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中央大陸を股にかける旅

あらかじめ言っておきますが、劇中の異世界においてのあの描写は年齢的な問題があることは理解しています。しかし、絶対に物語において欠かすことができない要素であり、また主人公達の年齢も当初から意図して設定したものなので変えることはできません。ユナイトの発展性を考えた時に最終的に行き着く形態なので当初から登場させる予定でいたものです。詳しくは本編にて説明します。

 魔物の大量発生がミガク王国南部で起こっていると聞き、ワープストーンで転移した9人。現場まではノレドやポーサに乗って飛んで向かった。すると、「なんだこの数は、、大量って言ってもこんな数ダンジョンじゃ見たことない」その上空にいたのはサンドホッパー、要はバッタなのだが、驚くべきはその数。身体は小さいもののなんと100万以上もいた。その姿はまさに上空を覆う黒い塊。「見てるだけで気持ち悪い、、」「一気に片をつけよう」ハペルはイフリートドラゴンに変身して一気に片付けようとする。だが、「一気に別れた!?」塊のように一ヶ所にまとまっていた群体は上空で大きく横に広がり、なるべく最小限の犠牲で済ませようとしているらしい。ハペルは構わず炎のブレスで焼き払うものの、あまり数は減っていない。「どうやら魔力に反応して避ける知能を持っているらしいな」「となると厄介だね」少しでもミガク王国側にこの群れを通してしまえば食糧などを食い荒らされたりする被害が多発するだろう。魔物なので少数であっても人間さえ食べてしまう可能性すらある。だからこそ通さず殲滅させる必要がある。悩んでいた彼らの前にアルラウネが現れた。「ここは私にお任せを」「誘惑を使うの?」「違います。彼らは食糧が目当てなのでしょう?もっと単純で効果的なものがあります」「なら女性陣にこの場は任せて、俺達は砂漠のほうに行こう」「そうだな」ノレド達はハペル達を置いて砂漠に向かった。

ちなみにポーサが女性陣を運び、ノレドが変身して男性陣を運んでいる。「シエムさん、グリフォンを貸してくれますか?」「いいよ」ダークグリフォンを召喚する。「いきます」するとどこからともなく甘い香りが漂ってきた。アルラウネが出しているらしい。ホッパー達がその匂いに誘導されている。「確かに食べ物を求めて移動している群れに美味しい物の匂いである甘い香りは効果的だね、固まったところに一気に攻撃しよう」シエムとメイリは魔法と鱗で攻撃、ユナはクイーンで逃げ道を制限してハペルは魔法と物理両方で倒していく。しかし数が多すぎた上に、甘い香りで本格的に餌と認識したホッパー達はアルラウネに突撃していく。彼女達が全滅させる前にアルラウネが乗るグリフォンにホッパーが襲いかかった。悲鳴を上げて叫ぶグリフォンを急いで回収に向かうシエムだったが、一度捕まったら数の暴力で身体が食い尽くされてしまった。グリフォンは最後の抵抗で身体を魔力に変えて羽根飾りになった。当然乗っていたグリフォンが消えたので落ちるアルラウネ。ホッパー達に食べられているにも関わらず、なぜか平気なようだ。「食べた個体を吸収して一部にしているんですよ、ただ数が多すぎるのでこれ以上来ると処理が追い付かなくなって食べられます」ハペルが浮遊魔法をかけて落下を緩やかにして止める。さらにアルラウネのガードをしてホッパーに噛みつかれるも、身体にいるガーディアンのガードで無傷だ。「規格外ですね」アイスリヴァイアサンに変身して噛みついていたホッパー達を凍りつかせ、一直線に向かうホッパー達に水流を放射して倒す。もうこの時点で100万いた群れは一万も残っていなかった。その残りもまた逃げるではなく甘い香りの誘惑に耐えきれず突っ込んできたので女性陣の連携で殲滅した。「ふぅ、数が多くてしんどかったね」「急いで砂漠に向かったノレドさん達と合流しましょう」「そうだね」その頃、砂漠についていたノレド達を待っていたのは、ダークゴブリンの群れだった。こちらは上空にいたサンドホッパーほどではなかったが1万以上はいた。そのため砂漠の向こうまで敵がいた。そしてそこにマタカ達冒険者がいた。どうやらすでに倒し始めているようなのだが、それでも一万以上いると言うことは異常なことは理解できた。「父さん、大丈夫ですか?」「かなり厳しい状態だ。死亡者はまだ出ていないが、このままだと突破されてしまう」見たところテントに負傷者がいて、魔法で防壁を作って魔物の群れを止めているようだ。討伐するのが厳しくなったためだろう。「この壁も長くは持たない。しかも倒しているにも関わらず敵の数が増える一方で困っているんだ」「とりあえず、上からブレスで攻撃するぞ」「ま、待て」そう言う前にノレドは攻撃をしたが「効いてない!?」「どういうことなんですか?」「奴らは魔法攻撃に耐性がある。特に炎属性は全くと言って効かない」「ならこうすればかなり時間を稼げますよ」とピレンクが言うと壁の向こうの敵の足元を影で沈めた。ゴブリン達は目の前の敵よりも足元の影を何とかしようと必死だ。「影は相変わらず万能だな、畳み掛けよう」冒険者と協力してトーイ、ピレンク、ノレドはゴブリンの首をはねて殲滅していく。とそこにホッパーを殲滅した女性陣が合流した。「すごいね、ゴブリンの首なしだらけだね。この感じからするとそっちも終わったのかな?」とハペルが聞いた。「ここからだ。俺達もさっきここまで全滅させたんだが、、」すると向こうからゴブリンらしきものが、、「今度はオークだと!?」オークは豚の頭と人間らしき身体を持つ緑色の魔物である。しかもさっきのゴブリンは特に武器は持っていなかったのに斧や槍を持っている。「復活するだけでもきついのに上位の魔物が出るとなると原因を絶つ必要があるな」とここでハペルが「その原因ってさっき話そうとしていた理由とつながるのかい?」「ああ、繋がる。この砂漠には強力な幻惑の結界が施されている。この結界は物理的に行けなくする効果があって南側から行くことはできない。だが今のこの現象は魔物が結界の向こうから溢れてきている。おそらく結界は一方向の物なんだろう。我々人間が侵入しないようにするためのものだからな。広大な砂漠一帯に施してあって穴を探そうとした冒険者もいたらしいがこれより奥を見つけた記録は未だにない」

「今の話をしている間、オーク達は止まっていたね。おそらく何か意図があるんじゃないかな」「あの魔族もしかして我らの会話が分かるのではないか?」「いかにも強そうだが全滅するよりは話したほうがいいのではないか?」ハペルにだけ分かる会話をするオーク達。彼女は飛んでいって会話し出した内容を聞き取ろうとする。「ひぃ!来るなぁ!」「大丈夫、話そうとしてる魔物の命は取らないから」「やはり聞こえているようですね、あなたは」「そうです。私は魔族に加えて特別なテイマーなので、魔物の言葉がわかります。大半はろくに会話ができず戦うしかないですが、あなた達はちゃんと会話ができそうで何よりです。なぜここまで大量の魔物がこちら側に出てきているのか教えてもらえませんか?」「私達も突然気がついたらここにいたんです。後ろのほうには他にも沢山の魔物がすでにいて、押し出されるようにここに来ました」オークがそう言った。倒そうと思えば9人の力を使えば問題なく倒せるだろう。しかし先程も言った通り原因を絶たないといくら倒しても意味がない。「ちょっと待っててください。話し合って来ます」「わかりました」オーク達を残し、マタカの元に戻るハペル。で、先程の状況を説明する。「突然現れて向こう側にもすでに溢れんばかりの魔物か。これは厄介だな」「エキドナさん、力を貸してください」ブレスレットで呼ぶ前にボックスの分体が現れた。エキドナは身体が赤色だが、分体は青くなっていて区別がつくようになっている。「魔物の大量発生をどうにかしたいんだね?」「はい」「ここまで大量に魔物が生成されているのはコアが原因だ。だから、コアを停止させる必要がある」「具体的にどうすればいいんだ!?」「待ってて、今のやり取りはブレスレットで本体はすでに聞いているから、助っ人がもう来るはずだよ」すると分体が強制的にボックスに戻って、エキドナと助っ人が現れた。「ガイアさん!?」「久しぶりじゃな、皆」そこにはダンジョンから助け出して魔王城で暮らす大地の女神ガイアがいた。「我の魔力なら確かに停止させることはできるじゃろうが、ここまで大量の魔物の中停止させるのは厳しいぞ」「大地の女神って自然の物に宿ることができるのよね?」エキドナがこう聞いた。「我なら可能じゃが、砂漠の場合砂しかないから移動はできないぞ」「じゃあ、木の根っこがあればいいんですか?」ユナがそう聞く。「ああ、根っこなら中を移動できるしおそらく結界にも引っ掛からずいけるじゃろうが、、」ユナはウッドガーディアンを繰り出す。「そなたそのような魔物を持っていたのじゃな」「私を護ってくれる大切な存在です」「では、ガイア殿、行きますぞ」ウッドガーディアンは世界樹と繋がっているため、この世界を知る世界樹が導く正しいルートで根を張ることができるようだ。魔物の下を通り、結界を避けてぐんぐん根を張って、コアのある場所を目指した。「おそらくですが、たどり着いたかと思います。あとはお願いします」「うむ、任されよ」「本当に潜れるんだ、、」ガイアは木の根に潜り込むと先へと向かった。「確かにコアのようじゃな。こんな空中にぽつんと浮かぶコアなんて見たことないが」根っこはしっかりコアを捕らえていた。根っこから抜け出したガイアは周りを見渡す。魔物だらけだ。現れた敵に当然攻撃を仕掛ける魔物達だが、「伊達に魔物を率いて戦争しておらんわ」一切攻撃は効いていないようだ。「さて、厄介な物はさっさと止めてしまおう」魔力で無理やりコアの起動を止める。攻撃を仕掛けていた魔物達の動きが鈍くなる。さっと木の根ですぐに戻ってきたガイア。「止めてきたぞ。だが魔物達はどうするつもりじゃ。あやつらは勝手に産み出されたに過ぎん。勝手に殺すのは魔物の味方である我は許さんぞ」「なら、俺に任せてくれないか?」と切り出したのはマタカ。「ダンジョンが突然生成されて狂ったように魔物を出して人間に害を加えるのがまずいから困っているわけだよな。だが、コアを管理してこの付近に彼らの暮らせるダンジョンを作ってしまえばいい。ギルド権限で立ち入り禁止にすれば彼らの命が脅かされることもない」「父さんってダンジョンを作れるの!?」「ああ、魔力のある土地であればコアを置いてやれば作れる。今回は停止したコアがあるから簡単だな。お前達が行った試練のダンジョンは大半俺が作ったものだ。まぁ、神がいるダンジョンは違うがな」衝撃の真実。実は試練のダンジョンは勇者である父親が作っていたものだった。「なぜ勇者がそのようなことを!?」「僕が説明しましょう、でも暑いので霧が欲しいですね」「!?」そこに現れたのはかつて倒したボスの一人、アイスバタフライ。トーイとシエムがミストリングで霧を作り、その上でアイスブローチの近くに陣取った。「僕を作ったのは他でもないあなた達のためです。かつての勇者達は強力な装備こそ揃えましたが強力な魔法を使えず、だいぶ苦労して魔王の息子を倒しました。復活することは予言で知っていたマタカさんは次に会うときには前回倒した反射が使えない以上、かなり厳しい戦いになると予想したため、ダンジョンを作り僕達を作りエレメントがドロップするようにしました」「どうやって作り方を知ったんですか?」「妖精女王だよ。予言すると同時に教えてくれたんだ。そこにいるウッドガーディアンを作ったときのやり方を」「と、とにかく。オークさんずっと待ってますし、さっさと作るなら作ったほうがいいのでは?」待たせてるハペルが焦った様子で切り出す。「まぁ、そうだな。とにかく作ってからにしよう」ハペルはオークに事情を説明。オーク達は後ろの魔物にも説明しにいってくれた。その間にウッドガーディアンがコアを取り寄せ、ダンジョンを作る準備をしていく。マタカがコアを使ってダンジョンを作成する。作るのは砂漠エリアではお馴染みの流砂の洞窟だ。ハペルが作ったダンジョンまで誘導し、オークやその他の魔物達もそれに続く。「とりあえず入る限り入れてみたが、だいぶ階層が多くなったな」どうやら100階層以上になったらしいが9人が攻略するわけでもないので割愛。最後にコアをダンジョンの奥地に配置して準備完了。「まぁこれでようやく騒動は終わったな。みんなお疲れ様だ」「楽しいものが見れたし、我は戻るぞ」ガイアは一足早く戻っていった。すっかり周りは夜になっていた。「貴女の近くにいるとそのブローチのおかげもあってだいぶ快適です。ダンジョンに最近私までたどり着くような人も来ないので仲間になって暇潰しに協力してもらえませんか?」「それなら喜んで」こうしてアイスバタフライをシエムは仲間にした。「ブローチの横の羽根飾りは魔力こそ持ってますが特に効果はないですね。ああ、せっかく仲間になりましたし、強化をしてあげましょう」そう言うと杖に自身の魔力を付与した。「これでいつでも詠唱なしで私の魔法を放てます」シザークラブの杖は氷蝶の杖となった。エレメントの装備数は変わらず3つである。「ありがとう」「どういたしまして」そういうと彼はボックスに消えていった。「相談してみよう、あの人に」一方、マタカは会話している9人や冒険者を残して一足先に道場に行っていた。「あのことがバレた。やめざるを得ないだろうな。後任はすでに決めてある」「そうか。それがお前の決断なら仕方ない」ジョウドが声をかけるとマタカは再び転移していた。「話しているところすまないな。大事な話がある」真剣な表情になったその場にいた者達。「冒険者を管理する立場でありながらダンジョンを生成していたという事実を隠していた。確かに冒険者にとってダンジョンは糧ともなるが同時に命の危険も大きい。危険を回避すべきギルド長が作った責任は大きい、ゆえに私はギルドマスターを辞任する」「そんな、、辞める必要があるんですか!?その能力を積極的に命を奪うために使ったわけでもないのに?」冒険者の一人が納得がいかない様子で質問をする。「だが、作ったダンジョンで亡くなった命があることもまた事実だ。隠していた理由は後任を見つけるまで、と決めていたがすでに決めたため隠しきれなくなったタイミングで決断した」「責任の取り方、それでいいんですか!なぜこのタイミングなんですか!?」「君達もダンジョンを私が作るところを見ただろう。これを世間が知ったら間違いなく責任をとって辞めるしかないことがわかっているからだ」「でも、いくら元勇者でも好き勝手にダンジョンを作れる人を野放しにするわけにはいきません。だから、後任の私があなたを監視します」その発言をしたのはかつてトーイ達を護衛したカーンだった。会話が弾んだのも彼もこの任務に呼ばれていてトーイ達と再会したからでもあった。

「私もです。まったくこんなバトンタッチのされかたは最悪です」パートナーのレイネも当然いる。彼女は商業ギルドのマスターを務める。すでに近々辞める可能性があることはこの二人に伝えていて、引き継ぎを少しずつ行っていた。だからこそ抜け出して修行に出かけることもできたのだ。こうしてマタカはギルドマスターを辞任して監視下 (役職持ちにする)に置かれることになった。このニュースは親子対決の翌日に流れたこともあり、大きな注目を浴びた。逮捕は避けられたものの警察からもマークされる人物になってしまった。話は少し戻してその日の夜の魔王城。シエムがエキドナに相談に来ていた。トーイも一緒である。というのもアイスバタフライに言われた話が気になっていたからだ。「なるほどねぇ、形見のその羽根飾りをなんとか使える装備にしたいと。うん、協力しようとは思うけどそれだけではどうしようも、、」「羽根なので思い付いていた組み合わせがあります」シエムがバッグから取り出したのはラーの分体から抜け落ちた羽根。マタカとフェアルがラーの羽根で息子の即死光線を無効化したシーンを覚えていた。「とりあえず、やってみよう」エキドナは魔力を使って合成する。「本家ほどの集光能力は多分ないと思うけどまぁ効果はついたね、でもそれだと装備と言えるかというと微妙だねぇ、、属性が光だから雷属性の何かがあればもっと強くなりそうだよ」「僕、この装備持ってます」トーイが取り出したのは雷の衣。「これだよ、こういうのがあれば相乗効果が高そうだ。せっかくいいものが作れそうだから今シエムちゃんが着けている装備と交換でどうだい?」「これですか?」着けていたサーペントの軽鎧を外す。「おそらく今合成できる装備はその装備以上の防御力を持ちながらかつ強力な効果がついた防具になる。だから不要になると思ってね。私自身蛇の身体を持っているから蛇の装備や装飾品には目がなくてね」「わかりました。お願いします」エキドナがさっき以上に魔力を込めて合成をしていく。「全体にむらなく付与するのは結構大変なんだ。ちょっと魔力を注ぐのを手伝ってほしい」「はい」シエムも装備に魔力を込めていく。合成時に現れた光が収まるとそこには新しい装備があった。「うん、いい出来だ。今は色が黒いけどこれは集光するためなんだよね。危機を感じ取ると貯めた光を放出する仕掛けになっている。中の魔物が生きているから、ある程度は電気で代用することもできるよ。光属性の攻撃と電気属性の攻撃を無効にできる、とってもすごい装備だね。名前はそうだね、煌めきの衣って名付けよう」「いいですね、嬉しいです」当然これはシエムの装備になった。交換で手に入れた軽鎧もエキドナは気にいっているようだ。「エキドナさんには悪いけど、少し変えちゃいます」小声でそう言ったシエムは貰った装備にある細工を施した。道場に転移した二人。すっかり夜も深い。「二人ともどこに行ってたのさ、ってそれって、、」「私の新しい装備だよ。煌めきの羽衣って言うの」「あれ、エキドナさんが作ったのって煌めきの衣だったよね?」「そうだよ。でも、元は羽根だからここに分かるように羽根をつけてあるの」服の胸元にラーの分体の羽根がついている。羽根がついているだけなので見た目は羽衣とは全く異なるが、便宜的に煌めきの羽衣と表記する。「すごく見た目かっこよさそうだね」「これ、見た目的に雷の衣とあのグリフォンの羽根を合わせた物みたいだけどどんな効果なんだ?」ピレンクが質問する。「近付いてみるとわかるよ」シエムはそう返す。「そうか」そう言ったピレンクは不審に思いながらも近付く。「わぁ!」「効果発動したらこっちが眩し過ぎるね、ちょっと考えよう」「それでしたら」アルラウネが現れた。「顔に来る光を吸収して栄養源にするようにしますね。もちろん誘導付きなのでこれで眩しい、なんてことはないはずです」「ありがとう」ネックレスに効果を付与したことで対策ができたようだ。「面白いね。もう一度やってもいい?」ユナが興味を持ったようだ。「うん、何回かは光るみたいだからいいよ」ユナが接近するとさっき同様光った。「特に問題ないね、確認できたよ」と深夜なのに道場で騒いだせいでジョウドから「明日も旅があるのにはしゃいでるんじゃない!」とピシャリと怒られた。蜘蛛の子を散らすように部屋に戻ってすぐに就寝の準備をしたのだった。


