1、勘違いへの第一歩
転生したら少年漫画のような世界だった。
前世、少年誌を歩き読みしていると居眠り運転のトラックに轢かれてあっけなく死んだ。
そして異世界に生まれ変わったのだ。黒瀬まくという名前で。
異世界とは言っても言語は同じ、文化もほぼ同じ。国の名前が少し違うだけ。そのおかげでそれほど抵抗もなく第二の人生を受け入れることができた。
ある日、大学生活のため引っ越してきた荷物を整理し終え、ふとテレビをつけると元気な少年と少女たちの友情努力勝利をテレビが映していた。そういえばこの世界は数年前に魔物が現れ、それと同時に超能力を使う者が出てきていたことを思い出した。当時は受験勉強に追われ考える暇もなかったが、あの時から初まっていたのかと感動を覚えた。
あの日ほど両親に感謝した日はなかった。
すぐさま両親に電話をかけ、この世に産んでくれた感謝を伝えた。両親は唐突な感謝に困惑していた。
その後、自分にも何か超能力があるのではと色々試したが何も起きず、虚しさだけが残った。そして自分は何もないのだと絶望した。
その絶望から立ち直れず、大学ではボヤァっと生きていた。誰が何を話しかけてきてもボヤァっとしていた。そうしてようやく立ち直った頃には自分の周りには誰もおらず、友達0人のぼっち生活の始まりだった。
その日は大学が終わり好きな漫画の新刊が出るからと本屋に寄った帰り道だった。
早く読みたくて視界に入った廃橋で読もうと狂ったことを考え、入るとそこには黒いもふもふがいた。
何だろうと近づくともそりと動き出した。あ、これ魔物だ。
そう気がついた瞬間ヒッと悲鳴を上げると小さな魔物もなぜか“きゅっ”と悲鳴をあげた。そして数分間お互い見つめる謎の時間が続く。
いくら小さいと言っても魔物は魔物。動けば死ぬと小さな魔物を見つめ続けていると魔物の腹がぐうと鳴った。そしてゆっくりとこちらに近づいてくる。
食べられるかもしれないと後ずさりし、カバンに何かないかと漁ると昼に食べなかったおにぎりがころりと出てきた。
「おにぎりでも食ってろ!」
そう言っておにぎりのフィルムを剥き、魔物の近くへと投げた。魔物は少し匂いを嗅ぐと美味しそうに食べ始める。その隙をついて俺は一目散にその場から逃げ去った。
死にかけるかと思ったが何とか生きている自分に安堵しつつ明日は廃墟の近くを通らないように回り道して帰ろうと心に決めた。
次の日。大学で今日も今日とてぼっち生活を送り廃墟の近くを通らないように帰っていた。昨日のこともありあまり寝れなかったせいで睡魔が襲いあくびをする。
ふと何か物音が聞こえ、立ち止まるが何も見当たらない。夜ということもあり人がいない状態に少し寒気を感じ早く帰ろうと一歩進んだ瞬間、何かに後ろから押された。
そして、目を開けると廃墟のようなところに飛ばされていた。昨日の廃墟とはまた違う廃墟に。ここはどこなのだろうとあたりを見渡すとふと視界の端に何かが映った。
魔物だ。
目の前には昨日の小さい魔物とは比べ物にならないほどの魔物。
魔物がバンッと腕のようなものを振り下ろし俺を潰そうとしてくる。ギリギリのところで逃げたが足がもつれ転んでしまう。あ、死んだ。俺の一生、思ったより短かったなぁと悟る。
その瞬間あのテレビで見た少年少女が魔物を吹っ飛ばしていた。
「大丈夫ですか? 僕は神大日向。あなたを助けにきました!」
キラキラとした表情で俺を見つめる少年の頭を少女が叩いた。
「ちょっと私もいるんだけど?」
「あ、湊。ごめん!」
仲良さそうに話す二人に少し安心するが後ろから魔物が迫ってきている。
危ない。そう言う前に二人は魔物を吹っ飛ばした。
「へ……」
「安心してください! 魔物は倒しましたから!」
「……あぁ、ありがとう。君たちは、もしかして魔物を倒してる人たち?」
「そうです!」
「そうか。君たちが……」
(この世界の主人公とヒロインか!)
