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何でもできるが売りのゲームで筏を組んで海に出た  作者: 赤鯨
【針無し羅針盤】is マイフレンド
17/18

捧げて踊ってブン殴る

久しぶりの更新です

「ほーい、上陸の時間だぞ。みんな、耐衝撃態勢をとれーい!」


「「「了解、リーダー」」」


何せ俺たちが乗っているのは筏であるからして、上陸とはすなわち海岸への乗り上げだ。ポジティブな座礁とも言えるな。


そんなわけだから上陸の時にはそれなりの衝撃がくる。もう慣れっこな俺たちはかけ声ひとつで適当なところにしがみついて準備は万端よ。


「いやっふーーー!今回もしっかりバッチリ上陸できたな。偉いぞ三号、偉いぞみんな!」


ザッパーンと波しぶきを上げながら勢いよく砂浜に乗り上げるも、だれも振り落とされることなく上陸完了。耐衝撃態勢を解いた我が仲間たちが筏を降りて砂浜に立った。


「んんー、ここが蛮族の島かぁ。イメージしてたよりずっとキレイだね」


「おいおい俺は期待を裏切らない男リュージだぞ?もちろん蛮族の村の入り口には頭蓋骨でできたオブジェとかがあるから安心してくれ!」


「そんな期待はしてないし何も安心できないんだよ!」


ははは、今日もジェーンのテンションは高いな。いいことだ。


「ふふ、刺激的な絵が描けそうで楽しみです」


「今のやりとりでそんなノホホンとした感想が出るあたり、ユゥリもやっぱ類友なんだって感じるよな」


「ある意味このクランで一番イカレてるからね……」


ユゥリのマイペースはこの俺たちですらかなわないと思わせる時があるからな。戦闘中にピンときたからとスケッチブック取り出したのは最高だった。


俺はそんなユゥリが大好きだ、好きなことに夢中になれるのってカッコいいよ。ユゥリが絵を描きたいと思ったなら描けばいい、その間は俺たちが何とかするから。


「蛮族の村はこっちの方だ。強いモンスターは出ないし、出発進行!」


島は楕円形でグルっと歩いて回るのに1日かかるかな?ってところ。別に急ぐほどじゃないけど、ゆっくりしてたら予想外に時間がとられる絶妙な大きさだ。


地形も砂浜!森!村!以上!!という超シンプル構成。本土からはちょっと離れてるし、珍しいモンスターや素材があるわけでもないからプレイヤーが来ることもほとんどない。


「それにしても、よくこんな地味な島にいる蛮族を見つけ出したもんだ」


蛮族の村へと森の中を歩いていると、リンドーが感心したように言った。こんなことでまで誉めてくれるなんて、リンドーってば誉め上手だな!


「筏でこの辺の海をプラプラしてたらさ、海岸近くで蛮族に襲われてるNPCを見つけたんだ。で、そいつらをコッソリ追いかけてたらここについた。そしたら色々あって蛮族と仲良くなっちった!」


「それって普通なら蛮族からNPCを助けてお礼される流れじゃない?なんで蛮族サイドと仲良くなってるの?」


やだねジェーン、そんな答えが決まりきったことを聞くなんて。でも聞きたいなら答えちゃう。


「そっちの方が面白そうだったから!」


「まあ、それはそうだね。確かにそっちの方が面白そうだ」


理解が早くて助かるね。そう、俺たちにとっての判断基準は面白そうか否か。面白そうだと思った瞬間、体はすでに動いているのだ。


ぴっぴぴぴ、ぴっぴっぴー、と口笛を吹きながら歩けばリンドーが指パッチンで合わせてくれる。ユゥリは控えめな手拍子をしてくれるし、ジェーンは足音がちょっとリズミカルに。


鬱蒼と茂る森の中でも俺たちの歩みに些かの衰えなし。愉快、軽快、痛快ってやつだ!


「お、見えてきたな。アレが蛮族の村だ。ほらジェーン、入り口に飾られたトーテムポールみたいなのあるだろ?アレぜーんぶ頭蓋骨!」


「わあ悪趣味。ていうか今更だけど仲良しのキミはともかくボクたちって大丈夫なの?」


「わかんね。まあ会ってみりゃわかるだろ」


俺が仲良しになれたんだから多分みんなもイケるっしょ。俺の時もいきなり襲いかかられたりはしなかったし。


それくらいの軽い気持ちでやってもいいだろ、たとえ蛮族にみんながやられたところで何かダメになるわけでもない。もしそれで蛮族巫士になれなかったら、そのときはそのとき考えればいい。


頭蓋骨でできた柱の間を通り抜け、俺たちは蛮族の村に足を踏み入れた。えーっと……おっ、第一村人を発見!よう半裸にボディペイントのモヒカン兄ちゃん、ちょっと教えてくんな!


「やあそこのキミ。シャーマンのおばちゃんに会いに来たんだけど、今いる?」


「ババ様の客か。なら、通れ。ババ様、いつもの小屋にいる」


それだけ言ってモヒカン兄ちゃんは通り過ぎていった。木と石でできた槍を持ってたし、これから狩りでもすんのかな?