 翌日。「ほら言わんこっちゃない」と様子を見に来たジョウドに言われるくらい明らかに寝不足気味であった。「そんな調子で冒険に行って命を落とされても困るでの。何があるのか調べるのがお前さん達の役目じゃが、体調は万全にしてくれなのじゃ」彼は門下生の女性に9人にスリープの魔法をかけてもらい、その場をあとにした。「全く、冒険以外のこういうところはまだまだ子供ですねぇ、、」そう語る魔法使いの女性。さすがにいつまでもモブというわけにはいかないので、紹介しよう。魔法使いの女性がウィマ、回復役の女性がラーウィである。そんな二人が全員に睡眠からの回復魔法をかけて部屋を去っていった。そんな中、マタカは警察の施設にいた。例の件で彼は呼び出されたのかと思いきや施設の人間から切り出された話題は想像できないものだった。「かつてのSIKの残党にまた動きがあるらしい。中央大陸の南部でなにかしらの活動をしているようだ。」「あそこは俺達冒険者ですらたどり着けないような場所なんだぞ!?どうしてそんなところで活動しているんだ!?」「確かに普通ならそうだろうな。だが、一度何かしらの方法で侵入さえできれば転移でいくらでも出入りできるだろう。実際マークしている人間の数人が南部に出入りしているんだぞ」「なんだって!?」彼が驚くのも無理はない。前回話した通り、ミガク王国からの南部のルートは強力な幻惑の結界で覆われており陸路も空路も侵入不可だ。さらに、「西から陸路で入るにしても人間嫌いの竜の隠れ里を通らなきゃいけないし、海からの空路での侵入も確実にバレる仕組みになっているんだぞ。一度ドラゴと行ったことがあるから分かるが、人間と魔族を毛嫌いしている奴らだ。勇者じゃなきゃ俺は門前払いを食らってただろう」「東から入れるんじゃないか!?」「あの海はどこに結界が張ってあって空路だと叩き落とされるか分からない恐怖の海だ。無策じゃまずたどり着くのは不可能だ?!」ここでマタカはあることに気がついた。「そうか、そういうことか、、」「何を一人で納得しているんだ?」「からくりが分かったよ。この世界はニアアースって呼ばれてるだろ?」「ああ、それがどうしたんだ?」「その理由だけど、俺がいた世界はアースって言うんだが、サイズが変わっているだけでかなりそっくりなのさ、地形がな」「!?」中央大陸は結界が多い場所や島が点在していたりして詳細な地図はないが、東大陸はかなり正確な測量をした地図がある。「東大陸の地図を見ると向こうで言う北と南アメリカ大陸とサイズは違うがほぼ一緒なんだ、証拠もちゃんとある」マタカは魔王から聞いた話を元に仕事の傍ら、100年前にやって来たヨーロッパの軍人達が遺した資料を探していたのだ。で、軍事には欠かせない海図が発見されたことと、この大陸に関して測量をした地図を照らし合わせて、この世界の名前の意味をしっかりと確認したのだった。そして、それはつまり、、「中央大陸にも当然モデルになっている大陸があるんだ。で、コーストタウンから南下して結界島を避けて入るルートがある。その海路で侵入していたんだ」「そういうことだったのか、ということは」「ああ、間違いなくこの世界の意味を理解している奴が向こうにはいる。手強い相手になるだろうな。で、そいつらは一体何をしているんだ?」「噂ではあるが、滅びの竜が間もなく復活する、と触れ回っているらしいな。マーリセ国でそういう活動があるようだ。その対抗策として封印された聖者を復活させると」「!!」滅びの竜とはコーテックドラゴンのことだ。魔王の話では男が死んだあとに女子供だけ残った状態でシャドーコープスを全滅させたと言う話だ。だが、この戦争の一番の原因であるシャドーコープスを知らなければ矛先がドラゴンに向くのは言うまでもない話である。そして封印された聖者とは、、シャドーコープスの親玉、この戦争を作った原因である。そんなものの封印が解けてしまえば世界がどうなるか分からない。上層部は元SIKのメンバーなのだから当然このことはわかっている。彼らの目的は一つ。自分達が世界征服をする奴の味方につくこと、それを一貫して行っている。マタカはこの戦争の背景と聖者の正体について教えた。「絶対に止めなければまずいではないか!」「ああ、勇者達には目的を伝えて竜の隠れ里から侵入してもらう」「なぜそのルートなのだ?人間嫌いなのだろう?」「あいつらには切り札がちゃんとあるから問題ないよ。それよりも一刻も早く止めるには我々は目立ってはいけない。だから使ったであろうルートから侵入して証拠を抑えるんだ」「我々にはルートがちゃんと分かるのか?」「勿論だ。ちゃんとその地図は複製して用意してある」フェアルが魔法で地図を増やしておいたのだ。で、ここでジョウドから連絡が。「あいつらが寝坊?まぁいい。特に作戦に支障はない」「大丈夫なのか?彼らが遅れて」「問題ない。ゆっくり行ってもらって大丈夫だ。ただ、こちらはそうはいかない。少人数で潜入する」「とりあえずお前の監視という名目で同行するがいいか?」「問題ない。とりあえずこっちは一旦転移できるようになればあとはどうにかできる」こうして潜入作戦が始まった。


 その頃。中央大陸の南部の山岳地帯。そこは魔力が溜まりやすい土地であるが、魔物が発生しにくくなる聖属性の魔力が一帯を覆っており、敵を封印するには最適の土地だった。そこで封印を解くために聖者教が暗躍していた。「滅びの竜に対抗するには聖者様の封印を解かないといけないんだよな?」「ああ、我々だけでは一発で沢山の犠牲を出す竜には対処不可能だ。だからやらねばならないのだ」末端のメンバーは真相を知らず、良いこととして平然と破壊行為を行っている。山岳地帯の封印はかなり複雑だ。魔力で封印を行うのだが、破壊しても周囲の魔力を吸収して別の場所に自動的に修復する仕組みを取っているため、破壊してもいたちごっこが続いていた。そのことは聖者教大司教、元SIK代表で魔族のレディトを焦らせていた。勇者達より先行しているにも関わらずほとんどアドバンテージを取れていないからだ。「とりあえずむやみやたらに破壊しても復活する以上、位置を特定して同時に破壊するしかない。あまり目立ちたくなかったので少数でチマチマ破壊してきたがもうなりふり構っていられない」南部で魔物のためにダンジョンを作ったことをすでに知っていた彼は遠からず勇者が来ることを知っていた。タイムリミットはそこまで残されていない。果たして彼らの作戦の行方やいかに。


 作戦が動いていることを知ったマタカは早速コーストタウンに向かった。そこにはドラゴとシルヴァが待機していた。「連絡が来たから待っていたさ。領主の娘さんがすごい船を造ってくれてたからそれでいけば現地の人を刺激せずに上陸できるだろうね」そこにはタイナがいた。ピレンクの旅の目的を聞いて彼が東大陸に渡るのに待機していたときに船をお金を積んで造ってもらっていた。「元々は別の目的で造ってもらった船なんですが、、皆様のお役に立てるなら喜んでお貸しします」「すごいな、船の全体に魔力隠蔽が施してある。魔力をさらに流せばおそらくだが、船を外部から見えなくさせることもできるんだろう?」「よくお分かりになりましたね」「さしずめ元々は何かの密輸船だったというところかな」「まぁいい線は行ってます」「まぁ、借りられるならなんでもいい。そろそろ行こう」こうして船は出発した。地図通りに航行していく一行。海上で一泊することにはなったが、港町を見つけて上陸することができた。「獣人が沢山いますね」「獣人の国ということは知っていた。ミガク王国でかつて魔法の研究に獣人は奴隷として使用されていた過去があったという資料も見つけていたんだ。だから対策はある、ロキ」「ここにいます。皆さんを魔力で変化させます」ロキは船にいた全員を獣人の見た目に変化させた。「すごい、猫の毛が生えているよ」「変化は私にとってはできて当たり前なので、、ただ他人を変化させるのははじめてですが」とりあえず彼らは変化ができたので現地の人に人間が来なかったか聞いてみることにした。「ああ、獣人には見えない連中が怪しげな動きをしているのを見たぞ。確かこの町ではないけど山のほうで動きが活発になっているらしい」町で聞いていく中で一人の男性から目撃証言を得ることができた。「山か、地図で言うと山が険しい地域は、、おそらくここだ」マタカは地球の地図を広げると現在位置と目撃証言の場所を確認した。ここはカイウーという町。そして東にまっすぐ進むことでたどり着くのが中国の四川省に相当する山岳地帯だ。三国志においても重要な役割を持ったこの場所こそ、封印を解こうとする組織が暗躍している場所だった。「とりあえず転移ができるようにしておきたい。石碑をわからないように置こう」ワープストーンの石碑を気がつかれないよう路地裏に設置した。港町で発展した町とあって路地裏が多い構造になっていたため、探すのは簡単だった。「とりあえず、例の地点を目指すのかい?」シルヴァが聞いてきた。「ああ、そのつもりではあるが、いつまでもここにいるわけもいかないから、来れるやつだけ来てくれ」「わかった」石碑に登録したメンバーはシルヴァを除いてやってきた。「あいつどうしたんだ?普段ならまずついてくるのに」「あいつ最近体調が優れないからなぁ。まぁその場所についたら俺が連れてくるから心配はいらない」ドラゴはこう言ってるが、「まぁあれなのだとしたら無理させるわけにもいかないな」と頭の中で考えたのだった。聞いた話によるとカイウーの町を出ると町が点在しているらしく、魔物がいるフィールドを移動しなければいけないらしい。「ドラゴンになって上空を飛ぶか?そうすれば早いぞ」「潜入にならんから却下で」「じゃあどうする?徒歩はあり得ないぞ」「新規習得した技でここは行こう」「!?」「ロキ、頼むぞ」ユナイトをした上で「とりあえずここに入ってくれ」マタカが指示したのは彼の影。「いつの間にそんな技を覚えたんだ?」「まぁ修行したときに弟と一緒に色々試したから、それのおかげだ」弟とはシハーデのことである。彼はピレンクから影魔法の使い方を教えてもらっていた。それを駆使してアイマリドで戦っていたのを見て、マタカも影魔法を教わったのである。ユナイトにより超スピードを得た彼は魔物をガン無視してその地点に向かった。この時後ろを置いてきぼりにしないように影に入れて運んだのである。この間わずか半日。「あれだけの距離を一気にここまで走るなんて凄すぎるな、、スタミナがよく切れないな」「修行していたからな」ちなみに到着したのは山岳地帯のふもとの村。今日はここで一泊して、ここから本格的な潜入に移る。すでに事情は村人に説明して泊まる許可を得ている。「ちょっと村人に聞いただけでもだいぶ大がかりな動きをしているらしいから、敵の戦力とかを分析しないとまずそうだ」マタカがそう言うとそこにいた全員が頷く。潜入の行方やいかに。


 作戦の鍵を握る勇者達一行が起きたのは昼過ぎ。「ふわぁぁ、、眠いけどみんな頑張ろう」トーイがそんな眠そうな掛け声を出して集めてから転移する。ラーの神殿にまず転移した一行はここで飛行して東を目指すことに。しかし途中で結界らしきものを発見したので下に降りることに。砂漠の途中にあったのは結界の原因らしき砂の山。そしてそこから出てくる大量の蟻。「これは蟻の魔物の巣ってことか、ならこれを強化できるかも」取り出したのは銀色の銃、シルバーアントライフル。「なにそれ、はじめて見る武器ね」ナージェは見たことがないようだ。「弓矢より強力な弾丸を打ち出して敵を倒す武器で銃って言うんだ」説明しながら発射した弾丸は人の身長ほどのサイズのある蟻をかなり遠くから木っ端微塵に粉砕した。これを見たナージェは「なんなの、その威力強すぎじゃない?」「まぁね。ただ僕達の場合銃が使えない相手には剣で斬ったほうが早いから、、」斬剣の性能が強く、かつボス相手に有効打として使用が難しい銃はトーイ達の手に余る状態だった。だが、「なら私がそれ使う!弓矢より強い遠距離武器なんて強いに決まってる!」ナージェは強引に銃を奪うと遠くで動いている蟻に次々と命中させていく。しかし、「弾が切れたけどどうやって補充するの?」と聞くナージェ。蟻達は仲間を殺されたことで怒り突撃してきている。弾の入れ方を教えている間に蟻達は大量にやってきた。仲間達が対処する中何とか装填を完了するナージェが「なるほどね、やっとあなた達があんまり使わない理由がわかったわ」と納得したようだ。弾が6発しか装填できず次の弾を込めるまでに莫大な隙を晒してしまう武器であり、威力が強くても継続して戦うには不向きだ。「でも、遠距離から狙えるだけでも相当強いし、弓矢より断然強い武器ね。この隙を補う方法も見つけたし」そう言うとナージェは手持ちの剣を銃と合体させた。いわゆる銃剣である。彼女の普段使いの長い剣ではなく、獲物の解体用の短剣を合わせたものである。「これなら装填している間は槍のように扱えるし、さっきみたいにあなた達が時間を稼いでくれれば隙はなくなると思う」「そうだね。とりあえず使いこなせそうだから銃は任せるね」ユナは銃をナージェに託すことにした。大量に出てきた蟻達をどんどん倒す一行。「この蟻の巣が結界の原因なんだよね?違ったらだいぶまずいことしてるよね?」「間違いなく結界の原因はあの巣だよ。あれは結界蟻という種類の蟻で結界を張ることで敵の侵入を防いだり餌を囲い込みやすくしているらしい。昔本で読んだことがある」ハペルはそう言うと魔法を使って次々と倒していく。「とりあえず巣を破壊しないと先に進めないから、一気に壊すよ」リヴァイアサンに変身して水流で砂の山である巣を破壊した。巣から怒って出てきたのは金色の超巨大な羽根持ち蟻。「あれが女王だ。捕獲すればさらに銃を強化できるはず」「了解」女王蟻は酸を吐き出して巣を破壊したハペルに攻撃するも転移で避ける。「とりあえず倒すのが先だね」女王の目の前に転移してガーディアンアームの強烈な一撃を加える。たまらず相手は地面に叩き落とされる。そこにトーイの斬剣による一閃。煙になって逃げ出そうとしたところを捕獲。「これでどうやって合成するの?」ナージェが質問した。「大体は実力を見極める為、という理由で勝負になるよ」「どういうこと?」「見てればわかるよ」トーイが捕獲した女王を召喚する。肉体が近くにあったのですぐに復活した。「さっきはよくも巣や我が同胞を殺してくれたな。だが、お前達に私を捕獲できるほどの実力があることはわかった。だから今一度、我を合成に使いたいのであればその銃を使って勝ってみせろ」ハペルが女王の言葉を翻訳した。「臨むところだね」ナージェは自信満々である。ちなみに巣が崩壊した時にほとんどの蟻が飲み込まれていたため女王とハペルが戦っている間に残存していた蟻達は他のメンバーが全て倒していた。戦闘が始まるとナージェは羽根目掛けて弾を撃つ。女王はかわしたが、どうやらかすっていたらしい。羽根がかすった箇所から溶けて飛行のバランスを崩している。「なんだあれは?」「この銃は追加効果があるんだよ。蟻が変わった武器だから酸も同時に発射するんだ」「なるほどね」ユナが説明している間にもバランスを崩したところを見逃さず、かすって溶けた側のほうの羽根を撃ち抜いて地上に落とした。銃剣を突き立てて「降参するなら命は取らないわよ」と語りかける。女王は魔力の煙に変わり、自ら合成した。「色が金色になったけど、どう強くなったんだろう」「とりあえず次に行こう」ハペルが巣の上を超えて飛行しようとしたとき、結界にぶつかった。「痛いよ、巣を破壊したのにまだ残ってる」「もしかして」ナージェはハペルがぶつかった結界に向けて発射する。「パリン!」ガラスが割れるような音を立てて結界が壊れる音がした。透明で見えない結界は確かめた結果見事に周囲一帯消えていた。「この結界、ガイアさんの水晶が使えなかったからどう消すか悩んでいたんだよね」そう、巣を破壊する前に素通りできないか試していたのである。しかし斬剣も魔法も水晶も効果がなかったので仕方なく巣の蟻達を全滅させるしかなかったのだ。水晶が使えないのは蟻が自然に作るものという判定だから自然以外のものは消せる水晶も通用しなかったのだ。「しかし結界を壊せる銃か、かなり強そうだね」「うん、伝説のドラゴンの島は結界に覆われているっていう話だから、必須になると思う」「とりあえず、次に行こうよ?」「うん」ハペルが脱線して目的を忘れて話し込みそうだったので、ユナが本来の目的を思い出させた。しばらく道なりに飛行していると向こうから何かが飛んできた。「何者だ。返答次第ではここで追い返すことになるぞ」それはドラゴンだった。「私達は世間一般には勇者の一行と言ったほうがいいんですかね?」「勇者だと、、そのような者が来るような連絡は受けてないが、とりあえず確認しよう」ドラゴンはその場で会話らしきものをして連絡を取っている。「確認が取れた。そのままこっちについてきてくれ」そのドラゴンについて行くと集落らしき場所に着いた。と言っても人間の家よりかなり大きい。彼の話によるとノレド同様生活するときには便利な人間の姿になるようだが、家の中でもドラゴンに変身できるように天井を高く設定しているようだ。「着いたぞ、ここが竜の隠れ里だ。長と面識があるようだな」「はい、試練として鱗を貸してもらいました」「とりあえず長のところまで案内しよう」飛行をやめて徒歩で移動する。住まいの上を低空で飛ばないようにするのがルールらしい。しばらく歩くと一段と大きな建物に着いた。ここが長の家のようだ。「お久しぶりですね、皆様。話したいこともありますのでどうぞ中へ」長であるキングドラゴンが家の中に入れてくれた。「本当にめちゃくちゃ大きい、、」中から覗くと天井までかなりの高さがある。ドラゴンに変身して直立しても当たらないであろう高さだ。「さて、今から話すことですが、今皆様が向かわれている西の方角に非常にまずい予感がします。一部の人間が止めようと動いているようですが、これが起こった場合この里にまで大きな影響が出ることでしょう」「まずい予感とは具体的にどういうことなんですか?」「西の山に封印されている化け物が今悪しき者達によって封印が解かれつつあるのです」「!!」「この封印が仮に解けてしまった場合、この大陸に大きな影響をもたらす可能性さえあります。ですが、あなた達の現状では止めることは厳しいでしょう」「ではどうすればいいんですか?」「破壊と再生の神シヴァの協力を求めるのです。基本的に神は地上での出来事に不干渉ですが、大きく環境が悪くなる場合であれば力を貸してくれることでしょう」「その神様はどこに?」「この集落の奥地に神殿があります。そこで力を認めてもらえば協力を得られるでしょう。ただ非常にお強い方ですので力を認めてもらうのは大変だと思います」「わかりました。ただ、すでに夜なので明日から攻略したいと思います」昼過ぎに出発した弊害がここで出ていた。おもてなしをしてくれると言うので転移で道場に戻らず食事をして風呂に入った。「広いね。さすがドラゴンのサイズで考えられているね」女性陣が驚いている中、男子の風呂では「いやー、一度はドラゴンの状態で風呂に入ってみたかったんだよね」とノレドが変身してはしゃいでいた。「お前がそんなにはしゃいでいるのはじめて見たぞ」ピレンクが驚いている。いつもはあまりしゃべらない彼だが、ドラゴンの住まいということで興奮して変身したくなったようだ。「シヴァってどれぐらい強いんだろう?」トーイが疑問を投げかける。「そうですね、、私の見立てでは破壊の神と言ってましたから、相当の強さを持っていることは間違いないでしょう」ポーサが冷静に分析した。「どうしてだ?」ピレンクが質問する。「破壊を行う為には相手がただの物ならともかく、生物や魔物相手なら破壊とは即ち戦闘の結果生じるものです。それを何回も繰り返してきた神様は」「当然強い、となるわけか」ピレンクは納得した様子だ。「ただの破壊神ならおそらく我々の言い分は伝わらないかもしれませんが、再生も司る神です。ゆえに」「力を認めてもらえれば協力を得られるってことだね」トーイが遮って結論を出した。「まぁ、そうです。なので心して挑みましょう」「「ああ」」全員納得で明日に備えるのだった。一方の女性陣の会話もなんだかんだ明日のダンジョン攻略の話題になっていたのだが。


