007 阿波根達己
一度だけ顔出ししていた中ボス登場です。
僕は心のどこかで望んでいたのかもしれない。
腹の底で燻り続ける黒い炎のぶつけ先を。
誰でもいいから、こちらに理不尽な理由で喧嘩をふっかけてきて、逆に思うまま叩きのめしてよいそんな自分勝手な都合の良い相手の存在を。
その時の僕は、決して褒められた事では無い事は承知の上で、ただ八つ当たり先を求めていた気がする。
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AMI歴12年4月15日 白銀楼第一小学校 五年一組教室 宮代伊織
新学期が始まって数日が経過した。
風香ちゃんの告白を聞いた翌日から、玲ちゃんの必死に怒りを抑える日々がはじまった。具体的に言うと授業中とトイレの時間以外は完全に僕から離れないで抱っこちゃん状態である。なるたけ山田達一行を視界に入れないよう、意識に上らせないように気を使っている。
これはこれで又余計なストレスになって溢れ出しそうなんだけど、今はまだ耐えて貰っています。
ごめんよ玲ちゃん、仕方ないので最近は完璧に玲ちゃんの言いなりの日々である。
だと言うのにアイツ等は無駄に声がデカかったり、所作が大袈裟で視界に入りそれだけで鬱陶しかったりするのだ。
わざわざ亮人くんに事情を告げた上でお願いして、アイツ等を睨みつけて貰ってる有様です。
亮人くんにも借りが増えちゃうなぁ。
どうやって山田達に僕らの怒りを思い知らせてやろうかを考えているんだけど、具体的にどうしたら良いのかが思いつかずに悩む日々だ、何も考えずに呼び出してケンカ売るってのが一番手っ取り早いんだけど、この手段は何重もの意味で祖父との約束を違える事になってしまう。
黒布くんや風香ちゃんに対する嫌がらせなども、今の所は奴らも自重しているようで、取っ掛かりが掴めないんだよね。そもそも玲ちゃんが居る場所で下手に奴らにちょっかいかけると、玲ちゃんが感情を抑えられなくなりそうで怖い、もしそうなったら結局僕は何もできずに玲ちゃんの威圧だけで全てが終わってしまう。どうにか風香ちゃんに対する謝罪だけでも正気を保った状態でさせたいんだけど。
いつまでも不毛な怒りを胸に抱いていても仕方がないと、自分に言い聞かせながらも悶々と日々を過ごし、新しいクラスにも大分馴染んできた頃の事だった。
放課後掃除当番の仕事中に教室の窓から見下ろすと、下校時刻の校門前のど真ん中に他校の生徒が陣取っていた。
中央に立つ男子は大柄で、亮人くんより二回りは上背があるように見える。
その背後にも10名の男子が控えており、僕はその背後に立つ男子達の顔に見覚えがあった。
「伊織、あの人たち」
「うん、武骸流の人たちだね、やっぱり僕達を探してるんだろうね」
「武骸流って、山田君達が通ってる道場の人達って事なの?」
班が違うけど、僕達の掃除が終わるまで待ってくれている風香ちゃんが不安そうに聞いてくる。
「うん、そうだね」
下校する生徒が巻き込まれる事を恐れるように、校門の端を恐々と通っている。
正面から向かうか、裏門からこっそり帰るかを考えていたら、一人の男子生徒が彼らの正面に立ち止まった。
「なんだお前ら、うちの生徒に何か用か?」
その男子生徒の姿を見て、僕たちは急ぎ掃除を片付けて校門へ行く事に決めた。
陣取った男子に話しかけたのは、クラスメイトで友人の犬神亮人くんだった。