教えてもらった小屋は村の中心に近いところにある。こういう集落だとシャーマンとか占い師とかの地位がかなり高いからなぁ。


でも俺とシャーマンのおばちゃんはマブダチだから大丈夫!気にすることなく臆することなくレッツゴーだ。


「よっ、おばちゃん。今日も元気にやってる?」


「そんな馴染みの定食屋に入るみたいなノリでいいのかよ?」


他よりは多少マシだけどぶっちゃけボロ小屋でしかないおばちゃんの家、その暖簾(のれん)みたいに布がかけられているだけの入口をくぐる。リンドーが後ろで笑ってるけどコレでいいのだ。


「誰かと思ったらリュージかい、アタシゃいつでも元気だよ」


しわがれてはいるが生気が漲った力強い声。抜け毛というものを知らなさそうなほどの豊かすぎる長い白髪を揺らしながら振り向いたのは、せいぜい30半ばくらいのババ様と呼ばれるには若すぎる女の人。


実際は変な儀式の賜物で見た目が若いだけで、村の中でも最年長らしいよ。見た目70歳くらいのジーさんとかいるけどね、この村。


「お友達まで連れて賑やかなこった。でもちょうどいいところに来たね、アッシュウルフの血で一杯やるとこだ。アンタらもやるかい?」


ずい、とこちらに差し出されたのは酒好きの戦国武将が馬上で使ってそうなクソでかい盃。しかも中にはおばちゃんが言ったとおり、なみなみと赤い液体が注がれている。


「なるほど、定食屋じゃなくて呑み屋だったんだな。じゃあ駆けつけ一杯、いっとくか」


地面の上に獣の毛皮を敷いただけの床にドッカリと胡座を組み、まるで怯むことなく当然のように盃を受け取りゴクゴクと飲むリンドー。そしてその横にユゥリとジェーンが並んで座る。


「美味いとは言えねぇけど、案外飲めるな」


「そうですね、外国でたまにある現地の人だけが愛するタイプのジュースだとか、そういう感じでしょうか?」


「血っていう割りにはあんまり鉄臭くないね。ただ喉越しが最悪」


そんな所感を挟みつつ、ジェーンから盃が渡された。最後の俺がすることと言えば、もちろんアレだな。


「さあさあ皆さんお口とお手を拝借~!わたくしリュージを激励するため、盛大な手拍子とコールをお願いします!!あ、リュージ君のぉ、ちょっといいとこ見たくな~い?」


「「「見てみたーい!ハイ、イッキ!イッキ!イッキイッキ!」」」


「オーイェー!んごっごっごっご、んぐっ、んごっ!」


リンドー直伝の口上と合いの手が響き、俺は目算1リットルくらいの血を飲み干すべく盃を両手で傾けた。俺達にかかればボロい小屋も一瞬で宴会場よ、どうだおばちゃん俺の仲間は面白いだろう!


若干ねっとりとした生温かい液体が喉を通って落ちていく。ジェーンも言ってたけど、へばりつくような喉越しは最悪だ。


でも飲むね!一切止まらず飲み続けるね!


「んごっ、んごっ……プハーッ!」


「おっとリュージ、ごちそうさまが~?」


「「聞こえなーい!」」


ここがヤバいタイプの宴会場だったらすかさず空になった盃に酒が注がれるかもしれないけど、残念ながらおかわりはないようだ。


「こりゃまいった、キワモノの友達はキワモノだったかい。アンタら、ウチの若い衆よりよっぽどコッチ側だ。で、今日は何の用で来たんだい?アタシの弟子になる気でも起きたのかね」


「うん、起きた。おばちゃん、俺を蛮族巫士(サベージシャーマン)にしてくれよ」


空になった盃を返しつつ、おばちゃんの前に正座する。教えを乞うときには誠意を見せなきゃならん。


「ふむ、アンタは蛮族巫士の才能に満ちあふれすぎてるくらいだから申し分はないが……ひとつ、心構えを説こうかね」


姿勢を正し、真剣な表情で俺を見るおばちゃん。美人に見つめられると照れるけど、俺だって相手が真剣な時くらいわかるとも。


「アタシら蛮族巫士は騒ぎ、踊り、捧げ、喰らうことで常ならざる力を発揮する。要するに蛮族巫士が何かをするには相手や(にえ)といった自分以外の何かが必要なのさ。仲良くバカ騒ぎする仲間も、さっきアンタらが飲んだ血も、戦いの敵も、ね」


独りじゃ何もできないってワケじゃないが、とおばちゃんは続ける。


「すべてに敬意を持ちな。友に感謝を、敵に感謝を、神々に感謝を。そしてすべてを楽しむんだ。騒ぎ立て、踊り狂い、傷つけあい、貪り喰らうなんて人間のバカなことを凝縮したのが蛮族巫士なんだから、楽しまにゃ損だろう。ま、アンタにいまさら言うことでもないがね」


