プリンも凶器になるんだよ
明日は職場から解放される日なので更新です。
そういえば筏の上でログアウトしたら次にログインするときはどうなるんだろう。
ふと頭によぎったその疑問、早く解決した方がいいな。ユゥリとの出会いもあってもうそろそろ晩メシの時間だし、もし筏の上から再開できなかったら進むだけ損だ。
そんなわけでユゥリと別れた海岸がまだ見えるところでいったんログアウト。そして現実世界に戻るや否やログイン。フルダイブ・ギアの説明書にはログアウトしてから次のログインまで30分はあけましょうって書いてたけど、悪い子のリュージ君は無視しちゃう。
そして1分ぶりに戻ってきたレストレムの世界で俺が立っていたのは筏二号の上だった。もしかしたら筏はセーブポイント的な扱いができるのかも。詳しいことはまた現実世界で攻略サイトでも見て調べるか。
それじゃあまたログアウト。続きはメシ食って風呂入ってのんびりしてからだな。
「なるほどなぁ、船や筏はログイン・ログアウトの時だけ自動で展開・収納がされるのか。自分ではインベントリに入れられないのに、ハハハこやつめ愛いやつよ」
寝るまでの時間にもうちょっとプレイしておこうと、ログインし直した俺の足下にある筏二号をさりさりと撫でて可愛がってやる。
攻略サイトで調べた情報によると、拠点化アイテムという物を使えば船や筏をリスポーン地点にする事もできるらしい。中断セーブくらいはさせてやる、でも完全にセーブポイントとして使いたいならアイテム使えってことね。
とにもかくにもその拠点化アイテムとやらが欲しいのだけど、最短でも手に入るのはビ・ギンから5つくらい先のファーファンという町らしい。そこに行けば家造りとかのチュートリアルがあって、その報酬で1つ貰えるんだと。
「つーわけで目的地はファーファンに決定!近くに筏でも余裕で通れて海に繋がってるデカい川もあるし、二号でのんびりチャプチャプ行くべ」
調べておいたファーファンの場所へ向けて帆を調整しオールで漕ぎ出せば、風向きを無視して筏は走り出す。まあ風向きに逆らってるとスピードは落ちるんだけど。
筏の良いところは海が続く限り目的地まで最短距離でまっすぐ進めることだ。これってスゴいよな。道がないからって遠回りしなくて良いし、帆をちょいちょい動かして方向転換するだけで進んでくれるから足も疲れない。
その素晴らしさとなぜ人類はもっと筏を使わないのかについて晩メシの時間に熱弁したら、兄貴に「そりゃお前の一号みたいに壊れて沈んだら死ぬからだろ。船より壊れやすいし」と言われた。実際筏が壊れて死んだ身だから何とも言えぬ。
「でもなんか船って作る気にならないんだよなー。筏と乗り比べるのに一隻くらい丸太をくり抜いて作ってもいいけど」
それにしても筏での移動は超快適!寝っ転がって日光浴してれば勝手に目的地に近づいてくれるなんて筏は神の乗り物か?レストレムのプレイヤーはとりあえず筏を一つ作っておいた方がいいな。
移動が楽になるとか置いといても、そのうちプレイヤーは水上を移動する手段が必要になってくると俺は思う。だって世界マップの海と陸の割合が同じくらいだったし。まだサービス開始したばっかりで大半が未解放だけど、その中には群島地域もあった。
「それはそれとして、もうちょっと糸を買っておいて釣り竿を作ればよかったな。あ、俺ってば一文無しだったわアッハッハ!」
キッチリカッチリ1Gも残さず所持金を使い切ったことを思い出した。それと同時にレストレムに満腹値や水分値なんかの要素がなくて良かったと今更ホッとする。さすがの俺も餓死してまで筏を作ろうとは思わなかっただろう。
とりあえず筏の上で自発的にできることと言えば日光浴かオールを漕ぐか歌って踊るか、乗せてくれる筏へ感謝の気持ちを捧げるために正拳突きをするかくらいだな。なんだ、結構やれることあるじゃん。
「体を動かしたいし歌って踊るか……ズン、ズン、ズッズッダッダン、Ah yeah aha ahan……!ズン、ダッ、ダン、ダン、Uh yeah aha ahan……!」
兄貴が聴いてる歌手の名前も知らない洋楽の耳コピだから歌詞なんてほとんど覚えてねぇけど、誰が聞いてるわけでもないし存分に歌ったれ踊ったれ。
高校二年生くらいから兄貴はよく分かんない曲を聴きだしたんだよなぁ。真剣に聴いてる感じもないから歌詞も多分俺と同じくらいしか覚えてないだろうに、なんでだろね?