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AMI歴12年4月15日 白銀楼第一小学校 校門前 犬神亮人
校門のど真ん前に陣取った、いかにも格闘技やってる風の武張った男共の前に立つ。
「ほー、骨のありそうな奴が他にもいるじゃねーか」
ニヤリと笑みを浮かべる目の前の一際大柄な男。
「ちっ、お前ら用があるのは秋月と宮代の二人か?」
「おぉ察しがいいな、知り合いなら丁度良い、お前ちょっと戻って二人を呼んで来いよ」
やっぱりコイツ等は伊織が言ってた武骸流とか言う空手男の一味だ。
「ハッ?何で俺がお前の言う事を聞くと思ったんだよ?お前の方は相当察しが悪そうだな、お頭の出来が知れようもんだぜ」
「なんだわざわざ喧嘩を売りに来たのか、まぁ二人を相手にする前のウォーミングアップ位にはなりそうか」
「ぬかせ」
「どうせお前も『ゼンモン』持ちだろ?どこの雑魚モンよ?」
「格の違いも見抜けないようじゃお前こそ三流『ゼンモン』がせいぜいなんだな」
そこへ後ろから砂金奏が走って来やがった。
「ちょっと、アンタこんな場所で止めときなさいよ!」
「あぶねぇからお前は下がってろ奏」
「なんでぇ可愛い彼女がいるじゃねーの、お前をぶっ倒したらちょっと彼女お借りしますだな」
よし、殺す。
「ちょっ!誰がこいつの彼女よっ!!」
「てめぇなんぞに奏は渡せねぇな」
いつものツンを見せる奏を庇うようにもう一歩前に出る。
「・・・・気を付けて、そいつ『ミノタウロス』よ」
「馬鹿お前、ちっ良いや力馬鹿なんぞに負けやしねぇよ」
「おいおいおいマジかお前、見ただけで人の『ゼンモン』がわかるのかよ??」
驚きながら獲物を見つけた猛獣の如き嬉しそうな表情を見せる男。
奏め、『ゼンモン』が分かる能力をこんな危なそうな奴らに不用意に見せるんじゃねーよ。
「だったらどうしたよ」
「とんだ拾いもんが居たもんだ、クックック運が良いぜ何としてもお持ち帰りさせて貰う」
奏に向かって伸ばしてきた男の腕を掴んで止める。
「させねえって言ってるだろ」
「俺を『ミノタウロス』と知った上で力勝負を挑もうってのか?笑わせるなよ」
ギリギリと握る手に力を籠めるが、こいつの腕はまるでビクともしねぇ。
「へっそう言えばまだ名前を聞いてなかったな、俺は犬神亮人、人狼族だ」
「阿波根達己だ、非力な犬っころ割に中々粘るな?でもそろそろ限界なんじゃないのか?」
阿波根は俺が握った腕を力で押し込んで来る、俺は凄まじい力で後ろに押し出されそうになるが懸命にその場に踏ん張って耐える。
「余裕過ぎて欠伸が出らぁ」
更に一の奴と秋月妹が駆け付けて来た。
「奏ねえちゃん!」
「いやーいい勝負だねぇ」
言いながらスマホのカメラを向けている秋月妹、この娘は本当にマイペースだな。
唐突な金髪翠眼の美少女の登場に一斉に注目が集まる。
「うわっ、可愛い」
「へ、ナニコレ天使?」
武骸流の奴らが空気を無視した気の抜けた事を言ってる。
いや、こいつは天使なんて可愛いもんじゃねー、どちらかと言えば小悪魔の類だっつーの。
一方の一は前に出て奏を背後に守るように構えている。
騎士面は気に食わねぇが、今はこいつが奏に付いてるのは正直ありがたい。
「なんだか見学人が増えて来やがったなオイ」
「へっギャラリーの前で恥かきたくなきゃそろそろ潮時だぞ」
ジリジリと力比べを続けながら余裕の表情を崩さ無い阿波根、こっちは若干厳しくなってきてるっつーのに。
「ぬかしやがれ・・・お前ぇ名前は?」
「はっ?さっき言ったろ?」
何だコイツ頭悪ぃのか?
