太陽に見せつけろ
6週間の断酒から解放された飲みはキツいけど楽しいんだなぁ、ダメ人間だもの。
「おお……キレイなもんだな……」
時折筏に噛みついてくるモン魚を叩き潰しながら夜の海を踊り明かし、東の水平線から太陽が昇ってくるのを波に優しく揺られながら鑑賞中。
日の出って眺めてると不思議と清々しい気持ちになるから好きだわ。普段は日の出の時間なんてグッスリすやすや寝てるけどな。
まだ目を灼くほどには輝いていない熾火のような赤いお天道様に歌と舞を捧げてもいいが、どうも海に出てから踊ってばかりな気がする。
歌と踊りは好きだけどそればっかりじゃあ芸がない、マンネリだ。そして常に楽しく面白いことを追求する芸の求道者であるリュージ君にとってマンネリとは唾棄すべきものである。
しかし道具なしでできることは限られている。感謝の正拳突きも夜中にモン魚を殴ったり蹴ったりしてたから今更感がね。
「よし、とりあえずカッコいいポーズでも色々やってみるか」
お天道様はカッコいい俺を見れて嬉しい、俺は踊る時の決めポーズを増やせる。なんという素晴らしきwin-winな考えか。太陽とすら対等の利益を上げる男、リュージ爆誕の瞬間だ。
そこからは時間の流れも海の流れも全部忘れてカッコいいポーズを考えては実行した。なにせHPが尽きなければ死なないし、状態異常にならなければ疲労もしない体なのだ。それはもうリアルボディだとあらゆる筋肉が悲鳴を上げるようなポーズだってとれちゃうわけで。
さらに言えばいずれユゥリに俺の絵を描いて貰うときにとるべき最高のポーズを決める選考でもある。どんなことも真剣にやる俺だがそう考えると一層気が引き締まるというものだ。
そうして夢中でポーズをとり続けていたからか、それともずっと太陽のほうを向いていたからか。不死鳥をイメージした片足立ちのポーズをしていたら、不意にズン!と低い音と衝撃がきて俺は筏の上に転けてしまった。
「おっととと、いいところだったのに何が……あ、島にぶつかったのか」
パッと見ただけで端が目に入るくらいの小さな島に筏がぶつかり、半ば乗り上げる形で停止したらしい。これはもう言い訳のしようがない完璧な俺のミスだな。よそ見運転ダメ絶対。
島の位置は本土からは頑張れば泳いでいけるかも知れない、くらいの場所だ。草木も生えているけどだからなに?レベルの景色が寂しいからとりあえず置いとくかみたいな気分で作られた島だろう。
でも、と言うかだからこそ、と言うか。そんな島にも置かれている物はあるようで、島の真ん中にはボロっちい宝箱がちょんと置かれていた。
「ひょーう!いいモンあんねぇ!あれ、開かない?もしかして序盤だと開けられない、終盤で手に入る鍵が要る系の宝箱か?」
始まりの町近くの崖の上にそういうのよくあるよな。しかも通常ルートをちょっと注意深く探索したら見つかる絶妙な場所にあるんだわ。
でも諦めきれないリュージ君は色々試しちゃう。とりあえず殴って蹴って、オールでぶっ叩いて……むう、耐久値ゲージが出ないな。やっぱ壊せないか。
持ち出して筏に乗せようともしてみたけど、この宝箱異様に重い。根が生えてるって言うより岩盤を宝箱の形に削っただけみたいな、大地と一体化してるんじゃないかと思うくらい微動だにしない。
「あ、そうだ。鍵開け」
【鍵開けを試しますか?成功率75%】
いやー、調べてたのをスッカリ忘れてた。鍵開けは『鍵開け』って口にしないとできないんだよね。攻撃しちゃってゴメンな、謝るから中身ちょーだい。
鍵開けは対象によって成功率が違い、さらに失敗すると同じ対象には現実時間で丸一日リトライできなくなるらしい。試行回数でブン殴れるなら成功率なんてあってないようなものだもんな。なお成功率自体は盗みスキルのレベルによって補正が入る。
