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ラジオの前で。

ラジオの前で〜父と娘編〜

作者: 文学壮女

ラジオをきっかけに趣味が復活したり、家族と話す機会ができたり。

そんな方々をイメージして描いてみた作品です。

俺は久しぶりに本屋へと向かっている。

昔から本は好きでよく読んでいたのだが、最近はなかなか時間が取れずにいた。

いや、忙しさにかまけてなんとなく優先順位を落としていた、という方が正しいかもしれない。

そんな自分がまた本を読む気になったのは、あるラジオ番組がきっかけだった。


最初は妻が家事をしながら、時折とても楽しそうに笑うのを不思議に思っていた。

「何を観てるの?」

軽い気持ちで尋ねた俺に、妻が目をキラキラさせて答える。

「すっごく面白いラジオ番組を見つけたの!」


聞けばその番組にはアーカイブがあり、繰り返しはもちろん過去の放送分まで聴けるのだそうだ。

そして妻に勧められるままラジオを()()()俺は、いつの間にか金曜日の夜を心待ちにするようになっていた。

正直、最初はパーソナリティへの嫉妬もあった。

心が狭いと言われても、妻の幸せそうな様子に嬉しい気持ちと、なんとなく悔しい気持ちがあったのだ。

だが今は、同い年の男性パーソナリティ、S氏からあふれるいい酒呑めそう感がすっかり気に入っている。

それにもう一人の女性パーソナリティ、T氏がとにかく面白いのだ。


そして昨夜もラジオを聴いていた俺は、S氏がタイトルを口にしていた本を探しに本屋へと向かっていると言うわけだ。


久しぶりの本屋はやはりよかった。

目当ての本を見つけてからもつい店内をぶらぶらしてしまう。


―いつまでもいたいが、早く本を読みたい。


そんな気持ちを抱えながら店内を1周して俺はレジへと向かい、しっかりとカバーを付けてもらって外へ出た。


帰り道の喫茶店でぱらぱらと本をめくる。

やっぱりS氏とは趣味が合うようだ。

しばらく読んでいると注文の品がやってきた。

本を汚さないようにカバンにしまい、ゆっくりとコーヒーを味わう。

そういえばこんなにゆったりした時間も久しぶりだ。


久しぶりと言えば家を出る時に娘を誘ったのを思い出した。

食べたいおやつでもあったのか、帰宅が3時を過ぎそうだからと断られたのだ。

「一緒に来たら、パフェくらいご馳走したのに。」

少し寂しい気持ちを抱えながらカップを口に運ぶ。

もう少しのんびりしてもいいのだが、早く続きが読みたい。

読書は家でじっくり派なのだ。


心なしか足取りの軽さを感じながら家へと急ぐ。

たかがラジオかもしれないが、俺の生活を楽しくしてくれているのは間違いない。



帰宅した俺を迎えたのは『しまった!』という顔の娘だった。

「あー、間に合わなかった!」

「どうした?」

「うん。まだお父さんが本屋にいたら頼みたい本があったの。」

「おー、残念だったな。どんな本だ?」

「あのね…。」

娘の口から出た名前を聞いて驚く。

「いや、それなら俺の本棚にあるぞ」

「本当!?」

「おう、取りに来い。」

「うん!ありがとう!」


まさかあんな昔の本を読みたがるとは。

自分の好みが認められたようでちょっと嬉しくなる。

そうそう、昨夜のラジオでS氏がタイトルを挙げていたんだよな。

それでこの人とは好みが合うかもって思ったんだっけ。

なんにせよ、子どもと好きな作品について語り合える機会がくるなんてとても楽しい。

こんなチャンスをくれたラジオに感謝だな。


「あれを気に入ったら次はこれかな。」

子どもに薦めたい次の本を選びながら俺は自然と笑顔になるのを感じた。

新しい本と出会えた上にこんな楽しい気分になれるなんて。


まだ土曜日だというのに、俺はもう次の金曜日が楽しみで仕方なくなっている。



『これからも、小説家になろうラジオを聴こう!!』

“俺”は気付いてないようですが、娘さんも聴いてますね。

読んでいただきありがとうございました。

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