「そうじゃねぇ、異世界での名前だ」
「はーん、そう言やあ地球で名乗りを上げるのは初めてだな、いいぜ教えてやる」
言うが早いが、俺は阿波根から手を放して距離をとる。
「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!狂乱の女神を崇めし『黒き狂牙』氏族が長、ヴァルガルフ・シュルッツ!人呼んで月の森の『黒狼王』たぁ俺の事だ!!」
「ぶっ、ノリノリかよ!クックックお前があの『千人切りの淫獣王』か!」
「ばっ、お前!地球でその二つ名を使うんじゃねーよアフォ!!女子にドン引きされるだろ!!!こっちじゃまだ童貞なんだぞ!!!」
おまっ馬鹿野郎!よりにもよって奏の前でその名を使うんじゃねーよ!!ただでさえ前世の事でこいつは頑なになってるってのに、余計な事を思い出しちまうだろうがよっ!
「ふん、まさかかの黒狼王とこんな辺鄙な地で相まみえる事になろうとは。いいだろう我が名を名乗るに不足の無い相手と認めてやる。我は牛頭族の戦士アルブヘン・エゴザ!享楽の殺戮神が使徒『供物をささげし者』にして『穢土を覆せし迷宮の王』なり!」
「はっ!お前が大地の秘宝の守護者、成り上がりの牛頭簒奪王かよっ!!」
「牛頭簒奪王・・・」
こっちを見ていた一が何かを思い出したかのように奴の異名を口にした。
なんだ?こいつ前世で何か関わりが合ったのか?
と、背後から何人か集団でこちらに駆け寄ってくる音がしやがる。
気配としては何かから必死に逃げているように感じる。
「あっ阿波根さんっ!!」
「達己先輩!!」
「あん!?っっ!!??」
俺の横を駆け抜けた男共は、阿波根の裏に回り込んだ。
って山田達じゃねーか、どうやら逃げ込んで来たって感じだが一体・・・
「なんだお前ぇら?呼びに行った秋月玲と宮代伊織はどうしたよ??」
あー、コイツ等も武骸流だったっけか、て事は伊織たちを呼び出しに行かせてたのか。
状況から察するに、呼び出そうとしてアイツ等の逆鱗にでも触れて逃げてきやがったか?
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AMI歴12年4月15日 白銀楼第一小学校 五年一組教室 宮代伊織
取り急ぎ教室の掃除を終えたは良いけどジャンケンに負けた僕達がゴミ捨てに向かおうかと言う所で、教室に山田達4人組が入ってきた。
「秋月と宮代!阿波根さんがお呼びだ顔貸しなっ!!」
言われて玲ちゃんと顔を合わせる僕。
「阿波根さんて、今校門の所に居る人の事?」
「そうだっ!早くしろよっ!!」
「くっく、お前達がデカい顔出来るのも今日までだ」
「まぁどの道行く気ではあったんだけど、ゴミ箱の中身捨ててくるから少し待ってて」
「ふざけんなっ!!そんな事放っておいてさっさとしやがれ!!」
とそんなやり取りの中、男子の一人がオロオロしている風香ちゃんを目にとめて言い放った。
「んだよ、豚嫁がいんじゃん、お前がゴミ捨て行ってこいや」
あ”!?
今風香ちゃんに向かってなんて申し上げました此方の殿方。
ん”ん”ん”何だろう此方におわす方々は全員殺処分すべきでございましょうや?
こちらの方々は隣のクラスで2年間風香ちゃんに今の呼び方してたのかな??
