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許されざる罪

「ぐわぁああ、罪深きこの身を許してくれ〜」


 真幸たちとそのまま登校してしまい、学校についた俺は机に顔を押し付け、事情は何一つ口にせずに心のままに懺悔した。


 そう、清き心の童貞だった俺はその聖なる輝きを失いそうだった。

 30歳童貞ブラック企業勤めの経験では解決策はなにも浮かばない。


 日記などという高尚なものは存在しなかったので、チャラ男だった俺が本当はなにを考えていたのかもわからないまま。

 ミステリ〜。


 俺自身にこの状況を打開できる能力はないかと、昨日の夜、部屋でスキルのようなものはないか試したのは秘密だ。


 もちろん、何一つなく元のチャラ男の能力の高さを実感しただけだ。

 才能のある身体に転生できたとして喜ぶべきか。


 喜んでいいのか?

 寝取り浮気のクズ野郎ですが?


「恭平が罪深いことはいまに始まったことじゃねぇなぁ〜」

 俺の戯言ざれごとに友人である日渡翔吾ひわたりしょうごが相槌を打つ。


 翔吾は6つ下の弟と妹がいる。

 つまり世話焼きだ。

 去年同じクラスになってから仲良くなったので真幸とも共通の友達だ。

 いいやつだが女っ気はない。

 いいやつなんだけどね?


 まあ、そもそもこのクラスはそんなに悪いやつはいない。

 学校自体がふんわりした雰囲気なのと、高校3年にもなると少しは成長する。


 つまり、俺が1番のクズだということだ。


 全くもってその通りという本音の代わりに俺は違う言葉を放つ。

「えぇ〜、聖人君子の俺にそんなこと言う〜?」

 この身の本体であるオート機能を発揮して、俺にチャラ男らしい言葉を吐かせているのだ。


 記憶の中で俺が姫乃を誘惑してこの関係が始まっている。

 姫乃は詐欺と同じ誘惑に乗せられたということだ。


 もっとも30歳童貞の俺という騙す側は、騙された側の姫乃にメロメロにされかけているのは秘密だ。


 まだイケる、まだ手遅れじゃない。

 ここからでも俺たちは人としてやり直せるはずだ。

 関係的には手遅れだけど。


 その姫乃だがなんと同じクラスであり、クラスメイトの飛田杏香ひだきょうか有田友希ありたゆきと仲良く話をしている。


 なんとこのチャラ男。

 クラスの女子全員の顔とフルネームを覚えてやがる。

 男の半数以上は苗字しか覚えていない。

 実にわかりやすいヤツだ。


「なぁに、熱い視線で水鳥見てんだよ」

「姫乃って可愛いよなぁ」

 俺の身体は翔吾の言葉に脊髄反射でそう返事をした。

 ポロっと。


 おいぃぃいい!

 俺のオートモードチャラ男!?

 息を吐くようにチャラいこと言ってんじゃねぇよ!

 それは心に留めておいて、ふとしたときに漏れ出すもんだろうぅうう!?


 あっ、いまそれで漏れ出したのか。


「可愛いからって手を出すなよ?

 真幸の彼女だからな?」

「ああああ、当たり前だろ!?」


 いま声震えてなかったよな!?