 翌日。奥地の神殿はすぐ分かる場所にあった。しかも特にダンジョンではなかったのですぐに奥にたどり着けた。「私の力を借りたいようだな。だがここは普段ドラゴン達が私を信仰している場所で戦いには適していない。というわけで場所を移動しよう」

シヴァが場所を転移させる。石の壁に四隅を囲まれた空間に転移した。「もう逃げられない。存分に戦おう」シヴァは部屋全体に転移不可になる魔法をかけた。「知っていると思うが私はシヴァ。破壊と再生を操る神だ」彼はインド神話の一柱であり、火を操る。熱光線を出せる第三の目を持ち、ポセイドンのように三股の鉾を持っている。今回の戦闘では使わないが牛に乗っていることで有名。ヒンドゥー教で牛が神聖な物として扱われている要因の一つである。「実力を見たい。そっちから来い」「行きます」9人は各々の攻撃を仕掛ける。だが、魔法や遠距離攻撃は素早くかわされ、近距離で斬擊を当てようとしてもかわされてしまう。トーイやユナのスピードをはるかに超えていた。韋駄天の父親であるため息子ほどではないが恐ろしく速い。「攻撃はいい感じだな。こちらからもいくぞ」シヴァは立ち止まって攻撃を仕掛ける。9人に強烈な熱風を浴びせようとした。ポーサがそれにいち早く気がつき、ノレドが盾を巨大化して防ぐ。側面はポーサが大気をコントロールすることで何とか防いだ。「やるなぁ、これはどうだ?」いつの間にか彼らの側面に移動していたシヴァは第三の目からの熱光線を繰り出す。「熱くないです。すごいですね、この装備」驚いていたのはシエム。光属性の攻撃だったため煌めきの羽衣で無効化された。その属性の攻撃なら他の属性が入っていてもその他の属性の影響を受けずに無効にできるのだ。そもそも集光する際に熱は集まりやすいので装備側が熱対策をしているため無効化の際にも熱くないようにできている。「なかなかやるな。これならどうだ?」次の攻撃を準備するシヴァ。「やばそうな攻撃が来る。みんな避難して」ハペルがそう言うと残りの全員で影に隠れた。「ほう。一人でこの攻撃を受けようとは、たいした自信のようだな」そう言いながらシヴァは異空間から火の弾を高速でぶつける。「どうして無効にできないの!?」火傷しながら話すハペル。「そりゃ、普通の炎魔法とは生成原理が違うからな。確かに他の奴を逃がしただけはあるな」そう、この攻撃、普通の炎魔法で生成した温度よりはるかに高い温度で攻撃していたのだ。生物である以上、魔法と言えども炎を生成するのには温度の限界がある。つまり原理として無効にするのにも限界があるのだ。それをただの火傷で済ませたのは体内のアイスリヴァイアサンの魔力と白銀の魔力で自動的に直前で冷やしていたためである。「でも、私はただ逃がしただけじゃないよ?」「強がりか?」するとシヴァの周りに影から8人が現れた。「バリア!」とユナが叫ぶと8人とシヴァはバリア内に完全に閉じ込められた。自慢の足を物理的にスペースを封じた上でバリアでだめ押ししたのだ。近距離戦闘に持ち込みつつ、溜めに入った瞬間を逃さなかった。「ナーガ!」とシヴァが叫ぶ。すると彼のベルトがナーガという蛇に変化した。ユナとトーイがユナイトをしてシヴァに斬剣で斬りかかった。しかし、シヴァは彼らが斬る前にものすごい勢いで鉾を剣にぶつけて叩き折ってしまった。その折れた切っ先は狭い空間ということもあり、隣にいたメイリに直撃してしまった。「う!大丈夫です、戦いに集中してください」ナーガは毒液でピレンク、シエム、ポーサを攻撃したが一旦影に隠れて無事だ。だが、狭い空間故に毒液の場所に出られず、バリアの外に出たら戦力外になってしまう。彼らは悩んでいた。ナージェは銃でシヴァに攻撃して見事貫通したのだが、「私に武器は効かない。不死身だからな」「そんなのありかよ!」危ないので彼女はしれっと影に回収された。そんな中、毒液を盾でガードしたノレドは自動反撃を行っていた。ナーガの噛みつきもしっかりとガードして反撃する。「今だ」ハペルはそう呟いてバリアに近づいてノレドにバリア越しにユナイトを試みる。もっとも、ルートドレインを応用すればお互いを接触させることができるので簡単にできたが。「お前達も合体するのか」シヴァの意識がそっちに一瞬向いた時、メイリの回復を終えて剣を手放したトーイ達がいた。「ん?」みるみる彼らの姿が変わっていく。メイリもまた影に回収された。ナーガが独立して動いているからだ。「あれは、久しぶりに見たな」ユナイトしたノレドが言ったのは化け猫モードのトーイだ。通常ユナイトに比べて圧倒的なスピードを誇るこのモードであれば、シヴァの反射神経をもってしてもかわすのは困難だった。まして転移不可で狭いバリアの中ならなおさらである。ユナイトしたノレドはその隙に盾を使ってシヴァの体力の吸収を始めた。反撃でつけた鱗は盾と繋がっているため吸収することができる。シヴァも吸収されていることを知ってやりかえそうとするが、うまくいかない。基本的に接触しないと吸収魔法は強力な物は使えない上、化け猫が全力で攻撃しているのでその隙がない。その頃、影に逃げたピレンクとシエムは2組がユナイトしたのを見て自分達もユナイトしようと言い出した。「カップルでもなんでもないのに無理ですよ!」とシエムは拒否するが、強化ユナイトを使う準備としてシエムの手を取って発動する。「二人ともユナイトに慣れている以上、できないことなんてない」ユナイトに成功した。いまだ影の中にいるが、「ここからでも今ならいけるな。援護しよう」そして今戦っているノレドとトーイを援護するため、影から魔法を発射し始めた。今までなら姿を表さないと魔法が使えなかったので、影への攻撃手段のない敵には完全に無敵状態で魔法が使えるようになった。吸収、直接攻撃、魔法の三位一体で攻撃されてシヴァとナーガは避けることしかできなかった。「やっぱりね。いくら不死身でも体力を吸収されながらは受けることはできないと思っていた」ノレドの身体でハペルが言った。シヴァは高速で動けるがナーガはそこまで速く動けない。それを見逃さず化け猫がナーガを切り裂いて戦闘不能にした。ナーガはベルトに戻ってシヴァだけになった。さらに攻撃がヒットし、吸収もかなりしたのを受けて、「降参だ。負けたのなどいつ以来だろうか」とシヴァが負けを宣言した。ユナイトを解除してバリアを解除するのを確認したのと同時にシヴァが転移禁止の結界も解除した。「確かに不死身ではあるが、それは体力が全快の状態だけだ。神本体なら無制限ではあるが、私は分体だからな」「勝ったのだから、戦いに協力してくれるんですよね?」「ああ、もとよりそのつもりではあったがともに戦う者達の実力を確かめたかったのだ。ところで、今までにもお前達は神に勝利してきたようだな」「はい、でも捕獲はできませんでしたが」「魔物ではないのだからその箱では捕獲はできない。そもそも神殿などを守る必要がある以上、ついていくことはできない」「では、どうやって協力をしてくれるんですか?」「この結晶を授ける。それは神達に居場所を教えるものだ。今まで戦って勝った神ならば、同じ神相手以外の戦いに参加する可能性がある」「どういう条件なら来てくれるんですか?戦いに参加って判定難しいじゃないですか」「その結晶を持った者の魔力量などで判断したりするからそこは心配ない。とりあえず、ここで口論するよりも本来の目的地を目指すべきではないか?」「わかりました。必ず戦いに協力してくださいね」「神に二言はない。信じて待ちなさい」シヴァはもとの神殿に転移させた。「私に勝った戦利品がその結晶だけ、というのもおかしいだろう。これを持っていきなさい」シヴァは彼の鉾を渡した。「ありがたくいただきます」ピレンクがもらい受けた。「私の鉾は何本もある。気にせず持っていけ」「では、戦いに向かいます」9人は神殿を出て飛び立って行った。「できる限り進もう」「うん、もう昼過ぎだけど封印がいつ解けるかわからないからね」彼らは西に進んだ。


 マタカ達は村に到着して山にいる怪しい集団を監視していた。「あいつら、ここまで集まってどうする気だ?」人数がどんどん増えていることを不審に思っていると、村の獣人達が怪しい集団に抗議しに行っていた。「ここでお前達は何をしているんだ」すると実力行使で排除しようとしたので、「ここは助けるが姿を見られるとまずい。あれでいこう」今は潜入なので姿がバレるのは致命的だ。「!?」獣人達を影で救出して事なきを得た。当然姿を見られた連中は大騒ぎで村人を殺そうとしている。「ふもとの村人も危ないな。ドラゴ、一足先に避難を頼む」「了解」ドラゴは転移で村に戻って住人達に説明していた。最初こそ信じない者が大半だったものの、森が連中で騒がしいことに気付いた者が説得に加わってからは避難がスムーズに進んだ。「あいつがいるのか?あのくそ生意気な少年め、、」ピレンクに翻弄された苦い思い出がある聖者教のメンバーが吐き捨てた。本部のだいたいのメンバーは息子に回収され肉体の一部にされた上で勇者達に倒されたが、他のアジトのメンバーは復活の時間がそこまでかからなかった分無事だった。その残党の一人がこいつだった。本当はマタカの影魔法だが、そんなことは知るよしもない。「とにかく、邪魔が入った以上もう時間の猶予はない。周囲の危険を確認してから速やかに復活の準備に入る」ボスのレディトがそう指示を出すと手下達が準備に入った。数も多いので警戒する要員も忘れていないらしい。マタカと残った数人は何とか気付かれないように隠れていた。「いつまで隠れていればいいんですか?このままでは彼らの思い通りではないですか」小さな声でマタカに言う。「準備を台無しにして時間稼ぎをするんだ。ここで見つかったらすべてが水の泡だからな」「台無しにすれば時間稼ぎではなく封印がされたままになるのでは?」「そうは思わない。影魔法が使えるからかなんとなく分かるんだが、今の時点で影らしき物が地下で蠢いている。もう封印が解けること自体は確実になってしまった。だからあいつらが来るまでちゃんと時間稼ぎをしないと」「なぜそんなことがわかるのだ!?」「その化け物は影でできているからだ。別の影があれば互いに反応する」「どうするのだ?」「とりあえず転移で影に避難させた住人をこの国の別の場所に避難させる。それから村に戻る」言い終わると同時にマタカは転移していった。事情を説明してカイウーに避難させてすぐに戻ってきたマタカ。「状況はどうだ?」「もう敵は始めてますよ、さすがにあなたがいないと台無しにするのは難しいので待ってました」「作戦は考えてある。ついてきてくれ」影魔法で潜伏して敵の中に突撃する。準備に入っていた者達も動く影に気付き警戒態勢に入ったが、ここでマタカはピレンクと同じ手を使った。「!!」足を影に引っ掛けて身動きを取れなくしたのだ。さらに、影で拘束して無力化しつつ、仲間達が姿を表して気絶させたり武器を取り上げて無力化を加速する。捕らえた悪人達は次々と影に放り込んで戦力を減らしていく。影魔法は広域に使う際には敵の影の範囲しか使えないので全員を影に一度に捕らえることはできないのだ。影のマタカと外の仲間達で合わせて抵抗する敵を影に捕らえていった。とその時、影にいたマタカが飛び出してきた。周りにまだ敵が残っているにも関わらずだ。「逃げろ。影の領域はすでに奴が復活して掌握した。転移で一旦避難しろ」声を荒げて言ったことで敵も味方も関係なく慌て始めた。「復活に成功したんですね」「勇者のあの慌てようはさすがにまずいな。我々も逃げる準備をする」とレディトが発言したそのとき、暗闇が山全体を覆った。「来るぞ。一旦逃げてから、奴をなんとかしよう」マタカ達は村に戻った。レディトと数人も転移で難を逃れたが、そこに住む生き物や魔物、単独では転移できない手下達は容赦なく影に飲まれた。マタカ達は転移で一旦逃げた後、山に戻ってみると、「これはやばいな、、人間だけ利用価値があるから他は影に吸収された感じか」そこにあった木やそのあたりにいた生き物は黒焦げのような跡を遺してきれいさっぱりなくなっていた。で、マタカのセリフ通り人間や魔族はシャドーコープスとして操っていた。その中心にいたのが、「影にいたあいつが封印されていたっていう化け物で間違いないな」黒い狐だった。9本の尾を持つ化け物だった。シャドーコープスがマタカ達を発見して襲いかかってきた。「あの子達が来るまで持ちこたえてみせる」


 シヴァの神殿を後にした9人はノレド、ポーサに乗って目的地点を目指していた。トーイは折れた斬剣を取り出した。「本当に飛んでいる今の状況で直せるの?」「鱗の扱いは以前とは比べ物にならない位うまくなっているぞ」盾の反撃で出た鱗を変形させて拘束に使えるのだから彼にとっては直接見えなかったとしても楽勝だった。素材を飛びながら剣の周辺に集めて魔力で合成する。「すごい、本当に直しちゃった。ありがとう」「どういたしまして。何が起こるかわからない以上、武器の修理は最優先だ」

一方、ピレンクはポセイドンの槍とシヴァからもらった槍を取り出して見つめていた。「これ、合成とかできるのか?」「形は似てるし、炎を出せるのは共通だからできそうだけどね」ハペルが隣で飛びながらそう言う。「とりあえず、やってみるか」しかし、魔力をいくらかけてもうまくいかない。「うーん、相性が悪いってわけではなさそうだし、なにか他に条件があるんじゃない?」「まぁ使えないわけではないからこの件は保留でいいか」