「おっ丁度いい、オークの花嫁お前行って・・こ・・・・い”い”い”て”て”痛っ、痛ええ”え”え”」
僕は気が付くと暴言を吐いた男子生徒の腕関節を極めて投げ飛ばし、うつ伏せ状態にした上で背後からマウントをとって左腕に膝を乗せて逆関節に決めて、更にツボを圧迫し身動きできない状態で腕関節が折れるギリギリ直前まで負荷をかけていた。
それと同時に我慢の限界に達していた玲ちゃんが一瞬感情を爆発させ、怒りを解き放ってしまった。
「うわっ!!!??」
「ひいぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「うわあああああああああああっっ!!!」
留めきれなくなった玲ちゃんの殺気に一瞬あてられた山田達は、僕が押さえつけている一人を除いて恐怖に駆られて一目散に逃げだしてしまった。
押さえつけられている男子は顔中から涙や涎を垂らしながら恐怖に引きつった顔をしてガタガタと震えている。
「ゴメン伊織、やっちゃった・・・」
一瞬で再び感情を抑え込んだだけ十分偉いと思うけど、しょぼんとした玲ちゃんの顔はちょっと貴重だなとか場違いな事を考えてしまう。
「いや、今のは仕方ないよ玲ちゃん、って言うか2年前に1組で不機嫌な玲ちゃんと同じクラスに居て玲ちゃんの怖さを思い知っている筈なのに何でこんな事出来るんだよ君達は・・たった2年で忘れちゃったの??本気でバカなんだね?」
「んー、校門前に居るあの男が、この人達が急に強気な態度に出た原因なんでしょ」
「何ですぐ虎の威を借りて強気になれるんだろうこういう人達は・・・とりあえずコイツにだけでも風香ちゃんへの暴言の償いをさせとこうか?ってあれ・・」
「もう気絶してる」
校門前に目を向けると亮人くんが阿波根とか言う男と既に何か始めているみたいだったので、
気絶した男子はもう面倒なのでそのまま教室に放置する事に。
申し訳無いけど呆然と見ていた他の掃除当番の男子にゴミ捨てをお願いして校門前に急ぐ事にした。
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AMI歴12年4月15日 白銀楼第一小学校 校門前 宮代伊織
逃げた山田達を追うように僕達は校門前に到着した、そこでは未だに亮人くんと大柄の男が対峙を続けていた。
遠巻きに聞こえて来たけどなんだろう、異名、二つ名、役職?がいっぱいあり過ぎて飽和状態だ、傍目には何が何だか分からないんだけど彼らの間ではなんか通じ合ってるみたいだ、二人だけで世界を作ってる意味不明なツーカー振りである。強く説明を求む・・・いや、やっぱり別にどうでもいいや。
あのミノタウロスとか言ってた大柄な男が阿波根て人なのだろう。そして逃げて行った山田達は、その阿波根の後ろに隠れるように身を縮めていた。
「山田さん逃げないで下さい、とりあえず風香ちゃんに対する暴言の数々を謝って貰いますよ」
阿波根さんと亮人くんのやり取りはとりま置いておいて、こちらの要件を告げさせて貰う。
「あぁん?」
とこちらを向いて、玲ちゃんを目にした途端に動きが停止する阿波根さん、しばらくボーっと玲ちゃんに見惚れているようだった。
「おっ、お前が噂の秋月玲か、こいつは想像以上だったぜ・・で、こっちのチビが宮代伊織か?」
「そうですけど、僕達が用があるのは貴方の後ろに逃げ隠れている山田さんだけなんでどいて貰えませんか?」
「あ”ざけんなよ、お前等に用があってコイツ等を使わしたのは俺だぞ」
「僕等に用って、例によって立ち合いの申し込みって事ですか?僕が他流試合をするには総師範の許可がいるのですが・・・」
「ハン、お前みたいなチビはさすがに相手に出来ねぇよ、引っ込んでな!秋月玲・・一目でわかったぜお前も『ゼンモン』持ちだろう?かなり名のある奴と見たぜ、異世界での名を聞かせろや!」
あ、僕はスルーですかそうですか・・・腹の底で燻っていた黒い炎が再燃して来たような錯覚を覚える。
最近腹の底で消えずに燻っている炎をこの人に叩きつけてもいいかなー?
