そうだ、クラン作ろう
ちなみに私はクランとかギルドとかそういうのが大っ嫌いです。仕事柄そういうのに参加できないので……
「な、クランの本拠地を俺の筏にしちゃえば海の上でも好き放題できるじゃん。こりゃもうやるっきゃないだろ!」
「あー、それ無理だよ。クランの本拠地は移動式にできないからね。そうじゃないと君が筏を格納してるときにボクはどうやって本拠地に入るの?ってなっちゃうでしょ?まあ折衷案としては海の近くに建てるってとこかな」
なんと!そんな、俺の巨大筏で全員漂流計画がこんなにも早く頓挫するとは!んーでも仕方ない、無理なもんは無理か。海の冒険をするときにはリュージ海上タクシーを使ってもらうしかないね。
「気持ちを切り替えていくか。それより『他の人はどうやって』じゃなく『ボクはどうやって』っつーことはクランに入ってくれるんだよな、ありがとう!」
「文字通り乗り掛かった舟ってやつでしょ、愛想が尽きるまでは付き合ったげるよ。まあ毒をくらわば皿までー、的な?」
「毒を食らわばサラマンダー?」
「はい今減った、愛想が1減ったよ!同じクランになるからには厳しくいくからね!?」
一番渋りそうだったジェーンがすんなり入ってくれたのはとても嬉しい。あまりの嬉しさに思わず歓喜の太陽ポーズをとりそうだったがもの凄いジト目で睨まれたので今回はやめておいた。いずれちゃんとした場で見せようと思う。
とにかくジェーンの入団は決まったし、リンドーとユゥリにも相談してみよう。えーっと二人は今……インしてるな。よし、ならば善は急げだ。
「おっすリンドー、一緒にクラン作ろうぜ!メンバーは活きのいいツッコミ役を一人確保したからさ!うん、うんうん、ファーファンの西門で待ってるから。じゃあまた後で!…………やぁユゥリ、いきなりだけど俺とクラン作らない?他にも二人いるんだけど描きごたえのあるメンツだと思うぞ。ふむふむ、今ファーファンに向かってるところ?やっぱり俺たちは運命の友だな、ファーファンの西門で待ってるよ!……よし、これで俺を入れて4人だ!」
「ちゃんと友達いるんだね、安心したよ」
「リンドーもユゥリもちょっと変わってるけどいいやつらだぜ!」
「君に変わってるって言われるの?え、大丈夫?」
なんでそこで心配の言葉が出てくるのか分からないけど、初対面の人を怖がるタイプなのかな?わぁ、ジェーンちゃんってば人見知りぃー。
さておき、しばらくは2人を待つことになる。門の真ん前は他の人の邪魔になるし、少し脇に退いておこうかな。そしたら……
「何でオールを地面に刺したの何でポールダンスなの何で回りだすのーーー!?」
「いやほら、万が一にでもリンドーとユゥリが俺を見落としたら困るだろ?なぁに安心しろ。言ったろ、俺はダンサーなんだ。回るだけなら永遠に回り続けられるぞ!」
なはははは!と笑いながらグルングルン回る。気分はそう、漁港でたまにみるイカを干すアレだ。まあこの程度じゃ俺の気力体力を干すにはほど遠いがね!
笑い声の尽きない賑やかな夜を過ごし、俺達は2人の到着を待った。素晴らしい一夜だったと言わざるをえないな。
夜明けからほどなくしてリンドーとユゥリが合流。フラッグ・スピンをし続けている俺を見たリンドーは爆笑、ユゥリはスケッチブックを取り出して猛烈な勢いでデッサン開始と何も変わりなくて何よりだった。
「改めてリンドーだ、グライダーの改良に熱を上げてる。空飛ぶ魔法使いと呼んでくれ。リュージと組むことを決めたってこたぁ退屈がお嫌いって感じだろ?よろしくな」
「ユゥリです。絵を描くのが好きで職業は神官を選んでます。おふたりも描きがいがありそうでいいですね、よろしくお願いします」
「ジェーン・ドゥ、怪盗見習いの盗賊。うん、なるべく正気を保てるように頑張るよ……」
うんうん、仲良きことは素晴らしい。挨拶と自己紹介はコミュニケーションの基本、みんなやるな!そして俺もやるぞ!