「おう!俺は全力で今を楽しんでるぞ!」


「くっくっく。そうかい、じゃあ最後の仕上げといこうかね。蛮族巫士の術を伝授してやるよ、外に出な」


立ち上がったおばちゃんに促されるまま、俺達はボロ小屋を出る。そして村の中心にあるキャンプファイヤーの焼け残りみたいなのの前に連れてこられた。


全員が来たのを確認したおばちゃんは呪文を唱えてキャンプファイヤーに着火。綺麗な赤い炎が揺らめきながら天に昇っていく。


そして炎へとおもむろに投げ込まれる謎の生肉。おいおいおばちゃん、それじゃ焼肉じゃなくて焼けた肉になっちゃうよ!?


「ん?これって……」


「全員に攻撃力アップのバフが付与されてる?」


寒い日にカイロを持った時のようなジンワリとした熱が体の中心に生まれ、リンドーとジェーンがステータス画面を確認したら確かにバフがかけられている。


「これが蛮族巫士の真髄である【贄の送り火(サクリファイス)】だ。この火の中に魔物関係の素材をブチ込めば神や祖霊が満足した分だけの加護を与えて下さるのさ。ま、一番いいのは半殺しにして弱った魔物を生きたまま放り込むことだけどね」


なるほど、差し出す対価によってバフの量が変わるってことか。いいね、超高級な素材を使ったらどんなになるか今から楽しみだ!


弱った魔物を生贄にできるってのもいいな。ボスエネミーの取巻きとして出てくるザコをバフアイテム扱いにできるとか強くね?


「【贄の送り火】はこれだけじゃないよ。リュージ、踊りな!」


「よしきた!ミュージック、スタートォ!」


「私は絵を描きますからパスでお願いします」


「ノープロブレムだ、ユゥリ!」


強制参加じゃないからね。自分のやりたいことがあったらそっち優先でいいんだよ。


ちなみにユゥリが抜ける時、ジェーンはカスタネットじゃなくてタンバリンを使う。1人で出せる音のバリエーションを増やそうとしてくれてるのかな?


シャンシャンポコポコ、シャンポコポコ!


小気味のいいリズムに合わせて軽く跳ねながら身を揺らす。そして忘れちゃいけないが【贄の送り火】の回りで踊る以上、観客は火を囲む人たちじゃなくて炎が照らす先の天にいる神だ!


「見てるか神様!(オトコ)リュージ、心を込めて踊らせていただくぜ!【マンボ・No.9】!」


「いいですね!スケッチチャンスです!」


情熱的なアップテンポでステップを踏むこのアーツ、効果は意外にもINTの上昇だ。俺の仲間たちは物理より魔法に偏ってるからな、これが結構いい仕事するんだわ。


踊りまくる俺と描きまくるユゥリ。そして器用にもボンゴを演奏しながらUIを開いてステータス画面を見ていたリンドーが声を上げた。


「リュージ、いつもよりバフの上昇値が大きいぞ!これが【贄の送り火】のもう一つの効果か!?」


「そうさ、【贄の送り火】は踊り手の集中力を高めて踊りの効果を引き上げる。【贄の送り火】に贄を捧げて炎を燃やし、神々の加護に感謝して踊り狂うことでさらに強くなる!そうしてより強い獲物を打ち倒し、贄に捧げ、さらに強力な加護を授かりまた踊る!それこそがアタシら蛮族巫士だ!」


「つまりテンション上げ続ければ強くなれるってことだよな!いいねおばちゃん、蛮族巫士サイコーだ!」


ちょいと特殊なところもあるけど、戦いの最中でも火を絶やさず踊り続ける職業(ジョブ)なんて面白すぎるだろ!


しかも贄を捧げて踊りを重ねる度にどんどんバフの効果は上がって仲間のテンションもブチ上がりだ。気に入った、気に入ったぞ蛮族巫士(サベージシャーマン)

【贄の送り火】 

持続時間:100秒(贄を捧げる度に+30秒)

クールタイム:180秒

神々に贄を捧げるための炎の祭壇を作り出す。

モンスター素材もしくは体力を一定以下に減らしたモンスターを贄として炎に焚べることで、その質に応じた強化状態:【神の加護】を得る。

また、贄を捧げてから次に【贄の送り火】の周辺で行う『踊り』の効果を贄の質に応じて高める。


蛮族は野蛮ではあれど敬虔だ。

炎を絶やすな。

贄を絶やすな。

踊りを絶やすな。

揺らめきと情熱、血に酔うことで我らは繋がる。恐れるな、我らは常に共に在る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 思ったよりイカれてたユゥリ(褒め言葉) [一言] 好きなときに好きなことを思うようにやる彼らが大好きです
[一言] 蛮族と同じ目線で仲良くなれるのはシンプルに才能だと思う
[一言] 主人公が好きなことを、好きなようにやって実現しているところが大好きです! また次も楽しみに待ってます!!
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