「さぁ?」
可愛らしく首を傾げて答える玲ちゃん。
「はっ?んだよしらばっくれるんじゃねーよ!へっ、卑怯にも手の内を隠す腹積もりかよ」
「別に隠す気も無いけど、知らないものは知らない」
「私が見ても玲ちゃんの『ゼンモン』は判断出来なかったのよ」
奏ちゃんがフォローを入れるも、納得行かない顔の阿波根さん。
「ちっ、覚醒前だってのかよ拍子抜けだ、まぁいいや秋月玲っ!俺と手合わせして貰おうか!!」
結局玲ちゃんと勝負する気のようだ。
「私は・・・伊織と違って師匠から『私が手合わせしたいと思うほどの相手』であるなら戦っても良いと云われた」
云いながら玲ちゃんから気が流れ込んで来る。
それを受けて少し心を落ち着かせて、こちらも玲ちゃんに気を返す。
玲ちゃんから流れてくる気から感じる、これは僕への信頼だ。
ならばこの信頼に答えなくてはならない、より強くなる為にも。
「へへっそいつは良かったぜ!」
「おいおい、まだ前菜を食べ終わって無いのにメインディッシュに手をつける気かよ?マナー知らずな田舎者はこれだから困るぜ」
再び割り込んで順番を守れと主張する亮人くんに、玲ちゃんが冷静に問い掛ける。
「犬上くん」
「ん?」
「どうしてもソイツと白黒つけたい?」
「ほっ?秋月姉がそんな事聞いてくるなんて珍しいな、別にお前らがやる気ならそもそも割って入る理由もねーんだが」
そう言って素直に身を引く亮人くん。
「ありがとう、阿波根さんと言ったわね」
「おうよ!何処でやる?ここでもいいぜ」
嬉しそうにしている阿波根さんに玲さんが告げる。
「悪いけど私、貴方相手じゃとても『手合わせしてみたい』とは思えないのよね」
一瞬呆けた顔をした後、何を言われたか認識した途端、顔を真っ赤にして怒りを顕にする阿波根さん。
「あ”ぁ”っ!!舐めてんのかこのアマッ!!!」
阿波根さんの激昂にお構いなしに冷静に自分の主張のみを告げる玲ちゃん。
「だけどそうね、貴方が万が一伊織に勝つ事が出来たならその時はお相手してあげてもいいわ」
「んだとぉ・・・てめぇこの俺様が、こいつより弱ぇって言いたいのか!?」
「そう言った」
無表情に断言する玲ちゃん。
「・・・おい宮代伊織、てめぇの『ゼンモン』は何なんだ?」
「僕の『ゼンモン』?」
「こいつがそんだけ自信満々に言うんだ、お前も相当名のある『ゼンモン』持ちなんだろうがよっ!」
「あー、僕の前世は『人間』だそうですよ」
「はぁっ!?」
驚いた顔の阿波根さんに繰り返す。
「僕の前世は人間だそうです」
「伊織君の前世は人間よ、私の見る限りそれは間違いないわ」
僕の言葉を奏ちゃんが補足してくれるが、阿波根さんはお気に召さなかった模様。
「ふっざけるなよおいぃっ!『ゼンモン』すら持たない、ただの、ただの人間風情がこの俺様より強いだとぉ!!この俺様を舐めるんじゃねーーーーーーーーーー!!!!」
「幾ら大声出したって事実は変わらない」
気炎を上げる阿波根さんに冷静に告げる玲ちゃん。
「貴方は伊織より弱い」
うーん煽る煽る、すんごいピキピキいってるよコレ大丈夫かな?