「それじゃあ試しに一発やりましょかー、ガチャガチャっと……開いたわ、スゲェな俺」
鍵開け実行を選択したら手の中に出てきた、折れ曲がった針金を鍵穴に突っ込んで適当にグリグリしたら宝箱がパカッと開いた。75%の壁、一発クリアでございます。
中に入ってたのはどうやら下半身用の装備みたいだ。どれどれ、まずはインベントリに入れてから詳細確認……。
『魚鱗パンツ』
魚型モンスターの皮を鱗の向きを揃えて継ぎ接いで作られた、体に吸い着くようなフィット感のハーフパンツ。どことなくぬめっている気はするが意外と丈夫。
撥水性は抜群で、着用していると泳ぎが若干上手くなる。
DEF+5
DEX+2
【遊泳速度上昇:10%】
「やったー、初装備だぁー!あ、いやオールも武器扱いにすれば装備品だから……やったー、初防具だぁー!」
キャラメイクした時に自動で貰える初期装備のまま海に出たから、動きやすいだけの普通の服だったんだよ。武器も短剣があったんだけど筏一号を作るときに資金繰りで売っちゃってねぇ。今思うとあれは売る必要なかったなぁ。
さておき早速装備しちゃいますか。インベントリの魚鱗パンツを選んで装備っと。……ほほう!これはこれは。
「スパッツ型の競泳水着って感じか。確かに股のところがちょっとキュッてしてんな。ぬめりは触ったら分かるくらいか。うん、悪くない」
そもそもゲームだから自然とマジカルフィットするもんだし、着心地が最悪ってのはそうそう無いとも思うけど。あーでもフルダイブだし着心地の悪さをデメリット扱いにした鎧とかありそう。めっちゃキツかったりネチャネチャしてたりとか。
それにしても攻略サイトで『1レベルの無駄も許さないカツカツのビルドじゃないなら、盗みスキルはレベル2の鍵開けまでは解放しとけ』って言われた意味がよく分かった。全部の宝箱に鍵がかかってることはないだろうけど、鍵開けを使えるようになってないとせっかく宝箱を見つけても開けるチャレンジすらできないんだな。
これは知り合いに1人は盗みが高レベルのプレイヤーが要るな。それか盗みを極めた人に報酬を払って開けて貰うか。ううん、ソロプレイヤーには厳しい。何か救済措置とかありそうなもんだけど。
「無人島で宝箱見つけたりするの多そうだし、盗みはレベル上げしないと。ファーファンに着いたら修行するか」
貰うもん貰ったし筏に乗ろうとしたところで耐久値が結構減ってるんじゃ?と思って二号の詳細データを開くと、やっぱり耐久値が1/3ほど減っていた。
モン魚に何度もガジガジ噛まれてたのと島にぶつかっちゃったのが原因だろうけど、それにしても脆い。陸からそんなに離れてないところでこれだと、本格的に海に出たら修理が間に合わないぞ。嫌な言い方だけど一号は沈むべくして沈んだのかもなぁ。
ひとまず手持ちの木材を消費して耐久値を回復。しかしその代償として最大耐久値がほんの少し減った。同じ物をずっと使い続けるのは無理ってことか、結構厳しいのね。
少なくともファーファンまでは二号で行くつもりだし、今の俺にはこれ以上できることもない。少しずつやれることを増やしていけばいいさ。
修理を終えた二号の甲板、というか床板は心なしか色が継ぎ接ぎしたようにまだらになっている。なるほど、修理を重ねていくと見た目がボロっちくなっていくんだな。最大耐久値の減少もそうだけど、見た目の問題で新造しなきゃってのもあるか。
「ちょっと失う物もあったけど得る物もあった。これぞ冒険ってことでファーファンに向けて再出発だ!」
やるべきことは増えていくけど、それで俺と二号の足取りが重くなることなんてない。むしろやることがたくさんあるとワクワクするよな!
NPCの家からはともかく、宝箱から出てくる物で他の入手手段がないものは無いです。なので鍵開けができないからアレが手に入らなくて困る!という状況にはまずなりません。