友情に時間は関係ない
終わりなき護石ガチャの深淵から更新です
ジャッカロープを狩り始めてからしばらく、レストレムの空が暗くなってきたころ。
現在俺の足下には四体のジャッカロープがロープでグルグル巻きになって転がされ、そして少し離れたところにはリンドー謹製のキャンプファイヤーが煌々と辺りを照らしている。
「リンドーって手先が器用だなぁ、こういうのよくやるの?」
「休みの時にはソロキャンプとか行ったりするぜ、ゲームもサバイバル系が好きだし。そんなことよりホラ、できたぞ」
「お、いいね!」
魔法で木をブチ折り手に入れた木材を使ってできあがったのはちょっとした祭壇。リンドーが携帯工具セットを持っていたおかげでちょっとした作業ならその場でできちゃうのだ。俺も工具セット欲しいな。
シンプルなテーブル型のそれにグルグル巻きのジャッカロープを置いていくも、何か祭壇が寂しい。ならばと俺の冴え渡るセンスが命じるままに石を積んだりそこら辺に生えてた花やまだ葉がついてる木の枝を飾ってみれば……オッケー、いい感じ。
「ほお、なかなかそれっぽいな。あとコレ、さきっちょ尖らせただけの棒だがオールよりは雰囲気でるだろ?そんでオレはこっち」
リンドーが取り出したのは俺が渡していた空樽の口にモンスターの革を貼って作られた簡易的な太鼓だ。バチじゃなくて手で叩くから、シルエットからしてもボンゴに近いかも。
そしていそいそと上半身装備を脱ぎだす俺たち。ゲームアバターならではな均整の取れた細マッチョの体がキャンプファイヤーの炎に照らされ雄々しく光る。そして俺は槍を、リンドーはボンゴを手に祭壇の前へと立った。
「それではぁっ!レストレムの神々にぃっ、感謝をっっ、捧げてぇっっっ!!ミュージック、スタートォ!!」
「ヨーーホーーー!!」
ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ!ドッドッドッドッ、ドコドコド!
軽快なリズムで鳴らされるボンゴの音色に合わせて上下に体を揺らしながら祭壇の周囲を踊って回る。気分は完全にジャングルの奥地にいる原住民だ。
まあ何も考えなくこんなことをしているわけじゃなくて、身動きをとれなくした敵の前でひたすら踊り続けていたら経験値めっちゃ入るんじゃね?という考えのもとでの実験を兼ねている。といっても途中から原住民ごっこする方に重きを置いてたのは確かだけど。
「我らの神に捧げられて嬉しいかぁ?俺の経験値になる気分はどうだぁ?」
「お前たちは神の贄に、そして我々の魂を次の領域へと押し上げる糧となるのだぁ……って、これじゃ原住民っつーかカルト教団の暗黒儀式ごっこだな」
「むむっ、それはよくない。もっと原住民っぽくするか。ウッホッホホホ、ウホホホホ!」
「それはそれで原住民と呼ばれる人たちに失礼じゃねぇか。まあいいや、ウンバッバー!」
目指すものと離れ始めていると知るや否や瞬時に知能指数を下げることでリカバリー、これが俺たち二人の凄いところよ。まるで人生のほとんどを共に過ごしてきたかのような一体感だ、友情に時間は関係ないんだな。
ただ踊るんじゃなくていろいろ試そうということで踊りの種類も順次変えていく。原住民風、盆踊り風、フラメンコ、コサックダンス、リンボーダンス、ポールダンス、ブレイクダンス、フラダンスにサンバ……我ながらずいぶんとバリエーション豊富なことだ。相手がいればペアで踊るダンスもできるんだけどな。
さらにボンゴ、ボンゴと歌、踊りのみの三種の状態でもやってみる。本当なら比較対象にもう一人か二人は欲しいところだけどしかたない。リンドー曰わくスキルレベルを下げることはできるけどそれなりに面倒な準備がいるし、さらに現状のリンドーではなかなか手が出せるものじゃないから検証のためだけに踊りをとるのは嫌なんだって。
そんなこんなでレストレムの夜を踊り明かし太陽を情熱的にお迎えしたころには、俺の踊りスキルはなんとびっくりレベルが13まで上がっていた。格闘が7、槍術が10であることを考えるとものすごい上昇幅である。
