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何でもできるが売りのゲームで筏を組んで海に出た  作者: 赤鯨
【針無し羅針盤】is マイフレンド
16/18

修行が終われば昇格です

新章の入りをどうしようか決めかねてるうちにすっかり放置してしまいました。

「はい、【針無し羅針盤(コンパス)】メンバー集合~~~!!」


ちょっとした崖に囲まれるように隠された入り江の砂浜に俺の素晴らしくいい声が響く。我ら針無し羅針盤の本拠地となったこの入り江で絵を描いたりハンググライダーの素材を作ったりアイテムの在庫確認をしていたみんなが寄ってきた。


「おー、どうしたリュージ。いつものゲリラライブ(発作)か?ミュージックは任せろよ」


「それもいいけど今回はちょっと違うんだな。みんな、俺の悩みを聞いてくれないか?」


ケラケラと笑いながら作業に使っていた工具をしまうリンドーにパッチーン!と軽やかなウィンク。ついでにジェーンに投げキッスをしたらサッと避けられた上にサムズダウンを返された。んもう、照れ屋さん!


「リュージの脳が悩むなんて機能を持ってることにビックリだよ。で、どんなしょーもない事を考えてるの」


「おいおい俺はこれでも多感な思春期まっただ中な青少年だぜ?まあほら、あれだよ、みんな上位職業になったのに俺だけまだじゃん?でも踊り子って意外と派生が多くてさ、何にしようかなーって」


ユゥリは聖術士(セイント)、リンドーは風魔導士(ウィンドメイジ)、ジェーンは潜影士(シャドウウォーカー)にジョブチェンジしている。俺もいくつか転職先は見つけたんだけど、なーんかイマイチ決めきれないんだな。


「パーティのバランスを考えると前衛ができる方がいいと思うんだけど、それも種類がいろいろあって。みんなはどう思う?」


「今は無理やり気味にユゥリが前衛やってるからな。だとしても自分がやりたいようにやるのが一番だぜ?こういうのを人任せにするとモヤモヤすっからよ」


俺はみんなに決めてもらったらそれはそれでスッキリ自信を持ってそのジョブに進めるんだけどなぁ。そんなもん?と女性陣2人の方を見てもリンドーへの同意が返ってくるだけだった。


「君が他人との相性を考えてるってのは正直驚いたけどね。でもコレばかりは好きにやりなよ、戦い方なんて後で考えればいいんだから」


「そもそも私たち、誰も最強を目指すって言う人いませんしね。それぞれのやりたいことに叶うならそれでいいと思います」


なるほど、コンパスの総意は思うがままに進めと。つまりみんな俺の純粋な思いを知りたいと。


「そっかー、じゃあ蛮族巫士(サベージシャーマン)になろうかな。殴りもバフも魔法も一通りできるらしいし」


実は俺、ここしばらくの修行期間でこっそり魔法も覚えていたのだ!やっぱりいろんなことができた方が楽しいからな!


それに俺の場合、一度海の上に出たらずっと皆がいるとは限らない。だから攻撃も防御も回復も、ある程度は何でも自分でできなきゃいけない。


そして忘れちゃいけないけど俺はいずれドラゴンをグルグル巻きにしてその周囲を踊り狂うという野望を持つ男。蛮族とかピッタリじゃん?


「踊り子の次が蛮族のシャーマン?」


「踊りや歌は神に捧げる芸事の最たるものだからそこまで不思議なわけでもねぇぞ、ジェーン。俺も知らない職業だけどよ」


「聞いた感じですと、物理寄りの後衛職なんでしょうか?」


おや、どうやら我がクランメイトたちはご存知でない様子。まあ自分の系列でも無い上位職のことなんて知らないか。


「バッファー兼サブアタッカーって感じかな?俺もつい昨日1人で遊んでた時に見つけたばっかりでよく分かんないんだけど、とにかく楽しそうなんだ」


「ほーん、そりゃ何よりだな。じゃあさっそく転職にいくか?俺もどんなNPCが先生なのか見てみてぇ。せっかくだし全員でいこうぜ」


ユゥリとジェーンもOKらしく、俺の転職はクラン総出のイベントになった。やだ、みんな俺のこと大好き過ぎじゃん。俺もみんなのこと大好き!