「冗談だ、珍しい反応だな恭平。

 お前はそういうことしねぇよ。

 しっかし、良いよなぁ可愛い幼馴染彼女〜、俺も欲しー」


 その反応を冗談だと思ってくれたらしい。

 こいつもいいヤツかも……。


 チャラ男の友人は親友以外は大体クズなのがセオリーなのに。

 でもごめんな、俺ってそういうクズだったの。


 俺もだが、真幸と姫乃は去年同じクラスだったが、クラス公認の仲良し幼馴染カップルとして、その地位を確立していた。


 飛田杏香ひだきょうか有田友希ありたゆきも去年も同じクラスで、あの2人を応援していた。


 だが俺と姫乃は裏では寝取り浮気をしている。

 もう人を信じることができなくなりそうだ。

 自分のことだけど。


「顔色、悪そうよ?」

「委員長〜」


 またしても自己嫌悪に机に寝そべる俺の顔を、知的なメガネ美人が覗き込んできた。

 門脇千早かどわきちはや、高校1年から同じクラスだ。


「委員長はやめて」

「ごめんごめん、千早」


 1年目は図書委員、2年目と3年目はクラス委員長だ。


 1年目はガリ勉的な図書委員の似合う大人しい子だったが、徐々に雰囲気が変わり始め2年の夏休みを終わった頃には今のような知的美人に変わった。


 元々の容姿は良かったが、ふとした仕草とか表情が変わったことで雰囲気的に垢抜けたという感じ。


 チャラ男恭平は幾度か千早ちはやとデートもしている。


 去年の夏も数度のデートをしているから、もしやとも思わなくもなかったが、姫乃のときとは違い、記憶の中に千早との肉体関係の記憶はない。


「寝てなくてね〜」

「大丈夫?」

 俺の髪に優しく触れてくる。

 姫乃といい、千早といい、どうにも皆このチャラ男に優しい。


 前世にどれだけの徳を積んだのか。

 あっ、前世ってもしかして30歳まで童貞を貫いた俺か?

 ならば納得だ。


 しかし転生したなら俺は今後なにを目指すか。

 世界を旅して謎を探求するとか、金持ちになってハーレム……はいいや。


 現代においての夢とかかぁ。

 大それた夢とかは今は浮かばない。

 あるとすれば美人の奥さん貰って仕事終わりに出迎えてくれるとか、そういうので十分過ぎるほどだ。


『おかえり、恭平くん』

 頭の中でそう言って出迎えてくれるエプロン姿の姫乃が浮かぶ。


「キモチワルイ……俺が、キモチワルイ」

「えっ?」

「大丈夫かぁ〜恭平?」


 なにを人の……親友の彼女に未来を描いているんだ。


 キモチワルイ。

 自分が。


 徹底的に親友の彼女を寝取って幸せな未来でも描けるつもりか?

 最低のクズ野郎め。


 寝取り浮気に幸せな未来などない。


 当たり前なことだが、寝取り浮気をしたお互いが、まだ別の誰かと寝取り浮気してしまえる。

 そういう精神性なのだから、そんなことができてしまえるのだから。


 寝取り浮気をする奴はどこまでも自分本位で、自分が可愛いのだ。


 そこに人並みの幸せってヤツを描く時点でもう頭がおかしい。


「ちょっと保健室で寝てくる。

 千早ぁ〜、上手く言っておいて」

「上手くもなにも、気分が悪くなったそのままで良いと思うわよ?」


 それもそうか。

 俺は軽く手を振り、口元を押さえて教室を出ていく。


 だから気づかなかった。

 その俺をジーッと姫乃が見つめていたことを。






「はぁ〜……」


 横になると少しは吐き気がマシになる。

 自己嫌悪で吐きたくなるとはよっぽど考えすぎていたか、ただの寝不足だからか。


 保健室には先生も他の生徒もいなかったが、俺の記憶では何度も保健室で寝ている記憶があるので慣れたものだ。


 先生用の机に処置用の台にテーブル。

 ベッドは2つでどちらにも仕切りがある。

 イメージと変わりない保健室だ。


 別に保健室のベッドで女の子とイチャイチャしたりしてるわけではなく、寝不足で。


 今日は寝不足と色々と考え込みすぎた。


 今後のことでもあるが、せめて姫乃にはそういう道から解き放ちたいとはおもっている。

 それが酷く傲慢で身勝手だとしても。


 誘惑されて乗せられて、その過ちで永遠に苦しまなければならないのは悲し過ぎるから。

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寝取り浮気の原罪
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