基礎レベルも目標の20にまで上がったし素晴らしい結果だ。今後は捕まえれそうなモンスターがいれば積極的にグルグル巻きにして祭りを開こうと思う。ちなみに今回の協力者たちには先ほどレストレムの神々のもとに旅立ってもらった。
「多分、レベル20にするだけなら普通にジャッカロープ倒してた方が速いな。でも踊りを集中的に上げるなら悪いやり方じゃない、ってとこか」
「とこですか」
「とこだな。それにジャッカロープみたいな強さと大きさがちょうどいい相手じゃないとできねーし。さすがに人間よりデカいモンスターを戦闘中にグルグル巻きにすんのは無理だろ。だからこのやり方は先に進めば進むほど難しくなるだろうな」
なんてことだ、いずれはどうせどこかにいるはずのドラゴンを捕まえて踊り狂おうと思っていた俺の野望は絶望的だと!むむむ、しかしそのころの俺は今よりも強いハイパーリュージになっているはずだから、やってやれないことはないはずだ。うん、きっとそうだ、いつかやろう。
ひとまず実験の結果を受け止めた俺たちは上裸だった体に服を着て、のちのちここを使うかもしれない人たちのために祭壇とキャンプファイヤーもぶち壊して燃やしておく。放っておいても使用者が離れたら時間経過で勝手に消えるんだけどね。気分の問題だよ。
「目標レベルも達成したし後片付けもしたし、それじゃファーファンに向けて出発だな!ここからどれくらいかかるんだ?」
「それなんだけどバイトあるからオレそろそろログアウトしないと時間がまずいんだわ。そこまで距離もないしファーファンの場所知ってるならひとりで行けるか?」
「そんな……ここでお別れなのか、リンドー……」
筏の帆をハンググライダーでぶち破るという衝撃の出会い、二人でオールを漕いだ海の旅、ジャッカロープを利用したパワーレベリング、原住民の祭りごっこ……どれもこれも楽しかった。一人では味わえない時間だった……。
「いやそんな今生の別れみたいな雰囲気出さずにフレンド登録しようぜ、お前みたいな面白人間との伝手を手放すわけねーだろ。オレのハンググライダー開発も手伝って欲しいし」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。筏の改造も手伝ってくれ」
笑いあってフレンド登録を完了させる。これでいつでもお互いにメッセージが送れるし、ログインしているかどうかも分かるようになった。
ついでにフレンド欄を見てみるとユゥリもログイン状態になっていた。今ごろどんなところを旅して何を描いているんだろうな、ユゥリがここにいたら俺たちの原住民ごっこも描いてくれたかもなぁ。
「なんだお前、オレ以外にフレンドいたのか。てっきりヤベーやつ扱いで皆から遠巻きにされてるタイプだと思ってたわ」
「失礼な。ユゥリは向こうから話しかけてきてくれたんだぞ。ユゥリはスゲェんだ、鉛筆一本でかっちょいい絵を描けるんだからな。ほらコレ!」
写真機能で撮っておいたユゥリの絵をリンドーに見せてやる。半信半疑だったのか笑いながら目を向けたリンドーはどんどんその表情を真剣なものにしていった。
「こいつぁ確かにスゲェな……おいリュージ、この人がよければそのうちオレにも紹介してくれ。オレもハンググライダーに乗ってるところの絵を描いて欲しい!」
「喜んで描いてくれると思うぞ。俺の時はそのポーズのまま2時間くらい動かせてもらえなかったけど、リンドーもできるだろ?」
「初対面でそんなことさせられたのか?結局は類友かよ。ま、それくらいこのレベルの絵を描いてもらえるんならチョロいもんだぜ。テキトーな歌を頭ん中で30回くらい流しゃいいんだろ」
さすがリンドー、俺と考え方がほとんど一緒だ。これはきっとユゥリも喜んでくれるに違いない。
そんなことをしていたらいよいよリンドーの時間がヤバイみたいだ。名残惜しいが今日はサヨナラだな。
「じゃあなリュージ!今日は楽しかったぜ!」
「またな、リンドー!」
ログアウトして消えたリンドーを見送り、頭の中にあるファーファンの場所に向けて歩き出す。残った距離は確かにそこまで長くない、リンドーと一緒に動いた距離の方が長いくらいだ。
でもなんでだろうな、ちょっとだけ時間の進みが遅く感じるや。
ユゥリは順当に進めているので現在は(普通に進めた場合の)三番目の町にいます。