まあおかげで俺じゃ知ろうとも思えないような曲を知ることができたし、今ここでこうして役に立ってるんだからどうでもいいや。
「フン、フン。ズッダダズッダダ、ah yeah!ウー、ヤッフー!!」
ダン!と右人差し指を天に向けて決めポーズ!ふぅ、事前告知なしのゲリラ的リュージ君オン・ステージだったとはいえオーディエンスの拍手がないのは寂しいぜ。
アレだな、次にユゥリと会ったときには是非とも筏の上で踊る俺を描いてもらおう。今の決めポーズなら3時間は動かなくてもイケる。
だとしたら筏にステージのような段をつけるべきか。ユゥリになるべくリラックスして描いてもらうために座り心地の良いイスもいるな。帆を中心に適当に垂らしたり巻いたりしてるロープも見栄えよく設置したい。帆で思い出したけど帆にマークというかシンボルも描いてもらいたいぞ。
ふふふ、一回踊っただけでこんなにも筏改造のインスピレーションが湧いてくるとはさすが俺。どうやら俺の天賦の才は筏作りにあるようだ。
「だったらもっと踊ればもっと良いアイデアが出てくるはずだ!よーし……Here is heaveeeeen!My soul is freeeeee now!!」
溜めてからドン、というリズムが良い。舞台役者のような大げさな振りで踊れば実に楽しい。踊りなんて乗りと勢いだけの何も考えてないアドリブ100%だけどこれこそが醍醐味よ。まさに魂の解放というやつだ。
筏二号は沿岸沿いを航海中だからたまに崖際を歩いてるプレイヤーがいたりもするけどそんなもん気にする必要もない。俺はただファーファンに着くまでを面白おかしく楽しい旅にしたいだけなんだから。
やっぱりゲームはいい。道端で踊りながら熱唱しててもお巡りさんに止められたりしないし、二階の渡り廊下から落としたプリンを口で受け止めたくらいで説教する先生もいない。プリンの件はキレイに喉を通り抜けたプリンに胃を直接殴られて転げ回ったから怒られてもしゃーないなとは思ったけど。三階から落としてたら死んでたかもしれん。
「Foreveeeeer! So foreveeeeer! ahhhhhh! this!my!worrrrrrrld!!……センキュー!センキュー!!」
ふう、頭スッキリ気持ちサッパリ。あれ、俺さっきまで何考えてたっけ?ああそうだ、プリンプリン。プリンを落としていいのは二階まで、それも自由落下に限るものとする。俺は悪い子だが失敗から学ぶ賢い子でもあるのだ。
ふあ、とあくびが出たので現実の時間を確かめると23時を少し回っていた。あらやだ、もうそろそろ寝る時間じゃないか。
夜更かししてゲームばっかやってると母ちゃんにシバかれるのでログアウト。続きはまた明日だ。
高校生にもなって母ちゃんが怖いのかよって同級生にからかわれることもあるけど、あいつらの母ちゃんと俺の母ちゃんは別の生物だ。普通に殴り合っても絶対負けるし、そもそも殴り合いになるかどうかも怪しい。一方的な虐殺を闘いとは言わないのだ。
勝てない相手には逆らわない判断力と、怖いものを怖いと認める素直さ。それが俺の良いところだとリュージ君は思います。
プッチンプリンは皿の上に落とそう。お兄さんとの約束だぞ!