濃すぎるファーファン1日目
気づいたら新年明けてましたね、今年もよろしくお願いします。
リンドーと別れた後、ファーファンを目前にしたところで俺もその日のプレイを終えた。ファーファンではやることがたくさんあるし、次の日にフレッシュな気持ちでやりましょうやってね。
「つーわけで一日跨いで、来たぜファーファン!ひょーう、デッケー町だなぁ!」
オーソドックスなファンタジーの都市って言えばいいのかな、城壁に囲まれた石造りの町であるファーファンにはとにかく人と物が多い。この町から本格的に自由な行動ができるようになるからか、NPCもプレイヤーも道を行き交う数がビ・ギンとは比べものにならねぇや。
そんなファーファンで俺がやるべきは当初の目標である拠点化アイテムの入手と盗んで踊ること!
とりあえず盗みまくって『盗み』のレベルを上げて鍵開けの成功率を増やす。これはもう俺が筏でフラフラするからには必須だ。島にたどり着いて宝箱発見、でも鍵開けできませんでしたじゃ話にならねぇもん。
そして何よりリンドーが教えてくれた職業を踊り子にしてくれるというNPCに教えを乞わねばならぬ。踊りのスキルがレベルアップしても覚えられるのはファーストステップみたいな『踊りアーツの効果を上昇させる』『効果時間を延長させる』系のものばかり。その肝心の踊りアーツを一個も持ってないんだってばよ。
先人たちの知恵で調べてきたところによると、そのジョブチェンジNPCには夜だけやってる酒場で会えるらしい。まあ当然といえば当然か、他に踊り子がいそうな場所ってあんまないよね。
「まずは夜になるまでに拠点化のチュートリアル、そんで時間が余ったら怪盗リュージの出番だな」
普段はいき詰まらないと攻略サイトもそんなに見ないけど、次にユゥリやリンドーに会うまでにある程度のところまで持っていっときたいし段取りは重要。つーか俺さっさと筏を改造して海に出たいんだよ、町で必要以上にトロトロしてたくない。
拠点化チュートリアルを受けられる場所は町の中心部にある建築ギルド。そこでちょっとした講習みたいなのを受けるともらえるんだと。じゃあそこまで行きますかね。
「ようこそファーファンへ!この大通りをまっすぐ行けば各ギルドが軒を連ねるギルド通りだよ」
「あざーっす」
RPG名物『門の近くで道案内をする人』に話しかけられたので生返事。門番ってわけでも外に行くわけでもないのになんでこの人はここにいるんだろう?よくよく考えたら意味わかんないなこの手のNPCって。
そんなよくわからない人に教えてもらった大通りには屋台とかもいっぱい出ていて活気にあふれている。俺の貧困なボキャブラリーだとそうとしか形容ができない。やっぱりもうちょっと国語の勉強するかなぁ。
「でも屋台がいっぱいあるのはたくさん盗めるしいいことだ。拠点化チュートリアル終わったらこの辺で修行してもいいかもな」
うむ、あの果物の屋台なんて後ろにもそこそこスペースがあって裏に回りやすいし、荷車の置き方が絶妙に通りからの目線を遮ってくれる。あっちの雑貨商は物の置きすぎで隅々まで目が届かないだろうな。
あ、やっぱり今プレイヤーっぽい人が万引きしていったぞ。そしてそれに気づいた衛兵が貼りついた笑顔で職質……逃げた!
「先手必勝って言葉を知らないのかな、おバカさん!このボクを捕まえたかったらハナから剣を抜けばいいのさ!アハハハハ、アディオース!」
推定無罪の原則がある日本じゃ不可能なことを言ってのけながら鮮やかに逃げ去っていく万引き犯。まあここ日本じゃなくてレストレムだからね、じゃなかったら俺も犯罪計画なんて立てないし。
それにしてもいい逃げっぷりだったな今の人。去り際のセリフといい完全に愉快犯だ。だけどそれでいい。ゲームだし愉快でナンボよな!
うんうんと頷きながら歩いてたらギルド通りに到着。この通りの各ギルドには職業を変えてくれたり一定レベルでアーツを教えてくれたりするNPCがいるんだとか。まあ踊り倒す予定の俺にはあんま関係無いけどね。
「さーて建築ギルドはっと……ここか!ちわーっす、拠点化について教えてくーださい!」
トンカチとノコギリが交差したシンボルを掲げる建物に突撃。どんな時でも元気が一番という母ちゃんの教えに従い元気にご挨拶。
この挨拶でプレイヤーとNPCの違いがすぐにわかるのは面白い。プレイヤーなら怪訝な顔をしてこっちをチラ見してくるけど、NPCなら完全ムシかニッコリ対応してくれるかだから。
「拠点化ということは建築についてご興味があるのですね。ではこちらへどうぞ!」
派手すぎず地味すぎない、いい塩梅に美人な受付嬢のおねーさんに案内されたドアをくぐるとそこにはオッサンがいた。他には誰もいないし、オッサンもこっちを向いて立ってるってことは教官NPCなんだろう。
この時間でこのチュートリアルを受けるのが俺一人しかいないわけがないし、多分ドアを境に別空間になってるんだろうなと適当に考えてたらオッサンが話し出した。
「拠点化について聞きたいんだってな?じゃあ教えてやるからそこに座れ」
「オス、おねがいしゃす!」
「威勢のいいやつだな、気に入った。よーく聞けよ?」
そうして始まった拠点化についてだけど、ぶっちゃけ大したことじゃなかった。
簡単にまとめると拠点化するには条件を満たしているものに拠点化アイテムであるタペストリーみたいなのを貼り付けるだけ。
その条件というのも2メートル四方くらいの床面積が有ればいいと来た。ちなみに最大では10メートル四方らしい。まあ無制限にすると絶対に町よりデカい拠点を作ろうとするやつが出るだろうしね。俺が考えるくらいだから絶対にいる。ていうかできるなら俺がやってる。
「で、これがその自分の拠点であることを示すアイテムだ。デザインは自分で決めろ、画材ならそこらにあるのを使っていい。建築ギルドに来ればいつでもデザイン変更もできるから気楽に描くといい」
「ふーん……はい、これでよろしく!」
手渡された無地の白布に適当に筆で○描いてチョン。いつでも変えれるんならここで悩む必要なんて無いよな。やりたいこといっぱいあるし、俺ってばセンスには溢れてる自信有るけど画力の高いユゥリに描いて貰えたらなーって思ったし。
つーわけでサンキューおっちゃん!デザイン変える時までバイバイ!