とそのとき。「前方、空が暗闇に覆われてます」ポーサが異変に気がついた。「まずそうだね。とにかく急ごう」9人は速度を上げて前に進んだ。「なにこれ、木が生えていない禿げ山だらけじゃない」「空が黒い領域がどんどん東に向かって伸びてる。急いで止めないと」領域内に突入して元凶を止めに中心部に向かった。とここで戦闘中のマタカ達を発見する。「父さん、無事ですか!」「間に合ったか。手伝ってくれ」「了解です」「奴らに例の水は効かない。術者が近くにいるからすぐに元に戻ってしまう。だから、中心のあの黒い狐を倒してくれ」「わかりました」しかしマタカ達も数が多すぎてさすがに捌き切れていない様子だ。「父さん達のほうも手伝ってあげないと今にもやられそうだ。二手に別れよう」影に対する対抗手段を持っているトーイ、シエム、ハペル、ナージェが敵の親玉を、残りがマタカ達の援護に回ることになった。ピレンクにも親玉に回ってもらう予定だったが、「手下は影の知識がある人間が無力化したほうが楽だ。それに親玉に対してはそこまで有効打が与えられるとは思えない」ということらしい。ただ、そこまで豪語しただけあって無力化は彼一人でほぼほぼ終わってしまった。まず、ブラックヴァンパイアを召喚して、「彼らを眷属にして、攻撃を停止するように命令してくれ」「了解しました」というやり取りの後、バット達を使って眷属に続々としていき、攻撃をやめさせた。さらに、「キングとクイーンで影の世界の奪還をする。ユナ、協力してくれ」「わかったわ」親玉が支配してこちらもマタカが影に捕らえた手下がたくさんいる状態の影を、二人の影で制圧していく。影の世界でキングやクイーンの命令に逆らえる者はいない。それはそれだけ権力や実力があるという裏返しでもある。影になる方法を最初に発見し、実行した彼らなので影と人とを分離する方法も当然知っている。それは方法は色々だがとにかく影の主導権を奪うことである。影である彼らなら直接影に干渉できるので、引き剥がすことができる。つまりキングとクイーンが行ったことはピレンクがヴァンパイア達に行わせたことをさらに一手発展させて影から人間を救うところまで行い、かつ親玉の影響を排除したのだ。これで先ほどのように影から支配されることがなくなったため、ようやく親玉と戦えるようになったのだ。「こっちは終わった。とりあえず停止状態だからそっちに攻撃が飛ぶことはない」「ありがとう。戦いに集中しよう」こうなる少し前、親玉、九尾の影狐と対峙する4人。「お前が来るのを待っていたぞ、そこの魔族よ」「私だと?」「その身体、私の器にふさわしい」「ふざけるな!絶対に好きにはさせない!」トーイが斬剣、ナージェとシエムは光魔法、ハペルは火炎魔法で攻撃するが、、「闇は光や炎を飲み込む。我には効かん」どの攻撃も有効打にならない。斬剣は影は切れたが直接ダメージにならず再生してしまう。「これを使うか」魔神の剣を取り出す。「その剣、厄介だな」狐はトーイに闇の弾で攻撃を仕掛ける。反射神経で難なくかわす。シエムとユナイトをして攻撃を加速させる。とそのとき、火炎攻撃が思わぬ方向から飛んできた。「どうして、僕を攻撃したんですか!」撃ったのは味方だったはずのハペルだった。「ごめん、間違えた」「仕方ないですね、気をつけてください」ここで先ほどのピレンクの台詞で手下の攻撃を受けなくなった状態になった。もう一度斬りかかろうとした時、もう一度火炎攻撃が飛んできた。「また、ってどうしたんですか、その目」ハペルの目は黒から赤色に染まっていた。「ふふふ、さっきの時点でおかしいと思わなかったか?この娘はすでに乗っ取った。反撃開始だ」ハペルが操られてしまったことで戦況は一気に不利に傾いた。何しろシャミの広域魔法と高速転移と即死光線、防御はオートガードがあるのだ。味方ならこれほど頼もしいことはないが、敵に回すと地獄そのものである。「やめろ!やめてくれ!」と恋人のノレドが大声で叫ぶが聞こえていない様子。停止状態の手下達に続々とルートドレインがヒットして魔力と体力を吸い上げていく。「お前達、ここは危険過ぎる。とっとと逃げろ」「しかし、、」「どう考えてもお前達はこのままいたら暴走しているあの娘の餌食になるぞ。息子達と一緒になんとかするから早く」しかし高速転移で移動できるハペルには話している暇さえ命取りである。「ひぃ!」仲間の一人がルートドレインで体力を吸収されて死んだ。無言で転移の準備に入る。ハペルの狙いが停止した手下を狙ったおかげでなんとか事なきを得た。影を使ってなんとか止めようとするピレンクとユナだが、一度捕らえても転移で逃げてしまうのでうまくいかない。とそこへ、「苦戦しているようね、娘は任せてください」「弟子は何とかする」と二人の女性が転移してきた。「ハペルさんのお母さんとあれ、どこかで会った人でしたっけ?」「一番最初の東大陸でハペル、そのときはマキちゃんの捜索を依頼した私、セトロムよ」「サキです、って紹介している場合ではなさそうね。すぐなんとかしないと相手の思う壺だわ」暴走したハペルの攻撃に加えて狐も影魔法で攻撃してきている。「とりあえず、召喚タイムルーパー」出てきたのは弱そうなトカゲだった。「本当にこれで大丈夫なんです?」「まぁまぁ。とりあえずあっちの時間を止めましょう」すると「狐のほうの攻撃が止みましたね」「問題はハペルさんのほうだけど、もう一匹必要ね」ハペルは何かを察知して転移を繰り返しているがなぜか攻撃はしていない。「操られているはずなのになぜか攻撃が止みましたね」「サキさんが彼女に必死に干渉しようとしてるからね」見ると無言のまま目を閉じて立っている。「それはサキちゃんは名前の通りサキュバスだからだよ。彼女の脳内に干渉してとりあえず被害が出ないようにしているんだ」エキドナがブレスレット越しで解説する。「サキュバスはどうしてそんなことができるんですか?」「夢魔だからね。操られている状態は寝ている状態と自分の意識がない、という点は共通しているからサキュバスが干渉することができるんだ」「なるほど、でどうすれば元に戻るんですか?」「ちょっと待ってて、召喚に時間がかかるんだ」それで少し時間をかけて召喚したのは見た目の変わった水色のゴーレムだった。「それが元に戻すのにどう活躍するんですか?」「スペースゴーレム、固有空間生成で対象をロックして」すると転移を繰り返していたハペルが一切身動きしなくなった。「!?」「固有空間はね、ただの結界の封印よりもかなり強力なんだ。身動きが一切できないし、魔力も一切使えない。タイムルーパーは時を超えて動けるから通常では捕獲が絶対できないんだけど、この子のおかげで捕まえることができたんだ、ただ今見た通りすごく召喚に時間がかかるんだけども」それに加えてこれを使うとしばらく使えなくなってしまうので使いにくいらしい。「さぁ、王子様出番ですよ」「あなたは!?」「神の結晶を持っているんですから驚く必要ないじゃないですか」現れたのはアフロディーテ。「愛の力で洗脳を解くんです」ノレドには追加で何かを伝えたらしく顔が真っ赤になっている。ハペルは固有空間のせいで飛べなくなって地面に落ちていた。ただ怪我は特にしていないらしい。全力でノレドの接近を拒否しようとする彼女だが、固有空間のせいでそれすら不可能だ。無言のまま接近して、彼女の唇にキスをした。「!?」彼女の目は元の色に戻った。動けないのは彼女だけのようで、手元に引き寄せて抱き締めると彼女の自由も戻ったようだ。「これなんだよね。他人が干渉するとあっさり破られちゃうのが大きな欠点なんだ」セトロムが解説している間、キスをされて急に意識が戻ったハペルは完全に混乱していた。「あ、なんで私キスされてるの!?」「よかった、戻ったみたい」「危ない!」「「え!?」」セトロムが叫んだので見てみると止まっていたはずの狐が動いて影魔法をトーイとユナに向かって飛ばしていた。しかももう反応でかわせる距離じゃなかった。「大丈夫か!?」「父さん!」距離が離れていたはずのマタカが代わりに攻撃を受けた。「こいつは大切な駒だから頂いていくぞ」狐は影に引きずり込んでマタカを消した。「よくも父さんを!」無言でユナイトをした二人は勝手に化け猫モードになり敵意むき出しである。「ふむ、予想以上の結果だな」攻撃を受けているのに気にもせず狐は語る。「私の身体に触れた者は操りやすくなる」「また操られてしまう!?」とその時。「苦戦しているようだな。約束通り来たぞ」「正気に戻るのじゃ、少年達よ」シヴァとラーが駆けつけた。ラーは自身が託した盾を自動的に取り出して、盾の光を彼らに当てる。ユナイトが強制的に解除されて元に戻った。「真実の姿を表す鏡の盾、装備していれば操られることはなかったのじゃが仕方ない」「なんだ、次から次へと邪魔が入るな」「約束したからな、貴様と戦うのに協力すると」そして、「緊急の信号がペンダントから発信されたから来てみたけど、これは一体何が起こっているの?」二人の母フェアルである。「実はですね、、」魔道具で何が起きたかを伝えるシエム。「じゃあ、戦闘ではもう使い物にならないみたいだから、一旦回収するわ。あの人をどう助けるかは後で考えることにする」そしてフェアルは二人を連れてその場を離れた。もう一人離れていたがその場では誰も気付いていなかった。「どうした?キング?」ピレンクが影に異変があったようで反応する。「なるほど、クイーンが離れるから中身を託したのか」ピレンクには影の中を見ることで中に何があるかわざわざ取り出すことなく分かる能力がある。影使いとして初歩的な技術らしい。「ん?これは使えるんじゃないか?」「どうしたの?」「とりあえず今はあいつとの戦いに集中しよう。今思い付いたのはとりあえず関係ないから」「私も参戦する。操られただけで終わりなんて嫌だ」ハペルもリベンジに燃えている。「また操られてしまわないか?」「それについては対策がある。シャミ、お願い」すると、「肌の色が変わってる?」彼女は魔王から肉体を与えられる前の姿に戻った。「あいつに全く触れられていないのに操られたのは息子の身体を取り込んで使っているから。なら、元の身体に戻しその身体はシャミが吸収すればいい」「本当にそれで大丈夫か?」「ものは試し。あいつを倒さないと私以外にもどんどん操られる人間が増える」「そうだな」そんな会話がされている間もシヴァとラー、影狐の戦いは続いていた。ただ「普通の光、炎魔法が効かない」という二人の得意分野が封じられていたため、苦戦していた。打ち破るためには溜めが必要になるがそれを相手はさせてくれるはずもない。「手伝ってくれ。この戦い君達の助けが必要だ」「わかりました」「本体が影だから、あいつが戦えるはずだ」影から取り出したのはスーパースチームボックスの入ったバッグ。出てきたのはスフィンクスの神殿にいたサンドジャイアント。「巨人か?こんなもの出してなんになるのだ」と敵は戦力に入れていないようだ。巨人が作る大きな影を利用して後ろに攻撃を仕掛けようとするが、「なぜ効かない!?」「巨人自体が本体じゃないからな」この巨人の正体は魔力を持った大量の砂の集合体。砂粒自体の影はとても小さく、影魔法の威力は非常に小さくなる。ゆえにほとんど影魔法は効かない。そうこうしている間にシヴァ達の溜めが完了した。「助かった。影は滅びよ」ラーが飛行してシヴァは異空間から巨人の向こうの敵に超高温の炎で攻撃する。「!!」「見えないけど、敵はどうなってるの?」ハペルが質問すると「影から見てるけど敵の影が薄くなってる。攻撃は確実に効いている」ピレンクが言ったそのとき「突然何だ!?」暗闇に暗雲が立ち込め大雨が降り始めた。「炎を無効にするためか。だが、これはどうだ」ラーは突然降り始めた雨の意図を理解すると、飛びながら強烈な光を放つ。「眩しい!でもここまで強い光なら」「影が薄くなって奴の力が弱まった。今なら再度封印も可能だろう。その巨人を使って封印をするのだ」「わかりました。ジャイアント、敵を埋めてしまうんだ」巨人はピレンクの指示を理解して影が薄くなって消滅しかけの影狐を覆い隠してしまった。しかも大雨である。巨大な身体の維持が不可能になって土砂崩れになった。「やばい、逃げるぞ!」変身したノレドに乗って飛んで上空に逃れる。巨人の身体は山脈の破壊された部分を覆い尽くすほどの大量の土砂となった。「これで奴を封印できたのか!?」「いいえ。このままでは復活もすぐです。そのためには、、」「大丈夫だったか?お前達」「父さん!」空を飛んでやってきたのはフェアルの連絡を受けてやってきたノレドの父ドラゴ。「すみません、続きをお願いします」「ちょうどいいタイミングであなたが来てくれましたね。とりあえず木を植えてしまうのです。魔力のあるこの土地では木だけでも魔力の封印に効果があります」「それならこいつの力を借りよう。ユナ様々だな」召喚したのはユナの持っているウッドガーディアン。「状況は見れば分かる。木を我の力で植えてしまえばいいのだな」「ああ、よろしく頼む」「それで続きですが、しばらくの間、この土地の時間を停止していただけないでしょうか?」「どういうことなんだ?何かが起こったことはこの山が土砂で埋まっていることでわかるのだが、、」「実はですね」ドラゴに説明するアフロディーテ。「なるほど、敵が埋まっているから木が成長する時間を稼げ、と。だが時間を止めれば当然木は成長しないだろ?」「我は特別だからそこは心配する必要はない。世界樹と常に繋がっている以上、我が止まってしまうことはない。ゆえに我が育てる木も時間停止に関係なく育つのだ」「そこまで言うなら、、わかった。やってみよう」ドラゴが準備に入る。7人と女神は時間停止に巻き込まれない範囲まで飛んで、ラーとシヴァは役目が終わったとして帰っていった。「ではいくぞ、時間停止」ドラゴが村を除く山岳地帯全体に時間停止魔法をかけた。術者と周囲一帯は完全に時間が停止し、時間が停止していない領域からいかなる方法でも入ることができなくなる。「ふぅ、とりあえずは時間稼ぎができたのかな?」と安堵する一行。そこに、「*#〒+☆」と彼らには理解できない言語でしゃべりつつ、鎧を着た獣人数人が飛行する機械に乗っていつの間にか彼らを取り囲んでいた。「なるほど、、村の人からの言い分を聞いてあなた達はやってきたんですね」と理解した感じでアフロディーテが話す。「言葉は全然分からないけど、警察みたいな感じかな?」ハペルがそう言う。彼女が理解できるのは魔物の言葉だけで、彼らが話す独自の言語は理解できなかった。「どうするんです?このままだとおそらく私達捕まっちゃいますよ?」シエムが皆に対応策を求めたが、「彼らを倒してしまうのは簡単だけど、とりあえず今は彼らに従ったほうがいいと思います」ポーサはこう答えた。この間に言葉が分かる女神が獣人達と交渉し、「とりあえず彼らの指示に従うようにお願いします」と同じ結論が出たので彼らについていくことに。交渉の間では7人を拘束して連れていくことも当然協議されていたが、彼らの性格を知っている女神がその必要がないと拒否したため拘束されなかった。力ずくで連れていく、と獣人の一人が主張したが「彼らが反抗したらあなた方が束になっても全くかなう相手ではありません。でもいたずらに命を奪ったり、傷つけるような人じゃないのでとりあえず従うように指示してください」と女神に半ば脅しを受けたので仕方なく従う旨を伝えるようにして現在に至るというわけだ。

飛行し続けて到着したのは獣人の国の首都タキョウ。彼らは建物まで案内されて言われるままに彼らの監視下に置かれた。罪人扱いなので鉄格子に加えて魔力封じの手錠をかけられている。女神は誘惑の力で捕まることを回避してあくまでも事件の証言者として彼らの弁護に回るらしい。「とりあえずあの二人も事件の関係者ですし、早く回復してもらわないと、ですね」


 村を破壊して山をめちゃくちゃにした容疑で捕まっている7人と別行動になったユナとトーイ。彼らは目の前で父が消えたことで意識が戻らずにいた。ラーによって強制的にユナイトが解除されたことで気絶状態だったのだが、操られそうになったことと上記の出来事が重なったせいで悪夢にうなされていた。そこには母親のフェアルともう一人いた。ハペルの母、サキである。彼女は娘が操られたのに続いて操られそうになった二人を心配してこっそり戦場から抜け出していた。ちなみにセトロムは土砂崩れの際に転移で自身の住む国に戻っていたこともあり、7人についていかなかったことで捕まらずに済んだ。「どうですか、サキさん」「そうですね、かなり厳しいです。彼らは心を完全に閉ざしてしまっています。余程お父さんが目の前でいなくなったのがショックだったんでしょう」「私だってあの人のことは心配ですけど、、それよりも目の前の子供達が目を覚まして元気にいてくれることのほうが大事なんです」フェアルだって妻として心配しないはずはないが、現状すぐに彼を助けに行くことは不可能な以上母親として目の前の子供達を心配することを優先していた。「連絡を受けたけど他の子達が捕まってるみたいだから、この子達も行かないといけませんね」「今はその話は後です。直接フェアルさんが夢に干渉できるようにします。私の手に触れてください」サキの指示に従ってフェアルは手に手をかざす。「ユナ、トーイ、聞いて。父さんがいなくなったのは私だって辛いわ。でも、あなた達はあの人の子供である前に勇者なの。今、最後まで戦って敵を封印した仲間達は疑いをかけられて向こうの国に捕まっているわ。助けが必要な仲間がいるの。だから目を覚ましてちょうだい」フェアルは今の状況を訴えることにした。本来は年相応の子供なら悲しみに暮れるのは当然だが、彼らの場合は別なのだ。「それ、本当なの!?」ユナが一足先に目を覚ました。「本当よ。いい機会だからとある技術を教えるわ。向こうで彼らを助けるのに必要になるでしょうから」彼女が教えたのは言語が違う向こうの国で必要になる翻訳技術だった。魔力を使って相手の伝えたい意志を読み取り、相手の話す言葉を自分が分かる言語に翻訳する。そして相手の考えている言語を理解しその言語に言っている言葉を翻訳して相手に伝える技術である。この技術は初見でも言語として成り立っていれば翻訳することができるのだ。少し遅れて目が覚めたトーイと一緒に翻訳技術の練習をして向こうの国に転移した。セーブストーンで前回の転移位置をフェアルが記録していたので問題なく転移ができた。だがそこはドラゴが時間停止していたため自動的に近くの別の地点に変更された。「そういえばまたドラゴが時間停止していたんだった。とりあえず連れて行かれた場所はわかっているんだけど、、」「どうしたの?お母さん」「それが飛べないからすぐに行けないのよ。スチームボックスを私は持ってないし飛行できる魔物がいないからどうしようかなって、、」「それなら私がなんとかしよう」トーイとユナが身につけていたブレスレットからエキドナが答えた。「なるほど、位置は特定したから今からそっちに魔物を送るので待っててくれ」「待って!それって」フェアルが大声を上げたがすでに遅く、魔物が送られてきた。ワイバーンだ。「心配せんでもお前達を襲ったりはしない。この先も使うだろうからボックスに入れておくといい」送られてきたワイバーンの所有権はトーイになった。「そいつは魔物でも改良を重ねて人の言葉を理解するだけでなく、乗り心地を改良したタイプの奴だ。戦闘も並以上にできるし飛行速度も速い。急に止まれないのと旋回は苦手だが、心強い飛行手段になるだろう」「ありがとうございます」一行はワイバーンに乗って移動し始めた。しかし昨日変な奴らが現れたばかりなので当然国の警備は厳重になっていた。飛び始めてすぐに昨日と同じ鎧を着た警察らしき獣人達が正面を塞ぐように機械に乗って現れた。「止まれ、そこの者」と早速翻訳技術の成果か彼らの言うことを理解できたのだが、「止まって!」とユナが指示を出すものの、ワイバーンは先ほども言った通り急に止まれないので目の前の機械を乗っている獣人ごと吹き飛ばした。「とりあえず助けますね」ついてきていたサキが浮遊魔法をかけて落ちそうになった獣人を救出する。「足止めしますから、皆さんは行ってください。後でちゃんと合流します」「わかりました」次々と現れる新手が攻撃を仕掛けるが、フェアルのバリアでワイバーン共々無傷である。目的地のタキョウまでノンストップで飛んでいく。その内なぜか追っ手が来なくなり、普通に入ることができた。「おそらくサキさんが止めているのでしょう」とフェアルは考えたが、実は全く別の理由だった。一方、そんな足止めのために残ったサキ。「何言ってるかわかりませんが、追跡されると困るので足止めさせてもらいます」サキュバスの得意な誘惑魔法で無防備な状態にして、同じく得意な催眠魔法で眠らせる。「魔王様も素晴らしいですけど、せっかくですしたまには別の方から精を頂くとしますか」夢魔故に相手の夢から精を摂取することも可能である。すると慌てた様子で増援がやってきた。当然誘惑からの睡眠で眠ってしまったのだが、夢を読み取った時に異変を感じた。「なるほど、襲撃が各地で発生したから放置して至急向かえ、ですか。これは今起きられるとまずいですが起きてもらわないとそれはそれでまずいですね」夢に干渉し、獣人達が数分後に起きるようにして後を追うことにした。仕掛けたのは勿論聖者教である。作戦が一つ失敗した後、すぐに襲撃に切り替えたのだ。ちょうど邪魔者である勇者が捕まったこと、それに伴う厳重警備でその他の場所の警備が手薄になったところを狙ったのである。獣人族は人間と違って身体能力が高いため普通に襲撃を起こしてもすぐに鎮圧されることがわかっていたからでもある。


 そんな中、首都のタキョウでは裁判が行われていた。「お前達は山を破壊して村人の住みかをも破壊した。その行為は認めるか?」「はい、認めます。ですが、それは敵を倒した際に起きてしまった出来事であり故意に破壊したものではありません」アフロディーテが随時通訳しつつ、意見をかわす。「しかし、我々には一足先に避難した以上村人の証言もなくそちらの意見を信用することができない。どれほどの脅威であったのかもだ」「それはこの記録を見ても、ですか?」通訳をしていた女神が魔道具を取り出して映像を映す。「これは!!?」「なんだこの化け物は」そこに映っていた映像はどう考えても女神が来る前の映像まで映っていた。影狐が木や生物、魔物を影に飲み込む様子まであったのだ。「どうしてこの映像があるんですか!?」「私は人の姿をしてますけど女神、つまり神なんです。どこからでも見ることも記録することもできるんです」「し、しかし!理由はどうあれお前達が破壊した結果には変わりないだろう」口を荒くし本題に戻す裁判官。とそこに、「ちょっと待ってください」「みんな、無事!?」フェアル達が入ってきた。「どうやって裁判所に入ってきた!説明しなさい」「それは後で説明します。とは言え、死力を尽くした戦闘で環境を破壊することを留意して戦うのは無理があります。現に神の介入でなんとか撃退し一時的に封印できたものの、油断はできません。だから、復興と再建用の資金を支払うのでそれ以上は追及しないで頂けますか?」ちなみにこの国でも人間の国と通貨は変わらないようだ。その単位系はゴールドというどこかで見た安直な名前だ。「しかし、住民の当面の生活、仮設住宅などの設置等も合わせたら半端な金額では済まないぞ!?」「ええ、わかっています。しかし他の国で勇者として魔物や他の敵とも戦い、彼らの冒険者ギルドカードの総額を考えると5億は出すことができます」「5億!?」見た目はめちゃくちゃ若い彼らがそれほどの大金を持ち合わせているとは思えなかったので、驚いてしまったのだ。ちなみに序盤でさらっと説明しただけなのでおさらいすると、冒険者カードには魔物を倒した時に自動的にお金が貯まる仕組みになっている。具体的には経験値として吸収されなかった分の余剰魔力をカードが吸収して自動的に魔力研究所に転送され、その魔物の最低保証金額がカードに振り込まれる仕組みだ。魔力研究所では冒険者から送られてくる魔力を使って様々な生活に役立つ物を研究している機関だ。「だが、そのカードとやらに入っているだけで実際にお金として使えるわけではないだろう?」確かにイコールお金ではないので冒険者ギルドがある国ならほぼお金として使えるが、この国ではそうはいかない。だが、フェアル達はちゃんと対策を考えて来ていた。ほとんどの人が入ったことのない国である以上、現金であるゴールドを準備する手立てを用意してきていた。「ここに5億あります。これでいかがですか?」「ぐ、仕方ない。釈放を認め」「大変です、皆さん」アフロディーテが言葉を遮った。「一刻も早く各地に散らばって戦わないといけません」「な、何を言っているんだ、お前は!」「その人の言う通りですよ」サキが扉を開けて入ってきた。「また侵入者か!さっきからどうなっているんだ、ここの警備は」「そのことなんですけど、聖者教っていう怪しい連中がこの国の各地で襲撃を起こしているみたいです。だから警備の皆さんが出払ってて簡単に侵入できちゃうんです」「!!」「ええい、その程度などすぐ済むんだから動かす必要なんて」「この映像を見てもまだそんなことが言えますか?」アフロディーテが先程同様映像を流した。その映像では家が燃え、獣人達の死体が転がっている様子が映し出されていた。その死体の中に彼らが信頼していた警備の人の遺体も少なからずあったため獣人達も黙ってしまった。「私はとりあえず死体からの蘇生を試みてみる。ノレドくんを借ります」「あまり女神の私が干渉するわけにもいきませんが巻き込まれた以上、最後まで付き合います。一応復活魔法もできるので試行だけはしてみます」「で、僕達は戦いに行ってもいいんですよね?」トーイが聞いた。翻訳されているので彼らにもわかったようで、「金は貰った以上この件はおしまいだ。それ以上の責任もあるにはあるが、皆を助けることでその責任は問わないことにする」「じゃあ」「すぐに救援に向かってくれ、閉廷とする」「わかりました、みんな行こう」ちなみに持ち物はキングにほぼほぼ入れていたので没収はされていない。「まぁ、このお金を集めるのも結構苦労したんだけどね」「お母さんどうしたの?」「なんでもないわ、行きましょう」小声で話したが獣人族特有の耳の良さでバッチリ聞かれてしまったフェアル。この影ではもっととんでもないことになっていた。