出発前にマップを広げて目的地の確認。今の俺たちはクラン設立の地ファーファンから東ルートを通り、次のワープ可能な都市であるスパニスをちょっと越えたところ。


で、例の蛮族はここから南東に海を進んだ先にある少し大きめの島にいる。つまり筏の出番ってわけだ。


「いでよ、マイ筏三号!」


本拠地の砂浜に作られたお手製の桟橋に立って筏を呼び出す。ドドンと出てきたクランの力を結集して新造した三号、見るたびに惚れ惚れするね!


二号から一回り大きくなった船体は4人でごろ寝しても余裕のサイズ。中央に立つマストは木材も帆布も今できる限り厳選した逸品だ。耐久値はなんと二号の約2倍ときたもんだぜ。


全員で乗り込みいざ出発!距離的にゲーム内時間で5時間ってとこかな。時々出てくる魚モンスターと戦っててもまだ暇がある。だったらやるこたぁ決まってんねぇ!


「さあみんな、到着までの時間は大いに遊ぼうじゃないか!イッツ、ショータァイム!」


「「イェー!!」」


マストの真下に円形に作られたダンスステージに俺が上がればノリのいいレスポンスが返ってくる。なんだかんだでジェーンも慣れたな、こういうの。他人の目が無かったら結構楽しむもんな。


俺の持論だがリーダーという立場にある者はこういう時に率先して芸を披露すべきだ。まあ確かに?オオトリを飾るというのもリーダーらしいけどそんなら最初と最後の両方やっちゃえば超お得じゃんね。やらないっていうのはモチロンなしよ?


「では針無し羅針盤のショータイム一番と言えば~?そうだね、俺の踊りwithみんなの音楽だね!みんな、楽器は持ったか?」


聞くまでもねぇと不敵な笑顔でボンゴ、カスタネット、縦笛を取り出す我がクランメイトたち。わかってる、わかってるね!


「じゃあ演奏()るか!ミュージック、スタート!!」


リンドーのドラムをメインに、ジェーンのカスタネットの小気味いいテンポとユゥリの縦笛が彩りを加えていく。どこか民族的で懐かしさがありながら、みんなのエネルギーが漏れ出ているかのようにややアップテンポ。自然と俺のステップも速めになっていく。


全員がなんとなくで演奏して踊っているから、きっと同じメロディとステップになることは二度とない。だけどそれがいい。あえて羅針盤から針を抜き取った俺たちには楽譜だって必要ない。


この中で誰一人として音楽を真剣に勉強した人はいない。せいぜい学校の授業でやった程度。それでも楽しい、楽しいんだなぁ。音楽は言語を超え、世界で通じるってのは本当だと思うよ。


興が乗ってきた俺の足取りはより速く強くなり、それに追いつけ追い越せと音楽も盛り上がっていく。いずれ破綻するようにしか思えない踊りと音楽はしかしその一歩手前で自然と終わりを迎える。


「イエス、フィニィィッシュ!!……今日の終わりはユゥリだったな!でもいいね、前の時より長く踊れたぞ!」


「中学校の時のリコーダーで練習してきたんですけど、もっと練習しなきゃですね」


誰かの限界が来た時、決定的に崩れる前に周りも一緒に終わりを選ぶ。始める時が一緒なら終わる時も一緒だ。みんながバラバラの方向を見ている俺たちだから、せめてそれくらいはな?


「よし、じゃあ次やる人ー?誰もいなかったら全員参加リンボーダンス始めるぞー?」


「ふふん、オレに任せな。さあみんな、リンドー先生のドキドキ!レストレム物理学、はーじまーるよー!!」


俺と入れ替わりでステージに立ったリンドーは溌溂とした声でタイトルコールをしながらインベントリから木材やらなんやらの素材を取り出した。


「昨今のゲームってのは物理法則がほとんど現実そのものだ。でもまあ現実の物理学がすべてを解き明かせていない以上どうしても適当にならざるを得ない部分もあるし、魔法とかのファンタジー要素が絡んでくると現実の物理をそのまま持ってきてもダメなワケ。そういうアレコレが悪い感じに重なると常識じゃ予想もつかない挙動になっちまうんだな」


「ようするにバグってこと?」


「身も蓋もない言い方をするとそういうこったな。でもそれっぽい名前をつけたほうが面白いだろ?」


まあ見てろ、とリンドーは木でできた短い円柱と1メートルちょっとくらいの板を一つずつインベントリから取り出して簡単なシーソーを作った。おお、これだけで何がしたいのかだいたいわかるぞ。


「てこの原理くらい聞いたことあるだろ?こうやって左右が不均等なシーソーを作って長い方を押せば、短い方に置いた物をより小さな力で動かせるってやつな。まあ今回のとそれは関係あるっちゃあるしないっちゃないんだが」


「ないんかーい!」


騙された!騙されたぞリンドー!物理でシーソーが出てきたらてこの原理だと思うじゃん!