なんのかんのと時間は経っていたようで建築ギルドから出たらもう日は沈もうとしていた。タイミングばっちりだな、例の踊り子さんのとこに行きまっしょい。
「えーっと、確か南側にある道具屋を左に見て三つ目の角を右……アレか?」
暗くなっていく街に対して明かりが灯されていくその店は、ちょっとオトナな雰囲気が漂う飲み屋……でいいのかな?俺まだ高校生だからこういうお店をなんていうのかわかんないや。今度リンドーに聞こっと。
この中にいるキャスリンて女の人が職業をダンサーに変えてくれるらしいんだけど……相手がNPCとはいえこれから俺の師匠になるお方だ。ここは第一印象のためにも元気に挨拶しておくべきだろう、そうだろう。
そうと決まれば善は急げ。軽く呼吸を整えてお店の扉に手をかけ、大きく息を吸い込んでからガチャっと扉を開く。
「ごめんください、キャスリンさんはいらっしゃいますか!俺に踊りを教えてくださーい!!」
お店の中には胸の高さくらいのテーブルがいくつもあって壁際のバーカウンターから飲み物をもらってそこで飲むんだろう。さらに一方が数人の音楽家も待機するステージになっていて、そこの真ん中がちょっとせり出している。
なるほど、ここでこう、えっちな感じのショーが行われちゃったりしてるんだな!?けしからんね、見てみたい!!
「威勢のいい坊やだねぇ、アタシがキャスリンだよ。踊りを教えて欲しいって?」
「おお、えっちなお姉さんだ!」
古い言い方だけどボン!キュッ!ボーン!なダイナマイトボディでおっぱいが上半分見えてるピッチリしたエロい服装のお姉さんが俺の師匠だと!?これは……うん、テンション上がるね!
そんなエロいお姉さん改めキャスリン師匠は俺の体をジロジロ眺めたりペタペタ触ったりした後、胸の谷間から取り出したライターで煙草に火をつけた。このお姉さん、エロいだけじゃなくてカッコいいぞ。
「いいんじゃないの。踊れる体は持ってるみたいだし、素養もある。アタシがいちいち手取り足取り教えなくても十分踊れるだろ。ま、とりあえずついてきな」
ちょいちょいと手招きされたので師匠の後についていくと、ステージの真ん前にあるテーブルに案内された。飲み物とか頼んでないんだけど大丈夫かな?
「その特等席でアタシの踊りを見てな。指の先から視線の向け方まで、ちゃんと見て覚えるんだよ。一回しか見せないからね」
そう言って煙草をテーブルの上にあった灰皿で消してステージへと上がっていく師匠。それと同時に店内にいたオッサンどもがステージの近くへと集まってくる。やっぱり師匠はこの店の人気者のようだ。
弦楽器の音が艶やかに鳴ると同時にゆっくりとステージの中央へと歩く師匠。その歩き姿にはさっきまでのスレた雰囲気はなく、ただひたすらに色気がムンムン漂っている。
そして師匠がついっ、と手を伸ばし軽やかにステップを踏み出したところで俺は完全に目を奪われた。
周りにいるオッサンたちの声も聞こえず、師匠の一挙手一投足に夢中になり……気づいた時には踊りは最高潮に達し、舞台袖から手渡される2メートルほどの棒を師匠が受け取っていた。
ステージにはその棒用の穴があり、そこに棒を差し込む師匠。そんな動作すら様になっているのはさすがと言うほか無いな。
まるで恋人にしなだれかかる様に棒に身を預けた師匠は、そのままくるりと重力を感じさせない動きで棒を中心に一回転。
「はぁ……」
体が柔らかいとかそんなレベルじゃない、目が錯覚を起こしたのかと無意識に瞬きを繰り返すほどにしなやかな動き。ただの一回転だけでわかる。これが遊びじゃないプロの技。
そこからはもう俺も背景の一部。そう俺自身に思わせるほどにこの場の主役は師匠で、すべての熱烈な視線を受け止め踊る師匠は美しかった。
βテストの段階では拠点の大きさに限界がありませんでした。が、リュージが言っているとおりメチャクチャなことをやらかすプレイヤーばかりだったのでかなり規模を縮小されました。そりゃ町よりデカい船とか造られるとさすがにねぇ……