そう言いたい気持ちをグッと堪え誤魔化すように微笑む。先ほどの絶望から打って変わって俺の心には幸福感が満ちていた。
「ところで何であんたはここにいたの?」
「さぁ、何でだと思う?」
喜びの感情を隠すように返事をしたせいで少しおかしな返答をしてしまった。でもまじで理由を知りたい。だっていきなりここにワープしたんだから。
「誤魔化すつもり? そこのお人好しの日向は忘れてるようだけど、この異空間に来るには超能力を持っているか魔物に縁がないと入れないのよ!」
「あ! 確かに! 忘れてた……!」
「全く。で、超能力を持ってるなら私たちにはわかるはずなのよ! だって超能力者同士は把握できるはずなんだもの!」
「それにこの空間に縁があるってことは魔物と縁がある。つまり魔物に気に入られないとだめ。でも魔物は人を好意的に見ることなんて早々ない……」
「ほら怪しい! 何隠してるのよ!」
二人が長々と喋っていたが昨日のせいであまり寝れていなかった俺は半分をほど寝ており話を聞いていなかった。せっかくの主人公(多分)とヒロイン(多分)の言葉をききのがしてしまった後悔に襲われる。
とにかく何か隠していることを話せばいいのかと考える。あ、昨日魔物にご飯あげちゃったな。あれはもしや警察のお世話になる行為なのでは。しかもそのことがもしやバレている?
言い訳しないとやばいのでは。そこまで考え急いで言葉を吐いた。
「あぁ、バレてしまったか」
好意的に見えるように少し微笑む。
わざとじゃなかったんだと、自分の命を守るためだったのだと必死で思いながら。
「バレたって、あんた……!」
「もしかして最近、涼が言ってた魔物に通じてる人間がいるかもしれないって、お前のことか!」
「何で魔物側に……!」
え、おにぎり一個あげただけで魔物側だと思われてるの?
早く誤解を解かないといけないと急いで話す。
「(おにぎりをあげた)理由は簡単だよ。俺の(命の)ためだ」
「自分のため……って、あんた魔物がどれだけの人間の命を奪ってきたのか知ってるの!?」
「知ってるよ(ニュースで見たし)でも(おにぎりをあげたのだって)俺の(命の)ためなのだから仕方がないだろ?」
「自分のために魔物たちに命を奪わせているのか……?」
え、いきなり話が飛躍しすぎでは。なんて返せばいいのかわからなくなりとりあえず笑っておいた。すると二人が睨みながらこちらに向かってくる。
「あんたが全ての黒幕ってことね。許せない」
「お前の都合で奪われていい命があるわけないだろ!」
何の話だ。困惑が頭を回っている。怖い顔で近づいてくる二人が怖すぎて動けない。足が固まってる。そんな俺に無慈悲にも徐々に近づいてくる二人に再び死を悟った。すると俺の体がふわりと浮いた。
「なっ!?」
「新しい魔物!?」
え、魔物に俺掴まれてるの!?
助けてほしいと二人を見るが睨んでる顔が怖すぎる。だが命には変えられないと二人に言った。
「また会える日を楽しみにしてるよ」(訳:助けにきてください。お願いします)
助けを願ったはずが余計に睨んでくる二人に心の中で涙を流す。そうして俺はされるがままに魔物に連れて行かれた。
――――――
黒瀬まくは元々言葉たらずだったわけでもない。ならなぜここまで言葉が出てこないのか。
それは黒瀬まくは大学生活中誰とも話さずボッチを極めていた。誰とも話さず大学生活を過ごし続けたせいで言葉が圧倒的に足りない人間へと進化を遂げたのであった。
少年漫画な世界に転生した言葉たらずな俺。主人公っぽい奴らに黒幕と思われているんだが
――――――
ここまで読んでいただきありがとうございます!