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そして私は一人という自由に戻る

仙波と白井に囲まれ脅された日から一週間、その間の猪俣はというと、女子には無視され、男子には時々通りざまに小突かれる、そんな目に遭っている。


そして今日は有布子が待ちに待った生徒会の作業日。

一年の作業係となった生徒会役員とその友人の女子数人は、男子がいない作業室に籠っていた。

詳しく言えば、有布子と秋口と秋口の友人四人と田巻を入れた七人だけ、だ。


「田巻さあ、あんたっていじめが本気で好きだね」


有布子が最初に口火を切った。

田巻は有布子を無視しようとしたが、有布子の周りでは猪俣への嫌がらせに眉を顰めるタイプの少女達しかいない。

彼女達が田巻の返事を待っているのだ。


「い、いじめなんかしてないし」


「してるじゃん。猪俣とあんなに仲良かったのに。なに?またあいつの泣き顔が見たいって言ったの?」


「そんなの昔の事じゃない!猪俣の事はあんたには関係ないでしょう」


「昔あんたにいじめられた方としてはさ、同じことまたやってるな、としか思えないわけよ。大体、関係ないだったら、仙波も白井も関係ないだろ?なんで女の喧嘩に男入れてんだよ。あたしにした小学校のいじめと一緒じゃん」


「だから昔の事じゃない。謝ったでしょう?」


「え?あたしが謝らせられたよね。言う事聞かなきゃ殴ってくる先生じゃ、いじめられても謝るしかないよね。それでいじめに味しめたの?根っからいじめが好き?」


「あんたはしつこいよ!昔の事じゃない!関係ない事に口を挟まないでよ」


「うるせえよ、馬鹿。関係ない事に口挟ませたくなかったら、教室でいじめやってんじゃねえよ。男使っていじめしてんじゃねえよ」


「だから、してないって!ねえ、わかるでしょ。こいつは昔っから変なやつで、分かるで――」


分かったのは田巻の方だった。


同じ小学校出身ではなく、いじめを嫌うタイプの大人しい少女達しかいない場であり、彼女達こそ猪俣の不幸を目にしてきたのである。


真っ当な感覚があるならば、他者への虐めは娯楽どころか心への負担である。

止められなければ、自分こそ参加したような罪悪感に見舞われるのだ。

それを田巻は知らなかった。

教えるべき人間があの担任だったのだから。


けれどクラスの女王様に持ち上がっていた人間であるならば、自分の不利な状況こそよくわかっているものである。

悲劇のヒロインぶることに決めたらしい。


「ひどい、言いがかりだわ!!」


「で、白井と仙波に泣きつくの?明日以降あたしが奴らになんかされたら、あんたがやっぱり男使ってるってことになるねえ」


「ほら、有布子、もういい加減にしな。仕事しないとさ」


「ごめん、あきちゃん。何か思い出しちゃって。ドブとか落とされたことを思い出したら、猪俣が可哀想でさあ」


全然可哀想なんて思ってはいなかった。

ただ、田巻にはざまあと思った。


彼女が男を使うから女子は彼女が嫌でも従っていた。

では、そここそ糾弾してしまえば、仙波も白井も田巻への批判を避けるために動かなくなるのではないのか?そういう計算だ。


さらに言えば、田巻嫌いな女子が反旗を翻すきっかけにもなる。

ただし、有布子はまだ中学生だったため、展開全てを読めなかった。


「一緒に帰らない?」


翌日の放課後、猪俣が誘って来たのである。

集団下校など大嫌いな有布子はお断りをしたかったが、いいよ、と答えていた。


女子は田巻への悪口を囁くようになっている。

田巻への恋心が無い男子は女子達の田巻への悪口を聞いて、田巻がひどい奴だったとさらに他に広めている状況だ。

だが、有布子自身のカーストが上がったわけでは無い。

いまだに小学校同級生達には、蛇蝎の如く嫌われ見下げられている有布子であるのだ。


かっての敵だった猪俣と親交を深める方が無難だろうか?


猪俣に良いよと答えたのは、有布子のそういう打算的計算である。


だが、猪俣は思った以上に義理堅かった。

彼女と有布子は中学を卒業するまではそれなりな関係を保てたのである。


友人と書かなかったのは、猪俣は自分へのいじめが消えたと見るや、有布子ではなく教室のカースト上位の人間と帰宅するようになったからだ。

義理堅いが現金で変わり身が早かった。


有布子は再びボッチに戻ったが、久々な一人こそ気分が良いと笑っていた。

誰かを好いてしまったら、自分はこの土地に縛り付けられる。

自分が自由でいられるこの状態が一番幸せだからいいじゃないか、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 羊の刻のほうでは失礼しました。ここまで書いて頂けると、あれはドキュメント(風の作品)だったのだと分かります。 いじめっ子ってのはどの世界にもいるし無くすのは無理ですが、それを助長させるかさ…
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