの特徴的な尖った耳が露わになった。肌も色白く、この世に存在しているのかと思えるくらい、とても美しく綺麗な女性だった。彼女に目を奪われていると、彼女は少し困った表情を見せた。








「あの……」








「すまない。それで、エレドリヌを元に戻すとは?」








「ご存じだと思いますが、エレドリヌは五百年前ほどから光を失い、都市が謎の霧に覆われました。私は、エレドリヌにある死者を弔う大樹の木を守る者〈守り人〉。先祖代々から受け継がれています。私の母が亡くなったのと同時に、光を失ってしまい、私は母の代わり〈守り人〉となったのです。大樹の木は枯れ果て、大樹の木を蘇らせるために、色々やってきましたが……」








(無駄だった。か)








 大樹の木は見たことはないが、小さい頃に本を読んだことがあった。








 彼女の言う通り、大樹の木は死者を弔う役目を果たしている。だが、〈守り人〉が存在しない大樹の木は枯れ果て、()()()()()()()()()()()








 おそらく、彼女の母親が未だに〈守り人〉だったことになっており、エレインのことを新たな〈守り人〉として大樹の木が認めていないのだろう。僕は彼女に憶測を告げた。








 すると、エレインは自分が原因だということに気づき、目に涙を浮かべた。








「な、何故私が……。〈守り人〉に認められていないの」








「それは分からないけど、一旦エレドリヌに向かった方がいいかもしれないね?」








 シエルはエレドリヌがある方角に指を指した。








 目線を向けると、霧が近くまで迫っていた。エレインは霧を見た瞬間、僕とシエルの手を握った。








「どうかお力をお貸しください! このままだとエレドリヌが危険です! 他人事だと思いますが、私にとって、エレドリヌは大切な故郷なのです……。お願いします! お礼はなんだってします!」








 僕はシエルをチラッと目を向けると、『いいじゃないか』と口パクで言った。僕は彼女のお願い事を、聞くことにしたのであった。

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