 「まったくもう!あの人はなんて無茶振りをしてくれるんですか!」「本当だよ」愚痴っているのは新たに就任した商人ギルドマスターと冒険者ギルドマスターの二人。いきなり5億という大金なんて用意するのは大変だ。冒険者にとってギルドの存在は銀行でもある。面倒な魔物素材の価値の算定、冒険者は命の危険があるため仮に死亡した際の遺族年金の保証、資金の少ない冒険者に装備を貸してあとで代金を回収する等、資金が絡む業務が沢山ある。そんな資金が5億も払ってしまったことでほとんど干上がってしまい、マタカの私有財産を当面は借りることで急場を凌ぐ作戦に出ざるを得なくなった。幸い新しい島アイマリドで沢山の珍しい魔物素材を安価で入手できるのでコレクターと取引さえできればすぐに返済のメドが経つのは救いではあった。額面がカードに書かれているとは言え銀行同様その額面の金額がそこにあるわけではなく、運用しているのですぐに引き出すなんて本来は無理なのだ。「あの人達じゃなかったらこんなことしませんからね」「それだけ彼らは多大な貢献をしてくれてるからそこは割りきるしかない」金欠のせいでさらに忙しくなったギルドの業務を黙々とこなしていく二人だった。


 各地に飛び回る最中、トーイとユナは泣いていた。自然と涙が溢れていた。悪夢からは覚めたものの、マタカが目の前で消えた事実、それに伴う悲しみは変わらないどころか時間が経つ度に深くなっていく。「我慢しなくてもいいのよ。でも戦闘はしっかりしてちょうだい」無茶なのはフェアルもわかっている。でも勇者であり、目の前に助けを求める人達がいる以上、泣いてばかりもいられないもまた事実。もう一人泣いている人物がいた。ハペルである。「悪人とは言え沢山の人を無意識に殺しちゃっていたんだね、、」捕まっている間は個室だったので話す機会がなかったが、自分が無自覚に人間を殺していたのだと聞いて怖くなったのだ。もっとも彼女は復活前提で敵アジトに毒ガスを流して殺害しているので殺すこと自体を怖いと思っているかは疑問符がつく。

「あ、その件なんだけど」ピレンクが口を開いた。「ヴァンパイア曰く、眷属にした奴はそう簡単には死ななくなるんだってさ。実際体力を吸われた彼らも無事らしいし」「「え!?」」全員が驚く。「主人に絶対服従な上、主人が死んだり眷属でなくなった瞬間石化して死んじゃうみたいだけど、まぁ生きてるだけ有り難いと思って欲しいな」「それは自業自得だね」「とにかく町が見えてきた。各自別れて戦闘と住民の救出をしていこう」全員が納得するとグループに別れ、各地で襲撃していた敵と交戦する。しかし強化人間や魔族が相手とは言え勝負にならなかった。次々と無力化して悪人達を捕まえていく。トーイとユナは遠因でもある彼らに怒りを持っていたぶん敵をあっさり撃破していった。だが、この活躍はある行動によりなかったことになってしまうのだった。それは敵を倒して死者の復活を試みている時だった。「すまないな、俺のところまで来てくれないか?試したいことがあるんだ」「父さん!?」呼び掛けたのは時間停止をしているはずのノレドの父親ドラゴ。転移して時間停止しているエリアギリギリまでやってきた。「復活より優先すること?くだらないことなら怒るよ」フェアルは不機嫌そうだ。「そう怒るなよ。一瞬だけ停止を解くから領域に侵入してくれ」「わかった」全員で時間停止の領域に突入した。「動けないんだけど、これからどうするの?」停止しているので当然全員動けない。「時間停止を俺が打っているから外のエリアには2つの時間軸があるんだ。通常通り時間が流れている状態と止まっている状態。この停止の領域に入ったってことはその2つの任意の状態を取ることができるんだ」「え、まさか」「まぁ簡単に言うと外のエリアも完全に時間停止状態にした世界線に行くことができる。タイムスリップとは厳密には異なるがある意味では正しい」「じゃあ、襲撃前の時間に戻れるってこと?」「その通り。と言っても俺が考えたわけじゃなくて親父が教えてくれたんだがな」「伝説のドラゴン!?」「でも完全停止していたら今みたいに動けないんじゃ?」シエムが当然の疑問を投げかける。「簡単だよ。外だけ時間を動かせばいい。外に出た時点で術者がいないから勝手に時間は動き出す」「じゃあ、チャンスは一度きりだね、慎重に行こう」フェアルがそう言うが、「気にするな。俺が時間を止めている間は何回でもチャンスがある。心配せず行け。ただ、時間を止めたときの状況は当然だがそのままだ」「ってことは僕達は母さんに運ばれてて」「俺達はそのままだとすぐに警察に捕まるって言うことだな」「そういうことだ」「どうやって打開するの!?」「捕まるって分かってて捕まる程俺はアホじゃない。ちゃんと手はある」ピレンクは作戦を全員に説明した。「なるほどね、これはあなたにしかできないね」「作戦が成功したらすぐに敵の本部に向かおう」「了解」ドラゴの能力によって時間が停止状態の世界に移行した。トーイとユナは二回め故にすぐに目覚め、合流するために動き出した。そして残ったメンバーは、、「影に潜ろう」ノレドの影を利用して影の世界に離脱。やってきた警備の獣人に光魔法で目眩ましをする。その隙にノレドも離脱して、シャドウドラゴンと8人にそっくりな格好をした眷属と入れ替わった。絶対服従なことを利用して入れ替わりをしつつ連れて行かせた。「まぁ眷属は組織の一員だから当然本部の場所分かるやつもいるはず。そして俺に対して絶対に秘密は隠蔽できない」ブラックヴァンパイアの主人、主人の主人の命令もまた服従せざるを得ないのだ。そして当然本部の場所もすぐに割れたので案内させつつ向かうのだった。トーイ達は転移してワイバーンで各地を回ることに。勇者が捕まったと思い込んだため襲撃は始まってしまっていたが、機動力の差で補っていく。死者は出ていたものの、到着が早かったのもあり、蘇生が間に合ったため襲撃による最終的な死者は0で抑えることができた。本部に着くと襲撃をしようとした部隊と鉢合わせに。転移を使える敵ばかりではないらしい。あっという間に全滅させたので転移で移動した敵も含めて次々と制圧。彼らの活躍が獣人の国に広がり、逮捕もなかったことになったのだ。もっとも、5億ゴールドは村の復興資金として使われる用に送ったため、これは賠償金としてではなく寄付という形で使われた。そのことが前の状態ではあり得なかった獣人族の勇者達に対する好感度の上昇に繋がったのだった。


 本部に突入した一行は彼らにとってはまさに嵐そのものだった。殺されはしないものの、次々と気絶させられていく。彼らはそもそもなぜここを特定できたのかさえわからないまま戦っていた上に、数で圧倒的有利を取っているにも関わらず相手の誰一人倒すことができていなかった。恐怖が本部を包んでいた。本部に勇者一行らしき人物が突入した、と報告を受けたレディトは「なぜバレたかはわからないが、奴らに今は我々が勝つことは不可能だ。撤退の準備をしろ」とここで幹部の一人が「いつもあなたは逃げてばかりですよね。戦って勝とうと思わないのですか」「しかしだな、奴らの実力は嫌という程知っているのだ。単独で数だけ揃えたところで勝てる相手ではない」「そうですか」すると突然、話していた幹部から影が伸びた。「逃がしませんよ」「くっ!操られていたのか!」そう、影の狐は再度封印されただけで消滅はしていない。レディトだけは逃れることができたが他は転移が間に合わなかった。そんな中内部の無力化をほぼ終わらせた勇者達がやってきた。「来ましたか、私だけでも勝って差し上げましょう」その男は影を展開し形を5本の尾の狐に変化した。「あいつの手下ってことか」暗くて見えにくいがよく見ると血が飛び散っている。戦闘らしきものがあったことが伺えた。「勝ち目はあると思います。本体は神様の力じゃないと倒せなかったけど、あれは本体が人間だから光魔法が効くと思います」シエムが分析する「じゃあどう攻略するの?」「それはですね」ナージェとハペルに作戦を説明する。「なるほど、あれを再現すればいいのね。守備は男性陣に任せるよ」「まぁ、攻撃手段ないし、そうしよう」敵はこの間も影魔法と影を伸ばして攻撃するがノレドとピレンクがガードしノーダメージ。その間作戦通り準備する女性陣。「とりあえず誘導しよう」と敵にバレないよう魔道具で作戦を伝える。シエム、ハペル、ナージェが光と炎属性魔法で攻撃し、ピレンクが影の能力でルートを制限する。「今だよ」「ライトイレーサー!」煌めきの羽衣に集めていた光とラーのエレメントであるライトイレーサーを発動。強烈な光が部屋全体を覆う。強烈な光魔法を発動するためナージェがあらかじめ光軽減魔法を全員にかけていたため失明のリスクはない。「うわぁぁ!」と操られていた男が声を上げる。「死んじゃった?」「影の影響はなくなったと思う」「とりあえず蘇生はできました。警察に引き渡しておきましょう」アフロディーテが男を素早く復活させると拘束して本部を壊滅し事件は終息にむかった。だが。「なんでまた捕まるの!?」すでに村の破壊事件に関しては身代わりが捕まっているにも関わらず、8人は建物から出ようとした途端捕まった。「これは、あれだ。あの時と同じだ、、」ノレドがそう語る。「ああ、あのでっち上げ冤罪事件か。確か同じ母体だからやりかねないね」「どういうことです?」女神はよくわからない様子なのでハペルが説明すると「闇が深いですね、それ」とただ感想を述べた。こうしてまた彼らは捕まってしまったのだった。


 村を救った英雄としてタキョウに呼ばれていた4人は女神からの連絡に戸惑った。本部を壊滅させたはいいが警察にすぐに捕まったと言ったからだ。この後に表彰式が執り行われ必ず出席しろと言われているが、どうにかまた救わなければいけない。「抵抗すればいいのに」「抵抗したら敵と判断されて逆効果よ。とりあえず警察が組織と繋がっている可能性が高そうね」「どうします?また現地に、、」「出席しなきゃいけないんだから、それはダメ。むしろ表彰式を利用するのよ。お父さんもよく使っていたでしょ?」「確かにそうだね」マタカは有利な立場にするために記者外見とかを使うことも多かった。「具体的にはどうするの?母さん」「この国、獣人の国ナーチはさっきの戦闘でもわかるけど獣人以外人権がないような感じがしたよね?」トーイとユナが敵を取り押さえているときは応援がすごかったが、フェアルが復活させているときは感謝は一応していたもののその温度差は明らかだった。「それが原因でみんなは捕まった、ってこと?」「そういうことだね」「そろそろ準備をしてくれないか?」と獣人に言われて準備する3人。「それではこの国を救ってくれた3人の英雄に拍手を」表彰を行う王様がいる前まで拍手で迎えられる3人。「そこにおられる方はナーチ国王、リオ様である」「民を襲う悪人を倒し、倒れた民をも救ったそなた達の活躍、まさに英雄であるな。褒美は何が良いであるか?」お金をくれた彼らにはとりあえず何が欲しいのかわからなかったのでリオは聞いたのだが、これこそ彼らが待っていた瞬間だった。「では、今捕まっている仲間達の釈放を褒美としてお願いしたいです」「そなた達に仲間がいるという報告は受けていないのだが」「彼らは人間だったり魔族だったりしますからね」「人間に魔族だと!?」場の空気が一気に冷え込む。やはり獣人以外は敵と認識されるらしい。「残念だがそのような褒美は受けつけていない。我々の国は人間や魔族にかつて虐げられてきたのだ。捕まるということは彼らは悪人なのだろう?」「いいえ。敵の本拠地を抑え壊滅させました。何一つとして悪いことはしてません」「ではなぜ彼らが捕まっているのだ?」「おそらくですが、警察官の中にその組織と繋がっている人物がいるからでしょう」「すぐに釈放させよう。どこにいるんだ?」女神からすでに魔道具で場所は聞いていたのでフェアルがリオを含めて転移させる。「彼らが仲間です」「わかった、釈放としよう」「まぁ、逃げようと思えばいつでも逃げれたけどな」「私のことを覚えていますか、王様」「えっと、あなた様は、、まさか!」「その口ぶりから察するに覚えていてくれたみたいですね」「なぜ絆の女神様がここにいらっしゃるのですか!」「彼らこそ私が選んだ絆の勇者だからです。種族を越えた友情を彼らが持っているからです。いつまでも人間と獣人の差別をしていてはこのような事件はなくなりませんよ」「どうしてそのことを?」「女神である私は全て見ているのですよ。人間に虐げられてきた過去があっても人間として生まれてきた彼らに罪はないのです」「どういうことですか!?」女神が説明したのは獣人がミガク王国でひどい扱いを受けてきたこと、そしてこの地に逃れてきて元々住んでいた人間と交わりこの国が繁栄したこと、そして徐々に先住民や人間として生まれた子供を迫害するようになった過去だった。「じゃあ憎むのは仕方ないんじゃ、、」「いいえ。少しずつでも融和を計っていかなかったのが不味かったのです。簡単ではありませんが少しでも悪い人間ばかりではないと知ろうとすることが友好の第一歩なんです。そのためにトーイさん達の出自は使えると思いますよ」全員にハテナマークが浮かんだが、すぐに「人間同士の間に生まれた、特殊な獣人であって人間を憎んでいない、ということが重要です」と補足した。「そうなのか!?てっきり母親が人間で父親が獣人だと思っていたが」リオがそう聞く。「まぁ半分正解で、半分不正解なんですけど」

「なんだそれは?」ユナイトを知らないこの王様に獣人とのユナイトの末に生まれた、と説明しても理解ができないために曖昧な回答になった。後日、彼らは旅に出たためその場にはいなかったが、国民に向けたメッセージを残していた。「僕達は勇者として旅をする中で様々な種族と出会ってきました。もちろん悪い人もいたけれど、会った大半の人は友好的に接してくれました。わかり合う努力さえ忘れなければすぐではなくても人間と仲良くできる道があると思います。皆さんのことを信じています」というものだった。助けた英雄からの言葉は確かに国民に響き人間と獣人の間を友好の方向に進めたことは間違いないと言われている。もっとも、彼らがまだ子供だったからこそ、大人が友好に向けて自ら動いていくという面もあったと思われるが。


 話を戻して解放された一行は女神に案内されて絆の一族の集落に戻ってきていた。「久しぶりに戻ってきました」「お帰りなさい、女神様」「ねぇ、聞きたいんだけどどうして一切抵抗しないで捕まるように指示したの?」ハペルが質問する。「簡単です。皆さんもわかる通りあの国は人間と獣人が憎しみを互いに持っている国です。そんな国で人間が抵抗したり、果ては殺すなんてしたらどうなるかは想像がつくでしょう?」「実際転移でいくらでも逃げられるし逃げる許可をくれればよかったのに」ワープストーンを全員に渡して使えば簡単に逃げられたのは事実だ。「それも印象が最悪になるからダメです。勇者はイメージがとても大事なことは皆さん理解しているでしょう?」「まぁ、そうですね」過去の事件とかを振り返ると冤罪事件や勘違い事件などプラスイメージがないことの不利益を被ってきたのも事実なのだ。実際、冤罪であることを証明し、抵抗できるにも関わらず待ったことで他のメンバーに対するイメージも多少なりとも良くなっている。

「で、ここに連れてきた理由は何ですか?」シエムがそう聞いた。「皆さんをさらに強化したいからです。ただ、そのためには準備がすごく大事になります」「まぁ、あいつには俺達が止めを差せなかったからな」シヴァとラーが活躍したことで封印ができたが、実際いなかったら押し負けていた可能性が高い。「で、その準備って何をすればいいんですか?」「皆さん、付き合っているのにまだデートもろくにしてないんですよね?」「それがどうしたんだ?」「次の強化のためには互いに愛を深めることがとても大切です。それは絆の試練でもわかっているでしょう?」「ああ、あれねぇ、、」部屋の沸いてくる魔物はテイムした魔物達に任せてイチャイチャするあれである。「だから皆さんの休息も兼ねて明日から2日間、デートをしてもらいます。ルールは色々あるのですが、、」ここから女神が色々と説明をして万全の状態で彼らはデートに臨むのだが、テンポと尺の関係上、ここでは省略。詳しくは別で書く予定。さて、そんなデートを乗り越えて絆の一族の洞窟に戻ってきた一行。ちなみにパートナーがいないナージェはワープストーンを借りて一人旅をしていた。「いい顔をされていますね。これなら次の強化もできそうです。ただ、強化ユナイトがまだできないポーサさんとメイリさんはこの強化は無理ですね。段階を踏みましょう」「わかりました」「一体、どんな強化をするんですか?」「強化ユナイトのさらに上、完全ユナイトです。もっとも私自身もはじめてなので成功するかは未知数ですが。そもそもこの完全ユナイト自体が今まで誰もできたことがないですから」「その完全ユナイトとはどういう状態なんですか?」「その名の通り、完全に魔力として交じり合い、一つの肉体として戦うことになります。その圧倒的な魔力量で攻撃面、防御面ともに強化ユナイトよりも非常に強力な形態になります」「なぜそんな強力な形態を今まで紹介しなかったんですか!?」「これは失敗したときのリスクが非常に大きいですからね。本当の意味で心と身体を一つにしなければ失敗する可能性が高過ぎるので」「心と身体を一つに、、まさかあれをするんですか!?」何かに気がついた様子のハペル。「察しがいいですね。そうです◯◯◯◯です」「なにそれ!?」子供なので聞くトーイとユナ。「それはね、、」ハペルが耳打ちする。顔が真っ赤になるシエム、ユナ、トーイ。ピレンクは一国の王子ということもありしっかり知っていたらしい。「彼らは年齢的に早すぎませんか?」ノレドがさすがに困惑して尋ねた。「仕方ないでしょう。確かに年齢的には早すぎるのは認めます。ですがこれからの戦いにこの力は必須なのです。強化ユナイト同様、一度ユナイトすればそれをスキップしてできると思います。ただ、愛し合う男女がいつかはやることですからまぁ受け入れてください」「とは言っても、、まぁ必要な以上やるしかないね」ユナは諦めの表情を浮かべながらやる意志を固めた。「恥ずかしいけど頑張るよ」「別にユナちゃんとできるのは嫌いじゃないよ?早すぎるけど」「すみません、どこでやるんですか?」シエムが恥ずかしがりながら質問する。「試練の扉の隣の奥に私を祭る祭壇があります。愛の女神として愛し合う男女を祝福します」「ところで私は何をすればいいの?」ナージェが質問する。「私が稽古をつけよう」とやってきたのは「お父さん!?私より弱いのに?」天使族の族長がやってきた。「それはだな、こちらも本気を出していなかったからだ」そう言いながら彼は変身する。「私は性を司る神エロス。母の要請でやってきた。とりあえず本来の目的を果たすことから始めようか」すると彼は弓矢を取り出して、矢を撃って6人を貫く。無論彼らは無傷なのだが、、「身体が熱い!?」「これが神の本来の力か。異性全員が魅力的に見える」ノレドが能力に気がついた様子。抑制効果のほうを食らったとき、修行の後我慢できずに彼らは初体験を経験したのだが、本来の効果なのでそのとき以上に性欲が高まるようになっている。「ちょ、ちょっと待って!お父さんのお母様なんだからおば」「それ以上はダメですよ、ナージェさん。私はその呼び方は好きませんのでお母さんと呼んでください」「は、はい」「準備が終わったので皆さんには準備に入ってもらいます」そういうとアフロディーテは6人を転移させた。「あれ、私達はどうすればいいですか?ナージェさんはエロスさんと戦うとしてもポーサと私が放置状態なのですが」「とりあえずスチームボックスが欲しいですな。あれがないと強化ユナイトができないですから」「わかりました」デートの際には買ってなかったのでミガク王国にすぐに買いにいった。「さて、邪魔がいなくなったな。いくぞ、娘よ」「わかったよ、でもどうして私にも神様であることを隠していたの?」「天使族にとって神様は敬うべき存在で対等に話せる関係ではないだろう?族長としてそれはまずいと思っていたからだ」「まぁ天使族にとって神様が畏れ多い存在なのはわかるよ。でも父さんは父さんだからそこまで気にしなくてもいいと思うけどね」「お前がそんなこと言うなんてな、とにかく勝負は勝負だ。仕切り直していくぞ」天使族ということもあり羽根を使った空中戦になった。さすがに洞窟の中は上が狭すぎるので外に移動している。結界で領域を展開して認識阻害を使っているので外の人間に戦っていることは認識されない。エロスが弓矢で攻撃をするのに対して、より弾速の速い銃剣で対抗するナージェ。しかし領域の中とは言え高速でお互いに動けるので真剣勝負のこの戦いでは攻撃がほとんど当たらない。リロードの隙さえ剣に切り替えたり逃げながら行っているためそれさえ隙にならなかった。結局、6人が能力を獲得して二人を呼びにいくまでずっと戦っていて勝敗はつかなかった。「腕をさらに上げたようだな。これからも修行を重ねるのだぞ」「はい、父さん」


