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 いつからだろう。








「勇者様ー!!」








「クロイ様! もう魔物討伐からお帰りになられたのですね! 流石! 勇者・クロイ様ですな!!」








「お帰りクロイ! 早かったのね! ねぇ、今日の討伐はどうだったの? 大変だったでしょ~。でも、クロイは()()だもんね! 私も勇者・クロイの彼女として、もっと頑張らないといけないね!」








 あぁ。僕が()()として目覚めた時からか。恋人を護ろうと、危険な魔物に立ち向かったあの日から、全て変わってしまったんだ。








 子供の頃は、皆と同じ平民だった。無邪気に遊び、学んで過ごしてきた。だけど、僕が16歳の時。先祖代々の勇者の血が目覚め、騎士でも倒せなかった魔物に勝利し、今目の前にいる恋人を護った。








 それが、全ての始まりだった。








「勇者様ー!!」




【こうやって言っておけば、いいんでしょ?】







「クロイ様! もう魔物討伐からお帰りになられたのですね! 流石! 勇者・クロイ様ですな!!」






【クロイの奴、もう帰ってきたのかよ。はぁ、勇者勇者って言っておけば、全て丸く収まるから、良いか。でも、めんどくせぇな~】








 街の中で会った人々の声が、「嘘」に聞こえてくる。それは、彼女も例外ではない。








 でも、彼女だけの言葉を「嘘」だと信じたくない。








 唯一、僕を見守って来てくれた大切な人だから。
















───でも、僕が魔王討伐に旅立つ前の日。




 彼女が「噓」をついていたことを知ってしまったせいで、この世界の全てが「噓」だけで創り上がっているのだと、確信してしまった。








「勇者・クロイよ。お主に魔王を討伐してきてほしい」








 僕は、王様に魔王討伐を頼まれ、いつ帰ってこれるか分からない旅に出ることとなった。もしかしたら、もう二度と帰ってこれない可能性も高い。








 だから僕は、彼女にそのことを言おうと、家に帰った。








 それが、間違えだった。








 家に帰ると、彼女の部屋から男性の声と、彼女の(みだ)らな声が、かすかに聞こえてきた。僕は、そこで全て悟った。彼女が()()()()()という立場を利用し、裏では僕以外の男と交わっていたんだと。








 ただ単に、僕は利用されただけなんだと。








 今までの『愛している』『私はクロイの味方だよ』という言葉。








 そして、昨日の言葉の意味が……。








「お帰りクロイ! 早かったのね! ねぇ、今日の討伐はどうだったの? 大変だったでしょ~。でも、クロイは()()だもんね! 私も()()()()()として、もっと頑張らないといけないね!」




【もう帰って来たんだ。いくらなんでも早すぎない? あーあ。他の男と遊べないじゃない! 勇者なら、とっとと旅に出て、一生帰って来ないで欲しいわ。勇者に見捨てられた女という立場を得て~。みんなから同情してもらってぇ~。そんでもって、あらゆる男たちから、求められる。良いわぁ~! 早く、居なくなって欲しい!】








 彼女の隣の部屋で、静かに物音を一切立てずに、引きこもり、羽根布団で身を隠し、その一日は隣から次第に大きく聞こえてくる彼女の淫らな声を遮断するかのように、両手を耳に当てながら目を瞑った。








 そして、静まり返った夜明けとともに僕は、この国から姿を消した。















 国から姿を消した僕は、王様から命令された通り、魔王討伐に出る旅に出た。もう二度と、あの場所へ帰ることはないだろう。もし仮に、帰ったとしても、僕の居場所はどこにも無いだろうし、誰も僕が帰ってきたことに対し、喜びもしないだろう。








 魔王討伐が終わったら、何処か静かな場所で、ひっそりと暮らしたい。王様も、この国から消えて欲しいと思って、魔王討伐を命じたのだろう。








 あぁ。本当についてない。勇者としての血が目覚めなければ、今頃は……。








「君は、()()なんかじゃない。()()になる資格があるのさ」








(な、んだ……。この子は)








 黒髪の少女が耳元で呟いてきた。背後から手を首に回し、蛇の様に絡みつく視線を浴びた僕は、とっさに腰から剣を引き抜こうとした。








 すると少女は、僕から距離を取り、何事も無かったかのように、淡々と話し始めた。








「あたしは、シエル。この世の全てを知り尽くしてしまった迷い子。君はクロイ・シリルだね?」








「知って……いるのか?」








「勿論だよ! 君は、勇者・クロイだもの!」








(この子も、()()》として僕を認識しているんだ)








 僕は、シエルと名乗る少女に何が目的なのかを聞くことにした。僕が《《勇者》》なのだから、街にでも寄って欲しいとか、自分と出会ったことを誰かに自慢したいだけなのだろう。








「違うよ~。あたしは、クロイのことを()()としてなんか見てないよ?」








「なっ!?」








(僕の心の声が聞こえるのか!?)








「うん。あたしはさっき言った通り、この世の全てを知り尽くしてしまった迷い子だよ? ()()()心の声が聞こえるせいで、こんな風になってしまったんだ~。君と同じ、嫌われ者。()()()()()()()()()()()()()なのさ!」








 シエルの言っていることが、イマイチ理解できずにいると、シエルは子供ながらの純粋な笑みを浮かべた。








「今は、理解しなくともいいさ。いずれは、分かることだし。()()としての君は、皆に愛されてきたと思う人たちが多い。でも、君は皆に「嘘」を吐かれていることに気づいた。勇者としての血が目覚めた瞬間から。そのせいで、心身ともに疲労してきている。そんな君に、あたしの知っているこの世の全てを教えたら、どうなっちゃうかな?」








「壊れてしまう」








「大正解! そうなってしまうのは惜しいから、一つだけヒントをあげるよ!」








 シエルは僕の首に、両腕を回し、耳元に唇を寄せた。








()()は本当に、世界を脅かす存在かしらね?」








(僕の考えていたことと同じだ)








 王様に呼ばれ、魔王討伐を命じられたとき、王様の「嘘」を見抜いていた僕は、心の奥底で、本当に魔王が存在しているのか。存在していたとしても、魔王が世界を脅かす存在なのかと思っていた。








 魔王も、人間だ。








 魔王と名乗っているとしても、僕らと同じ人間なのだから、討伐なんて物騒なやり方をしなくてもいいのでは? と、思ってもいたが、王様の命令を逆らえずにいた。








「フフフッ。君と考えていることは同じさ。魔王が世界を脅かしているのかを知りたいかい?」








 シエルの言葉に頷く。僕が頷くことを見越していたのか、悪魔のような微笑みを見せた。








「いいよ。知りたいことがあれば、自分の目で見てくるといい。そのためには、あたしもついて行くよ。全てを知り尽くした後の、君の顔が見たいからね」








「……シエル。君は一体、何者なんだ?」








 シエルの血の様な色づく瞳を見つめた。




























 ただの迷い子だって。よろしくね、
















































───クロイ・シリル

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