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生贄の羊

なろうの企画ホラーで書いた部分、そこだけだと昇華できないので最後まで書きました。

昭和の地方の片田舎にて、こんなことが起きていました。

有布子は下校時間が大嫌いであった。

恐怖の時間でもあった。

それは、小学一年生である彼女が帰宅するには、集団下校をせねばならないからである。

朝も集団登校となるが、有布子は朝の登校は嫌なだけだ。

朝の登校は全ての学年の生徒がそこにいるし、当番となった保護者が要所要所で旗を持って見守っているから、朝の登校時間は有布子には嫌なだけだ。


学校に行かねばならない。

有布子にはすごくすごく嫌な事だった。

時々酷い腹痛で動けなくなるほどに。


しかし有布子が母親に学校に行くのが嫌だと訴えても、母親が彼女の訴えを聞く事は決して無い。

なぜならば、有布子の担任が有布子の母に最初の懇談の時に言ったからだ。


「この子はクラスの厄介者です。知恵遅れじゃないですか?集団行動を取らせるには犬猫同然に叩いて躾けねばいけないくらい迷惑です。家でも食事を抜くなどして強く躾けてくださいよ。ぜんぜん子供らしくない!!」


ただし、本当にその担任がそう言ったのかは有布子にはわからない。

彼女が分かることは、懇談から帰宅した母に頬を殴られ、前述した台詞を担任に言われたからと罵倒され、その日の夜は食事を抜きにされた、それだけである。

そして有布子は母の台詞を否定して考えるどころか、自分が知恵遅れであるという事実の方を信じた。


自分がどうやって振舞えばよいのか、有布子には全く分からなかったから。


いつも彼女は思っているのだ。

捨てられた犬猫を用水路に投げ捨てる行為を喜ぶ同級生の気持も、突然豹変して怒鳴って手を上げてくる母親の行動も、全く意味が分からない、と。


そんな彼女でも、ぜったいに間違ってると、確信していることもある。


授業中に席を立ってしまう男の子の隣の席に座らせられる、これは絶対に間違っている、そう確信していた。


彼は有布子の隣の席は嫌だと何度も担任に訴えているし、有布子も乱暴で落ち着きが無い彼が大嫌いだった。

しかし担任は、だからこそ隣同士になって仲良くしましょう、と二人を必ず隣同士にして座らせる。

だから彼はそれに対する抗議として、授業中に、一時間ごとに必ず、隣に座る有布子を殴るのだ。


有布子は勿論痛みに泣く。

だが担任は、何も無いのに泣いて授業を邪魔するな、と有布子こそを怒る。

時には担任こそがさらに有布子を平手打ちにする事もあった。

そこで、有布子を殴っても叱られないと学習した彼は、担任の言葉に追従したようにして、勝手に泣いて煩い奴だとさらに有布子を殴るようになった。


俺が指導してやるよ、と。


いまや彼は困った問題児では無い。

彼は席を立って授業を妨害しなくなった。

授業中に無意味に泣く有布子こそ授業妨害するクラスの問題児だ。

だけど殴られなきゃ自分は泣かないのだからと、有布子は自分が馬鹿でも間違っているのは先生の方だという確信は揺るがなかった。


「早く動けよ!」

「きゃあ!」


クラスの男子の一人が、有布子を後ろから蹴ったのだ。

飛び上って蹴って来たのか、有布子は背負ったランドセルに衝撃を受け、そのまま教室の床に転がった。


「カエルみたい。あたしカエル大嫌い」

「腹を潰したらカエルみたいなグルグルの腸が出るのかな」


有布子を殴るのは隣の彼だけでは無いのだ。

彼女は担任によって虐めて良いソレとなっている。

そう、だからこそ有布子は脅えているのだ。


これから有布子は帰宅せねばならないが、朝の登校と違って一年生だけの下校班となった今は、有布子が自宅に帰るまで同じ道を歩く同級生全員によって有布子を小突く時間となるのだ。


有布子の家は学校から遠い。

だから一人になれる時間はあるはずなのに、彼女は自宅に帰るまで地獄が続く。

一度帰ったはずの子達が自転車に乗って戻って来るのである。

毎日毎日。

有布子は床からのそのそ立ち上がると、鼻をすすりながら歩きだした。


どうしたらこいつら全部殺せるのかな、そう想像しながら。

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