オマケ:つきピが祠を壊した場合
日曜日、友達と公園でテニスをしていた。
「いっくよー!」
「いつでも来い!」
「えいっ」
……祠を壊した。
私が打ったサーブはあさっての方向へ飛び、近くの神社の祠の屋根にめり込んだ。寂れた小さな神社で、人はいない。
友達はボールが屋根にめり込んだ直後に、なぜか意識を失い、倒れてしまった。
「ど、どうしよう。このままにして帰るわけにはいかないし……」
そこへ、
「ありゃりゃ。つきピ、やっちゃった系?」
「なーたん!」
振り返ると、見覚えのある派手髪ギャルっ子が立っていた。
彼女はなーたん。以前、お化け屋敷で助けてもらった。怖いものが得意な子で、今も私が壊した祠を興味深そうに観察していた。
「こりゃヤバいねー。神っち、激おこだもん。つきピ、このままじゃ祟られるかも」
「わざとじゃなかったの! ちょっと力んで打ったら、こんなことになっちゃって……私、どうしたらいいかな?」
「……踊るっきゃないよね」
「お、踊る?!」
動揺する私をよそに、なーたんは黙々と撮影の準備を進める。祠の前に三脚を立て、スマホをセットした。
「この前の神っちと違って、ここの神様はわりかしまともだからさー。せーしんせーい謝れば、許してくれるって」
「だからって、何で踊り?」
「ほら、踊ればなんでも解決する空気あるくない? アニメとか映画とかさ」
「現実で踊って解決したとこ、見たことないよ?」
「で、どの曲踊る? この中ならなんでもいいけど」
なーたんが見せたのは、某動画アプリで流行っているダンス曲の一覧だった。
もうどうにでもなれと、今度友達と踊るために覚えたアイドル曲を選んだ。手でやる、ケモミミポーズが可愛い。
「おけまるー。んじゃ、踊るよつきピ! 神様、鎮まれーってかんじで!」
「わ、分かった!」
「あ、カメラじゃなくて祠のほう向いてね? 神っちに見せる感じでよろ」
「背中だけ撮るダンス動画って斬新だね……」
私はなーたんと踊った。日が暮れるまで、何度も踊った。神様が許してくれたかどうかは分からないけど、なーたんと踊るのは楽しかった。
公園に戻ると、倒れていた友達が意識を取り戻していた。ベンチに座り、のんきにジュースを飲んでいた。
「あんた、どこ行ってたのよ?」
「なーたんと神社で踊ってた……」
「なんで?」
☆
あれから何日か経った。特に祟られている実感はないけど、ちょっとした事件はあった。
私となーたんが祠の前で踊った動画がバズった。カメラを背に、祠に向かって踊るという奇妙な絵面のせいではない。
映っていたのだ。
祠の屋根の上に座った、神っぽい格好をしたお爺さんの姿が。私は踊るのに必死で、お爺さんに全く気づかなかった。
お爺さんは最初、すごく怖い顔をしていた。
でも、だんだんと表情が和らぎ、日が暮れる頃には松明をサイリウムのように振り、ヲタ芸を披露するまでになっていた。
最後のダンスが終わると、
「許す! ケモミミ最高!」
と、満足そうに姿を消した。動画をキッカケに、あの神社はにぎわうようになった。
ちなみに、神社の管理先に連絡したところ、祠の屋根は無償で修理してもらえることになった。「わざとじゃないんだから」と許してもらえた上に、なぜか感謝までされた。
「あのなーたんさんに踊っていただけたなんて感激です! むしろ、お金払わせてください!」
踊っただけで感謝されるなんて、本当になーたんって何者なんだろう?