「好きな食べ物はキャラメルポップコーン、将来の夢は歴史の特異点。大海原に燦然と輝く筏上のダンシングスター、リュージです!」
「オレ、塩バター派だな」
「ふふ、リュージさんってちょっとかわいいですよね」
「そこなんだ!?将来の夢の方じゃなくてポップコーンの方なんだ!?」
さっそく打ち解けたようで何より。それじゃクランについて話し合いを始めようか。
「なあジェーン、クランを作るのに決めなきゃいけない事って何?」
「よくもまあそんな状態で人だけ集めたね君は。えーっと、確か必須事項は……」
その辺に落ちていた木の枝で地面にガリガリと箇条書きで文字を書くジェーン。思った通りというか意外とというか、字は丸っこいけど大きさのバランスが良くて読みやすい。
1.クランの名前
2.クランリーダー
3.シンボル
4.冒険者ギルドへの届け出(手数料500G)
「まあリーダーは言い出しっぺのリュージでいいだろ。どうせこいつが一番オレたちを振り回してくるだろうしな」
「いいと思います。そもそもここにいるのはリュージさんを中心に集まったメンバーですし」
「俺がリーダー?オッケー、肩書が増えたからまた新しい名乗りを考えないとな!」
「話の進む速さだけは一級品だよねぇ……じゃあクランの名前は?」
ふむ、名前か、名前は大事だ。俺はかつてふざけた名前でRPGをやって感動の場面で全く感動できなかった思い出がある。だからこそ今も名前だけは真面目にリュージを名乗っているのだ。長年の相棒が俺を庇って死ぬときの最後の言葉が『楽しかった、ぜ……ヌンポポペロッチョ丸……』だったもんな。あの時ばかりは自分の行いを後悔した。
そんなこともあったんだよと軽く言ったらみんなメチャクチャ真剣に考えだした。いや、変な名前がダメなだけで無理して絞り出せってワケじゃないんだけど。
「うーん、オレたちを端的に表せる言葉でかつそれなりにカッコいいもの……」
「海の上で踊るバカ、グライダー作りの魔法使い、旅の絵描き神官、怪盗見習い……ボクたちみんな向いてる方向がバラバラだからねぇ」
何がどうしたらこんなメンツが集まるのか。少なくともセオリーや常識に従ってたらこうはならないよな。全員が全員、自分の心に従ったからこそこうしてここにいる。
「【針無し羅針盤】、なんてどうですか?」
「その心は?」
「好きな時に、好きな人が、好きなように、好きなことをする。刻まれた方角はただの記号で、本当に自分がどこを向いてるのかなんて誰も気にしない。だったら、私たちの見る羅針盤に針なんて要らない……みたいな」
「「「採用!!」」」
最後の方はだんだん声が小さくなっていってたが、なんて素晴らしいアイデアか。さすがは俺たち【針無し羅針盤】の芸術担当。キレッキレだぁ、冴えてるぜ!
「つまりノーサイン・コンパス、略してノーコンだな!」
「その略し方はダメでしょ、それなら普通にコンパスとかでいいじゃん」
「グッドだユゥリ。いいね、最高!マーベラス、クール、アンビリーバブル!」
「いえ、あのその……いいんでしょうか?」
いいに決まってんだよなぁ。これを超えるウルトラハイセンスな名前を出すなんてね、さすがの俺でも今この場ですぐにというわけにはいかんよ。胸を張って誇れユゥリ、おまえのセンスは俺たちの中で一等賞だ!
名前が決まればもう話は終わったも同然。シンボルはズバリ針の無い羅針盤を描けばいい。だとしたら俺が自分の拠点用にって適当に〇描いてチョンで終わらせたアレもなかなかにいい感じなのでは?おやおやおや、俺ってば無意識に未来予知しちゃった?新しき預言者として聖書に載せられちゃう?
「シンボルの下書きをユゥリちゃんが描いてるうちに本拠地について決めようか。ま、リュージがアレだから海の近くなのは外せないよね」
「あとオレがグライダーを飛ばせるいい感じの高台か何かがあるとなお良し。まあ最悪飛行場はハンドメイドするからいいけど。実用的な面でいえばファーファンには拠点間ワープが使えるようになるから、あんまり近いとせっかくのワープ地点が無駄になるな」
「拠点自体はみんなの冒険の進行によって随時引っ越しすることになると思うけど、それを考えるとファーファンと次のワープ町の間くらいに作ることになるかな。リンドー、君は地図をどこまで広げてる?」
真面目な話はリンドーとジェーンが詰めてくれてるので助かる。俺としては海のど真ん中にある無人島とかロマンあふれてて素敵だと思うけど、さすがの俺もいきなりそんなことは言わないよ。こういうのはもうちょっとノウハウが蓄積してからやった方がいいもんできるからな。
なので二人の話し合いが終わるまで俺はとりあえず踊っておくことにした。両手をリズミカルに肩上に上げながら緩いツイストステップでジェーンの後ろを静かにウロチョロしていたらヤクザがメンチ切ってるみたいな形相で睨まれたぞ。なんでだ、俺はちゃんと迷惑にならないよう音を殺していたというのに!
現時点でリュージがワープ可能なのはビ・ギンとファーファン、それと最後に筏があった場所のみです。