 6人が女神に転移させられてついたのがステンドグラスで描かれた聖母画とヴィーナスの像がある、いかにも女神の祭られている幻想的な部屋にやってきた。神様は当然地球のことを知っているが、ここの部屋を作ったのは100年前にこの世界にやってきたヨーロッパ人のうちの一人らしい。絆の一族も当然ではあるが転移してきた彼らとの交流があった証拠でもある。とはいえそんな光景は6人にはあまり印象に残っていなかった。エロスの矢の効果で恋人のことと性欲で頭が一杯だったからである。「さて、理性が飛んですぐに始まってしまいそうですが、心を一つにするということを忘れないでください。わざわざこれをする意味がありませんからね」「わかりました」「中が見えなくなる結界を張ります。裸を見せるわけにはいかないでしょうから、その中に入ってから脱いでください」女神は3つの丸い結界を等間隔に、それでいて近距離に配置した。もちろんユナイトのためである。「皆さんが心と身体を一つになった頃合いを見て、私が合図を出します。そこでユナイトを試みてください」「はい」結界の中に入ると中が狭いこともあり、より相手のことを意識するようになる。服を脱ぐ光景も目で追ってしまいお互いに恥ずかしがって赤面する。「み、見ないでよ!」「仕方ないだろ、他に見るものがないんだから」服を脱ぎ終わった後、キスをして抱きしめ合い、そして本番に入る。最初は身体に異物が入り込んだことで女性達が痛がっていたが、徐々に慣れて受け入れることを快楽を覚えるようになった。性欲が満たされ例のユナイトのことさえ忘れそうになる中でアフロディーテが大声で言う。「今、相手と心と身体を一つにしていると思います。その意識を仲間達との絆に向けてください」行為中のため無言で意識を変える6人。今目の前にいる相手との愛情と仲間を思う友情。この2つの感情を持ったのを確認した女神は「今です。ユナイトを発動してください」6人は快楽に溺れたい気持ちを抑えつつ、ユナイトを発動する。アフロディーテはユナイト発動を確認して結界を解除して、ユナイトした3組をさらに合体させる。「うまくいきますかね?」最初は距離があったものの徐々に融合を始めていき、ユナイトが成功した。四本腕を持つ翼持ちのドラゴンだった。「何ですか!?この姿」「ユナイトは成功のようですね。ドラゴンの要素は皆さんが魔力容量の限界値を上昇させたときに使った鱗と竜の二人の合わせたものです。4本の腕は単純に手数を増やすためです。意識が6人分ですから普通の人間と違って混乱しないという判断からです。それで6本にしないのは攻撃の邪魔しないようにするためです。で、上半身が不安定になった分を脚としっぽでバランスを取る形です」と完全ユナイトした身体の説明を淡々と解説する女神。「ところで今のって本当にあれは必要だったんですか?」と聞く6人。「何を言いますか。6人を一つの意志、身体として動かすのはとても大変なことなんですよ!?あ、服は影で回収しておけば解除時に裸にならずに済むと思いますよ」「それは大事ですね」散らばった服をささっと回収する。「さて。その力、色々試す必要があるでしょう。私がお相手をして差し上げます」「ありがとうございます。いきます」まず、彼女の十八番である誘惑魔法を使ったが、「やはり効きませんか」その隙に一気に距離を詰めて素手でパンチする。「剣だったらもうやられてますね、凄まじいパワーです」女神はすぐさま回復魔法で立て直す。「これはどうですか!?」女神は氷属性魔法で攻撃する。ただ、「わかっててやりましたね」「確認ですよ!?」ハペル単体で無効にできるのだ。ユナイトしている状態ならなおさらである。「こっちも撃ってみます」炎魔法を打ち出した。女神はこの威力を調べるためわざと結界魔法で防御した。「数秒ももたないほどの威力!?」結界が壊れる前に女神は転移で逃げた。「でも、もうユナイトの時間が切れそうですよ。その持続時間は改善する必要があるでしょう」実際戦闘を開始して5分前後で解けそうになって直後に解除されてしまった。裸には想定通りならずには済んだが、6人はこの5分間変身していただけですごい疲れていた。無論その前の行為の影響も否定はできないが、戦闘にそこまで影響があるかと言うと疑問である。「かなり魔力も消耗もするようですね。これは慣れが必要でしょうね」「回数をこなすしかデメリットの解消方法はないんですか」「今のところはそうですね。慣れて消耗を少なくしていけると思います」そして洞窟に戻るとボックスを買ってきたメイリとポーサはいたがナージェ達がいなかったので探すことになった。ただ認識阻害の結界のせいで外にいることがわからなかったが。「まぁ、結界を探せば楽なんですけどね」ということで結界を探して用件が終わったことを告げた。「終わったのですか。ひとまず成功してなによりです」「互角って言うよりずっと避け続けてたからしんどかった」とこちらも疲労している様子のナージェ。銃弾も使いきったらしく後半は魔法と剣で対抗していたらしい。「明日以降ですが、本来の目的、伝説のドラゴンを探す旅に戻るほうがよろしいかと。例の影の敵の親玉は別にいるようですからね」「あれが本体じゃないんですか!?」「いいえ。それを封じた島があるのです。どこかはわかりませんが、かのドラゴンは間違いなく島に封印していました」「では場所を知っているのは」「かのドラゴンだけです」「わかりました」こうして新しい力を得た一行は明日に備えて道場に戻るのだった。「銃弾がなくなるなんてはじめてだ。本当に父は強かった」戦いの感想を述べるナージェ。「その、皆さんどうだったんですか?その例のやつ」メイリがちょっと顔を赤くして聞いてきた。「今、冷静になってみたら恥ずかしくて仕方ないね」「でも、なんか一つ壁を越えた気がします、恋人との関係が」「まぁ私はあんまり変わらないかな。確かにみんながやってる中ではないけど初体験じゃなかったし」「え?」「みんなが魔力の拡張やってて気絶してたとき私達は無意味だったから気絶しなかったんだよね。であの時効いていた抑制の効果が切れてやっちゃった」「だからノレドさんはいち早く効果に気がついたんですね」「まぁ、そういうことだね」言葉では平気なふりをしながら話すハペルだが、顔は普通に赤い。というか聞いている側もこんな恥ずかしい話をしているため赤くなっている。「嫌いになったりしましたか?」「それはないかな。しょうがないもん」「そうですね。トーイくんも身体を気遣ってくれましたしより好きに、、って何言ってるんでしょう、私」「まぁ欲望に従うのも悪くないから。おそらく男子達は同じ感想しかないだろうけど」「?」ハペルが予想した通り男子達の感想は「気持ちいい」と「またやりたい」と言うある意味当たり前な感想しか出てこなかった。で、明日に備えて眠りにつく頃、部屋で一緒に寝るピレンクとユナは何か異変を感じ取っていたようだ。「あれ以来何か変な感じがするんだよね。何が起きてるんだろう」「俺もだ。あのユナイトはただの合体変身じゃない」そう、あのユナイトによる影響でこの二人にとんでもないことが起き始めていたのだが、それがわかるのは随分先のことだった。


 翌日。獣人の国でのトラブルを解消した彼らは予言に従い大陸から続く南部の半島地帯に足を踏み入れた。ナーチの山岳地帯を飛んで南下した一行は大きな街を発見したので行ってみることに。門の近くで降下して門番さんに入れてもらえないか頼むことにした。相変わらずと言うか、中央大陸であっても言語が違うらしくトーイとユナの翻訳技術がここでも役に立った。「珍しいな。東大陸からやってきたのか。身元はわかっているから通っていいぞ」冒険者カードを見せたことで通してもらえた。街の中央に行くと「ここってあまり存在が認識されていないところのはずなのに石碑が置いてある」「その石碑はね、一人の冒険者の方が置かせて欲しいと頼んでここに置かれてるらしいの。使い道は私達にはさっぱりなんだけどね」と通りすがりの女性が教えてくれた。ワープストーンの貴重な拠点なのでしっかり登録しておく。「名前が刻まれたの初めて見たけど、、どうやって使うの?」「こう使うんです」ユナがワープストーンで消えて、すぐに戻って来た。「消えて、戻れるの!?不思議ね」摩訶不思議な現象に街の人々が集まってきた。「今のって魔法なのか!?初めて見たぞ」「魔法って使ったこと皆さんはないんですか?」トーイが尋ねる。「ないわね。聞いたこと自体はあるし使える人もいるのは知っているけど私達とは無縁ね」「すみません、この国って名前何ですか?」「ああ、ここはシーソータジアと言う国よ。下に続く島も含めた漁業で生計を立てている国よ」「じゃあ、伝説のドラゴンについて知ってますか?どうやらこの国のその南部にある島々のうちの一つにいるらしいんですけど」「その伝説のドラゴンとやらは知らないわね。でも海神様が住むと言う私達では入れない島がある、というのは有名な話ね」「その海神様ってどんな逸話があるんですか?」海神様がそのドラゴンと同一かどうかを確認するため、トーイが尋ねる。「そうね、有名な話で言うと荒波が船を襲って転覆したと思ったら次の瞬間には陸地に船員全員が上陸していたという話があるわね。それが海神様の情けだ、ということで神殿を建てて祭っているという話が始まりでそれ以来信仰した漁師が度々似たような体験をしたことから本格的な信仰が始まったらしいわ」「それは間違いなく僕達が探し求めているドラゴンの力ですね」コーテックドラゴンは時空を操る能力があることを知っている一行は女性の話を聞いて確信に変わった。「ところで、祭っている神殿はどこにあるんですか?」「ああ、エンコア神殿ね。この街を出て南下するとある水に囲まれた大きな神殿よ。沢山の建物があるらしいんだけど、内部は魔物が出るらしくて基本的には立ち入りが禁止されているわ。ここからだと結構な距離を歩かなきゃ行けないけど」「大丈夫です。それはなんとかなるので」「君達の話がもっと聞きたくなったんだけど、ここだと人多いから、近くの食べ物屋に入ろう」「わかりました」女性に連れられて一行は小さな食べ物屋に入った。「そうだ。名前を言ってなかったね。私はバンラ、よろしくね」そして9人はそれぞれ自己紹介する。トーイ達が他のメンバーの言語の翻訳をしようとしたとき、「ああ、私は君達の言葉分かるから翻訳しなくて大丈夫だよ」と言うことでそのまま紹介した。「へぇ、君達は冒険者なんだね。ちょうど良いかもしれない」「どういうことなんですか?」「実は私、古代の遺跡や文化の研究をしているんだ。ただ、攻撃手段がないからダンジョンになっている所は当然入れなくてね。立ち入り禁止になっているけど君達が冒険者として付き添ってくれるなら許可が降りるかもしれない」「許可ってどこでもらえるんです!?」「王様だね。あの神殿は強力な魔物が出ることもあって生きて帰った人がいないって噂が立つ位だから、実力を示さなきゃいけないだろうね」「じゃあ、急ぎましょう。ところで何故翻訳がいらなかったんですか?」ハペルがそう聞いた。「ああ、簡単だよ。元々同じ大陸だけあって言語も同じ物を使っていたのさ。ただ時間が経って前の言語を使わなくなった。理由はおそらく100年前の戦争に関係していると思っているんだ」「地域が違うから別の言語になったと?」「というよりも明らかに違うんだよね。一応昔の書籍が残されていてそれを解読するに別の文字が使われていたんだ。こういう形でね」バンラが見せたのは「お父さんが使っていたの見たことある文字だ」それは漢字だった。転移した人達がヨーロッパ人が多い影響でこの世界の東大陸と中央大陸はアルファベットがよく使われている。言語が微妙に違うため文字での統一語として異世界の言葉ができたのだが、こちらの国とナーチでは漢字が使われていた。「それより許可取らないと入れないから行こう」「はい!」食べ物屋で食べ終わった後、一行は王城に向かった。もっとも、デザインは他では見たことない独特な水滴のような形をした屋根ではあったが。門番に事情を話したのだが、公務などもあり謁見できるのは明日、ということになった。「王様は忙しいのは当たり前だから、明日会えるだけラッキーさ」バンラはそう語った。「どうするんだい?宿は決めてあるのかな?」この後の予定を話す彼女。「ええと、私達はあれがあるので、、」「ああ、さっき見せてもらったあれね。じゃあ明日は石碑の前で待っていれば現れてくれるのかな?」「そうですね。朝集合ってことで」「明日はよろしくね」「はい」というわけで翌日、集合となった。せっかく街に来たので一行は観光を楽しんだ後、道場に帰還して翌日を迎えた。バンラと合流して王様に会いに行くことに。「シーソータジア国王の南無斗王だ。貴殿らはあの遺跡を調査する許可を求めているのだな。だが、市中の噂通り、あそこは強力な魔物が多数出現する。財宝や貴重な歴史的資料があるという噂ではあるが、我々も手出しができないダンジョンなだけに貴殿らの実力がいかほどかを知りたい。それでだ、参れ!」王が呼び掛けるとそこに大男が現れた。全長は2、3メートル程度ある人間離れした体躯を持っていた。「この男は我の用心棒、鬼平だ。オーガの父を持つ男でこの国随一の力自慢だ。この男をサシで倒せるなら遺跡への侵入を許可しよう」「僕が行きます」搦め手や魔法ではなく力で認めさせたいためトーイが立候補した。「その小さな身体で私を倒せると思うなら甘く見られたものだ。受けて立つ」二人は城の兵士の訓練所で勝負することになった。鬼平は大剣、トーイは斬剣ではなく取り回し重視の普通の剣だ。「そんな剣で私に勝てると思っているのか?」「普段使いの剣はある意味で勝負を壊してしまうからだよ」斬剣や魔神の剣の場合真剣勝負とした場合魔力で切れ味を増加しているため防御しただけでほとんどの武器が破損してしまう。だからちゃんと決着をつけるには通常の剣を使うしかない。「試合開始」審判の合図で決闘が開始された。鬼平とトーイが同時に突撃して間合いを詰める。大剣をトーイに振るうが簡単にかわされる。トーイは持ち手に向かって剣を振る。弾き飛ばすためだ。武器を破壊することはできないので武器を飛ばすか敵に攻撃するしかないが、さすがに試合で相手を殺す択は取れないので武器を飛ばすか、降参させるくらいしか勝ち目がない。それをわかっていたからか鬼平も剣を持っていた片手を離しトーイの身体を受け止める。受け止めて動きを止めた彼は大剣を彼に向けるがこの程度で止まるトーイではない。確かに頭を掴まれて勢いが止められたが、すぐに抜け出して間合いを元に戻す。「やるな。確かに強いが勝てないわけではない」「伊達にいろんな所冒険してきたわけではないですよ」大剣を先に振ると隙を晒してしまうので鬼平は防御からの反撃に出る構えに出た。だが、トーイは魔力が非常に高い状態であり、力も非常に強化されている。そんな状態で剣で受け止めて反撃しようとしたが、全力で振った剣の一撃は大剣を真っ二つに叩き折った。無論大剣を叩き折った剣のほうも無事ではなく地面に振り下ろした際に折れてしまったが武器が先に折れてしまった鬼平の負けとなった。実際武器が先に使えなくなるということは実戦では死を意味するからだ。「では約束通り遺跡への立ち入りを許可しよう。それと同時に貴殿らに調査を依頼する」「私が負けるとは、、興味が湧いた。お前達の旅に同行しよう」「武器が壊れたのに大丈夫なのか!?」「真剣勝負だったから剣を出したが、もう1つ私には主武器がある」彼は一旦立ち去って持ってきたのは戦棍。別名をメイスと言う圧倒的な破壊力を誇る先端に重量のある突起がある武器だ。彼が持っていたのはその大きな体躯に合わせた2メートルの戦棍で、非常に重い斬剣よりも重く、80kg近くある。それでも軽々と彼は持ち、片手で振り回せるらしい。彼の戦棍はその一種、モーニングスターと呼ばれる先端が刺付きの球体状の武器だ。「とげとげしい見た目ですごく強そう」が10人の最初の印象だった。「で、今から向かうのか?」「うん、そのつもりだよ」王城を出た一行は街を歩いて門の外に向かった。「じゃあ、いつものお願い」「了解」ノレドとポーサが竜と龍に変身する。「まさかそんな秘密があったなんて、、」「確かにこれならすぐに到着するな」実際にはさらにワイバーンもいて分担して乗ることに。「空の旅なんてはじめてだよ!」「私もだ。飛行生物を見たことがあっても乗る機会はなかったからな」そして、目的地エンコア神殿にたどり着いた。その間わずか30分前後。飛行速度はかなりのものである。「外に魔物は出てこないが一歩足を踏み入れると閉じ込められてしまう仕掛けのようだ。十分に注意してくれ」とりあえず3つのグループに別れて攻略することにした。近接攻撃と遠距離攻撃とカップルを別のグループに分けないということを考慮して次のような組み合わせとなった。トーイ、シエム、ポーサ、メイリのグループと、ユナ、ピレンク、バンラ、鬼平のグループ、ハペル、ノレド、ナージェのグループになった。バンラ達をユナのグループに入れたのは影が使えるからである。バンラは攻撃手段はもちろん、防御手段がない。そのため影が使えるユナとピレンクのペアの所に入れた。とここでペアを分けたところでアルラウネが自分から出てきた。「さすがに不意の攻撃だと防ぎ切れないこともあるでしょうし、私がバンラさんを守りましょう。あと、ピレンクさんのオクトニンジャ、ハペルさんのスフィンクスを貸してください」「いいよ」「ああ」「とりあえず攻撃手段としての2体を持っておけばいざという時も戦いやすいでしょう」「ありがとうございます。というか魔物ですよね!?」「はい、魔物ですけど人型ですしコミュニケーションも取れます。このネックレスは私の分身代わりなので外で起こったことはすべて把握しています」「へぇ、そういうものなんですね」「とりあえずメイリさんとバンラさん、ナージェさんにも差し上げましょう。誘惑効果があります」「ありがとうございます」3つの大きな建物が結界を形成しており、中心部の一番大きな建物への侵入ができなくなっている。もちろん、銃やガイアの結晶でも壊すことはできない。正確には壊せるには壊せるのだが、瞬時に復活してしまう。そこで効率良く攻略するのと、入り口がやや狭く大人数で行動するには不向きだったため、3つのグループに分けたというわけだ。ちなみに建物は北、西、東と別れているので先ほどの順番と対応した形となる。まず、北の建物にやってきたのはトーイ達のグループ。ダンジョンに入ると鬼平の警告通り、ダンジョンに閉じ込められた。「いつも通り戦っていこう」そこにいた魔物は、水に囲まれていることもあり水棲生物の魔物が多かった。ロックフロッグ、ロックフライ、ロックシザーズ、ロックゴーレム。そして、序盤に出てきたロックタートルが一匹だけとは言え雑魚として登場した。「久しぶりに見たけど、ジュエルマイマイと併せて元気にやっているのかな?」かつて捕獲した個体に思いを馳せるトーイとシエム。ポーサ達の加入前の記憶なため、二人は置いてきぼりになっている。ロックタートルは採掘作業を手伝い、ジュエルマイマイは魔石作りに一役買って彼らの持つスーパーボックス開発に貢献した。そんな思い出があっても今はただの敵魔物でしかない。「まぁ、目的のために進むことだけを今は考えよう」「そうですよ、まずはこの群れを突破しましょう」とはいえ、彼らが本気を出してしまうとあっさりと片付いてしまう。対人戦はやや苦手なトーイだが、対魔物戦では数が沢山いようが関係ない。メイリやポーサの魔法のサポートと、シエムのフロストバタフライの組み合わせであっさり全滅させた。ちなみにメイリはサンダーバリア以外にも氷属性を無効にできるアイスバリアも使用できるので、それを使用して無効にしつつ敵に突っ込んで倒していった。その頃、ユナ達が攻略する予定の西の建物では、「歴史的な価値が高そうだね」「いつの時代の、誰が建てた物なんだろか?」バンラが建物に興味を持ってしまいなかなか先に進めずにいた。「私はさっさと戦いたいんだが、、いつになったら入るのだ?」「さすがに進みましょうよ。中を調べないとその疑問もわかりませんし」「閉じ込められるなら外にいられるこの時間は貴重だろう?」と建物の周りをうろうろして何かと記録しようとするバンラ。さすがにしびれを切らしたのか鬼平がとんでもない行動に出る。「ちょ、ちょっと何するの!?」「こうでもしないといつまで経ってもここを動かなそうでな」「だからってこんなことする!?」「女性に対してそれはさすがにまずくないですか!?」鬼平はバンラの服を掴んで軽々と持ち上げ、肩の上に座るように乗せた。彼女はズボンスタイルなので平気だが、彼の身長もあってスカートならまず間違いなく中が見えてしまう。「よし、このまま行こう」「いやいや、恥ずかしいなんてものじゃないから!頼むから降ろして!」「とりあえず建物に入ったら考えてやる」「話を聞いてない!?」「さすがに女性に対して大胆すぎないか?」「護衛対象なのにはしゃぐのが悪い」ピレンクが苦言を呈するものの、彼は聞く耳を持たなかった。が、なぜかすぐに彼の顔は赤くなった。「あ、もしかして私のこと女性としてようやく意識したってこと?」「そ、そんなことはない!」肩に乗ったバンラが耳打ちで囁くとさらに顔が真っ赤になった。その光景を見ていたアルラウネは「あらあら、若いっていいですねー」と独り言を言いながら肩に乗っているバンラに耳打ちをする。「!」「どうしたんですか?」「いや、なんでもない。とりあえず怖いから降ろして!」「ダメだ」とそんなやりとりをしつつようやく建物に入った。閉じ込められると視界が完全に真っ暗になった。「見えていた時点でもだいぶ暗かったけど、閉じ込められたらもはや何も見えないね」そう言っている間にも暗闇に紛れて魔物達が接近してきていた。「今のままでは分が悪いな。この暗闇をなんとかしないと」「なら、こうしましょう」アルラウネは自身の身体を発光させ、ついでにネックレスも発光させた。これで光源があるので敵の接近に気がつくようになったのだが、アルラウネは元々魔力や肉体を食べる食虫植物のようなタイプの魔物である。光源に引き寄せられた魔物達を誘惑魔法で足止めし、根で引き寄せて手当たり次第に食べていく。「ボックスにいる間はお腹が空かないんですけど、いざ出っぱなしで外で行動するとすごくお腹が空くんですよね」あの巨大なロックタートルでさえ、直接食べるのは無理なものの根で体力を吸収している。「あ、えっ、これは、、」「私は魔物と戦ったことがあるが、どんな見た目であっても油断しちゃいけないってことだ」「アルラウネはダンジョンボスだったからね?ダンジョンの魔物全部がこういう食事をするわけじゃないから」ユナが補足するも目の前の光景に呆気にとられるバンラ。「ごちそうさまでした。まだまだ食べられますけどあとはあなた達に任せます。これ以上食べると光が強くなってまぶしい位になっちゃいそうですから」確かにさっきの食べる前と比べると明らかに視界が広がっている。その分彼女が食べた後の悲惨な光景が否応なしに目に入ってくるのだが。「とりあえず使えそう素材は一応回収しとこう。ロックタートルのこうらはおそらく使えそうだし」「そうね」ユナは着けていた縮小の腕輪で大きな素材を小さくする。「何それ!色々便利そうだから欲しいんだけど!?」バンラが興味津々だ。「私に興味を持ってくれたようですね」と変身を解いてミニガーディアンが現れる。「ただ、ご主人様の冒険に色々と必要とされているので今は難しいですね」「そうか、、ありがとう。聞きたいんだけど、どうして魔物が突然現れたの?」「私達が装備している武器のほとんどはモンスター武器って言うもので、魔物が変身したり、魔物が死ぬ際に魔力の一部を変質させてできたものなんです」「それはまた興味深いね」「とりあえず進もう。あんたが疑問を持つと進行が遅れてしまう」一度降ろされていたのにもう一度強引に乗せられて進んでいく。「まぁ、他の2組はどんどん進んでいるようですし、例の疑問はまた後で話せばいいと思いますよ」アルラウネがそう言ったので黙って全員進むことにした。そして噂された最後の西の建物では躊躇なく進んですでに最上階である10階に到達していた。あまりにもハペルが強すぎたのでここの魔物達では足止めにならなかったためである。そこにいたのはインド神話の神の一人、ヴィシュヌ神の化身ラーマである。「よく来たな。シヴァを打ち破った実力を見せてもらおう」「すでに知っているのですね。お相手させてもらいます」ナージェが前に出た。ラーマが弓矢の使い手だったためである。ラーマは様々な属性の弓矢で三人を攻撃するがノレドの盾とハペルが属性を無効にしつつ、矢の物理攻撃はオートガードで防ぐ。その間にナージェは銃剣でラーマに確実にダメージを与えていた。複数発当たっているので普通の人間ならすでに死亡しているが、相手は神の化身。そう簡単には倒れない。しかし、攻撃が完全に防がれていてナージェだけ攻撃しているのにダメージを一方的に受けているため、さすがにまずいと判断した彼は本来のヴィシュヌ神の姿に戻り、弓矢と同時に接近して剣で切りつけにかかってきた。その姿は完全ユナイトのように4本の腕を持っていて、それぞれ別の武器を持っている。本来弓矢を撃って剣で切りつけるではかなりのタイムラグが発生し簡単に防がれてしまうが、ヴィシュヌ神の持つ能力は維持、修復である。つまり矢の威力、運動エネルギーを保持したまま静止させることができ、剣で攻めると同時に矢が到着するようにしてしまえば、それだけで防ぐのは非常に困難な攻撃となる。攻撃を受けた際にこの性質に気付いた三人は保持している矢を攻撃して破壊したものの、もう1つの能力修復で簡単に修復させられてしまう。「私達も本気で行かないと倒せないようだね」「神相手に本気を出さないでいられると思うのが間違いだな」ハペルはユナイトを発動。容赦ない魔法攻撃で神を攻撃するが、矢同様に魔法攻撃を「維持」して空中を飛んで接近戦に持ち込もうとしてくるのだ。ナージェも接近させないようなるべく同時に銃で攻撃するもそれすらも「維持」で止めてくる。しかもである。「私は維持だけが能じゃないぞ」今まで維持で止めてきた銃弾や魔法攻撃が方向を変えて全て三人への攻撃に利用された。「さすがにこれはあれを使うしかなさそうだ。撤退しよう」「敵前逃亡か?」三人はセーブストーンで前回の地点まで戻った。セーブ自体は結構前でシヴァの神殿まで戻ってきた。「おう、その様子だとだいぶやられたみたいだな」シヴァがなんか嬉しそうな表情で話す。「なんか強そうな神様に攻撃を全て止められてやられた」「おそらくだが相手はヴィシュヌだな。あいつは強いからちょっと小細工しただけで倒せる相手じゃないぞ」「うん、だからあの力を使うしかないと思ってる」「どんな力かはわからんが、その戦いは今度は見させてもらおう」「とりあえず合流しなければいけないからまた今度で」シヴァに別れを告げ、ワープストーンで町に戻った。セーブストーンを信用したのはワープストーンが使えなくなったことがあるからだ。