顔を真っ赤にして鼻息が視覚化してるんだけどどんだけ。
「おぅ宮代伊織、ここまで人の事をコケにしておいてよもや逃げやしないだろうな?」
「そうですね、師匠に相談の上、正式にこちらから交流戦の申し込みをさせて頂きますよ、でも一つ条件があります。」
「この期に及んで胡麻化そうなんて考えてねえだろうな?」
「いやいや、今度の手合わせの形式を団体戦にして貰いたいんですよ」
「あぁん?」
「まぁこちらは先鋒僕で、大将玲ちゃんの二人なんですが、そちらの先鋒として山田さん達4人組を出して下さい」
「ふんそんな事か、いいぜ」
「そ、そんな!阿波根さん!!」
「別に玲ちゃんの相手をしろなんて言って無いですよ、僕の事もそんなに怖いんですか?」
「てっ、手前なんざ怖くねえよチビっ!寸止めルールで先輩に勝った位で調子に乗るなよ!!」
「秋月の後ろに隠れてばっかの奴が調子に乗ってるんじゃねー!!」
「阿波根さんが相手するまでもねぇ!非力なお前なんぞ秋月の前でボコボコにしてやるよ!!」
「お前一人でコイツ等四人に勝った上で俺を相手にする気なんだな?いい感じに苛立たせてくれるもんだぜ」
「では承諾と言う事で、僕が勝ったら山田さん達には風香ちゃんに謝ってもらいます。あと場所はそちらの道場で良いですかね?」
「そ、そんないいよ伊織くんっ!?」
突然自分への謝罪を立ち合いの条件に入れられた風香ちゃんが戸惑っている。
「おういいぜ、一つ言っておくが、降参するなら早めにするんだな、今回ばかりは力加減に自信が持てねぇからよ、ついうっかり殴り殺しちまう前に早めに降参しとけ、秋月玲はその次だ」
「玲ちゃんの出番はありませんよ」
こちらを睨みつける阿波根さんにハッキリと告げる。
「貴方は僕が倒します」
心の昂ぶりのままに貴方を倒すと阿波根さんに宣言する僕。
いつの間にか腹の奥底で燻っていた黒炎は既に無く、代わりにいつになく純粋で熱い思いが心の内に燃えていた。
この熱い思いが多分闘志と言うものなのだろう、その力が僕の身体中に漲っているのを感じた。
「・・・いいだろう、自分の言葉は覚えておけよ」
何か言いたげだったけど、言葉を呑み込んだうえそう言い残して阿波根さんは振り返ってこの場を去って行った。
「まんまと玲ちゃんに乗せられちゃったかな?」
「伊織もたまには本気で戦う相手が必要」
「玲ちゃんとの稽古に手を抜いた事とか無いつもりなんだけど?」
首を振って答える玲ちゃん。
「気持ちの問題」
ふむん、戦いに対する気持ちって事かな・・・?確かに玲ちゃんとの稽古はどうしたってあくまで稽古でしかない、出来れば勝ちたい、負けたくないって思いはあっても、今感じているような絶対に勝つという意志や闘志とは全然違うのかも知れない。
「そっか、ありがとう玲ちゃん」
「伊織に立派な男の子になって貰う事が私の夢の一部」
張りつめていた気持ちを少し落ち着け一息ついたタイミングで気が付いた。
視界の端に捉えた金髪娘が、ずっとこちらにスマートフォンのカメラを向けていた事に。
先程の自らの行いを思い出すと、言い知れぬ羞恥の心が沸き上がってきた。
「ちょっと・・羽依?」
「大丈夫!伊織ちゃんのカッコいい所はちゃんと永久保存しておくから任せて!!『玲ちゃんの出番はありません』キリッ『貴方は僕が倒します』キリリッ!!伊織ちゃんくわっっこいーーー!!プッ」
「絶対馬鹿にしてるだろお前ーーーっ!!今すぐその動画を削除しろーーーーーーー!!!!!!」
僕がどれだけ追いかけ回しても羽依には追い付けなかった。
いや、本当に、マジで勘弁してぇ・・・
「そう言えば玲ちゃん、亮人くんが言ってたどうていって何の事だろう?」
「伊織にはそのうちにじっくり教えてあげる」
何だろう、今背後の玲ちゃんから妖しい気配を感じたような・・
なぜ人はミノタウロスを最初の中ボスにしてしまうのだろう?
ようやく伊織きゅんが主役っぽい感じになって参りました。
亮人達の名乗り合戦はかなり悪乗りして書いてしまってますね。
書いてる方が楽しいので我慢して付き合って下さい(ダメだろそれは
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この作品を読んで少しでも
『楽しい』『続きが気になる』『この伏線ちゃんと回収されるの?』
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