「いいリアクションだ、さすがリュージ。さて本題だが、このシーソーの上でオレが魔法を一つ唱えます。『ブリーズ・ベール』。そうすると……」


風の羽衣のようなものを纏ったリンドーは板の上にゆっくりと乗った。するとまるで重力がその方向に作用しているかのように体を地面から45度くらいに傾けても倒れることなく斜めに直立するじゃないか。


「うっわスゲェ!なんだそれ、俺にもできるのか!?」


「特定の魔法を覚えればユゥリでもジェーンでもできるぜ。そして面白いのはここからだ。さっき唱えたブリーズ・ベールの効果がもうすぐ切れる…………いまだリュージ、反対側に飛び乗れ!」


「なんかわからないけど了解、っと!」


リンドーの指示に合わせてシーソーの反対側に飛び乗ると同時に風の羽衣が消えたのが確かに見えた。いや違うな、俺が()()()()()そこまでだったんだ。


俺が飛び乗ったことで勢いよく傾いたシーソー。その反対側にいたリンドーの姿は一瞬で消えていた。


「あれ?リンドーは!?」


「わ、わかんないよ!ボクたちも見てたけど、見えなかったもん!」


慌ててあたりを見る俺たちだけど、ほとんど身を隠す物が無い筏の上にはリンドーの影も形もない。


いったい何が起こったんだろうか?と首を傾げたところでユゥリがあっと声を上げて上空を指さした。


「あの、もしかしてアレじゃないですか?」


ユゥリが指さした先を見ると、太陽の光の眩しさに紛れて小さな黒点が一つある。それは少しずつだが確実に大きさを増していき、数秒後には人の形をしているのがわかった。そしてバサッと大きな袋のようなものを背中から膨らませ……


「いやっっほぉぉーーーう!!ふぃー、パラシュートも上手く使えてよかったよかった。ようお前ら、どうだったよ?ビックリしたろ?」


空から落ちてきた物体X、もといパラシュート降下してきたリンドーはご機嫌な声を響かせながら筏の上に着地した。


「これだけ長い時間かけて下りてくるなんて、どこまで高く飛んでたんですか?」


「おお、ざっくり1,000メートルくらいかな。これがレストレム式ロケットジャンプだ。スゲェだろ?移動力強化系の風魔法の終わり際に足場の動きが加わるとあんな感じに吹っ飛ぶんだ。実際はもうちょっと複雑なんだけど、おおむねそんなもんだと思ってくれればいい」


「スッゲー!俺も、俺も飛びたい!スカイダイビングしてみたい!」


こんなの絶対に楽しいじゃん、今すぐにでもやってみたい!


だけどリンドーは笑って俺の肩を叩きながら首を横に振った。


「降りてくる時は風魔法で位置調整してっからな、今リュージが飛んだら帰ってこれなくなるぜ。だから今回は諦めとけ、おまえ用のパラシュートも作ってやるからよ」


「やっふー!約束だぞ、リンドー!」


「その約束が果たされる頃にはバグ修正されてるんじゃないかなコレ……」


その時はその時だよジェーン。楽しそうなことにはとりあえず手を上げとかないとダメなんだぜ。


なんて遊びながら筏を走らせていれば時間が経つのもあっという間だ。目的の蛮族がいる島が見えてきたぞ。

このゲームは職業がハチャメチャに多いので「なにそれ…知らん…」ってなるジョブも結構あります。それでも条件さえ満たして先生NPCさえ見つければ誰でもそのジョブに就けますよ(誰でも条件が満たせるとは言ってない)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上位職業が想像もしてなかったところから来てびっくりしました。自分だけが就いてる職業で悦に浸るのとかすごい楽しそうだなぁ…このゲームやりたいなぁ…としみじみ思いました あと、「蛮族とかリュー…
[一言] そして忘れちゃいけないけど俺はいずれドラゴンをグルグル巻きにしてその周囲を踊り狂うという野望を持つ男。蛮族とかピッタリじゃん? やってても全く違和感ないし、確かに文句なしでぴったりの野望だ…
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