 「あら、一度撤退したようですね」アルラウネはネックレスの様子からボスを倒すことができずに撤退したことを悟った。「どこの話?」ユナがそう聞く。現在彼らは8階層の魔物を大体倒し終えたところで小休止していた。「西の建物ですね。どうやら相当強い神様がいたようです」「じゃあ、これから私達が戦う相手も」「おそらく強いんだろうな。戦うのが楽しみだ」鬼平は強い相手との戦闘に心踊っていた。「あ、北も相当苦戦しているようです」とアルラウネが続報を入れた。「行こう。俺達も戦わなきゃいけない」「うん」休憩を終わりにして彼らは最上階である10階層に到達した。そこにいたのはインド神話の神でもあり、仏教の守護神、阿修羅。3つの顔と6本の腕が彼の大きな特徴である。「ここに来たのは何用か?」「中心部の建物の結界を解くためです」「ならば、我に力を示せ」阿修羅は見たところ武器を持っていない。「作戦がある。俺の作戦に従ってくれるか?」ピレンクが魔道具を使って作戦を伝えようとする。予備を持っていたため鬼平にも渡して作戦を説明する。「なるほどな」「じゃあそれで行こう」「ねぇ、私にもできることある!?」バンラがピレンクに何かできないかと尋ねるが、「とりあえずニンジャを出してくれるか?」「うん、わかった」彼女単体では何もできないが、預けた2体の魔物がいるので戦えないわけではない。まず鬼平が正面から突撃した。巨体から棍棒を振り下ろしたが、片手で受け止められる。腕一本でその巨体を持ち上げ、首を締める。かなりの力の持ち主のようだ。「くっ!」「その程度か?」そのとき、影からユナが飛び出す。鬼平が飛び込む前に影を使って潜り込んでいた。残りの4本の腕が止めようとするが、ユナはそれより早く掴んでいる腕を斬って救出する。しかし、助けたはいいものの、すぐに彼女も捕まってしまう。だが、敵の意識を一瞬でもユナにすべて向かせることが狙いだった。「!!」阿修羅の足元が影に沈んだ。さらに鬼平の後ろからオクトニンジャが飛び出し墨をかけて視界を制限し、敵がもたもたしている間に棍棒とユナを回収。それだけではなく、ピレンクが影からシヴァの槍を取り出して突き刺した。そう、巨体を利用してその影にユナとピレンクが入ることで影から攻撃することが作戦だった。もちろん、背後からついていき、影に入ったことを分かりにくくしたのだ。阿修羅としては三人が攻撃しに来ていることは見ればわかるのだが、隙をついて飛び出すことを警戒しており、まさか影に潜れるなど考え付きもしなかったのだ。シヴァの槍には再生阻害効果があり、何度でも立ち上がる阿修羅神でも復活はできなかった。「これが結界の大元みたいだな」彼らは結界を形成しているコアを破壊した。すると、テレパシーらしきものが流れ込んできた。「我を倒すとは、大した者達だ。褒美にこれを授けよう」阿修羅の死体がなくなった代わりに現れたのは金色の腕輪だった。「その腕輪を着ければ、剛力を得ることができる。さらに、物を大きくしたり小さくしたり自由自在だ。我はそなた達を信じるが、くれぐれも悪用はせぬように。帰りはその魔法陣を使うと良い」とメッセージを残してテレパシーは途切れてしまった。協議の結果、重い斬剣を持つことが多いユナがこれを身に付けることになったので、役目を終えた縮小の腕輪はバンラが貰い受けることになった。「まさか上位互換が出てくるのはね。ありがたくもらいますよ」「大事にしてあげてね」「それはもちろん」会話を交わした後、彼らは魔法陣を使って建物から脱出した。中心の建物に転移で直で戻ってきた。残りの7人が既に来るのを待っていた。


 東のリベンジ戦の前に、北の建物の戦いがどのようなものだったかを描くとしよう。順調に北の建物を登り、最上階である10階層に到達した。そこに待ち構えていたのは、二人だった。一人は人間だが、もう一人はゾウの頭に人間の身体をつけていた。「我はスカンダ、こいつはガネーシャだ。ここは父の管轄している建物だが、お前達と戦って負けた話を聞いて、父の代わりに相手することになった」「お兄さんだけで戦えばいいのに」「それだと負けるかもしれないからな。勝負の準備はいいか?」「はい!」トーイが元気良く返事した瞬間、「なら、お前から行かせてもらう」一瞬で距離を詰め、持っていた槍でトーイを突き刺した。「!!」主人がピンチになったからか、重装騎士が騎獣とともに現れた。そう、このスカンダこそが有名な韋駄天であり、軍神でもある。その速度は到底人間では反応することさえできない。ただ、トーイが刺されたことで発動したのはこれだけではない。「な、霧で見えない!」彼の身に付けていたミストリングが効果を発動した。ポーサとメイリは態勢を整えて回復魔法で彼を回復していく。その間に魔法の発動準備をするシエム。あの俊足では通常魔法ではまず当てることは不可能だ。だから部屋全体を攻撃する魔法が必要になる。メイリがアイスバリアを使えることと、アイスバタフライがいることから氷属性に決定した。スカンダは霧を魔法で温度を上げることで消滅させ、残る三人の排除に移る。ガネーシャもゆっくりではあるが接近している。だが、スカンダがどれだけ速く動いても三人に攻撃を届かせることができない。結界を貼っているからではなく、重装騎士のせいだ。覚えているだろうか、重装騎士はロックサイクロプスがトーイの装備を勝手に奪って進化した姿なのだ。この魔物が持つ特徴は金属を引き寄せる磁石のような身体である。この特性のせいで攻撃しようにも物凄い勢いで槍が吸い寄せられるため、届かないのだ。当然鬱陶しい騎士の排除に乗り出すが吸い寄せられるため力を乗せられないので槍での攻撃は傷一つ付かず、素手の攻撃も鎧で全く効いていないどころか、あまりにも硬すぎてスカンダの手にダメージを与えていた。槍をなんとか取り返したスカンダ。「ガネーシャ。投げ縄であいつを部屋の隅に置いて攻撃できるようにしてくれ。あいつがいる限り指一本あの子達に手出しできない」素手で倒せるほど弱くないことはスカンダも父であるシヴァを倒した相手である時点で理解していた。「さすがに無茶だよ、ってなんだ!?騎士が乗っていた騎獣が突っ込んできた!?」ガネーシャに突っ込んできた熊の魔物は彼らの作戦を潰すものだった。金属の身体を持つこの魔物によってガネーシャは部屋の隅に追いやられた。「くっ、先にやられたか」その時、シエムの発動準備が終わった。「アイスバリア展開」「アイスバタフライ召喚、そして同時発動、空間魔法、氷雪地獄」部屋全体を覆う超強力な氷魔法がフロアを包み込んだ。アイスバリアによって4人は無事だが、相手が神とて無事ではないだろう。「ふぅ、氷魔法の発動がわかっていたからなんとか助かったぜ」スカンダは炎魔法を使ってなんとか耐えきったようだ。もっとも、防ぐ手段のなかったガネーシャは完全に氷漬けである。「なんでお前達も凍ってないんだ!?」「この鎧には氷の巨人の力が宿っている。故に我も魔力を共有する騎獣も氷魔法は効かない」「さすがにその魔法の発動はまずいのではないですか?」どこからともなく聞こえる声。「この声は母上なのですか?」すると、光に包まれて一人の女性が現れた。名前はパールヴァティーという女神だ。「あらあら、氷漬けなんてかわいそうに」彼女は一瞬で彼の氷を溶かした。「母上、なぜここへ?」「スカンダ。今あなたは無断でシヴァ様の魔法を使用しましたね?」「えっ、でも使わなければ」「でもではありません。あなたの父親とは言え他の神の領域、魔法を勝手に使用すればとんでもないことになることはわかっているでしょう!」「そ、それは」「息子を地獄に落としたくないのです。以後気をつけるように」「母上、それでこの戦いはどうするつもりなのですか?」「防ぐ手段がない以上、あの方達の勝ちです。ご迷惑をかけたお詫びをしないと、ですね」「わかりました」そう言うとスカンダとガネーシャが4人を近くに引き寄せた。「これは私からのお詫びだ」「僕からもです」二人から渡されたのは御守りと瓶に入った薬だった。「これを彼に飲ませると良い」スカンダに言われ、トーイに飲ませると「あれ、僕どうして倒れているんだ?」と立ち上がれるまでに回復した。刺された傷は二人が懸命に魔法で治療したものの、血を失ったことで気絶したままだった。「いきなり攻撃してすまなかったな」「戦いでは仕方ないことですから、気にしないでください」韋駄天は医神でもあるため、治す薬を作れるのだ。ガネーシャから贈られた御守りは一見は普通に見えたが、「それは僕の力、商売と学問が上手くいくように力が込められた御守りだよ」と戦闘面で直接役には立たないがありがたい御守りだった。「結界はお前達が入るときには無力化されるようになったぞ。そこに魔法陣があるから、中心の建物に戻るならそれを使うと良い」「わかりました」こうして、北の建物での戦いは終了した。トーイだけが重傷を負ったものの、回復魔法と貰った薬で全快になった。ここで一度撤退した三人と合流した。彼らから撤退するまでの戦況を聞いてあの力が必要、という結論になり、西にいる4人が戻ってくるまで待つことにした。時刻は夕方になっていた。


 11人が集合したので東の建物のボスが本気を出した後が非常に強いこと、敵の能力などを全員で共有した。その上で完全ユナイトをしなければおそらく倒すのは厳しい相手だろうと認識した。状況と会話についてこれないバンラと鬼平は会話の後半置いてきぼり状態だった。「ユナイトって何?」「見ればわかるよ」「気になるな」そんな会話をしつつ全員東の建物の前にたどり着いた。「もう一度登るのか、まぁ仕方ないよね」「もう一度挑戦するのだな。転移させてやろう」そんな声が頭の中に聞こえたのとほぼ同時にヴィシュヌがいた部屋に全員転移していた。「人数がただ増えようと同じこと。今度こそ決着をつけよう」「私達の場合は人数が増えるのはちゃんと意味があるんですよ。行くよ!」ハペルの掛け声で6人全員が意識を集中させる。「完全ユナイト、発動!」光に包まれて完全ユナイトの状態に変身した。「私と同じ4本の腕を持っている姿か、面白い」興味を持ったので変身中にあえて何も攻撃しなかった彼はそう呟いた。「いくぞ」ヴィシュヌは弓矢を放ち、銀の投げ輪、チャクラムを上空に投げていく。もちろん、維持した上で攻撃に使うためだ。一方で完全体は一旦剣だけを持って突撃していく。間合いを一気に詰め、剣で攻撃する。ヴィシュヌは持っていた剣で受け止めようするが、持っている剣は斬剣である。神の剣と言えど、受けきれず折れてしまいそのまま剣が身体を切りつけた。修復ですぐに剣と身体を治し、維持していた武器で完全体に攻撃する。ただ、それは読めていたので影を使って飛んでくるタイミングで回収する。さらに影からシヴァの槍を取り出し攻撃しようとする。ヴィシュヌは棍棒を使ってガードするが、影からの攻撃もあった。「何!?」影から現れたのはナージェ。銃剣をヴィシュヌの胸に突き刺し、とどめに完全体ごと銃弾で撃ち抜いた。当然これは作戦の内だったので、完全体はガードして銃弾を防いだ。完全体は6人の意識が独立しているので防御しながら攻撃したり影を出したりすることができるのだ。しかし神である彼はまだ諦めていなかったが、修復に魔力を使っている間にシヴァの槍を突き刺して再生不可能になって勝利することができた。「勝てたね、、」ユナイトが解除された6人は完全に満身創痍だ。「すごかったね、私は何もできなかったけど」「メイリと私は完全サポートでしたね」ポーサとメイリは肉体強化を彼らにかけていた。ちなみに鬼平は防衛手段のないバンラの護衛をしていた。戦利品としてヴィシュヌの矢とチャクラムを入手した。最後の結界の元も破壊して、これでようやく中心の建物に入ることができるようになった。「とりあえず僕達は道場に転移で帰るんですけど、来ますか?」「来るも何もこんな夜中で飛ぶ手段がそっちにしかない時点で選択肢ないと思うんだけど」「同感だ。それに少し興味もあるから行ってみたいぞ」「わかりました」こうして全員道場に戻った。


 「あのヴィシュヌを破ったか、あいつら」「魔法一つで我々は倒されましたが、父上」「無断で使った罰としてあいつらのピンチに駆けつけるってことでいいか?お前の脚なら地形関係なく一瞬でどこからでも駆けつけることができるだろ?」「はい、父上。そこまで気にかける存在なのですか、彼らは?」「ああ、神々との全力の力比べにここまで勝つ人間達が気にならないわけがないだろう。行く末をちょっとばかり見させてもらうとする」


 一夜明けて翌日の朝。「駄目ですよ。そんな無茶したら身体が持ちませんよ」ラーウィが完全ユナイトをした6人に回復魔法をかけていく。実は彼女が旅をしている彼らの疲労を知らない間に魔法で癒しているからこそ、毎日ほぼ休みなしで冒険しても最高のパフォーマンスで行動することができるのだ。彼女がかけているのは体力の回復や怪我などを治す目的の通常の回復魔法とは異なり、筋肉の緊張をほぐしたり、疲れの元を取ることができる回復魔法である。とそこにアフロディーテがやって来た。「あなたはどちら様ですか?」「これは失礼しました。絆の一族のディーです。彼らとは縁があってここに来ました」愛の女神であることは基本的に色々な懸念点があるため初対面の人間には明かしていない。「どういうご関係なのですか?」「彼らが使った新たな力、それを生み出した者です」そう、彼女は実戦で完全ユナイトを使ったのでその後の様子を見に来たのだ。「あと1日安静していれば大丈夫そうですね」「あまり無茶はして欲しくないんですが、難しそうですね」ラーウィとて彼らの役目は理解している。だからこそ冒険が上手くいくように回復させているのだから。そこに相方であるウィマがやって来た。「あれ、お客さんですか?」「ええ、彼らの知り合いのディーです」ちなみにここに初めて来たバンラと鬼平はここにはいなかった。バンラはメイリに案内されて初めてのルブラ王国の観光をしていた。鬼平は道場で門下生と模擬戦をしていた。さて、話を戻してウィマがやって来たのはラーウィが朝食を食べずにいたから呼びに来たのだ。「早くしないと誰かに食べられちゃうよ」「だったら持ってきてくれればよかったのに」「これですか?」女神がトレーごと朝食を転移させた。「え、なんで持っているんですか?」「あ、ありがとうございます」「ここは私が見てます。冷める前に食べたほうがいいと思います」「は、はい」不思議そうな表情を浮かべたラーウィが朝食を食べている間、女神は本来の目的である詳細な体調を調べ始めた。「これは一体、、とりあえずまだ秘密にしておきましょう」異変に気がついた女神は魔法をかけてその影響を小さくすることにした。戦いでは間違いなく不利になるからである。


 翌日。ラーウィの魔法と女神の魔法のおかげですっかり元通りに戻った6人。11人揃って転移でエンコア遺跡中心部の建物に直行した。「いよいよ入れるんだね、どんな秘密があるんだろう」「まぁ、入ってからのお楽しみだな」3つの建物の結界は彼らが近付いただけで自動的に解除された。中は他の建物より大きく20階層あったが、11人もいたためダンジョンの魔物達はほとんど足止めになることなく最上階までたどり着いた。 「あの二人を倒した人間達か。あいにくだが戦いはしたくないのでね、情報を聞きたいならここまで来るがいい。来れるものならね」とそこにいたのはやけに挑発的な言動する一人の男。「あなたは一体、誰なんですか!」「私はブラフマー。この星を創造した神である。今私は別の世界を作るのに労力を割いている。故に戦闘で余計な力を使いたくない」「聞きたいことが」「さっきも言っただろう。聞きたいなら近くまで来ることだ。私が作った神殿の結界を破れるのなら話を聞いてやろう」ブラフマーと彼らの間には結界の壁がある。「結界ならこれだ!」ナージェは銃を発砲した。結界破りの銃弾は次々と結界を破壊していく。だが、「ここも入り口と同じ結界なのか!?」「そうだ。私が作った自動的に再生する結界だ。その武器で穴を空けても人が通れなければ意味がないだろうな」「ならこれでいこう」ユナが取り出したのはガイアの水晶玉。自然にできたもの以外をなかったことにするこのアイテムで消滅させて再生するまでの間に通る作戦にした。「なるほど、神の力が宿ったアイテムか」しかし、ブラフマーとの距離が最初の半分ぐらいになったところで使えなくなってしまった。「結界を消滅させるのにはかなりの魔力を使うから、こうなるのは不思議ではないな」このアイテムはガイアの魔力が必要なので彼らでは直して使うことはできない。「穴さえ空けば方法はある」トーイはナージェが撃ってできた穴を斬剣で押し広げる。斬っては結界の穴を通ってまた斬ってを繰り返した。さすがに大人数で通るのはめんどくさいので影を使って残り全員入って結界を破壊できるナージェ、トーイだけを残している。結界と格闘すること2時間。なんとか彼の元まで到着した。「よく頑張ったな。さすがに諦めるかと思ってたよ」途中で銃弾が尽きてしまい最後のほうはユナイトして完全にごり押しで結界を突破した。「はぁ、はぁ、ちゃんと教えてくれるんですよね!?」「ああ、約束は守るぞ。知りたい情報って言うのは海神のことだろ?」「そうです」「あいつは強力な邪神を自ら封印しているから島から出られない。しかも島に転移もすることができないから厄介だ」「じゃあどうやって」「ここに呼ぶだけだ」すると銀色のドラゴンが現れた。「本体ではなさそうだな」「はい。本体は先ほどおっしゃった通り邪神を封印していますので」「私に会いに来たのは影の元凶の居場所が知りたいのでしょう?ひいてはあなた達のお父さんの居場所も」「どうしてそのことを!?」「時と空間を司るドラゴンですから。で、肝心の場所ですが、私に勝てたら教えて差し上げましょう」「すいません、今ドラゴさんが封印しているのが元凶ではないのですか?」「あれは片割れで本体ではありません。本体の強さはあんなものではありませんから。せめて私を倒せる位でないと歯が立ちません」こうしてコーテックドラゴンの分体と勝負することになった。「勝負に入る前にこれ、世界を作った際の余分なエネルギーをもったいないから物質としてまとめた欠片だ」ブラフマーが渡したのは黄色い板状の物質三枚。「それを使えば普通では合成できないアイテム同士を好きに合成できる。私の創造の力が込められているからな」「じゃあ」ピレンクはシルバーランス、ポセイドン、シヴァの槍を取り出し、欠片を一つ使って合成する。白い三股の槍ができた。「神の槍を合成するのに使ったか。面白い」「今から戦いがある以上強化したほうがいい」「準備ができてるようですね。ここで戦うのもあれなので移動します」移動した先は透明な空間とその下に広がる花畑だった。「ここは死後の世界、その中でも天国とされるエリュシオンです」「私達はもう死んじゃったんですか!?」バンラは驚いて即反応した。「いいえ、しかしここに来たことがある人もいるでしょう」「はい、この花畑は見たことがあります」「え!?」ユナがそう答えた。無事復活したとは言えこの中の6人はもう3回も死んでいるのだ、来た記憶があっても不思議ではなかった。「とりあえず、そのお二方は他にも使命があるご様子なので、元の場所に戻しますね」「使命って、あっ、あれか。ブラフマーさんの後ろの壁の絵は歴代の王を象徴するような絵だったような」そう、遺跡への侵入を許可される代わりにこの国の歴史、遺跡の調査を頼まれていた。「じゃあ、戻します」このあと彼らはブラフマーからこの遺跡に遺されていた書類を彼から受け取り、スフィンクスで飛んで王様に報告した。この遺跡は歴代の王が様々な施設を建てた遺跡であるが、盗掘の被害が酷く、遺跡を守るために神が直に護ることと魔物を放ちダンジョン化することで盗掘は防ぐことができた代わりに調査も一切進まなくなってしまったらしい。書類はかつての王達に関わる重要なものだった。さて、彼らの話は一旦置いておくとして、エリュシオンでは戦いが始まろうとしていた。すでに完全体にユナイトが完了して残りの三人も構えている。「いい面構えですね。本体も孫に会いたがってますよ」「今は戦いが先です」戦いが開始された。剣で相手に斬りつけるが、「硬質化」分体がかけたのは魔力抵抗と物質の硬度を大幅に引き上げる魔法である。この魔法で斬剣が折れてしまった。今度は先ほど強化した槍で挑むが「さすがに効かないよ」と槍は壊れなかったが槍の先が鱗で弾かれてしまった。「今度はこっちの番だよ」攻撃の間溜めていた魔法を分体が放つ。盾を構えて防御態勢に移行したが全く意味がなかった。何しろ敵が使ったのは空間に穴を空けてそこから完全体や後ろの三人の魔力をその空間の穴を流入させる吸収魔法と空間魔法の合わせ技だったからだ。これでは盾や結界では防ぐことは不可能である。「うぅ、、」魔力をどんどん奪われ体力が減っていく。接近さえできなくなったがそれでも諦めず魔法攻撃や銃で攻撃を試みるが、分体には効かなかった。分体とは言え相手は伝説のドラゴンである。ほとんどの攻撃は無効にされてしまう。吸収され続けたそのとき、突然戦いは終わりを告げた。「さすがに気がついたようですね」エリュシオンで戦っていて命を落としそうになっていることに気がつき、戦いの場所から転移させた人物がいたのだ。


 「大丈夫ですか、皆さん」気がつくとそこは森の中だった。「妖精女王ですか、久しぶりですね」そう、ここは東大陸の妖精の森。ちなみに完全体はすでに解除されており9人は木のベッドの上に横たわっていた。復活させる魔法はフェアルだけでなく、その母親である妖精女王も当然使用することができる。そしてあえてエリュシオンを戦いの場所に選んだ理由も予言能力を持つ彼女に引き合わせる機会を作るためだった。そもそも彼ら視点で考えればマタカがいなくなった段階で彼女のこととその能力を思い出していれば次にどこに向かうべきかは確実にわかったはずなのだが、残念ながら彼らは冒険のことで頭が一杯で彼女のことは頭の片隅にしか残っていなかったのである。そして、「皆さんお目覚めのようですね」分体も合流していた。「なぜここに?」ハペルは体を起こしつつも尋ねる。「皆さんが知りたがっている情報と女王さんの能力を組み合わせて正確な情報にするためです」すると女王は予知を始めた。目を閉じて集中すること5分で予知を完了した。「見えました。マタカさんが囚われているのは大きな暗闇の穴です」「こちらの持っている情報と併せると、おそらくですが天使族の大陸の暗闇の大空洞という場所かと」「暗闇の大空洞だと!?」ナージェが驚いて飛び起きた。起きていなかった全員も立ち上がる。「知っているんですか?」「知っているも何も、あそこは立ち入ったら二度と帰って来れないと有名な場所なんだ。羽根を持った天使族でさえ中を調査しようとしたやつは例外なく帰って来なかった、次期族長候補の男もいたんだけどな」「それで父さんは生きているんですか!?」トーイが一番聞きたい質問をする。「生きています。ただそこにいる人間達全員が生かされつつ影を作るためのエネルギーとして利用されているようです」「なんで生かすの?普通エネルギーだけ抜き取って殺しちゃうと思うけど」「影単体では増殖することもまともに光の中を移動することもできない。ただ人間がいれば増殖させることも移動もできる」影のエキスパートピレンクが説明する。「でも誰も帰って来たものはいないって」「それはあくまで人の姿で、という話じゃないか?俺みたいに人間と一緒にいる場合移動できない欠点は克服できるから」「見えた物のイメージにミガク王国を襲撃した影の獣もいましたね。おそらくここが影の生産拠点であり、本拠地なのでしょう」女王は見えたイメージと過去の出来事を照らし合わせて正体を探り当てた。会話の間にさらに魔法を使い、イメージの詳細な過去を調べてどういう場所なのかをはっきりさせるためだった。「で、その肝心の穴とやらは大陸のどこにあるの?」「大陸の南部にあるぞ。天使族の集落から飛んでもかなり遠いぞ」ナージェがそう返す。「まぁ、行く前に待ってください。そんな本拠地に行くのに私を倒せないようではマタカさんを助けることはできませんよ」「でも、、」硬質化をされてはまた完全体になったところで倒すことができない。これを打ち破る何かがなければいけない。「皆さん、魔王城に行くと良いでしょう。何かそれに関してのヒントがあると思いますよ」女王がそうアドバイスしたとき、ブレスレットから音声が聞こえた。「話はだいたい聞いたぞ。そのドラゴンを倒せる武器を作らなきゃいけないんだな。とりあえず魔王城に来てくれないか」「私はいつでもここで待ってます。行ってきてください」分体に促されて9人は魔王城へと転移した。


 「ここは、、そうか、私は囚われていたんだったな」そう独り言を呟くマタカ。ここは例の大空洞。彼を含めた多くの人間や天使が捕まって影の尖兵として利用されていた。食事や水があるので死んだりはしていないが、その食べ物は今まで食べてきたものとは異なり異臭を放っていた。もちろん食べるしかないのだが、マタカだけはその正体に気がついた。「そうか、排せつ物を回収して魔力に変換して食べ物にしているのか」ダンジョンマスターとしても活動していた彼は物を魔力に変え、その魔力をまた別の物に変えることができることを知っていた。「すっかり他の人達は影の言いなりになっているな」生存に必要な分だけをその悪臭にも文句を言わずにひたすら食べる様を見せられたらそう感じざるを得なかった。マタカは自分で影魔法が使えるため、気絶している間も敵の影に侵食されずに済んでいた。しかし、彼はダンジョンの壁に拘束された状態だった。しかし拘束を解くために影に潜れば影の思惑通りであり、間違いなく敵の影に洗脳されることは見えていた。「転移もできないし、助けを待つしかないか」マタカは助けが来ると信じていた。自分がどこにいるかさえわからないが、影と戦うであろう子供達がここに来る可能性自体は高いと考えていたからである。「お前達が来るまで、俺も諦めない。だから、待っているぞ」こう言ったところで誰も応えるわけではないがそう彼は言ったのだった。


 「あれ?俺はどうしてここに」いつの間にか別の空間にいた人物はもう一人いた。彼はハペルが影に操られたときに命を落とした冒険者だった。彼はヒズトと言う名前だった。そんな彼が目を覚ましたのは一面の花畑だった。「お目覚めになられましたか?」一人の女性が声をかけてきた。「貴女は一体?ここはどこなんですか?」「私はペルセポネの娘、メーテルです。そしてここは私が管理している場所でエリュシオンというあなた方の言う天国、といったところでしょうか」「じゃあ、俺はやっぱり」「はい、残念ですがすでに亡くなられてますね」「このままこの場所の死者の魂の居住区に移動してもらうか、別の世界で魂を転生するか今ここで選んでもらいます」彼はそう言われると悩み始めた。とは言っても彼の身体は前の世界で遺体になっているので魂だけの存在ではあるが。「決めました。別の世界で生きてみます。今の自分はもっと冒険がしたいと後悔しているんです」「そうですか。では転生の準備に入ります。なるほど、前世で彼らと関わったのですね。ではこういう特典を用意しましょう。これならあなたでも冒険を楽しむことができるのではないかと思います」メーテルはどういう特典かを示した上で彼の魂を別の世界の男の子として転生させた。そしてこの男の子こそ、続編であるユナイトクエストにおける主人公なのである。次回に続く


 最後恒例の従魔と装備紹介。冒険メンバーは暫定で9人。

トーイ 持っているのが重装騎士、サンドアリゲーター。装備は悪魔の篭手、魔神の剣、ラーの鏡の盾、ミストリング、

ユナ 持っている従魔は現在離脱中なのでサンドアリゲーターのみ。装備は黄金の腕輪、シャドウリング、アルラウネのネックレスは以下女性陣全員所持なので省略、影はクイーン

シエム 持っている従魔はアルラウネ、アイスバタフライ。装備は煌めきの羽衣、氷蝶の杖、聖剣ドワース、アイスブローチ、ミストリング

ピレンク 持っている従魔はシャドウサーペント、ブラックヴァンパイア。ヴァンパイアは人間を含む多数の眷属を従えている。装備は影の衣、シャドウリング、神の槍。影としてキングとシャドウドラゴンがいる。

ハペル 従魔はオクトラミア、エキドナの分体。装備は一体化したガーディアンやシャミがカバーしてくれるのでなし。

ノレド 従魔どころかボックスを持っていない。槍と盾を持っている。ウーラノスの件をきっかけに世界樹の魔力をその身に宿しており装備にも反映されている。

6人の共通装備 エキドナのブレスレット、ラーの分体、ガイアの水晶玉、ヴィシュヌの弓矢とチャクラム、創造の欠片二枚、マジックバッグ

ポーサ、メイリは装備はほぼなし。ナージェは装備が銃剣、天使の弓矢。銃剣の銃弾には結界破りの効果と酸性の液体により相手を溶かす付与効果を持つ。元々はトーイ達の装備だった。

影の狐の異常な強さ、それでいて実は片割れに過ぎない、、彼ら目線で更なる力を求めざるを得ない理由がわかったかと思います。彼らだけでは倒すことができず、最終的に神の介入と魔物を使うことでどうにか封印まで持ち込んだものの、強さがまだ必要であることはその後の神達との戦いと伝説のドラゴンの分体との勝負でも明らかになりました。次回、魔王城で武器の強化イベントからのリベンジ、そして救出と黒幕との戦いがメインとなります。お楽しみに、

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